キミの瞳がカギになる(脚本)
〇病院の診察室
田舎の医者「眼球のほうは大丈夫そうだね。 他に何か気になることは?」
西園寺 天音「日常生活には支障ないんですけど・・・」
田舎の医者「うん」
西園寺 天音「・・・いえ、やっぱり大丈夫です」
田舎の医者「そう?」
西園寺 天音(眼球は、か・・・ やっぱり虹彩には傷が残ってるのね)
ラジオの音声「・・・を所有しているのは西園寺家ですが、 当主不在のため開催が危ぶまれています」
田舎の医者「そういや、キミも西園寺さんだっけ? もしかして親戚?」
西園寺 天音「いえ、たまたま名前が同じだけで──」
田舎の医者「それもそうか。 まさか財閥のお嬢さんがこんな山奥の病院へ 来るわけないよね」
西園寺 天音「あは、あはは・・・」
〇田舎の病院の休憩室
氷見 怜士「天音!」
西園寺 天音「お待たせ」
氷見 怜士「どうだった?」
西園寺 天音「眼球の傷は大丈夫みたい」
氷見 怜士「・・・そっか。良かったな」
西園寺 天音「本当に? 本当にそう思う?」
氷見 怜士「えっ?」
西園寺 天音「・・・ううん、なんでもない」
氷見 怜士「天音・・・ 何があったのか?」
西園寺 天音「最近、ニュースでやってるでしょ。 50年ぶりに行われる日本の国宝展のこと」
氷見 怜士「あ・・・」
西園寺 天音「西園寺家が所有している刀剣は、 作刀された本数がとても少ない刀工の 作品で・・・」
西園寺 天音「もし展示出来たなら、おじいさまもきっと 喜ぶのになぁって」
氷見 怜士「・・・西園寺家、今どうなってんだ?」
西園寺 天音「分からない」
〇貴族の応接間
密は捕まったし、
おじさまも意識が戻らないし・・・
〇田舎の病院の休憩室
氷見 怜士「戻るか? 西園寺家に」
西園寺 天音「何言って──」
氷見 怜士「当主として、いま役目を果たすとき なんじゃないか」
西園寺 天音「氷見さん・・・?」
西園寺 天音「でも、私の虹彩はもう・・・」
氷見 怜士「やるだけやってみればいい」
氷見 怜士「それに・・・お前は完全に西園寺家を 断ち切ったように見えない」
氷見 怜士「愛してるんだもんな。 美しいものを美しいと思う、心を」
西園寺 天音「・・・っ」
氷見 怜士「それに、このゴタゴタの間に18になったろ? 資格はあるじゃないか」
西園寺 天音「で、でも・・・ 私に出来るかな・・・」
氷見 怜士「大丈夫。 俺がそばにいて守るから」
氷見 怜士「だからもう泣くな。 な?」
西園寺 天音「・・・うん・・・」
〇立派な洋館
天音が西園寺家に姿を見せると、
使用人たちは一気に色めきだった。
〇貴族の応接間
平瀬「あ、天音様ぁ・・・ よくぞ戻ってくださいました」
西園寺 天音「ごめんなさい、色々・・・ ご迷惑をかけてしまって」
鷹見「何を仰います。 主を失った我々にとって、天音様は希望です」
田町「お守り出来なかったこと、 ずっと悔いておりました」
西園寺 天音「みんな・・・」
西園寺 天音「私にどれだけ出来るか分からないけれど、 密やおじさまが戻ってくるまでの間は 頑張ってみる」
平瀬「ありがとうございます!!!!」
氷見 怜士(あの平瀬って男、前に俺が気絶させた奴 だよな・・・ 一瞬焦ったけど、あの様子じゃ忘れてるな)
西園寺 天音「氷見さん」
氷見 怜士「? おう」
西園寺 天音「付いてきて」
氷見は天音に促され、
ある場所へと向かった。
〇ビルの地下通路
氷見 怜士「すごいな・・・ あの屋敷にこんな地下室があったなんて」
西園寺 天音「そうなの。 私もてっきり別の場所だと思ってたんだけど」
西園寺 天音「敷地外には移動しなかったみたいね」
〇研究施設の玄関前
氷見 怜士「へぇ・・・ 地下にこんな施設が──」
氷見 怜士「うわっ!?」
西園寺 天音「ロボットの目が認識システムになってるの」
氷見 怜士「・・・ってことは、コイツと目と目を 合わせるのか」
西園寺 天音「なんで氷見さんが怖がってるのよ」
氷見 怜士「だって、レーザーとか出そうだし」
西園寺 天音「漫画の読み過ぎ。 それじゃ・・・試してみるね」
天音はロボットに視線を合わせた。
スキャンが始まり、天音の虹彩を読み取る。
氷見 怜士「これって・・・」
西園寺 天音「ダメっぽいね」
氷見 怜士「・・・・・・」
西園寺 天音「やっぱり虹彩が読み取れないんだわ・・・」
二人の間に重苦しい空気が流れた。
そこへ──
???「じゃあ合鍵で開けるしかねぇよな」
氷見 怜士「!?」
氷見は天音を引き寄せ、辺りの様子を
伺った。
篠野 大助「よう、久しぶり」
氷見 怜士「お前・・・!!」
西園寺 天音「あ、あなたは・・・」
篠野 大助「二人とも元気そうだな。 特にお嬢ちゃん、心配したぜ? あんな無茶してよ」
西園寺 天音「・・・・・・」
氷見 怜士「お前、どうやってここに?」
篠野 大助「いやー、オレの尾行スキルも捨てたモンじゃ ねえよな。 なんせ氷見怜士の背後を取れたんだから」
氷見 怜士「・・・っ」
篠野 大助「ああ、それとも日和っちまったのか? お嬢ちゃんのおかげで」
氷見 怜士「ダラダラ喋ってんじゃねぇよ。 目的は何だ?」
篠野 大助「合鍵だよ」
氷見 怜士「は?」
篠野 大助「オレの読みが正しければ── 氷見、お前がもう一つの鍵だ」
氷見 怜士「もう一つの・・・鍵?」
篠野 大助「西園寺天音に一番遠くて近い存在・・・ そして、絶対に西園寺天音を裏切らない という確信がある人間」
篠野 大助「“合鍵”を作るならそんな奴が適任── まぁ、オレの仮説だけどな」
氷見 怜士「くだらねぇ。 俺の虹彩が登録されてる訳ないだろ」
篠野 大助「記憶がないだけでガキの頃に登録されてる、 ってことも考えられるぜ?」
〇公園の砂場
〇研究施設の玄関前
氷見 怜士「まさか・・・ そんなことは・・・」
篠野 大助「ま、しのごの言わず試してみろよ」
西園寺 天音「もし、氷見さんがこの人の言う“合鍵”なら、 財宝を取り出すことができるのよね」
氷見 怜士「・・・・・・」
氷見 怜士「分かった」
氷見はロボットに視線を合わせた。
氷見 怜士「えっ・・・」
重々しく扉が開いていく。
西園寺 天音「・・・!!」
篠野 大助「ビンゴ、だな」
篠野は天音に銃口を向けた。
西園寺 天音「きゃあっ!!」
氷見 怜士「お前・・・」
篠野 大助「オレは優しいからな。 お前が死ぬとこをお嬢ちゃんに見せたく ねぇんだよ」
氷見 怜士「っ!!」
西園寺 天音「氷見さん! 私のことはいいから、西園寺家の財宝を 守って!」
氷見 怜士「バカ言え!! そんなことして何の意味があるんだ!」
篠野 大助「おーおー、涙ぐましいねえ」
篠野 大助「まぁ、それじゃさっさと死んで──」
篠野 大助「!?」
氷見の掌から血が滴り落ちている。
西園寺 天音「氷見さん!!!!」
篠野 大助「お前、なんで自分の手を──」
氷見 怜士「っ!」
氷見は手のひらに溜まった血を
篠野に浴びせた。
篠野 大助「ぐあっ・・・!? 目、目が・・・」
氷見 怜士「天音! 下がれ!」
西園寺 天音「う、うん!」
篠野 大助「クソッ、そうはさせねぇ!」
篠野 大助「くっ・・・」
氷見 怜士「ちっ・・・」
篠野 大助「ああっ!!」
篠野の手から銃が落ちた。
氷見 怜士「終わりだ!!!!」
篠野 大助「・・・っ!!!!!!!!!!!!」
氷見 怜士「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
西園寺 天音「氷見さん!!!!!!!!」
氷見 怜士「天音・・・無事か?」
西園寺 天音「私は大丈夫、それより・・・ 血が・・・」
氷見 怜士「手のひらのはそこまで深くないから・・・」
氷見は腹部に手を当てた。
みるみるうちに血が衣服を染めていく。
西園寺 天音「ああっ・・・!!」
氷見 怜士「大丈夫、大丈夫・・・ それよりも鍵が開いてよかった」
西園寺 天音「氷見さん、喋らないでいいから・・・」
氷見 怜士「あー・・・ なんだよ、言いたいことあんのに」
西園寺 天音「え・・・」
氷見 怜士「好きだぜ、天音・・・ 愛してる」
西園寺 天音「やめてよ、こんな状況で・・・」
氷見 怜士「いや、こんなときじゃなきゃ 気恥ずかしくて──」
そう言いかけた氷見の唇に、
天音はキスをした。
氷見 怜士「・・・!?」
氷見 怜士「・・・ん・・・」
氷見は天音を抱き寄せた。
西園寺 天音「ふ・・・ う、ううっ・・・」
氷見 怜士「泣くなよ、キスがしょっぱくなる」
西園寺 天音「バカ・・・」
〇美術館
──数ヶ月後
記者「西園寺家所有の国宝の数々・・・ 実に素晴らしい!!」
西園寺 天音「ありがとうございます」
記者「当主であるあなた自身も大変美しい・・・ 実は絵画から出てこられた美少女なのでは?」
西園寺 天音「まさか。 絵がこんなふうに笑いますか?」
記者「あ・・・」
西園寺 天音「ふふ、では失礼いたします」
記者(18歳とは思えない落ち着き・・・ 今度は彼女で1本記事を書こう)
〇洋館のバルコニー
西園寺 天音「ふう・・・ 疲れちゃった」
鷹見「天音様。 よければあちらでお茶をお淹れしましょうか」
西園寺 天音「ありがとう。 でもあそこは人が多いから結局ゆっくり 出来ないし・・・」
鷹見「西園寺家の当主が天音様になり、 注目度が高まっていますからね」
田町「天音様ご自身が国宝、なんて記事も見ました」
西園寺 天音「や、やめてよ恥ずかしい・・・ みんな単に珍しがってるだけだから」
鷹見「では、こちらにお茶をお持ちしましょう。 田町」
田町「かしこまりました」
西園寺 天音「・・・・・・」
???「何浮かない顔してんだよ」
西園寺 天音「あ・・・」
氷見 怜士「こっちはこんな格好させられて 参ってんのに」
西園寺 天音「いいじゃない、意外と似合ってるんだから」
氷見 怜士「“意外”は余計だ」
西園寺 天音「じゃあ馬子にも衣装?」
氷見 怜士「こいつ」
西園寺 天音「ちょっと、頬っぺたつねらないでよ。 メイクがよれるでしょ」
氷見 怜士「別にお前はメイクなんかしなくても──」
西園寺 天音「えっ?」
氷見 怜士「・・・なんでもない」
西園寺 天音「何、メイクしなくても可愛いって?」
氷見 怜士「んなこと言ってないだろ」
西園寺 天音「顔に書いてるもん」
氷見 怜士「はぁ・・・」
西園寺 天音「ねぇ、もうお腹の傷は大丈夫?」
氷見 怜士「うん? まぁ、激しく動かなきゃ大丈夫だけど」
西園寺 天音「そう・・・良かった」
氷見 怜士「何、激しい運動させるつもり?」
西園寺 天音「はぁ!? な、何言ってんの!?」
氷見 怜士「だってお前、修学旅行に行けなかったって 言ってたし・・・ ほら、ユーエスなんとか」
西園寺 天音「あ・・・そっち?」
氷見 怜士「へ? そっちって・・・ お前、何を想像して──」
西園寺 天音「もうっ、違うってば!」
氷見 怜士「いってぇ!! き、傷が開く・・・!!!!」
西園寺 天音「ええっ!? うそ、ごめんなさい!!」
氷見 怜士「俺、お前に勝てる気しねぇわ・・・」
鷹見「はは、相変わらず仲のよろしいことだ」
田町「来月には結婚式も控えてらっしゃいますし」
鷹見「そうだな。 ・・・慎様、丞様もお喜びのことだろう」
田町「ええ・・・」
鷹見「田町、こんなところで泣いてはいけないよ」
田町「すみません・・・」
鷹見「だが・・・雨のあとには虹がかかる」
鷹見は田町の涙を拭った。
田町「あっ──」
鷹見「きっと── あのお二人には素晴らしい虹がかかるだろう」
〇空