帰れる内に帰れ(脚本)
〇城の回廊
リュート「・・・服が焼けているぞ? 大丈夫か?」
術師「うるっさーい! 全部ぜーんぶ燃やしてやる!」
術師「バーカ! アーホ! マヌケー!」
リュート「・・・なるほど」
〇城の回廊
リュート「もう少し寄れ、本当に燃えてしまうぞ」
術師「バーカ! 死ねー!」
術師達「行くぞー!」
術師達「合わせろー!」
術師達「いち! にの! さーん!」
〇城の回廊
リュート「そもそも軍の術師だぞ、強いはずだ お前達以外が結束すれば 勝ち目は無いのでは?」
術師「黙れ! 僕が一番だ!」
術師「やれ!」
〇城の回廊
術師「どうだ?!」
術師「あ!」
〇城の回廊
リュート「・・・水を通り越して雪か もう降参しておけ」
術師「返せ! 僕の龍返してよ!」
術師「ていうか何でお前みたいなザコ術師が 平気な顔してんだ! さっさと降参するのはソッチだった!」
リュート「今ここには沢山の優秀な術師がいる そして更に集まって来ている」
リュート「その優秀な魔力を少々くすねるだけで、 こんなに強固な防御の壁を作れるらしい」
術師「そんなのズルい! 反則だ! 泥棒だ!」
リュート「盗賊だ」
術師「うう・・・! バーカ!」
術師「あ! ランス様?!」
レイズ王子「ランスを捕らえたぞ、助言に感謝する! コソコソと一人で逃亡を企てていた!」
リュート「・・・いえ、もし宜しければマントを」
レイズ王子「大丈夫だ! ランス、この御仁がお前の悪事を暴いた! その間抜け面でも見せてやると良い!」
ランス王子「ご、ごめんなさい! ごめんなさいってば!」
リュート「何への『ごめんなさい』だ?」
ランス王子「み、みんなが僕が王様にふさわしいって、 王様やりなよって言うから!」
ランス王子「僕は騙されたんだ、だから罪は軽い! 謝れば何とかなるんだ!」
リュート「・・・その翼は? 悪魔と契約でもしてしまったのか?」
ランス王子「メイドちゃんが作ってくれた! カッコいいって言われるから着けてる!」
術師「悪魔と契約してなかったんですか?!」
ランス王子「そんな事できるか、バーカ! そうだお前だ、お前がやり過ぎたから 捕まったんだ!」
ランス王子「全部お前のせいなんだからな! だいっきら・・・?!」
リュート「はいはい、黙れ黙れ 少しビリビリするだけだ、ジッとしておけ」
レイズ王子「コイツを祭り上げた一団も投獄してある! もうその子供だけだ!」
リュート「そうですか、では・・・ この子供は私が責任を持ってお届けします」
レイズ王子「うむ、他の術師も自由に使うと良い! ランスも術師用の牢にブチ込んで来る! 隣を空けておいてやるからな!」
リュート「ありがとうございます」
リュート「・・・さて」
術師「僕、牢屋に入るの?」
リュート「まあ、今からどう頑張った所で そうなるだろうな」
術師「・・・」
リュート「どうする? おとなしく服役するか、もしかしたら 騙されていたのは、おま・・・」
術師「全部嫌だ」
術師「このまま僕を抱っこして逃げてよ 上手く行ったら逃げた先で回復してあげる」
術師「早く飛んでよ? 刺さってるよ? 死んじゃうよ?」
リュート「・・・まだ誰も気付いていない・・・ 改心して俺に泣きつき 慰められているように見えるだろう」
リュート「・・・剣をしまえ」
術師「・・・え?」
リュート「俺が何か言い訳をして お前を連れ逃げた先で・・・何が出来る?」
術師「逃げれるだろ、とりあえず逃げれる・・・ はあ? 逃げた先で出来る事ってなに?」
リュート「・・・金は? 食い物はどうする? 家は? 野宿か? お前みたいな坊っちゃんが外で寝るのか?」
術師「そんなの、術で全部何とかなる! 僕は『神童』なんだ!」
リュート「では何故自分で飛ばない? 術が使えないのではないか?」
術師「・・・お前が僕に何かしたのか?!」
リュート「・・・最近の教科書は凄いぞ 『魔力の封印』まで教えてくれていた」
リュート「お前のせいで・・・ 一から学び直す羽目になったが・・・」
リュート「炎に紛れ直接お前の肌に焼き付けたからな ・・・俺が死んだら困るのはお前だ」
リュート「魔方陣は描いた者しか消せない・・・ 学校には行ってないのか?」
リュート「・・・俺も子供の頃に神童と呼ばれた 人より少し早く魔力が開花して 咲かずに終わる様だが・・・」
術師「・・・そうなの?」
リュート「・・・誉められ、煽てられ、 確かに気分は良かったな・・・」
リュート「・・・だが、人間の賊相手に・・・ 家族を守る事すら・・・出来な・・・」
術師「あ、ま、待って!」
術師「・・・」
術師「・・・うう!」
術師「・・・誰か! 回復の出来る人! 助けて下さい!」
リュート「・・・やれば出来るじゃないか・・・」
リュート「助けて欲しいなら助けを求めろ・・・ ガキのくせに・・・」
術師「・・・ごめんなさい」
術師「ごめんなさい! だから助けて、だから魔方陣を消して! 本当に死んじゃうよ!」
「なんだなんだ?!」
「どうした?!」
「何があった?!」
術師「ごめんなさい、僕が刺しました 誰か回復してあげて下さい 助けて下さい」
「なんだと?!」
「誰かいるか?!」
「ダズがいる、ダズを呼べ!」
〇城の回廊
ロゼ「・・・これは何があったの?」
ロゼ「どこに・・・!」
ロゼ「リュートさん!」
ロゼ「どうしよう?! 血が、こんなに血が?! 何してるんですか?!」
ロゼ「起きてください!」
ワイズ「じぇ」
ロゼ「ワイズちゃん、ちょっと待ってて! いいえ、ワイズちゃん手伝って!」
ロゼ「私の体を使って術をかけて! さあ! 早く!」
リュート「いや、これ以上元気になるのは困る」
ワイズ「とお」
リュート「もう回復はしてもらった 血? 青臭いな? 多分これはトマトだ」
ロゼ「はい?」
リュート「分けた荷物を腹に巻いていた 瓶も割れているしトマトの汁ではないか? よく見てみろ、こんな色の血では困る」
ロゼ「何してたんですか?」
リュート「確かに夕日が綺麗だと眺めていた 眩しくなって来て目を閉じたら ロゼにひっぱたかれた」
ロゼ「すみません・・・何でもないんですか?」
リュート「何でもない」
ロゼ「ああ良かった・・・!」
リュート「まったく、先に帰れと言っているのに もし俺が色々と失敗していたら お前達まで不敬罪やら反逆罪やら・・・」
ロゼ「いいえ! 言われた事は守りました!」
ロゼ「ちゃんとワイズちゃんは飛んだし、 戻って来るなとは言われてませんでした!」
ロゼ「こんなお手紙が入ってたら もう死んじゃうつもりかと思うじゃない!」
リュート「そうか、すまなかった」
リュート「・・・うむ? 荷をほどいたのか? そんな奥底まであさるとは、 腹が減っているのか?」
ワイズ「んまんま」
ロゼ「違います! 術の本でもあれば私にも何か出来る事が あるかと思ったんです!」
リュート「いや、ロゼの荷にそれは入れないだろう」
ロゼ「・・・」
ロゼ「・・・」
ロゼ「・・・言われてみればそうですね」
リュート「・・・まあいいか・・・ ロゼ、ワイズ 二人とも偉かった、お疲れ様」
ロゼ「はい!」
リュート「さて、もう一仕事だ 今度はおとなしく待っていてくれ すぐ戻る」
ロゼ「はい?」
〇地下室(血の跡あり)
リュート「なかなか厳重な牢だな」
リュート「俺達は今夜にでも旅立つ」
術師「・・・そう」
リュート「どうする?」
術師「ど、どうするって、アンタ盗賊なんだろ? 僕の事を何とかするなんて そんな権利? 権力? とか、無いはずだ」
リュート「俺は王家一族を命の危機から救った 俺は国家転覆の一大事を阻止した」
リュート「俺は今、とてつもなく偉い」
リュート「だから大罪人とはいえ、まだ子供だからと 恩赦を得てお前を連れ出す事も出来る」
術師「本当に?」
リュート「本当だ ・・・お前は黒龍で焼き尽くすだけで 武器で人を傷付けた事が無かったのでは?」
術師「・・・」
リュート「震えていた あんな構えで、あんな力では人は貫けない」
術師「・・・うん」
リュート「そうか」
リュート「よし、当然ながら条件はあるぞ」
術師「うん」
リュート「名前は?」
術師「五番だよ、五番の黒龍遣い」
リュート「・・・俺の名付けではマズいだろう 後でロゼにでも頼むか」
リュート「条件は、俺と国中全ての町村の再建、 学校に通って術を学ぶ事だ」
術師「・・・え?」
リュート「住む者が居ようが居まいが 町や村というのはそこに在るだけで 誰かの支えになるらしい」
リュート「だから元に戻しに行くぞ」
術師「・・・そんな事したら 一緒にいるアンタも石を投げられるよ 殺されるかも」
リュート「なんだ、自分がやった事がどういう事か 分かっているじゃないか」
リュート「なら話は早い、行くぞ」
術師「え? いや? ちょっと? アンタがヤバいよって話だよ? 聞いてる?」
リュート「俺は今、凄く偉い」
リュート「お前が仕えていたランスよりも偉い だから言う事を聞け」
術師「・・・うう」
リュート「リュートだ、好きに呼べ お前が追っていた赤子はワイズ」
リュート「まあワイズは仮の名というか、 そのうち変わるかも知れないが」
術師「・・・本当にいいの?」
リュート「嫌なら置いて行く」
術師「つ、連れて行って! ・・・ください!」
リュート「・・・おう 俺は気難しく鬼のように厳しいぞ 覚悟しておけ」