後は野となれ 花となれ(脚本)
〇西洋風の受付
デニー「さっき発ったお客様、ロゼの料理を 誉め千切って行ったよ いつもありがとね」
ロゼ「やったー! 今日もね、良いチキンが入ったの! 頑張っちゃお!」
デニー「うん、コケ、お客様は楽しみにしてるから 頑張ってね、うん・・・」
黒龍「ギャオルン」
ロゼ「あら!」
デニー「あら久し振り!」
ロゼ「お手紙ね! ありがとう、黒龍ちゃん!」
デニー「なになに?」
ロゼ「・・・」
ロゼ「リュートさん達が帰って来る! 終わるって、もう旅が終わるみたい!」
デニー「あらあらあら! お家の準備を! 美味しいご飯も!」
ロゼ「みんなで楽しみにしてるってお返事、 届けてくれる?」
黒龍「ギャッスル」
ロゼ「はい、お願いね! あ、これも!」
黒龍「ギャンモ」
ロゼ「よし! お家のお掃除は終わってるから 家具を入れるの手伝ってくれる?」
デニー「もちろん!」
ワイズ「ロジェ! そこにコクリュウたん、いた!」
ロゼ「うん、お手紙持って来てくれたんだよ?」
ワイズ「オテマミ読んでー!」
ロゼ「『海の見える町に居る 隣の村で最後だから目処がついた 十日程で帰る』だって!」
ワイズ「・・・わあ!」
ワイズ「『とおか』は遠い?」
ロゼ「夜が十回来たら帰って来るんだよ!」
ワイズ「じゅっかい!」
ワイズ「ロジェ、カッコいいオテマミも読んで!」
ロゼ「うふふ、はいはい」
デニー「もうボロボロになってきたね また書き写してあげなきゃ」
ロゼ「『ワイズへ』」
ワイズ「あい!」
ロゼ「『俺の勝手でお前の人生を変えてしまい 申し訳なく思う』」
ワイズ「じんしぇい!」
ロゼ「『だからどうか皆から可愛がられ守られ 愛され、幸せに過ごせるよう 心から祈っている』」
ワイズ「しゃーわせ!」
ロゼ「『いつか困難に立ち向かい負けたとしても お前は強くて賢い』」
ワイズ「ワイジュ、てんしゃい!」
ロゼ「うふふ 『何度倒れ踏まれても 野花のように立ち上がって咲き誇れ』」
ワイズ「しゃきここれ!」
ロゼ「咲き誇れ!」
ワイズ「しゃっきほここれ!」
ロゼ「うふふ! ワイズちゃんも リュートさん達をお迎えする準備、 お手伝いしてくれる?」
ワイズ「おてちゅだい、しる!」
デニー「ああもう可愛い! すぐ可愛い!」
デニー「でもこの手紙、 やっぱり何回聞いても遺書だよね」
ロゼ「でしょ? 逃げろって言われてこんなの 出てきたら・・・」
ワイズ「おてちゅだいー!」
ロゼ「あ、待って待って?!」
デニー「追いかけてあげて、ここは大丈夫だから」
ロゼ「うん! ああそうだ! 何年も待ってくれてありがと!」
ロゼ「リュートさんが戻るなら ちゃんとした立会人をお願いしよう?」
デニー「・・・たっ!」
ロゼ「私達の結婚式、挙げちゃおう!」
デニー「・・・けっ! こっ! コケッ!」
ロゼ「ワイズちゃーん、待ってー! 一人で遠くに行っちゃダメー!」
デニー「・・・コケッ、コン・・・コケッ・・・」
〇鍛冶屋
黒龍「ギャギャッグ」
ローグ「おう、お使いご苦労、ありがとな」
ガイスト「ヒャッハー! 今度またウロコの耐久試験させろよな!」
黒龍「ギャス」
ガイスト「お! おお! リュートの旦那が帰って来るってよ!」
ローグ「お! やっと終わったかあ! 最近帰って来たの半年前だったかなあ」
ガイスト「それぐらいだな! ワイズちゃんの誕生日会だ!」
ガイスト「ロゼが焼いたケーキ、美味かったな!」
ローグ「俺も誕生日作って貰おうかなあ?」
ガイスト「誕生日『に』作って貰うんだろ?」
ローグ「誕生日が無えから作ってもらうんだよ」
ガイスト「自分の誕生日、分からんのか?」
ローグ「分からん!」
ガイスト「んじゃあよ、あれだ! ワイズちゃんの誕生日みたいに 適当に隙間に突っ込んでもらおうぜ!」
ガイスト「誰ともかぶらない日にさ、 こんなモン言った者勝ちだぜ!」
ローグ「スキマ?」
ガイスト「おうよ! そしたら他の人の誕生日から 自分の誕生日渡り歩いてよ、 ロゼのケーキ食えるぜ! ゴチソウも!」
ローグ「ガイストの師匠よ! やっぱアンタは天才だ!」
ローグ「んでよ、アンタの誕生日はいつだ?」
ローグ「どうせならタクミって呼ばれるアンタが 生まれた日の近くが良いなあ 俺もタクミって言われてえからよ」
ガイスト「いつだったかな! ヒャッハー!」
「分かんねえなあ! ハハハッ!」
ローグ「じゃあ飲みに行く時に教会でも寄るかあ こういうのってシスターに聞くんだろ?」
ガイスト「そうだな! じゃあ今日の分とっとと仕上げようぜ!」
「ヒャッハー!」
〇大聖堂
町のシスター「・・・」
ワイズ「シシュター!」
町のシスター「あら、この可愛いお声は誰かしら? 椅子が沢山で見えないわ、 どこの子かしら?」
ワイズ「あ、お名前を聞かれたとき! えっと、んと、あのね? ワレの? ・・・あ!」
ワイズ「チチとハハはルーシャなり! ワレは天と地からのサジュカリ物、 名をワイジュと申しゅ!」
町のシスター「妙な名乗りを覚えて・・・誰に習ったの?」
ワイズ「布屋のカシャンカシャンと 服屋のお姉ちゃんと、 なんか、いっぱいで練習ちたよ!」
ワイズ「じょうじゅ?」
町のシスター「あらまあ・・・上手、上手は上手かしら?」
ロゼ「ワイズ、待って・・・」
ロゼ「すみませんシスター、はあ、もう、 足が速くなって・・・」
ワイズ「ロジェだ!」
町のシスター「いいのよ、いつでも歓迎よ」
ロゼ「いえ、お祈りの時間ですよね ワイズ、ごめんなさいは?」
ワイズ「ご、ごめんなしゃい」
町のシスター「はい、お利口さん 許していますよ」
ワイズ「ありまとうごじゃりましゅ! ありがもとごぜ、 ありがとう、ごじゃいまりゅ!」
「うふふ」
ロゼ「あ、リュートさんが後十日ほどで 帰って来ます! やっと終わったみたいです!」
町のシスター「まあ、それはそれは・・・ 本当に成し遂げて頂いたのですね」
ロゼ「はい、凄いですよね!」
ロゼ「なので帰って来たらすぐ歓迎会です! シスターも是非いらしてください!」
ロゼ「シスターは悪くないのですから もう全部大丈夫、いや大丈夫じゃないけど 大丈夫という事にしましょう、ね?」
町のシスター「ありがとう、ロゼ でも国中の教会の中に悪へ魂を売った者が いたのは消えない事実です」
町のシスター「全ての教会が喪に服し懺悔の日々を 送っています」
町のシスター「たまたま私達がルーサにいるだけで リュート様達の近くにいるだけで 赦される訳では・・・」
ロゼ「じゃあ、許してもらいましょう!」
町のシスター「はい?」
ロゼ「リュートさんに聞いてみますね! きっと良い感じに治めてくれます!」
町のシスター「いえ、そういう事では・・・」
ロゼ「あら?! ワイズちゃん?! どこ行ったの?! す、すみません、探して来ます!」
町のシスター「あらあら、ええ、はい・・・」
ロゼ「あ!」
町のシスター「はい?!」
ロゼ「私、結婚式を挙げる事になると思います! 二回目ですがお願いできますか?」
町のシスター「もちろん・・・それはもう! 神父を呼ばなくては!」
ロゼ「ありがとうございます! 失礼します、また寄りますね!」
町のシスター「・・・」
町のシスター「本当に・・・太陽のように眩しい人だわ」
〇西洋の市場
布屋「おやおやおや?」
布屋「今ここに居ますよ? 足の間を走り回って・・・居ませんね?」
服屋「『名乗ったよ!』ってピョンピョンして ・・・どこ行ったのかな?」
〇ヨーロッパの街並み
菓子屋「今、通りすがりにクリーム舐めて行ったよ」
水屋「ここにほら、クリームまみれの手形! 可愛いっすねえ!」
菓子屋「向こうに行ったかな?」
水屋「多分ね、うん、ソッチだと思うよ?」
〇西洋の街並み
パン屋「ジャムパンを差し上げました」
町人「また野原の方へ走って行きましたよ 森へは入れないでしょうから 大丈夫ですよ」
ロゼ「・・・そ、そうですか・・・」
町人「ンフフ、掴まえておけば良かったですね」
ロゼ「いえいえ、まあそこそこ自由に・・・ あ、いつも相手をして頂いて ありがとうございます!」
ロゼ「今度お礼に、あ! リュートさんが帰ってくるので その時にいっぱいご馳走させてください!」
町人「ああ、やっと戻りますか 楽しみにしておきます」
パン屋「それはそれは良き事、凱旋ですね」
ロゼ「はい、腕によりをかけて作りますね! では失礼します!」
町人「ンフフ、今回は何をお土産に 帰って来るでしょうね?」
パン屋「無愛想に『ほれ、やるよ』と、 とんでもない物を持って来るのが癖かと」
町人「前回は火鳥の卵でしたか」
パン屋「前々回は虹の欠片」
町人「楽しみですね」
パン屋「楽しみですね」
〇美しい草原
ロゼ「・・・ああ、はあ、もう・・・」
ロゼ「・・・やっと見つけた・・・」
ロゼ「・・・」
ロゼ「・・・天使みたい・・・」
ロゼ「・・・ワイズちゃん、上手に浮けてるわ この前見た時より高い・・・」
ロゼ「ちゃんと人のいない所で術を使うの、 約束守ってて偉い」
ロゼ「風を吹かせてみたり、水を出してみたり やり過ぎないようにしてて偉い」
ロゼ「・・・でも」
ロゼ「えぐれてるわ地面が! 空高く昇り過ぎだわ! 危ないじゃない!」
ロゼ「ワイズちゃん! 降りなさーい!」
〇赤い花のある草原
リュート「・・・ふう」
メヴィ「リュート、通りを三本分直して来た! 次行こうよ!」
リュート「ああ、ちょっと待ってくれ 疲れた」
メヴィ「年だな、ジジイ! 白髪増えたんじゃないか? ねえ休むなら宿を探して休もうよ!」
リュート「・・・まったく口の悪いガキだ お前は背が伸びるだけで 中身が全く付いて来ないな?」
メヴィ「ヒドい! リュートにイジメられたって ロゼに言い付けてやる!」
リュート「・・・最強の術師と最弱の術師、 ロゼはどちらの味方に付くだろう」
メヴィ「うーん・・・ごめんなさい」
リュート「帰ったら腰を据えて学業に励め お前はまだまだ知らない事が多過ぎる しっかりやれよ」
メヴィ「・・・何その言い方? リュートも帰るんだろ! 僕の側で見張ればイイじゃん!」
リュート「ああはいはい、言い方が悪かったのか すみませんでした」
メヴィ「・・・」
メヴィ「あ!」
黒龍「ギャンゴ」
メヴィ「おかえり! 手紙配りありがとう!」
メヴィ「わ、返事がいっぱいだよ! これリュートへ・・・これ、僕にだ!」
リュート「助かった、ありがとう よしよし・・・ふむ よしよし・・・ほう?」
メヴィ「なに? なんか面白い手紙?」
リュート「ルーサに戻る前に城へ寄るぞ ダズが新しい回復術を成功させたらしい まぐれで無い事を祈ろうか」
メヴィ「・・・それって僕が手伝える話?」
リュート「ああ、魔物から人間へ戻す安全な方の術だ」
リュート「お前の術は強いが不安定だ 外見だけで無く、心も戻せる術とあれば 習ってみても良いと思う」
メヴィ「・・・頑張るよ、頑張るけど・・・ 多分、出来ないよ」
リュート「出来るか出来ないかでは無い やろうと思ってくれるだけでも大収穫だ」
リュート「一歩ずつで良い 罪の償い方に決まりは無い」
メヴィ「・・・何年も付き合ってくれてありがとう リュートには何の罪もないのに」
リュート「俺は元人間の魔物を何体か殺した 人殺しはしないと決めていたくせにな」
リュート「好きでお前と共にして来たのでは無い 俺にだって俺の罪がある」
メヴィ「ごめんなさい、ありがとう」
リュート「やけに素直だな? まだ終わってないぞ? あと何十軒か何百軒か・・・」
リュート「・・・まあいいか、よくやっている」
メヴィ「リュート、本当に一緒に帰る?」
リュート「・・・お前を預けたら北の方へ旅にでも」
メヴィ「嫌だ!」
リュート「出ようかと思っていたが気が変わった」
リュート「こんな手紙を見てしまったら 今すぐにでも帰りたいさ」
メヴィ「・・・アハッ、なにこれ? ワイズが描いたの? これリュートの顔? いや、これ人? 動物? 花かな?」
リュート「笑うな、なんかこう、きっと一生懸命に 描いてくれたんだろう 間違いなく俺だ」
黒龍「ギャッスル」
リュート「お前は分かってくれるだろう? 良い子だな、よしよし・・・ん?」
リュート「これ、もしやお前か? この線の角度、黒龍に見えなくもないな?」
リュート「俺じゃないのか・・・?」
メヴィ「アハハハッ! 苦しい、腹が千切れる! アハッ、ヒヒヒヒッ!」
〇赤い花のある草原
・・・これで良いのか、良かったのか。
もう考え過ぎて脳ミソが擦りきれそうだ。
俺達への批判も攻撃も止まない。
角を曲がる度に暗殺者に出会ったり、
あらゆる所で待ち伏せもされた。
何度死にかけたか数えきれない。
本当によく生き延びたと
我ながら感心する。
これで本当に終わって良いのか?
しかしもうメヴィは猛省している。
これ以上何をしてやれば・・・。
黒龍「ギャ」
リュート「・・・まあいいか」
黒龍「ギャムッスン」
リュート「・・・フッ」
リュート「なるようになるか」
リュート「もう後は野となれ・・・」
メヴィ「リュート! 宿を見付けた! 僕達でも泊まらせてくれるって!」
リュート「・・・ああ、行こう よく正直に見付けてくれたな 偉いぞメヴィ」
メヴィ「うん!」
リュート「もう一仕事だ・・・」
おわり。