19話 反撃(脚本)
〇貴族の部屋
富士丸葵(王太子殿下の窮地を救うために、私にできることは・・・)
部屋に戻った私は、必死で考えを巡らせていた。
そのとき、頭に浮かんだのは──
富士丸葵「メリナ姫からの贈り物!」
バザルト公国へ返ったメリナが、私に残してくれたもの。
どう使えばいいか分からず、部屋の奥にしまっていたのだけれど。
富士丸葵(いまこそ、これを使うときだ)
富士丸葵「メリナ、私に力を貸して!」
私は木箱を抱え上げると、王太子の間の衣装室へ駆け込んだ。
〇城の会議室
ブラン「では、王太子殿下はどのようにこの国の財政難を解消するおつもりで?」
レイルズ「だから今年の作物の収穫を待ち、交易を行うと言っているだろう」
ブラン「しかし収穫の時期まで半年ある。国境の要塞は朽ち果てており、いま他国の侵攻を受ければひとたまりもない」
ブラン「そうですな、マルク殿?」
マルク「くっ・・・」
ブラン「一刻も早く要塞を補修し装備を揃える。これは代王としての責務ですぞ、王太子殿下!」
ブラン「さぁ、どうやってその予算を捻出なさるのです!」
ブラン「答えられぬのなら、代王の器にはあらず! 潔くその地位を返上なさいませ」
マルク「ブラン殿、その言い方はあまりにも──」
ブラン「貴殿は黙っておれ!」
レイルズ「その予算は・・・」
ブラン「その予算は?」
葵の声「ここにあります!」
ブラン「む・・・!?」
マルク「あの姫は・・・!」
レイルズ「アオ・・・シエル姫!!」
ブラン「下賤の娘が議会に何の用だ! 即刻つまみ出せ!」
富士丸葵「出し抜けに下賤の娘とは失礼なお方。 私はシエル。レイルズ様の遠縁に当たる者ですわ」
ドキドキと音を立てる心臓を押さえつけ、私は優雅に一礼する。
富士丸葵「突然お訪ねしたご無礼を、お許しください」
富士丸葵「今日はどうしても王太子殿下にお届けしたいものがあって、急遽参上いたしました」
そう言ってから、手にした木箱をテーブルの上に差し出した。
メリナからもらった、あの木箱だ。
レイルズ「これは・・・」
ブラン「贈り物だと? フン、どうせつまらぬガラクタか馬の糞──」
富士丸葵「あら、宰相様。箱の中身は開けてみるまで分からないものですわよ?」
富士丸葵「さあ、レイルズ様、フタを開いてくださいな」
レイルズ「あ、ああ!」
レイルズが震える手でゆっくりと木箱の蓋を開く。
中からこぼれだしたのは──
レイルズ「宝石、か・・・」
ブラン「な、なにィ!?」
そう、メリナからの贈り物は箱いっぱいの、色とりどりの宝石だったのだ。
箱の中にはこんな手紙が添えられていた。
アオイ殿。楽しい思い出の返礼に、姫の持つバザライト以外の宝石を、全て貴方に進ぜようと思う。
どうかアオイ殿とレイルズ殿、ユルベール王国のために役立ててほしい
富士丸葵(ありがとう、メリナ。その気持ち、いま使わせてもらう!)
法務大臣「どれも傷ひとつない大粒の貴石ばかりだ!」
財務大臣「これだけあれば財政難は一気に解決ですぞ!」
マルク「ブラン殿、これで軍備の問題は解消されましたな」
ブラン「ぐ、ぬ、ぬぬぬぬぅ!」
レイルズ「ありがとう、シエル姫。僕を助けてくれたんだね」
富士丸葵「とんでもありません。いつもレイルズ様に助けられているのは、私のほうですわ」
微笑むと、レイルズも恥ずかしそうに頬を染める。
それから、脂汗を流しながら私のことをにらみつけるブランに向き直って。
レイルズ「ブラン。先ほどはシエル姫に対して、ずいぶん失礼なことを言ったね」
ブラン「はっ!?」
レイルズ「シエル姫は、僕の大事な方だ。謝りなさい」
ブラン「し、しかし、私は!」
レイルズ「謝れと言っているんだよ、僕は」
レイルズの瞳は、いままで見たこともないほど冷たく鋭い。
ブラン「はうっ! ひ、あ・・・た、大変、失礼いたしました・・・シエル姫・・・」
レイルズ「シエル姫。ブランはこう言っているけど、許してもらえるかな?」
富士丸葵「ええ、レイルズ様。この国の次期国王である、貴方がそう仰るなら、宰相の非礼は全て水に流します」
艶然と微笑み、私はレイルズに一礼した。
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