20話 たとえ嵐が来ても(脚本)
〇西洋の城
レイルズ「やあ、アオイ。待たせたね」
富士丸葵「あ、あの、王太子殿下、ですか・・・?」
レイルズと城下の視察に出かける約束をしていた私。
待ち合わせ場所に現れた彼を見て、開いた口が塞がらなくなってしまった。
レイルズ「そう驚かないで。お忍び用の変装だよ」
そう言ってにっこりと微笑む姿は、可憐な少女そのものだ。
レイルズ「いつもの格好じゃ、すぐに僕だってバレてしまうからね」
レイルズ「視察に行くときは、こうして変装するようにしているんだ。 国民の、普段の生活ぶりを知りたいから」
富士丸葵(だけど、まさか殿下が女の子の格好するなんて)
あまりにも自然な美少女っぷり。
動揺を隠せない私をよそに、レイルズはご機嫌な様子で城下街に向かって歩き出した。
〇ヨーロッパの街並み
富士丸葵「そういえば、シエルのドレスやカツラ、いつの間に準備したんだろうって思ってたんです。お化粧もすごく上手だし」
レイルズ「小さい頃から、母上のお人形代わりに、女の子の服を着せられたりしていたからね」
レイルズ「シエル姫ほどじゃないけど、僕だってなかなかのものだろう?」
富士丸葵「なかなか、なんてものじゃないですよ! ものすごく可愛いです!」
そんな話をしているうちに、私たちは大通りへとやってきた。
富士丸葵「わぁ、すごく賑わってますね!」
レイルズ「アオイのおかげで財政難が解消されて、税の負担も軽くなったからね」
レイルズ「特に今日は月に一度の市の日だから、他国からも行商がたくさん来てるみたいだ」
富士丸葵「それでかな、あちこちから変わった匂いがします」
クンクンと鼻を鳴らすと、レイルズはくすりと笑った。
レイルズ「ああ、異国の屋台料理の匂いだね。せっかくだし、なにか食べてみようか」
富士丸葵「はい!」
カレーのようなものや串に刺して焼いたスパイシーな肉、平べったいパン。
エキゾチックな料理が、屋台からはみ出さんばかりに並んでいる。
富士丸葵「うわっ、このスープ辛い! だけど美味しい~」
レイルズ「はふはふ・・・この串焼きも美味しいよ」
レイルズが食べかけの串を差しだしてくれる。
富士丸葵「わーい、いただきます!」
そのままぱくりと頬張ってから、ハッと気付く。
富士丸葵(これ、間接キスだよね!? 私、調子に乗りすぎなんじゃ)
レイルズの表情を伺うが、全く気にした様子はない。
レイルズ「どう? ちょっとクセがあるかな?」
富士丸葵「ううん、香りが良くて、すっごく美味しいです!」
慌てて首を振り、動揺を収める。
富士丸葵(これじゃ、視察っていうよりもデートだよ。男女逆転してるけど・・・)
そんなことを考えていると──
商人の青年「アノ、スミマセン。チョト、良いですか?」
カタコトの言葉で話しかけてきたのは、商人風の格好をした背の高い青年だ。
褐色の肌に癖のある黒髪。彫りの深い綺麗な顔立ちで、頭に日よけの布を巻いている。
富士丸葵「どうしました?」
商人の青年「道、迷ってしまった。ワタシの馬、つないだ場所に行きたいです」
富士丸葵「道案内か・・・私はこの街のこと、全然詳しくないからなぁ」
困ってレイルズを振り返ると、頬張った肉を飲み込んだ彼が前に進み出た。
レイルズ「馬はどんなところにつなぎましたか? 建物の柱か、木か」
商人の青年「木です! 建物が少ないところでした」
レイルズ「じゃあ、町外れのほうですね。木の種類は分かりますか?」
商人の青年「ワタシの国にない、丸いハッパの大きな木です!」
レイルズ「だったら・・・こちらに来てください」
〇巨大な城門
商人の青年「ああっ、ここですここです! ナイルも無事でした、良かった!」
町外れに立つ大木。
その下につながれた馬に向かって、青年は一目散に駆けていく。
富士丸葵「わあ~、立派な馬だね! ナイルって言うんだ?」
商人の青年「ワタシの自慢の馬! 一番の財産!」
レイルズ「この街には、行商で来たんですか?」
商人の青年「い、大きくて豊かな街だと聞いたから。だけどワタシ、商売ヘタだから、あんまり売れなかった」
青年は人なつこい笑顔を浮かべて頭をかくと、担いでいた荷物をゴソゴソと探る。
商人の青年「見つけた! これ、ワタシの売り物!」
差し出したのは、黒く光る石に革紐を通した、ふたつのペンダントだった。
レイルズ「この紋章は、鷲と、羊?」
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