泣ける内に泣け(脚本)
〇城の回廊
リュート「(ワイズ、聞いてくれ)」
ワイズ「・・・?」
リュート「(ロゼを連れてここから離れるんだ)」
リュート「(お前が覚えている一番離れた場所まで 一気に飛べ、出来るな?)」
ロゼ「(リュートさん、何ですかそれ、一緒に、 離れちゃダメです)」
リュート「(離れても大丈夫な様に準備をしたんだ 先にルーサに帰ってくれ 皆に事情を話して遠くへ・・・)」
ロゼ「(ダメです、嫌です・・・!)」
ロゼ「(・・・一人にしないで・・・)」
リュート「・・・」
リュート「(・・・分かったから・・・ 何があっても関わるなよ?)」
ロゼ「(はい・・・!)」
リュート「(ワイズ、俺が次に飛べと言ったら 何がなんでも飛んでくれ お前もロゼが大切なのだろう?)」
ワイズ「・・・!」
リュート「(声を出さないようにしているだけでも 偉いぞ、お前は賢い、強い、だから頼む)」
リュート「(・・・よし)」
リュート「(このまま城に入る)」
ロゼ「・・・?!」
〇洋館の玄関ホール
リュート「姿は消したままで良い」
リュート「ロゼ、ワイズを抱いてマントで隠せ」
ロゼ「・・・はい」
リュート「外へ逃げたと思われているだろうが 城内に使用人は居る 動きやすい体で行く」
リュート「ワイズ、ロゼと飛ぶ時以外に術は使うなよ」
ワイズ「・・・む」
リュート「よし」
〇洋館の廊下
「外が騒がしいねえ」
「また何かあったんじゃない?」
「ああヤダヤダ、家に帰りたいわ」
「皆様のお身体が戻るまでの辛抱よ」
リュート「・・・」
〇要塞の廊下
リュート「・・・ここか」
リュート「ここで待っていてくれ」
ロゼ「・・・一緒に・・・」
リュート「・・・そのまま姿を消しておくんだぞ」
ロゼ「はい」
リュート「・・・」
〇城の客室
リュート「レイズ王子様、御加減は如何でしょうか? 恐れながら診察をさせて頂きます」
レイズ王子「・・・いつもの奴はどうした?」
リュート「存じ上げません、私は命ぜられるまま 参上致しました故」
レイズ王子「・・・そうか、好きにしてくれ・・・」
リュート「失礼致します ・・・これは・・・やはり」
リュート「王子様、無礼を承知の上で申し上げます 服を脱いで頂けますか?」
レイズ王子「・・・は? 何故だ? おい、ちょっと・・・」
リュート「ああもう、おとなしくバンザイして下さい」
レイズ王子「バンザイ?」
リュート「下も脱いで頂きます」
レイズ王子「・・・なんなんだ?」
リュート「はい不敬ですね、はい不敬不敬 ケツ、いや、なんだ? ・・・まあいいか 御ケツを上げて下さい、せーの」
レイズ王子「・・・せーの?」
レイズ王子「何を・・・」
レイズ王子「・・・ん?」
リュート「王子様、ご確認を」
レイズ王子「なんだ?」
リュート「この魔方陣にお気付きでしたか?」
レイズ王子「いいや、初めて見る」
リュート「全ての衣類に描かれております これは呪術師が使う魔方陣、いわゆる 『呪い』でございます」
レイズ王子「なに?!」
リュート「少しずつ気力体力魔力を吸い、 あたかも普通の病の様に 静かに相手を殺す魔方陣です」
リュート「お心当たりは?」
レイズ王子「いや、まさか、無い」
リュート「恐れながら申し上げます 末の弟君、ランス殿下の仕業でございます」
レイズ王子「・・・」
リュート「医者と偽った呪術師と結託し 陛下、妃殿下を含めた王家一族、側近、 皆が同じ症状で臥せっております」
リュート「着替え等でも全裸になられる事が 無かったのでは?」
レイズ王子「・・・ああ、冷えると良くないと 上か下かは必ず着せられ順に替えていた! クソッ!」
リュート「皆々様においては速やかに 全裸になって頂きますよう、 どうかご命令を」
レイズ王子「相分かった! メイド達、誰でも良いから来い!」
「はい! ただいま!」
レイズ王子「本当に助かった・・・褒美を取らす! 名を名乗れ、お前は命の恩人だ」
レイズ王子「どうした?」
リュート「申し訳ございません 私は医者ではございません」
レイズ王子「なに?」
リュート「盗賊、最下級術師として生きる、 名も無き下賤の身でございます」
リュート「私の一存、私の・・・正義で参りました」
リュート「この場で首を斬られる覚悟はございますが どうぞ一つだけ」
リュート「命を救って差し上げたのですから 聞いて頂きたいお話がございます」
レイズ王子「・・・フフッ 良いぞ、話せ」
リュート「ランス殿下は極刑に処されぬ様、 幽閉なりで生かしておく事を お勧め致します」
リュート「この国の惨状が御耳に入っているとは 思えませんので一言で申し上げます」
リュート「ランス殿下を『悪』の象徴として生かし、 王家は全身全霊で国を復興させて 国民からの信用を回復させて下さい」
レイズ王子「・・・なるほど、それほどランスは 非道な行いをしたのだな?」
リュート「はい おそらく民の怒りは今、一筋が一束になり 王家一族全てに向いてい・・・おります」
リュート「罪を償わせる極刑はすぐに執り行えますが それでは未来がありま・・・ございません」
レイズ王子「大丈夫だ、落ち着け 言葉遣いなど気にするな」
リュート「・・・申し訳ございません 今更ながら、震えが止まらず・・・」
レイズ王子「面白い奴だな? ここまで忍び込んでおいて何が震えるだ?」
レイズ王子「ハハッ、今は誰も居ない 昔からの知り合いの様に話してくれ」
レイズ王子「慣れぬ言葉遣いに気を取られて 大切な事が伝わらんと困るだろう?」
リュート「・・・」
リュート「はい」
レイズ王子「よし、では今すぐにやるべき事は?」
リュート「ランスを捕らえ拘束、指揮権の剥奪、 各地に散る術師を止めて下さい」
レイズ王子「動ける兵を呼べ!」
「はい、ただいま!」
レイズ王子「次は?」
リュート「殲滅行為から生き残った者達を 一人残らず保護して下さい 魔物にやられてしまいます」
レイズ王子「よし、他には?」
リュート「今残っている町村を立て直して下さい 魔物に変えられても人間らしく誇りを持ち 生きている者も沢山います」
レイズ王子「・・・なんという事だ・・・」
リュート「国を出る者もいるでしょうが 責めないでやって下さい いつか国外から助けになるかも知れません」
レイズ王子「もちろんだ! いや、人間を魔物に変えるだと? なんという・・・!」
リュート「趣味が悪いんですよ、弟さんは そしてその弟さんに忠誠心を持つ術師も 少なからず居るようです」
レイズ王子「対術師の編成を組めば良いのだな 分かった、それなら心当たりがある」
リュート「向こうの主力として 黒龍を操る子供の術師がいます」
レイズ王子「・・・黒龍だと?」
リュート「はい、どうかお気を付け下さい 魔力も性格も群を抜いて脅威です」
レイズ王子「了解した! お前、このまま私に仕えてくれるか?」
レイズ王子「爵位でも勲章でも何でもくれてやる、 領地もやろう、だから・・・」
リュート「有難い御言葉ですが 政治の話はそちらでやって下さい」
レイズ王子「・・・そうか」
レイズ王子「旅をしてきたのか? どこから来た?」
リュート「南のルーサという町です」
レイズ王子「・・・視察で立ち寄った事がある 商才に長けた者が多い大きな町だな そこも被害を?」
リュート「住民のほとんどが魔物に 心を保った者達が静かに暮らしています」
レイズ王子「クソが! 許さん!」
リュート「レイズ殿下、お待ち下さい、 まずは魔方陣の描かれていない服を 調達しなければ、部屋を出てはいけません」
〇要塞の廊下
ロゼ「お疲れ様です! リュートさん、本当にすごいです!」
リュート「・・・一生分、疲れた・・・」
リュート「いや、それより・・・」
ロゼ「帰りましょう! とっととオサラバしましょう!」
リュート「・・・無理に笑わなくても良い」
ロゼ「・・・」
リュート「すまなかった いや俺が謝った所で、どうにもならないが ・・・申し訳ない」
ロゼ「・・・」
リュート「姿は消えたままだ、誰も見てやしないさ」
リュート「ワイズ、おいで」
ワイズ「うばー・・・」
ロゼ「・・・」
ロゼ「・・・うあああー!」
ロゼ「いやあああー! いやだあああー! ばかあああああー!」
リュート「・・・」
撫でてやるぐらいしか出来ないが・・・。
きっともうこれ以上の悪い事は
起きないだろう。
どうかこれから幸せに、
その痛みを分かち合える者に
出会えるかも知れないじゃないか。
どうか・・・強く生きてくれないか。
ロゼ「・・・ぐずっ」
ロゼ「はい! もう大丈夫です! 今度こそ帰りましょう!」
リュート「・・・ああ、そうだな」
〇城の回廊
ロゼ「キレイな夕日ですね!」
リュート「ああ、綺麗だ・・・」
リュート「ロゼ!」
ロゼ「はい?!」
リュート「ワイズを抱け!」
リュート「ワイズ・・・飛べ! 行け!」
ロゼ「リュートさん?!」
ワイズ「むん!」
「何の音だ?!」
「中庭だ!」
リュート「・・・痛いじゃないか・・・!」
術師「ブッ殺してやる!」
リュート「そうか」
術師「ブッ殺す!」
リュート「ああ、まったく」
リュート「・・・なんという・・・」
笑えるぐらいに予想通りじゃないか。