ヒーローウォーズ

まゆほん

第一話 邂逅(脚本)

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〇警察署の資料室
  第一話 邂逅
  ここはとある大学の中にある図書館。
  二人の大学生が小声で話していた。
紗羅「う~ん・・・・・・」
凪「・・・・・・どうしたの?また何か悩んでいるの?」
  右の女性は、紗羅。
  左の男性は、凪。
  二人はここの大学の大学生で、幼馴染であった。
凪「また、小説のネタで悩んでいるの?」
紗羅「う~ん。まあ、そうなんだけどね・・・」
  紗羅は小説を書くのが趣味だった。
  凪は一度も紗羅の小説を読んだことは無かったが、紗羅とはお気に入りの小説や自作小説の構想のことでよく相談に乗っていたのだ。
  傍から見れば、二人は恋人同士のようにも見えたが、二人の関係は気の合う友達止まりであった。
  もっとも、凪の方は紗羅に好意を持っていたものの、なかなか前に踏み出せずにいたのだが・・・。
凪「迷惑かもしれないけど、何か気になることがあったら、僕に話してみてよ。アドバイスが出来るかどうかわからないけどさ」
紗羅「ありがとう。でも、次の構想はだいたい決まってきたの。ただね・・・」
紗羅「昨日、こんなものを人からもらったの」
凪「古そうな本だね」
紗羅「そう。もらったものの、中身は何も書いていないの」
紗羅「それで、この本をくれた人から、君の望む物語をこの本に書けって言われたんだ」
凪「その人は何でそんな事を紗羅にさせようとしたんだろう?」
紗羅「分からないけど、どうしようかな~って思って」
紗羅「せっかく貰ったんだし、今、考えている構想の小説を書いてみるのも面白いかな~って思ってさ」
凪「そ、そう?まあ、紗羅がそうしてみたいなら、良いと思うけど・・・」
凪(こんなところに小学生?)
  凪は図書館の入り口から小学生くらいの女の子が静かに入ってくるのを見た。
  ここは大学の図書館なので、大学の関係者以外は入ってこれないはずだったが。
  その時・・・!
凪「な、何だっ!? 窓ガラスが割れた?」
獣王グランノール「何処に行った、あのアマ・・・」
  図書館の窓ガラスを割って、大剣を持った大男が図書館にずかずかと入ってきた。
凪「な、なんだ!?あの人・・・」
紗羅「こ、コスプレかな・・・?」
凪「い、いや。窓ガラス割っているし、完全に不審者でしょ!?」
図書館の係員「あ、あのう。ここは図書館なので、出来れば静かにして頂きたいのですが・・・」
獣王グランノール「あ?なんだ、お前は?」
図書館の係員「だから、ここは公共の施設ですので・・・」
図書館の係員「きゃあああああっ!!」
  大男は持っていた大剣を振るったが、威嚇だったようで、図書館の係員の女には当たらなかったが、女は悲鳴を上げて逃げていった。
獣王グランノール「ここの奴らはいちいち煩い奴らばかりだな。それに少しも骨のある奴もいない」
凪「な、何なんだよ。あいつは。普通に剣を振るったよっ!?」
凪「け、警察を呼ばないとっ!」
紗羅「ま、待って。アイツが・・・!」
獣王グランノール「ん?なんだ、お前らも邪魔するのか?」
凪「い、いや。僕らはただここで話していただけで・・・」
獣王グランノール「ふん。まあいい。お前ら、ここで刀を持った女か、ちいせえガキの女を見なかったか?」
凪(小さいガキの女?もしかして、あの小学生の女の子のこと?)
獣王グランノール「ん?そっちの野郎の方は心当たりありそうだな?従っておいた方が身のためだぞ?」
凪「ぼ、僕は・・・!」
凪(ううう。怖いけど、あの子、追われているのかな。あの子がコイツに狙われているのかもしれない・・・)
獣王グランノール「どうした?時間が無いのだ。嫌ならば無理にでも吐いてもらうぞ?」
凪「え、え、えっ・・・!?」
紗羅「凪っ!」
  大男が凪に向かって振り下ろした剣撃は、突然現れた女の刀によって受け止められた。
獣王グランノール「ようやく現れてくれたな。焦らしてくれるじゃねえか」
カナギ「ふん。貴様などに構っている暇はないのだが」
  刀の女はちらりと凪を見た。
カナギ「主も酔狂な人だ。わざわざ、こんな奴らの為に危険に身を置かなくても良いものを」
獣王グランノール「そんな奴に構ってないで、俺とあそぼうぜ?」
カナギ「野蛮人風情が。良いでしょう。とっとと終わらせましょう」
  大男と、刀の女の激しい剣撃が舞った。どちらも一歩も引かずで実力は拮抗しているように見えた。
  凪と紗羅は、彼らに巻き込まれないように離れたところから見守った。
凪「な、何なんだよ、あいつ等は!?」
紗羅「良く分からないけど、映画の撮影ってわけじゃないよね・・・?」
凪「そうであってほしいと信じたいけど・・・」
  つんつん。
木葉「ちょっと、あんた達、何しているの?こっちに来なさい」
凪(え。さっきの女の子?)
木葉「人がせっかく助けてあげてんだから、早く逃げなさいよっ!」
凪「え、あ。ちょっとっ!」
  凪と紗羅は、少女に引っ張られて、大男と刀女が戦っている図書館を出て行った。

〇大学
  三人は図書館を後にして、大学の敷地内を走っていた。
凪「ちょ、ちょっと待ってよ」
凪「状況がよく分からないんだけど、君はさっきの暴れてた奴らのことを知っているのかい?」
木葉「・・・知っているわ」
凪「さっきの感じ、君はあの大男に追われていたようだけど、何故なんだい?」
  女の子は、立ち止まって、紗羅と凪の方を一度ずつ見た。
木葉「どうせ言っても信じてもらえないかもしれないけど・・・」
紗羅「大丈夫よ。凪は頭が固いから信じないかもしれないけど、お姉さんに話してみなさい。何でも信じてあげるから」
凪「なんだよ、それ・・・」
木葉「自己紹介がまだだったわね。私の名前は木葉。見ての通り、ここの大学生よ」
凪「え。見ての通りって・・・。完全に小学生かと思ったけど」
  木葉の鋭い視線が凪に刺さる。
凪「ご、ごめんよ・・・」
木葉「あんた達も見たところ、ここの大学生でしょう?」
紗羅「うん。私は紗羅」
凪「僕は凪だよ。それで、君は何だってあんな怖い人に追われてるんだ?」
木葉「信じてもらえるか分からないけど・・・」
  そう言って、少女は持っていたカバンの中から一冊の本を取り出した。
紗羅「あれ?その本って・・・」
  紗羅は自分のリュックから少女が出したのと同じ表紙の本を取り出した。
木葉「あんたもそれを持っているの?」
紗羅「うん。昨日、知らない人からもらったの。でも、何を書いていいか分からなくて・・・」
木葉「あ~。もう話がこんがらがってきたなあ!」
木葉「とにかく、この本は魔法の本なの!この本を使えば、さっきみたいな戦士とか英雄とかを召喚できちゃうの」
紗羅「え!それって凄い・・・!」
凪「英雄を召喚って、どこかで聞いた感じだけど・・・」
紗羅「ということは、戦っていたあの二人のどちらかはあなたが召喚した戦士ってこと?」
木葉「そうよ。あの女、カナギは私が召喚した刀使いよ」
凪「カナギ?聞いたことがないな。マイナーな英雄なのかな?」
木葉「まあ、聞いたことが無いのは当然よ。だって、私の創作上の人物だもの」
凪「え。召喚するのって、歴史上の英雄じゃないの?」
木葉「何の話をしているか分からないけど、それがこの本の力なの。自分の小説の登場人物を現実に召喚できる」
紗羅「え。凄い・・・!ということは、私もそれが出来るってこと?」
木葉「分からない。私が聞いたのは、特に思い入れが強い登場人物を一人しか召喚できないって聞いたわ」
凪「でも、二人いたよね?あれは木葉さん以外にも召喚した人物がいたってこと?」
木葉「おそらくね。私も急に狙われたから、誰に襲われたのか分からないけど・・・」
紗羅「ねえねえ。私もその召喚してみたいな。どうやってやるの?」
木葉「え。簡単よ。その本に登場人物の名前を書けばいいだけ」
木葉「でも、さっきも言った通り、思い入れが特に強い人物じゃないと出てこないと思う」
木葉「私も何回も試したけど、カナギだけしか召喚できなかったわ」
木葉「これはおそらく物書きじゃないと出来ない能力のようなものね」
紗羅「へ~。凄いなあ。誰にしようかなあ~」
木葉「ってことは、あなたも小説を書くの?」
紗羅「うん。全然、素人レベルだけど、一応、いろいろ書いてきたよ」
木葉「そっか。私、ちゃんと小説書く人と、リアルで話すの初めてかも」
紗羅「私も~。なんか人に言うの恥ずかしいし、隠しちゃうよね~」
木葉「うんうん。わかるわかる」
凪「盛り上がってるところ、悪いけど、いそがないと、あいつがやってくるんじゃないの?」
紗羅「ホントだ。でも、木葉ちゃんのカナギがあいつを倒してくれるってことは無いの?」
木葉「分からないわ。見たところ、実力は拮抗して良そうに見えたし。時間稼ぎにしかならないんじゃないかしら」
木葉「それに、あの大男を召喚した人物が近くに居るだろうし。まずは何のために私を襲ってきたかを知る必要があるわ」
凪「確かに。ただ襲われる理由が分からないな」
凪「あ、危ないっ!!」
凪「くっ!!」
木葉「だ、大丈夫?」
凪「だ、大丈夫・・・」
  突然、現れた狼に凪の腕は引っ掛かれ、流血が滴り落ちていた。
木葉「ご、ごめん。私を庇ったせいで・・・」
凪「良いんだ。でも、何でこんなところに狼が・・・」
狼「グルルルル・・・」
凪「考えている場合じゃないな。早く逃げないとっ!」

〇大学の広場
凪「はぁはぁはぁ・・・」
木葉「だ、大丈夫・・・?ごめん、私のせいで」
  3人は突然、現れた狼から逃げる為に大学の構内を走り回っていた。
凪「大丈夫。かすり傷だよ。それよりも、あいつら僕らばかりを執拗に付け回してくるな」
木葉「ええ。もしかしたら、あいつらもあの大男の仕業なのかもしれない」
木葉「キャラクターによっては、スキルを持たせることも出来るみたいだし、狼を使役できるのかも・・・」
  狼は、一匹だけではなく、数匹の群れをなして、凪達に迫ってきていた。
木葉「あ~もうっ!カナギは何をやってんのよ!」
紗羅「木葉ちゃん、落ち着いて」
紗羅「私が、私が何とかする!」
木葉「そうか。あなたもあの本を持っているのよね」
紗羅「うん。私があいつらを倒す戦士を召喚すれば良いんだよね?」
木葉「そ、そうだけど。出来るの?私でも落ち着いた環境で何時間も掛ったのに」
紗羅「やってみる!この状況を何とかしないといけないし!」
  紗羅は本を取り出した。
木葉「召喚したいキャラクターを一人、イメージして。そして、その人物の物語をしっかりと考えるの」
凪「紗羅。召喚したいキャラクターって決まっているの?」
紗羅「うん。一応。今から書こうと思っていた主人公よ」
  紗羅は本をめくり、ペンを取り出して、急いで最初のページに主人公の名前を書いた。
紗羅「こ、これで良いのよね?」
紗羅「・・・あれ?何も起きない?」
木葉「やっぱり、かなり強いイメージと、キャラクターへの思い入れが無いと無理なの。私もそうだった」
紗羅「そ、そんな・・・。どうしたら良いのっ!?」
凪「紗羅。落ち着いて。その主人公のことを良くイメージするんだ」
  しかし、そうこうしている内に凪達は狼の群れに囲まれてしまった。
狼「グルルルル・・・」
  狼たちはじりじりと凪達の方へ寄ってきた。
凪「く、くそっ・・・!」
紗羅「イメージ、イメージ・・・。強くて、カッコよくて、頼りがいがあって・・・」
木葉「雑多なイメージだとキャラが薄れちゃうの。何か無いの?そのキャラにコレだっていう特徴みたいなものが」
紗羅「特徴、特徴、特徴・・・」
凪「来るぞっ!!」
紗羅「そうだっ!アレにしよう!」
  紗羅が本にその名前を書いた瞬間。本から光が放たれた。
  魔方陣から現れ、そこから出てきたのは剣を帯びた美しい青年だった
???「・・・」
紗羅「う、うまく行ったのかな・・・?」
木葉「出てきたってことはそうじゃない?見るからにイケメン主人公だけど、コレ戦えるの?」
紗羅「一応、戦う設定だよ」
狼「グルルルル・・・」
  狼たちが一瞬、怯んだが、すぐに襲い掛かろうとしていた。
木葉「ちょっと、早くコイツに狼をやっつけさせて!」
紗羅「うん。イグマっ!あいつらをやっつけて!」
イグマ「・・・」
紗羅「あ、あれ?」
  イグマは少しも動かず、そこに突っ立っているだけだった。
木葉「ちょ、ちょっと。何で命令を聞かないの?」
紗羅「わ、分からないよっ!」
狼「グオオォォっ!!」
  そうこうしている内に狼の一匹がイグマに目掛けて飛び掛かってきた!
紗羅「あ、危ないっ!!」
  気が付くと、イグマは剣を抜いて、飛び掛かってきた狼に一閃を浴びせていた。
  その場にいる誰もその剣の斬撃を捉えることが出来なかった
  狼は仰け反り光を放ち、消え去った。
  束の間、残りの狼たちもイグマ目掛けて飛び掛かってきた。
狼「グルルル、グオオオォォォ!!」
イグマ「・・・っ!!」
  目にも止まらぬ速さで繰り出された斬撃は狼たちを瞬時になぎ倒していった。
木葉「す、凄いっ・・・」
木葉「でも、最初に命令を聞かなかったのは何でだろう?」
紗羅「あ~、それはたぶん・・・」
凪「二人とも、アイツがっ!」
  三人の目線の先に居たのは・・・
獣王グランノール「・・・」
凪「お前はっ・・・!」
獣王グランノール「お前って言うのは、酷いじゃねえか。俺にもグランノールって名前があるんだ。覚えておきな」
木葉「カナギは・・・、カナギは何やってんのよ!」
木葉「カナギっ!」
  カナギは、グランノールを追うようにしてやってきたが、腕からは血が滴り落ちて、負傷していた。
カナギ「あ、主。申し訳ありません。不覚を取ってしまいました・・・」
獣王グランノール「俺の愛狼たちがやられたと思って来てみたが・・・」
  グランノールは辺りを見回し、一人に目を付けた。
獣王グランノール「どうやらお前さんっぽいな」
イグマ「・・・」
獣王グランノール「俺の名は、獣王グランノール。見ての通り、獣を操る能力を持っている」
獣王グランノール「お前らの察しの通り、とある物語の主人公ってやつだ。俺の主は・・・、もちろん明かすつもりはないが」
獣王グランノール「何か意図があって、お前達と戦うことになっているが、そんな事は俺には関係ない」
獣王グランノール「俺はただ強い奴と戦いたい。俺が全ての物語の中で最強の主人公だってことを証明したいだけだ」
木葉「コイツ、根っからの戦闘狂なのね・・・」
獣王グランノール「お前の名前は?」
イグマ「・・・」
獣王グランノール「おいおい。こっちが名乗ってんだから、名乗れよ」
紗羅「え、えーと。私が代わりに。イグマって言います。設定は・・・」
獣王グランノール「設定なんざ、どうでも良い。強いのか、見掛け倒しなのか」
紗羅「い、一応、戦いますけど・・・」
獣王グランノール「フンっ、ならいい」
獣王グランノール「おい、お前。女ばかりに話させておいて、だんまりか?恥ずかしくねえのかよ?」
  イグマがキッとグランノールを睨みつけた。
獣王グランノール「男同士、剣で語り合おうじゃねえか」
  そう言って、グランノールは大剣を抜いた。
  しかし、イグマは腕を組んだまま、剣を抜こうとはしなかった。
木葉「ちょっと、あのイグマってやつ。全然、喋らないし、戦おうとしないじゃない。大丈夫なの?」
紗羅「うーん。あまり好戦的な子じゃないからかなあ」
木葉「どんな時に戦うのよ?」
紗羅「うーん。誰かを守る時とか?」
木葉「そうか・・・」
木葉「イグマっ!聞きなさい。今、そこの大男に襲われて、二人が負傷してるのよっ!」
木葉「私のカナギも負傷しているし、あんたしか戦える奴はいないの。このままだとあいつに皆、やられちゃうのよっ!」
木葉「だから、何とかしなさいよっ!」
イグマ「煩い・・・」
木葉「・・・ん?今何て?」
イグマ「やたら喚く奴らだ。これだから女は嫌いだ・・・」
木葉「な、なに、コイツ・・・っ!」
木葉「ちょっと!なんか冷たい奴じゃない。全然、守ってくれる主人公じゃないわよっ!」
紗羅「ははは・・・。ちょっとツンデレさんなだけだよ」
木葉「ツンデレって・・・」
獣王グランノール「おう。気が合うじゃねえか。煩い盤外の奴らは放っておいて、俺達で楽しく殺り合おうじゃねえか」
イグマ「どいつもこいつも煩い奴らだ」
イグマ「現実世界というのはこうも面倒なところなのか。こちらに来たかと思えば、いきなり戦うことになるとはな」
獣王グランノール「まあ、それはお互い様だ。でも、良いこともあるんだぜ?この世界で勝ち残れば、俺達の願いにも通じることがあるらしい」
イグマ「なんだそれは・・・?」
獣王グランノール「おっと、それは俺を負かせた時に話してやろうじゃねえか」
イグマ「フン。やはり、面倒な世界だな・・・」
  イグマは剣を抜いた。
獣王グランノール「フッ。やっと、やる気になってくれたか」
  グランノールとイグマは互いに剣を構え、目を合わせていたが、どちらも動かずにじっと相手の様子を伺っていた
  そして、その様子を凪達三人が少し離れたところから見守っていた。
  二人の拮抗を先に破ったのは、グランノールからだった。
  二人の剣がぶつかり合った。
獣王グランノール「俺の剣を止めるとはやるじゃねえか」
イグマ「・・・っ!」
  グランノールとイグマの剣が無数に繰り出される。
木葉「凄いわね。あのグランノール相手に一歩も引いてない」
紗羅「ほえ~。イグマってあんなに強かったんだ」
凪「おいおい、紗羅が創ったキャラクターなんだろう?」
紗羅「まあ、そうだけど。こうやってリアルで見ると印象違うよねー」
木葉「私にも良く分かってないのだけど、私達の物語のキャラ達の力ってのは、物語の設定上の強さも関わってくるけど」
木葉「でも、物語が違うと、強さの設定なんて簡単に比較できないでしょ?」
凪「まあ、そりゃそうだよね。違う漫画の強キャラ同士でどっちが強いかって話で盛り上がったりするしね」
木葉「そうなの。だから、私が思うにそのキャラへの思い入れがどれだけ強いかで、強さが決まるんじゃないかと思うの」
木葉「言っておくけど、私の思い入れが弱いからカナギが負けたってわけじゃないからね」
木葉「カナギは直接戦う系じゃなくて、隠密系なのよ。こっちが先手を取れたら、あんな奴なんかには負けやしないのよ」
木葉「それに取って置きの必殺技もあるんだから。今は言えないけど・・・」
木葉「ともかく、今はアイツに勝てるかどうかはあんたのキャラへの思い入れがどれほど強いかに掛かってるんだからねっ!」
紗羅「う、うん・・・。私の中では、凄く印象的なキャラクターになったはず!」
凪「ち、ちなみにさ。その紗羅が今、考えている物語は結末まではちゃんと構想があるの・・・?」
紗羅「え、あ~。何となく・・・」
イグマ「ぐっ・・・!」
  最初は拮抗していた二人であったが、次第にイグマが押される形になってきた。
木葉「それって、ちょっとまずいわよ。物語の構想が固まっていないと、キャラクター自身もぐらついちゃうのよ」
木葉「物語の構想だけあって、結局、物語自体が完成しなかったら、キャラクターなんて存在意味を失ってしまうのよ」
凪「生み出されたばかりのイグマは、まだ不安定で、強さを発揮できないってこと?」
紗羅「え~。そんなぁ~」
木葉「落ち着いて。とにかく、今はあんたの物語と主人公に自信を持つことよ。誰にも負けないってことを信じるの!」
紗羅「う、うんっ!分かった。イグマは強い。イグマは誰よりも強いスーパー主人公なんだつ!」
凪「大丈夫かなぁ・・・」

〇大学の広場
獣王グランノール「ぜぇぜぇ・・・」
イグマ「ふぅ・・・」
  一時、イグマは押される形になったが、すぐに盛り返して、互いに一歩も引かない状況となっていた。
獣王グランノール「や、やるじゃねえかよ」
イグマ「あんたもな・・・」
凪「互いの力が拮抗しているみたいだけど、これじゃあ、どっちが勝つか分からないな・・・」
木葉「本当は、こんなことしたくないんだけど・・・」
木葉「カナギ・・・。あなたはまだ行ける?」
カナギ「はい・・・」
紗羅「カナギさんも加勢させるの?」
木葉「・・・勝負の世界は冷徹なものよ。私達の命が掛かってるんだから、しょうがないわ」
紗羅「でも、待ってよ!イグマはプライドが高い主人公だから、そんな事されたら、かなり怒ると思う・・・」
紗羅「もう、ちょっと待ってよ。イグマはまだ本当の力を発揮してないんだから・・・」
木葉「本当の力・・・?」
紗羅「そう、イグマには・・・」
獣王グランノール「そろそろ、お終いにしようか」
獣王グランノール「見せてやるぜ。俺の必殺技っ!」
獣王グランノール「獣王岩砕烈破っ!!」
  グランノールが大剣で地面を打ち付けると、地面から四方八方にひびが入り、岩石が飛び出した。
  木葉達は、カナギが寸前の所で遠くに避難させた為、被害は受けなかった。
カナギ「大丈夫ですか?」
木葉「う、うん・・・。ありがとう。あんな大技を持っているなんて・・・」
紗羅「い、イグマはっ!?」
獣王グランノール「ほう。アレを喰らってまだ息があるとは」
イグマ「ぐっ・・・!」
  グランノールの必殺技を真正面から受けて、岩石の衝突を直に受けたイグマは立っているのがやっとであった。
獣王グランノール「勝負はついたな」
  グランノールがゆっくりとイグマに近付いた。
木葉「いけないっ!カナギっ!」
紗羅「ま、待って!」
木葉「もう戦えないじゃない、アイツ」
紗羅「木葉ちゃん。イグマを信じて。まだ、彼には戦える力が残っている!」
イグマ「・・・」
獣王グランノール「・・・ん?まだやろうっていうのか?その心意気だけは誉めてやろう」
  突然、イグマの剣が光を放った。
イグマ「では、こちらも奥の手を出させてもらおう」
獣王グランノール「ほう。面白いじゃねえか。俺の技とどっちらが強いか試してやろうじゃねえか」
イグマ「行くぞっ!」
イグマ「奥義、ドラゴニアブレイドっ!!」
獣王グランノール「ぐ、ぐわぁ!」
木葉「な、なに、今の?一瞬、ドラゴンみたいなものが見えた!?」
紗羅「ふふふ。これがイグマの取って置きの必殺技だよ」
  グランノールは、イグマの必殺技を受け、膝を付けていた。
獣王グランノール「ぐっ・・・!」
イグマ「まだやるか?」
獣王グランノール「と、当然だっ!ここで引き下がれば、獣王の名が落ちるっ!」
イグマ「フンっ。やはり、面倒くさい奴らだ」
獣王グランノール「行くぞっ!獣王・・・っ!」
  グランノールは大剣を構えたまま、時が止まったように動かなくなってしまった。
イグマ「何だ?」
獣王グランノール「く、そっ。やらせろっ・・・!」
「・・・下がりなさい。グランノール・・・」
  グランノールの頭の中にどこからともなく、声が響いてきた。
獣王グランノール「ちっ・・・」
獣王グランノール「イグマと言ったな」
獣王グランノール「今日の勝負はお預けにさせてもらう」
獣王グランノール「だが、覚えておけ。次は必ず、お前を負かす。それまで、せいぜい生き残れるように頑張りな」
  グランノールは魔方陣の中に消え去ってしまった。
凪「き、消えた・・・」
紗羅「帰った・・・、のかな?」
木葉「良く分からないけど、とりあえず、助かったって事ね・・・」
  紗羅は、イグマの方へとことこと歩いて行った。
紗羅「あ、ありがとね・・・、イグマ」
イグマ「あんたが俺のマスターか?」
紗羅「そ、そうなるのかな・・・?」
イグマ「フンッ。全く、余計なことを・・・」
凪「おいっ!お前は紗羅のキャラクターなんだろう?紗羅には敬意を払うべきだろう?」
イグマ「・・・敬意?なぜ、こんな小娘にそんなものを払わねばならぬのだ?」
凪「こ、こいつ、態度が大柄だな・・・」
紗羅「ご、ごめんね、凪。イグマはこういうキャラなんだから、しょうがないよ」
凪「むぅ。何だか納得いかないなぁ」
凪(それに、紗羅はこういう俺様キャラが好きなのかなぁ。そう言えば、紗羅の好きな少女漫画はこういうキャラが居た気がする)
木葉「まぁ、とにかく、皆、無事だったから良かったじゃない?」
紗羅「うん、そうだよねっ!」
凪「でも、グランノールが言っていたことが少し気になるんだ」
凪「アイツは、生き残れるように頑張るんだな、って言ってたんだ」
凪「それって、アイツ以外にも同じような奴ら居るってこと?そいつらとも戦わないといけないってことなのか?」
凪「いったい、この街で何が起こっているんだ?」
木葉「・・・」
紗羅「木葉ちゃん。何か心当たりがあるの?」
木葉「分からない・・・。けど、知っていそうな人なら知ってる」
木葉「紗羅さん、あなたも知っている人よ」
木葉「そう。この本をくれた人」
木葉「グランノールを召喚した人も、きっとあの人から本をもらったんだろうし、今回のことも何か知っているはずよ」
紗羅「そうか。そうだね!あの人の所に行ってみよう」
紗羅「何処に居るか分かるの?」
木葉「うん。私がこの本をもらったのは、とある古書店なの」
凪「イテテ・・・」
木葉「そっか。あなた怪我してたわね。まずは病院に行かないと」
イグマ「腕を貸せ」
凪「な、何だよっ!」
  イグマは強引に凪の怪我している腕を引き寄せた。
凪「い、痛くない?」
イグマ「フンっ」
紗羅「そっか。イグマは回復魔法も使えるんだった。ほら、ちゃんと優しいでしょう?」
凪「あ、有難う・・・」
イグマ「・・・」
凪(やっぱり、不愛想なヤツ・・・)
木葉「じゃあ、その古書店まで行きましょう!」

〇高い屋上
  紗羅たちが話していた近くの建物の屋上で、誰かが彼らの様子をじっと観察していた。
獣王グランノール「おい。なぜ止めた?」
由里「・・・あなた、やられそうだったのよ?」
獣王グランノール「まだ、行けたはずだ。俺の奥義もまだ出し切っていなかった!」
由里「あれはまだ駄目よ。奥義はクライマックスまで取っておかなくちゃ」
由里「それに私達の目的は、あの娘とあの娘のキャラクターの抹殺だったけど、邪魔が入ってしまったしね」
由里「二対一ではさすがに分が悪いでしょう」
獣王グランノール「俺にはそんな事は関係ない」
由里「まあいいわ。機会ならいくらでもあるしね」
獣王グランノール「ふん。こんな茶番はとっとと終わらせて、早く俺のやるべきことをやらせろ」
由里「あなたはそうかもしれないけど、私はあの子を何としてでも倒さないといけないの」
由里「それが出来たら、あなたの望みを叶えてあげるわ。それが私には出来るのだから・・・」
獣王グランノール「・・・ふん、勝手にしろ」

〇教会内
  とある教会に二人が居た
???「遂に始まったな」
???「・・・」
???「我が悲願を叶える時が遂に来たのだ。讃えようじゃないか、この瞬間を」
???「我が愛しの君よ・・・」
???「・・・」
  第一話 邂逅 終わり

次のエピソード:第二話 アーカイバ

コメント

  • 登場人物への思い入れの強さで優劣が決まるということだけど、作者の沙羅と一緒に行動している間にイグマがパワーアップしたり使える技が増えていくこともあるんだろうか。最後に出てきたラスボスみたいな人も気になります。

  • イグマかっこいーい!

  • 自分の書いた小説の構想が現実化されるなんて、しかもその主人公とコンタクトを取ることができるとは、とても魅力的なお話でした! 読みながら、小説を書く方というのは、やはりその主人公や登場人物にたくさんの想いを込めてかきあげていくのだなあと感慨深かったです。

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