王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

16話 夢の時間(脚本)

王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

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〇貴族の応接間
葵の声「あの、一応、サイズは合ったみたいですけど・・・」
  衣装室に用意された服に着替えた私は、表で待つレイルズに声をかける。
レイルズ「だったら早く出ておいで」
葵の声「でも、すっごく変です」
レイルズ「そんなはずないよ。仕上げは僕がしてあげるから、ほら」
葵の声「は、はぁ・・・」
  強く促されて、おずおずと衣装室から足を踏み出した。
レイルズ「・・・!」
  レイルズの目がまん丸に見開かれる。
  当然だ、私はいつもの騎士の制服ではなく、レイルズの用意したドレスに身を包んでいたのだから。
  そのうえ、頭には亜麻色の髪を縦ロールにセットしたカツラを乗せて、慣れない化粧までしている。
富士丸葵「や、やっぱり、おかしいですよね、こんな格好」
富士丸葵「せっかく用意してくださったのに申し訳ないですけど、私には絶対似合いません。 元の制服に着替えてきます!」
レイルズ「待って!」
  衣装室に戻ろうとした私の手を、レイルズが強く引いた。
レイルズ「すごく似合ってる! 思ってたよりも、ずっと」
  こちらを見上げるレイルズの頬が、熱を帯びて赤く色づいている。
富士丸葵「嘘です、そんなの。スカートだって滅多に履かないのに、こんなドレスなんて」
  思わず顔を背けると、レイルズはギュッと私の手を握った。
レイルズ「アオイは綺麗だよ。今夜集まってる、どの姫よりも」
  今度は私が目をまん丸にする番だった。
  もう何も言えなくなってしまった私を、レイルズは長椅子に座らせる。
  そして手早くカツラを整え、チークと口紅を軽く塗り直した。
富士丸葵(メイクまでできるなんて、いったい、どこで覚えたんだろう)
レイルズ「さあ、鏡の前に立ってみて」
  導かれるまま大きな鏡の前に立つと、そこには鮮やかな空色のドレスを着た姫が立っていた。
  なめらかなシルエットのドレスは、筋肉質な体型を優雅に見せてくれる。
  装飾の少ないシンプルなデザインも私好みだ。
富士丸葵「すごい・・・ホントに、これが私ですか?」
レイルズ「アオイ以外の誰だって言うの」
レイルズ「国同士の付き合いやしきたりで、踊らないといけない相手とはもう全員踊った。 これから先は、踊りたい人と踊るよ」
富士丸葵「だけど、私ってバレたら」
レイルズ「大丈夫だよ、髪の色も違うし。もし誰かに名前を聞かれたら、僕の遠縁に当たる──そうだな、シエル姫だと名乗って」
  そう言うと、レイルズは私の前にひざまずき、右手を差し出した。
レイルズ「美しい姫君、僕と踊っていただけますか?」
富士丸葵「え、えっと、あの、その・・・よ、喜んで!」

〇大広間
  レイルズが大広間に戻ると、慌てた様子でマルクが駆け寄ってくる。
マルク「何をなさっていたんですか、王太子殿下! 皆様、お待ちです──」
  言いかけたマルクが私の方を見て、息を呑んだ。
マルク「あの、失礼ですが王太子殿下。そちらの姫君は」
  顔を真っ赤にして、カチコチに固まっている。
レイルズ「これから、僕が踊る相手だよ、マルク」
  レイルズはニッコリと笑みを浮かべると、私を振り返り優しく手を取る。
レイルズ「さあ、踊ろう。シエル姫」
富士丸葵「はい!」
招待客「なぁに、あの姫。見たことがないわ」
招待客「ずいぶん背の高い姫だな。しかし美しい」
  私のことを値踏みする視線と、批評の声。
レイルズ「気にしちゃダメだよ。ダンスに集中して」
富士丸葵「はい」
  小さくうなずいた私は、ゆったりとしたワルツに合わせて踊り始めた。
  恐る恐るステップを踏むと、それに合わせてレイルズがリードしてくれる。
レイルズ「もう少し大きくステップして」
富士丸葵「で、でも」
  私とレイルズの身長差は15センチ以上。
富士丸葵(足を伸ばしてステップを踏んじゃったら、王太子殿下が大変なんじゃ)
  私の心を読んだように、レイルズは微笑む。
レイルズ「大丈夫だよ。ダンスには自信があるんだ」
  ホールドする手の力強さを信じて、思い切って足を伸ばしてステップしてみる。
  すると──
富士丸葵「わぁ・・・!」
  タイトだったスカートがふわりと広がって、フロアに美しく円を描いた。
レイルズ「ほら、気持ちいいでしょう?」
  レイルズは身長差をものともせずに、余裕を持って大きく足を運ぶ。
富士丸葵(すごい、背中に羽がついてるみたいだ。 私まで、空を飛んでるみたい)
  いつの間にかざわついていた周囲は静まりかえっていた。
  カップルはみんな踊るのをやめ、こちらを見つめている。
  焦った私は小声でささやく。
富士丸葵「踊ってるの、私たちだけですよ」

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