14話 それぞれの恋模様(脚本)
〇華やかな裏庭
姫君「あなたのドレス、とっても素敵ね。バラ模様のレースが、今日のお庭にぴったりだわ」
姫君「スミレの花の砂糖漬けはいかが? ベリーのタルトもありましてよ」
富士丸葵(お出迎えだけのつもりだったのに、どうしてこんなことに)
目の前に広がる乙女チックすぎる光景に、たじろいでしまう。
ローザ「やっぱり女の子は良いわねえ。わたくしも姫が欲しかったわ~」
お茶会の主催しゃであるローザは、美しく着飾った彼女たちを満足そうに眺めている。
集まっているのは皆、貴族の姫君。明日の舞踏会の招待客だ。
ローザ「はぁ・・・ずっと眺めていたいけれど、わたくし、明日のドレスを選ばなくちゃいけないの」
ローザ「アオイ、お客様のお相手はお願いね」
富士丸葵「ええ!?」
ローザ「それでは皆さん、ごゆっくり」
困惑する私をよそに、ローザは優雅に微笑むと屋内へと戻っていった。
富士丸葵(この空気の中に、私ひとりって!)
ローザがいなくなると同時に、姫たちの視線が一斉に私に注がれる。
富士丸葵「え? あ、あの?」
姫君「ほんっと、来て良かったぁ! 噂には聞いてたけど、それ以上ね!」
突然、人が変わったようにお喋りを始める姫たち。
富士丸葵「ちょ、ちょっと! さっきまでのおすましはなんだったんですか!?」
姫君「ヤダ、王妃様の前でこんなお喋りできるわけないですよ!」
姫君「だけど私たち、普段はお城に籠もりきりでめったに会えないし。 こういう時くらい自由に話したいんです」
富士丸葵「な、なるほど」
年頃の女の子は、どこに行っても似たようなものなのかもしれない。
そしてお決まりのように、話題は恋バナに移っていった。
富士丸葵「やっぱりみんな、ご両親の決めた相手と国のために結婚するの?」
姫君「表向きは、一応、ね」
姫たちはクスクスと笑いながら目配せを交わす。
姫君「手紙で情報交換し合うんです。あそこの王子は性格最悪だから絶対NG、とか。 あの騎士は将来出世しそう、とか」
姫君「良さそうな人がいたらこっそり連絡取ってお付き合いしてから、両親に 話して正式に婚約って感じかな」
富士丸葵「す、すごい」
姫君「親に内緒でいい人を探すのは大変だけど、一生のことだもん! 幸せになるためには、努力しなきゃ!」
富士丸葵「そうだよね。本当に・・・その通りだ」
ブラン「姫君方をはべらかして、ずいぶん賑やかですな」
後ろから棘のある言葉が響いた。
背後を振り返ると、ブランが蔑みの混じった目で私たちを見下ろしている。
ブラン「メリナ姫だけでは飽き足らないと見える。まぁ、女のように頼りがいのない王太子殿下だ」
ブラン「美丈夫の騎士団長にお妃候補を奪われるのも致し方のないことか」
レイルズに対してもあまりに非礼な言い草に、体がカッと熱くなる。
富士丸葵「ブラン様、いい加減に──」
我慢ができず怒鳴りかけた私を遮ったのは、姫たちの笑い声だった。
姫君「ブラン様は女心を知りませんのねえ。 レイルズ様は聡明で素晴らしいお人柄だと、私たちの間では大人気ですわ」
姫君「あの若さで立派に代王を務めていらっしゃるし、文句しか言えないオジサマ方とは大違いねって」
ブラン「ぐ、ぬ、ぬぅう」
ブランの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
ブラン「邪魔をしたようですな! 私は失礼する!」
足音も荒々しく、ブランが去って行った。
富士丸葵「庇ってくださって、ありがとうござました」
姫たちに礼を言い頭を下げる。
姫君「あら、何のことでしょう? 私たち、楽しくお喋りしていただけですわ」
クスクスと笑い合う姫たち。
目に映る景色は違っても、あたりに響く明るい笑い声は、学校の同級生たちと変わらない。
富士丸葵(なんだか、大切なことを思い出せた気がする)
ユルベールでの経験はすべてが夢みたいで、私はどこか別世界の出来事のように感じていた。
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