12話 葵とレイルズ(脚本)
〇湖畔
私たちは、姿を消したレイルズを必死に探しはじめた。
富士丸葵「王太子殿下ー!」
マルク「王太子殿下! どこにいらっしゃるのですか!」
にわかに緊張感の漂い始めた周囲の雰囲気に、さすがのメリナも不安げな表情を見せる。
メリナ「姫がレイルズ殿に失礼なことを言ったから、腹を立ててしまわれたのだろうか」
富士丸葵「違いますよ。王太子殿下はそんなことで怒ったりはしません」
メリナ「しかし、じっとはしていられぬ。アオイ殿、姫も手伝うぞ!」
富士丸葵「ダ、ダメですよ、森の中は危険です! 姫はあちらのテントで待っていてください」
メリナ姫の背中を押して、休憩用のテントに連れて行く。
富士丸葵「ここで体を休めていてください。王太子殿下は、私やマルクがすぐにお連れしますから」
メリナ「姫だけ休んでいるのは気が引けるのう・・・」
ためらうメリナを椅子に座らせて、近くにいた従者の青年に声をかける。
富士丸葵「ちょっと、君! えーと、名前は?」
ユーリ「はい、ユーリと言います!」
富士丸葵「ユーリ、しばらく姫のお相手を頼めるかな。ここから動かないように」
ユーリ「わ、分かりました。お任せください!」
真面目そうな従者は緊張の面持ちで敬礼し、メリナの側に駆け寄る。
そのとき、空からパラリと雨粒が落ちてきた。湖面にポツポツと水紋が浮かぶ。
富士丸葵(雨が降ってきた・・・。急いで王太子殿下を見つけないと!)
〇森の中
富士丸葵「王太子殿下! 出てきてください、王太子殿下ー!」
小雨の降り出した森の中を、声を上げながらくまなく探す。
あの短時間で、誰にも気付かれずレイルズをさらうことはできないはずだ。
富士丸葵(きっと王太子殿下は、自分の意志であの場を離れた)
最後に見た、彼の険しい表情が脳裏に浮かぶ。
富士丸葵「私、殿下を傷つけたんだ・・・」
ぽつりとつぶやくと、胸の中にくすぶる不安がどんどん膨らんでゆく。
富士丸葵(弱気になっちゃダメだ、とにかく今は殿下を見つけなきゃ)
富士丸葵(雨が降り出したから、どこかで雨宿りしてるかもしれない。 大きな木の下か、洞窟の中か)
なんとか自分を奮い立たせて、雨をしのげそうな場所を重点的に捜索する。
雨粒はだんだんと大きくなり、濡れた髪から水滴が頬を伝って落ちた。
富士丸葵「王太子殿下! レイルズ・・・レイルズ様ー!」
そのとき、もみの大木の影に赤いもの がチラリと見えた気がした。
富士丸葵「殿下!?」
レイルズ「アオイ・・・」
青ざめた頬をしたレイルズが、ゆっくりと顔を上げ振り返った。
富士丸葵「王太子殿下、無事で良かった・・・」
赤い上着を着た肩を思わず抱き寄せる。
レイルズ「・・・!」
富士丸葵「あ、あの、すみません。ホッとして、つい」
慌てて体を離すと、頬に血色を戻したレイルズが、グイと私の手を引いた。
レイルズ「そこじゃ雨に濡れてしまう。もっとこちらに」
富士丸葵「は、はい」
レイルズの隣に立ち、空を見上げた。
雨脚は一層強くなり、少しでも木の下を離れればすぐにずぶ濡れになりそうだ。
レイルズ「心配させてしまったよね。戻ろうと思ったら、雨が降ってきて」
富士丸葵「いまはひどく降ってますけど、空は明るいからにわか雨です。 少しのあいだ、ここで雨宿りしましょう」
安心させるように笑みを浮かべて、横目でレイルズを見た。
レイルズ「アオイ、ごめんね。勝手に機嫌を悪くしたりして」
レイルズ「少しだけ、嫌になったんだ。何もできなくて、アオイに助けられてばかりの、格好悪い自分が」
富士丸葵「そんなことありません。王太子殿下はご立派です!」
富士丸葵「馬術だって、すぐにコツを飲み込んで、上達したじゃないですか」
レイルズ「だけど、まだまだ未熟だ」
小さく息をつくと、悲しげな目をしたまま自嘲ぎみに笑う。
レイルズ「重臣たちから影でどう思われているのかも、分かってるんだ」
レイルズ「若すぎる、頼りない、国を任せられないって」
レイルズ「当然だよ、男らしいことはなにひとつできないんだから」
富士丸葵「殿下、それは違いますよ! 私の育った場所では、16歳なんてまだまだ子供です」
富士丸葵「ほとんどの子が、親や大人に守られて暮らしてます。だけど、王太子殿下は違う」
富士丸葵「たったひとりで、大人と対等に渡り合って、お父上に代わって国を背負ってる」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)