サンビタリア症候群

香久乃このみ

第一話 残飯(脚本)

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〇白いアパート
  忘れ物を取りに彼氏の家へ行ったある日、
  私の目に飛び込んできたのは・・・

〇一人部屋
田所胡蝶(こちょう)「きゃっ!?」
桜川大和(やまと)「うわっ!!」
  彼氏の桜川大和と、
  職場の後輩の田所胡蝶が
  原始的な生殖活動に励んでいる姿だった。
楠原陽花(はるか)「・・・・・・」
桜川大和(やまと)「や、あの、これは・・・!」
田所胡蝶(こちょう)「ち、違うんですぅ、楠原先輩ぃ」
楠原陽花(はるか)「・・・・・・」
  怒りはなかった。悲しみも。
  湧き上がってきた気持ちはただ一つ
楠原陽花(はるか)(どうでもいい)

〇黒
  私は2人を無視し
  忘れ物をしたと思しき洗面所へ向かう。

〇白いバスルーム
楠原陽花(はるか)(あった!)
  家の中でいくら探しても
  見つからなかったコンタクトケース。
  前にここに泊った際に、
  置いてきてしまったのだろう。
  私はポケットにケースを放り込むと、
  洗面所から出ようとした。
桜川大和(やまと)「陽花!」
楠原陽花(はるか)「!!」
桜川大和(やまと)「は、話を聞いてよ! あ、あのさ、オレ、あの・・・」
田所胡蝶(こちょう)「ふぇえ、楠原先輩、ごめんなさぁい。 私が桜川さんのこと 純粋に好きになっちゃったからぁ」
楠原陽花(はるか)「通れない、どいて」
桜川大和(やまと)「どいたら陽花、どっか行っちゃうだろ?」
田所胡蝶(こちょう)「楠原先輩のこと 大事にしてる桜川さん見てたら、 すごく素敵だなって思っちゃってぇ」
楠原陽花(はるか)「帰りたいの、そこ邪魔」
桜川大和(やまと)「帰らないでよ、 ちゃんと話し合いたいんだ!」
田所胡蝶(こちょう)「気持ちが抑えられなくてぇ、 楠原先輩を傷つけるってわかってたけどぉ」
桜川大和(やまと)「陽花、オレが本気で好きなのは、 はる・・・」
楠原陽花(はるか)「どいて、残飯!!」
「!?」
桜川大和(やまと)「ざん、ぱん?」
楠原陽花(はるか)「あなたのことよ、残飯」
桜川大和(やまと)「・・・どういう、意味?」
楠原陽花(はるか)「どんなに素晴らしい 三ツ星レストランの料理でも、」
楠原陽花(はるか)「雌犬がべちゃべちゃ舐めたら それはもうただの残飯」
楠原陽花(はるか)「二度と口をつけたいとは思わないでしょ?」
桜川大和(やまと)「え、あの・・・」
田所胡蝶(こちょう)「・・・めすいぬ」
楠原陽花(はるか)「わかったら、そこを通して」
桜川大和(やまと)「・・・・・・」
楠原陽花(はるか)「どいて!」
  2人が慌てて両わきへよける。

〇一人部屋
  私は2人を目に入れないように、
  まっすぐに玄関へと向かった。

〇白いアパート
  まだ後ろで何か
  ごちゃごちゃ言っているようだったが、
  耳をかたむける価値などなかった。

〇黒
楠原陽花(昔からこうなんだよね・・・)

〇開けた交差点
  好きな人を他の女に奪われるのは
  今回が初めてじゃない。
  それが嫌だから、
  周囲に他の女の気配がない人を
  いつも選んでいるのに。
楠原陽花(私が好きになると すぐに誰かがちょっかい出してくる)
  そしてその瞬間、
  私の恋心は完全に消え失せるのだ。
楠原陽花(最初は、小学生の時だったなぁ・・・)

〇教室
女子「ねぇ、好きな子教えっこしない?」
女子「えへへ、私はテッちゃん!」
女子「あー、足早くてかっこいいよね」
女子「私は、シュンくん」
女子「頭いいし、大人っぽいよね」
女子「陽花ちゃんは? 誰が好き?」
楠原陽花(はるか)「私はシンちゃん!」
女子「え・・・、 シンちゃんって、菊川君?」
女子「陽花ちゃん、シュミ悪い・・・」
楠原陽花(はるか)「なんでよ!」
女子「だって、 シンちゃんって太っててダサいし」
女子「どんくさいし、いいところないじゃない」
楠原陽花(はるか)「そんなことないよ、優しいし」
女子「うん、まぁ、優しいけど・・・」
楠原陽花(はるか)「それにすごく勇気あると思う」
女子「勇気? 他の男子に泣かされてばかりなのに?」
楠原陽花(はるか)「あのね、この間カズがのんちゃん いじめてた時に、シンちゃんは 『女子を泣かすな!』 って言ったんだよ」
楠原陽花(はるか)「その後カズにボコボコにされて、 自分が泣かされてたけど」
女子「あー、なんかあったね」
楠原陽花(はるか)「本で読んだんだ」
楠原陽花(はるか)「泣きながらでも立ち向かっていける人は、本当の勇気を持っている人だって」
女子「・・・・・・」
楠原陽花(はるか)「その時だけじゃないよ」
楠原陽花(はるか)「シンちゃんはいつも、 自分が負けるって分かってても、 他の子を守ろうとしてる」
楠原陽花(はるか)「私、そういうとこ カッコいいと思うし、好きなんだ」
女子「へぇ・・・」
女子「まぁ、家はお金持ちだし、 いいんじゃない?」
楠原陽花(はるか)「お金、関係ないよ!」

〇田舎の学校
  その後、
  私はシンちゃんと仲良くなった。
  シンちゃんはみんなが言うように
  どちらかと言えばさえない子だったから、
  友だちも少なくて
  私はシンちゃんの時間を独占できた。
  何かあるたびにペアを組んで、
  いつも一緒だった。
  最初は薄笑いを浮かべて
  私たちを見てた子たちも、
  だんだんシンちゃんに
  好意を持つようになった。

〇黒
  持ちすぎてしまった。

〇学校の体育館
先生「はい、 じゃあ男子女子二人一組になって」
  それは学年末に催された
  レクリエーションの時のこと。
楠原陽花(はるか)「シンちゃ・・・」
女子「シンちゃん、私と組も!」
女子「待ってよ、私の方が先だった!」
シンちゃん「えっと・・・」
  シンちゃんは私をふり返る。
シンちゃん「どうしよう、ハルちゃん・・・」
  困りながらも、
  ちょっと誇らしげに笑いながら。
女子「シンちゃん、私と!」
女子「だめ! シンちゃん、私!」
シンちゃん「あ、あはは・・・、 そんな引っ張らないでよ」
  女子に囲まれ顔を赤らめている
  シンちゃんを見ているうち、
  私の中で何かが終わった。
楠原陽花(はるか)(もういいや)
  好きの反対は嫌いでなく無関心という。
  まさにそれだった。
  怒りも悲しみもない。
  ただ冷え切った「どうでもいいや」に
  切り替わってしまったのだ。
楠原陽花(はるか)(私は、 私だけを見てくれる人しかいらない)

〇田舎の学校
  その日を境に、私はシンちゃんと
  必要最小限しか関わらなくなった。
  学年が変わり別のクラスになってから
  しばらくして
  シンちゃんは転校したと聞いた。
  けれど、それも私にとって
  どうでもいいことだった。

〇黒

〇ビジネス街

〇オフィスのフロア

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次のエピソード:第二話 『私だけを見つめて』

コメント

  • おもしろい… 主人公陽花が凄い良いです!
    今まで未読だったのが悔やまれる!
    一気読みさせていただきます!

  • いきなりの残飯はパンチがありました!
    でも良いか悪いかは別にして、私も陽香の自分の事だけを好きでいてくれない人に興味は無い、の部分は共感できてしまいます。

  • 自分が好きになるとその人が好かれる。奇妙な星のもとに生まれた主人公にすごくひかれました!
    他人が羨ましくなる後輩とは相性最悪で、これからどうなるのか楽しみです!

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