エピソード23(脚本)
〇西洋の城
手紙をのぞき見たエルルは、キラキラと目を輝かせてニルの手をとった。
エルル「すごいですよニルさん! こんな特例聞いたことありません!」
ニル「・・・いや、俺は受けないよ」
エルル「え・・・、ええっ!? なんでですか!?」
掴んだ手をぶんぶんと上下に振るエルルに、ニルは苦笑しながら答える。
ニル「うーん、アイリとエルルと楽しくやっていくだけでも悪くないかなって」
エルル「・・・まあ、ニルさんがそう言うなら」
アイリ「いえ、これは命令よ」
アイリの鋭い声に、ニルはぴたりと動きを止める。
アイリ「もし拒めば、コレクターの資格を剥奪(はくだつ)されてもおかしくないわ」
ニルの頭に、人を小馬鹿にしたようないつものギルの表情が思い浮かぶ。
ニル「・・・うーん、それはちょっと面倒くさいかも・・・」
アイリ「そうね。受けた方がいいわ」
アイリは人さし指でビッとニルを指さした。
アイリ「要は、ニルはまだギルドに信頼されてないってことよ」
アイリ「それを今回の試験で見極めようって魂胆ね」
エルル「なんですかそれ! アーティレが助かったのはニルさんのお陰なのに・・・」
頰を膨らますエルルに、アイリは苦笑する。
アイリ「まぁ、当然といえば当然ね」
アイリ「コレクター試験でネームドを狩り、挙げ句にはギアーズを一瞬で葬り去るなんて・・・」
アイリ「はたから見れば、大ぼら吹きもいいところよ」
エルル「むむ・・・たしかにニルさんのことを知らなかったら、とても本当だとは思えませんね・・・」
エルルはくるりとニルの方を向いた。
身体の前で拳を握り、励ますように頷(うなず)く。
エルル「ニルさん、ガツンとやってやりましょう!」
ニルはパチパチと目をまばたいたあと、苦笑して頭を掻(か)いた。
〇西洋風の受付
結局、ニルは上級試験を受けることにした。
やはりコレクターの資格を剥奪されては生活するうえでも困ることが多い。
ロビー内の席のひとつに腰掛けて待機していると、とある人物がニルのもとに近づく。
気づいたニルが顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。
エドガー「やあ」
ニル「・・・えっと・・・エドガー・ア・・・アル・・・ブ・・・?」
エドガー「エドガー・アルベルト・ブッシュバウムだ!!」
ニル「あ、そうだった。 ごめんね、エドガー」
エドガー「相変わらず失礼だね君は・・・」
エドガーは呆(あき)れた顔をして、ニルの隣の席に腰を下ろす。
エドガー「そういえば、だいぶ調子がいいみたいだね。 噂で聞いたよ。”夜の太陽”だっけ?」
ニル「夜の太陽?」
エドガー「君が起こしたらしいあの一件のことだよ」
エドガー「なんでも、一撃で数百のギアーズを葬ったとか? 尾ひれがつくにも程があるだろう」
ニル「あ、ああ・・・そんな風に言われてるんだ」
エドガーは苦笑いするニルを見て、フンと鼻で笑った。
エドガー「その反応、噂はやっぱり噂だったってことだね」
ニル「・・・ところで、なんでここに?」
エドガー「当然、上級試験を受けるために決まっているだろう」
ニル「へえ〜・・・エドガーって、初級じゃなかったっけ?」
エドガー「いや、今は中級だ。 ほぼ毎日クエストを受けていたからね」
ニル「そうなんだ。すごいね」
エドガー「なんだそれは、嫌味か?」
エドガー「まあブッシュバウム家の嫡男(ちゃくなん)たるもの当然だけどね」
ニル「そ、そっか・・・。 じゃあ一緒に頑張ろう」
ニルとエドガーが会話をしていると、ギルド職員がやってきた。
ロビーで待機している面々を見渡してから、小さく頭を下げる。
ギルド職員「皆様、おそろいですね。 上級試験会場へ移動する馬車の用意が整いました」
ギルド職員「ご準備をお願いします」
集まった受験生たちは、ギルド職員の案内する方へ移動を始める。
エドガーは立ち上がると、受験生たちの波に従わず別の出口へと向かった。
ニル「エドガー?」
エドガー「僕はブッシュバウム家の馬車で行くことにするよ」
エドガー「精々(せいぜい)そのメッキが剥がれないように祈るんだね」
そう言って立ち去るエドガーの背中を見て、ニルは肩をすくめた。
ニル「・・・やっぱり、ちょっと苦手かも」
〇渓谷
試験会場は、カラカール渓谷だ。
ニルが乗ってきた馬車が動きを止める。
到着の声がかかり、ニルは馬車から降りて大きく背伸びをした。
エドガーは先に到着していたようで、少し遠い場所で誰かと会話をしている。
遅れてもう1台の馬車が到着して、馬車から人が降りてきた。
ニルはその中のひとりを見て、「あっ」と声を漏らす。ニルの声に反応して、男は視線を向けた。
ライザー「お前は・・・!」
ニルはライザーにぺこりとお辞儀をする。
ライザーは気まずそうに、ニルからすっと視線を逸(そ)らした。
そのまま受験生たちの前に立ち、ひとつ息を吐いてから話し始める。
ライザー「今回、試験管を務めるライザー・ミルコップだ」
ニルは「メルザムで野暮用がある」と言ってきたライザーを思い出した。これのことだったのか、と納得する。
ライザーはわざとらしく咳払いをした。
ライザー「さっそく試験の概要を説明する」
ライザー「2日後の日暮れまでに、この渓谷に潜むギラノスを討伐すること」
本来、ギラノスは一般の中級コレクターが5人いてやっと狩れるレベルだ。
上級コレクターでもサックリと討伐できるのは一部のみで、手こずる者も多い。
ざわつく受験生たちを無視して、ライザーは説明を続ける。
ライザー「さらにもう一つ、条件がある」
ライザー「この場にいる受験生で、パーティを組むことは禁止だ」
受験生「そんな! いくらなんでも上級試験のレベルじゃない!」
受験生「おかしいだろ、俺たちを殺したいのか!?」
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