人形魚雷ノートラッド

VSセイレーン(脚本)

人形魚雷ノートラッド

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〇水中
  水底に沈む宝の島には
  どんな願いも叶う宝物が眠っている
  その宝を狙って
  数多の人間が島を目指す
  それを迎え討つは宝の守り人
  セイレーンたち。
  彼女たちは
  此の世のものとは思えない
  美しい声と美貌で人間を幻惑する。
  セイレーンたちの声を聞いて
  狂人にならずして
  帰ってくるものはいない。
  正気を保てるのは
  宮廷戦闘楽団員のみだ。
  戦闘楽団は
  宝に狂った王様によって組織された。

〇謁見の間
王様「宝は実在する 儂はこの目でハッキリと見た」
王様「凡人庶民共はセイレーンの美しさに 惑わされて本当の宝を 見ようとしない」
王様「儂は宝を得て 神を超えてみせる この世の全てを我が物にするのだ」
王様「宝の島へは セイレーンの音楽を超えるものしか 辿り着けない」
王様「完璧な教育を施した 我が宮廷戦闘楽団員たちよ セイレーンを殺せ」
王様「必ず儂のもとへ 宝を持ち帰るのじゃ」
王様「儂ももう長くはない 早く宝を手に入れねばならない・・・」
王様「絶対に死んでたまるか 儂の身に凡人庶民と 同じことが起こってはならない」
親父「やぁ王様 ヒック  うちの倅に なにかご用で? ウィー」
王様「遅いぞ! 酔っ払いめ 呼ばれたらすぐ来んか!」
王様「ノートラッドにこれを渡せ」
王様「次回の対セイレーン討伐作戦の 極秘資料だ」
王様「お前はセイレーンに狂って 何も弾けなくなったが 倅は お前を超える 優秀なオルガニストになった」
王様「ノートラッドに伝えろ 必ず任務を果たせ 期待している・・・と」
親父「ハハーッ つつしんでお受けいたしますー! ヒック」

〇豪華な客間
  明日はお前一人で島に向かうのだ。
  セイレーンの船に体当たりするのだ。
  いいな
  お前は人形魚雷ノートラッドだ。
  セイレーンを殺せ
  お前が戻って来なかったら、
  作戦は成功したとみなし、
  私も島へ向かう。
  もうセイレーンに対抗できる
  骨のある音楽家は、お前しかいない。
  みなセイレーンに狂わされてしまった
  ずっと上の空でセイレーンの
  声を思い出しては耽溺し、
  会話もままならない奴らばかりだ
  お前の親父もその一人だ・・・・・・
  憎しみは強大な力となる。
  頼りにしているぞ
  ノートラッドよ
  作戦を成功させたなら
  お前の像を建てて
  お前の雄姿を語り継ごう
  王様より
親父「ノートラッド お前は世界一のオルガニストになる ヒック」
親父「俺とセイレーンの子供なのだから。 お前も母さんを取り戻したいだろう?」
親父「なあ、なあ。 あの宝の島に縛り付けられた かわいそうな母さんを 俺たちの元に取り戻すのだ」
ノートラッド「・・・ああ」
親父「ヒック 練習の邪魔してわるかったな じゃあ、な」
ノートラッド(私がセイレーンの子供だということは父の妄想だろう。 セイレーンに狂うと妄言が増える)
ノートラッド「私も正気ではない。 狂っていることはわかっている」
ノートラッド「セイレーンの声がほしい」
ノートラッド「セイレーンの絶叫が、絶唱が、ほしい。 セイレーンを私だけのものにしたい。 ああ、あの声、あの声、あの声」
ノートラッド「憎きセイレーンの最期の絶唱を聴くのはこの私だ」

〇水中
  夜明け前
  セイレーンが眠っているうちに
  奇襲をかける
  いつも涼しい顔で
  人間を手懐けるセイレーンよ
  お前の仮面を剥ぎ取ってやりたい
  セイレーンはどこだ
  セイレーンはどこだ
  みつけた
  私の音波探知機は
  セイレーンを逃しはしない
  潜航開始。

〇黒
  だ れか・・・・・・!
  ここから出して・・・・・・!
  死にたくな い
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
???「今日は一人で来たのか ノートラッド」
???「まさか私の艦に体当たりしてくるとは。 王も相当焦っているようだな」
???「あわれよな 人間は」
???「どこかに宝があると  いつまでも思い込んで」
???「思い込めるのも 幸福なのだろう か・・・」

〇城の客室
ノートラッド「・・・っ」
セイレーン「こら、まだ動くな。 傷がふさがっていない」
ノートラッド「私は人形だ。 傷つかない・・・うっ」
セイレーン「お前は捕虜だ。 私の言うことを聞け」
ノートラッド「・・・なぜ助けた」
ノートラッド「愛するパイプオルガンと共に 死ねるなら本望だ」
セイレーン「ほう? あんなに 死にたくないと 人形魚雷の中で呻いていたのに?」
ノートラッド「出撃してから記憶がない・・・・・・」
ノートラッド「なぜ生かした」
セイレーン「私の楽団で歌え」
ノートラッド「は?」
セイレーン「私の声をお前にあげよう」
セイレーン「ほしいんだろ?」
セイレーン「私の声を聴いても、 私の声を得たことにはならない」
セイレーン「お前自身が歌わねば、 得たことにはならない」
セイレーン「これは命令だ。 背けば殺す。 お前は捕虜だ」
ノートラッド「何故 私にそんな提案を?」
セイレーン「声がいいから」
セイレーン「それにお前は 宝に興味がないからだ」
ノートラッド「・・・・・・」
セイレーン「私の声を得れば 自動的に宝に辿り着く」
ノートラッド「・・・私はオルガニストだ。 今更歌なんて」
セイレーン「フフフ 宝を得るにはまず死ぬことだ」
セイレーン「オルガニストのお前が死ぬ。 そして生まれ変わる」
セイレーン「ノートラッドがセイレーンと共に 歌っているところを見て、 宮廷戦闘楽団のお仲間は驚くだろうな」
セイレーン「フフッ 愉快愉快」
セイレーン「さて、明日からはお前も 他のセイレーンたちに混ざって猛特訓だ。 サボったら容赦しない。いいな」
ノートラッド「私が・・・セイレーンに・・・?」
ノートラッド「そんなことがあっていいのだろうか・・・」
ノートラッド「・・・・・・」

〇大広間
セイレーン「ボスの考えることは 高邁すぎて わかりませんわ♪」
セイレーン「セイレーン聖歌隊に 人間を混ぜるなんて♪」
セイレーン「しかもあの王国の オルガニストですわ♪」
ノートラッド「・・・・・・」
セイレーン「ふふふふふ 私たちは低劣な人間共と違いますから いびったりしませんわ〜♪」
ノートラッド(さすがセイレーン 歌うように喋る)
セイレーン「おい新入り ぼさっとするな」
ノートラッド「・・・はい」
セイレーン「返事はラの音で 明るくすること!」
ノートラッド「え、」
セイレーン「口答え無用」
ノートラッド「〜♪」
セイレーン「まあ、よし」
セイレーン「新入りが来たので 新曲の練習をするぞ」
  ・・・・・・・・・・・・
ノートラッド(全然だめだ やはり私は歌えないのでは)
セイレーン「・・・ノートラッド ちょっと来い お前の声を塞ぐものがある」
セイレーン「オルガニストになれ、 オルガニストであれ、 親の期待通りにしろ お前は人形だ」
セイレーン「そんな呪いが お前にからみついている」
セイレーン「私が解く手伝いをしよう」
ノートラッド「呪いを解く・・・?」
セイレーン「恐れることはない 音の振動が お前の心を溶かす」
セイレーン「私に続いて 歌え」
ノートラッド「歌うたびに声の通りがよくなっていく・・・!」
セイレーン「その調子だ いいぞ」
  ・・・歌うたび 
  セイレーンへの憎しみも
  消えていった
  セイレーンに近づいていくことを
  歌うたびに
  感じられるから

〇大水槽の前
セイレーン「ノートラッド 今日はお前の初陣だ 見ろ 宮廷戦闘楽団の船がやってくるぞ」
  なつかしいオルガンの音色が聴こえてくる
ノートラッド「・・・!」
セイレーン「今日はお前の代わりに親父殿が 弾いているのか これは観物だぞ!」
セイレーン「存分に歌うがよい」
セイレーン「悲しいときは楽しく 楽しいときは悲しく」
セイレーン「怒りにうち震えるときは 慈悲深く」
セイレーン「穏やかなときは激しく」
セイレーン「叫びたいときは沈黙し」
セイレーン「走りたいときは立ち止まる」
セイレーン「愛しいときは憎しんで」
セイレーン「宝を得たいときは 宝を手放す」
セイレーン「この奥義のわからぬ者を 宝の島に立ち入らせてはならない」
セイレーン「・・・潜航開始!」

〇水中
親父「ノートラッド・・・!?」
親父「無事だったのか・・・! 戻ってこーい!!」
親父「どうしてセイレーンの聖歌隊に・・・?!」
ノートラッド「♪♪♪」
親父「うらやましいな・・・ お前は母さんのところに行けて・・・」
ノートラッド「♪♪♪」
親父「ごめん・・・な」
セイレーン「ハハハ この調子で全艦撃破といこう」
セイレーン「ともに楽しもう 新たなセイレーンよ」

〇黒
  水底に沈む宝の島には、どんな願いも叶う宝物が眠っている。
  彼女は
  宝物を目覚めさせたのだろうか

コメント

  • 宮廷戦闘楽団とか人形魚雷とかよくそんなエッジの効いたシュールな名称が思いつくなあと感心しきりです。ノートラッドがパイプオルガンを弾いてる姿は想像しただけで美しいなあ。やっぱり歌手よりもオルガニストが似合っていると思います。

  • 大切なものほど忘れてしまっていたり、逆に嫌ってしまっていたり。そして失ったり無くしたり、そうして気づく物もありますよね。美しい話でした。

  • さすが親父が認め託したノートラッドの音楽家としての才能ですね。セイレーンはそれを熟知しているようで、命を奪うどころか自らの美声を彼女に譲るという行為が、また人を惑わすのでしょうね。

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