第1話 ミステリ脳&恋愛脳(脚本)
〇学校の屋上
神崎イチゴ(アタシ、神崎イチゴ(かんざきいちご)。 花も恥じらう高校2年生の女の子☆)
神崎イチゴ(ここは、アタシの通う高校の屋上)
神崎イチゴ「結構穴場で、昼休みでも人がいないの。 静かに少女漫画を読むにはピッタリの場所よ☆」
神崎イチゴ(それに・・・ひとりで屋上にいると、まるで少女漫画のヒロインみたいでしょ?)
神崎イチゴ(ほら、今にもあの扉から、王子様がやってきそうじゃない? まるで少女漫画みたいに・・・)
しかし、屋上の扉はビクともしない。
神崎イチゴ(ほら、今にも・・・)
屋上の扉はビクともしない。
神崎イチゴ「うふふ、そうよね。王子様はいつだってスーパースーパーレア☆ そう簡単には現れないわ」
神崎イチゴ「だけど、いつかきっと、アタシだけの王子様が・・・」
その時、王子様ではなく突風がイチゴに吹き付ける。
そして、イチゴが漫画にはさんでいたしおりを、屋上の隅に飛ばして行った。
神崎イチゴ「もう、イタズラな風さんなんだから」
イチゴが屋上のベンチから腰を上げ、しおりを取りに行こうとした その時・・・
東雲栄「やめろ! お前のトリックは全てお見通しだっ!」
突然屋上のドアが開き、一人の男子生徒が飛び込んできた。
神崎イチゴ(まさか、本当に王子様!? でもトリックって・・・?)
イチゴが首をかしげていると、その男子生徒はイチゴの腰にタックルを決め、そのまま二人はゴロゴロと屋上の床を転がった。
神崎イチゴ「痛っ、いたたたた!? ちょ、ちょっと何するのよっ!?」
東雲栄「屋上から飛び降りて自殺したと見せかけて、実は恋敵から落とされ殺された・・・という設定なんだろう!?」
神崎イチゴ(ど、どういう設定!?)
東雲栄「そして、恋敵に自分を殺したという冤罪をかけ、恋のチャンスから遠のかせる!」
神崎イチゴ(え、冤罪って・・・恋のチャンスどころか平和な社会生活からも遠のいちゃうよ!?)
東雲栄「・・・しかし、自殺のふりで冤罪を成立させるには、死体が必要だな・・・となると・・・」
東雲栄「犯人はお前かー!!」
神崎イチゴ「だ、誰が犯人よっ!」
東雲栄「今まさに屋上のフェンスから飛び降りようとしてたじゃないか!」
神崎イチゴ「と、飛び降りって・・・・・・アタシは、 しおりを取りに行こうとしてただけだよ!」
東雲栄「・・・しおり?」
神崎イチゴ「そうだよ、しおりだよ!」
東雲栄「・・・・・・」
東雲栄「なるほど、飛び降りじゃなかったのか・・・」
東雲栄「・・・と、見せかけて実は自殺を装った完 全犯罪なんだろ?」
神崎イチゴ「ち、違うってば・・・」
東雲栄「そうか・・・」
神崎イチゴ(な、なんでそんなに残念そうなの?)
神崎イチゴ「あ、あの・・・完全犯罪はよく分からないけど・・・自殺、とかのほうが良かった?」
東雲栄「ぎくっ!」
神崎イチゴ「ぎくっ・・・?」
東雲栄「そ、そんなことあるわけがないだろう!? はっはっはっはっは!」
神崎イチゴ「・・・でも、今明らかに動揺してたけど?」
東雲栄「・・・そ、それは!」
神崎イチゴ「・・・・・・」
東雲栄「・・・・・・」
東雲栄「す、すまない・・・。不謹慎とは自覚しているが、ネタになると思ったんだ・・・」
神崎イチゴ「ネタ・・・?」
東雲栄「ああ・・・自己紹介が遅れたな」
東雲栄「俺は2年の東雲栄(しののめさかえ)。一応作家をしている」
神崎イチゴ「ええっ!? 作家さんなの!?」
神崎イチゴ(すごい・・・こんな身近に作家の先生がいるなんて・・・まるで少女漫画みたい!)
神崎イチゴ(それにこの人、よく見るとイケメン!)
神崎イチゴ(もし、この人が恋愛小説の作家先生だったら、この後、アタシをモデルにしたいって申し出があって・・・)
神崎イチゴ(そして、小説のために交流を深めているうちに、いつしか二人は恋に・・・!)
神崎イチゴ(誤解から始まるふたりの運命☆ きゃー! 素敵~!!)
神崎イチゴ(それならアタシ、ネタのために屋上から何度でも飛び降り・・・って、あれ?)
神崎イチゴ(恋愛小説に、屋上から飛び降りる場面って、必要、かしら・・・?)
神崎イチゴ「えっと・・・ちなみにジャンルは何を?」
東雲栄「ミステリーだ」
神崎イチゴ「あ、やっぱり・・・」
東雲栄「・・・何か問題が?」
神崎イチゴ「う、ううん・・・! あ、アタシは2年の神崎イチゴ。よろしくね☆」
東雲栄「イチゴ・・・か。チャーミングな名前だな」
神崎イチゴ「うん。アタシも気に入ってるんだ。 少女漫画のヒロインみたいで・・・って、東雲くん?」
イチゴが自己紹介を終えるやいなや、栄はひとりブツブツと言い始めた。
イチゴが耳を澄まして聞いてみると・・・
東雲栄「放課後の屋上・・・焦燥感から少女は・・・屋上からどのようにして消えるか・・・」
神崎イチゴ(き、消える!?)
東雲栄「トリックは・・・自殺とは思われたくない・・・しかし、それだと・・・」
神崎イチゴ「ちょ、ちょっと東雲くん! だから、自殺じゃないってば!」
東雲栄「はっ! 俺としたことがま、また・・・!!」
東雲栄「そうじゃないっ! そうじゃないんだ!」
神崎イチゴ「・・・!?」
東雲栄「自殺や他殺や冤罪とかそんなドロドロの 人間関係ではなく」
東雲栄「今求められているのはもっとこうキャッキャウフフ☆ な恋愛模様であって・・・!」
東雲栄「しかし、俺は・・・俺は・・・うあああああ!!」
東雲栄「ネタを考えれば考える程、パトカーや救急車が頭の中を通り過ぎていく~!!」
神崎イチゴ(こ、怖っ! なんなのこの人・・・)
神崎イチゴ(と、とりあえずこれ以上は関わらないほうが良さそうね)
イチゴはそっと屋上から逃げ出した。
東雲栄「あれ、神崎・・・?」
一人取り残された栄は屋上を見渡す。
そして、『あるもの』に気が付いた。
東雲栄「ん? これは・・・?」
〇教室
神崎イチゴ(はあ・・・お昼休みは変な人に会っちゃったなあ)
神崎イチゴ「おかげで、漫画も少ししか読めなかったし・・・」
神崎イチゴ(帰ってからゆっくり読も・・・ってあれ? 漫画がないっ・・・!? あれ、昨日買ったばかりなのに!)
神崎イチゴ(もしかして、屋上に忘れてきちゃった!?)
神崎イチゴ(落とし物扱いで職員室かなあ。先生に聞くの、ちょっと恥ずかしいんだよね・・・)
神崎イチゴ(とりあえず、まずは屋上に行って探してみよっと・・・)
〇学校の屋上
イチゴが屋上に続く扉を開けると、夕日を全身に浴びながら、仁王立ちしている人物が待ち構えていた。
神崎イチゴ(へ、変な人がいるっ!! って、東雲くん!?)
神崎イチゴ(どっちにしろ、変でヤバイ人だ!!)
屋上に来たイチゴを見て、栄はニヤリと笑う。
東雲栄「やあ、神崎。これを探しに来たんだろう?」
そう言い、栄は一冊の本を掲げた。
神崎イチゴ「あ、アタシの漫画・・・! ありがとう、東雲くんが持っててくれたんだね」
東雲栄「ふふ、やはり神崎の私物だったんだな」
そう言い、栄はとびきりの笑顔をイチゴに見せる。
神崎イチゴ(えっ・・・!? 何、今の超アルカイック スマイル!! 本物の王子様みたい・・・素敵!)
神崎イチゴ(ただのヤバイ奴かと思ってたけど 本当はいい人なのかも?)
神崎イチゴ「ありがとう、東雲くん」
東雲栄「・・・・・・」
しかし、栄は一向にイチゴの漫画を返してくれるそぶりを見せない。
神崎イチゴ「・・・東雲くん? えっと、漫画、返してくれる・・・?」
東雲栄「・・・これは、人質として預かった」
神崎イチゴ「はあ?」
東雲栄「返して欲しくば、俺に協力するんだな!」
神崎イチゴ「ええっ!? きょ、協力って・・・!?」
東雲栄「俺が恋愛小説を書くために、君に・・・イチゴにぜひ協力して欲しいんだ・・・!」
神崎イチゴ「ええーっ!?」
神崎イチゴ(っていうか、今さりげなく下の名前で呼んだー!!)
いちごちゃん、チョロすぎ!
東雲くん(間違えていたらすみません…)、ヤバすぎ!