10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在日ミグランス人

第12話 黒孩子(脚本)

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〇荒地
アメタ「黒孩子(ヘイハイズ)だ・・・・・・」
  一人っ子政策の犠牲者。
  社会的には存在しないとされている者。
  あらゆる福祉を受けられないなら、犯罪に手を染めるのも無理はない。
アメタ「ムルア! ウリコを頼んだ!」
ムルア「一人で相手する気か!?」
ムルア「相手が何人いるのかもわからないんだぞ」
ムルア「私だって戦える」
アメタ「そうじゃない」
アメタ「ウリコに見せたくないんだ」
  僕が人を殺すところを。
  甘い考えなのはわかっている。
  途上国にはおびただしい数の少年兵がいると知っていながら、自分でも勝手な言い草だと思う。
  でもウリコにはそんな思いはしてほしくない。
  世界で起きている悲劇なんて、知らなくて良い。
アメタ「挨拶代わりにRPGを撃ち込むなんて・・・・・・」
アメタ「おイタが過ぎるぞ! 坊主共!!」

〇荒地
黒孩子「あのおっさん! なんで弾が当たらないんだよ!」
黒孩子「聞いてないよ! こんなの!」
  ARコンタクトが視界を補正してくれる。
  銃口の角度さえわかっていれば、僕に銃は通用しない。
  CQTを修得していれば、この程度の芸当は容易い。
黒孩子「ちっくしょーっ!」
  もう格闘が出来る様な距離だ。
  おまけに隙だらけ。
  これなら外し様がない。
アメタ「・・・・・・!?」
  トリガーが絞れない。
  これまで人を殺した経験がない訳じゃない。
  その中に子供だっていたかも知れない。
  なのに何故?
  ウリコの父親代わりをする様になって、妙な親心でも芽生えたのか。
  何より、少年の眼差しが僕を迷わせていた。
  通常、少年兵は特有の目をしている。所謂死んだ魚の様な目だ。
  しかし目の前の子供達は年相応の、先進国の子供とそう変わらない瞳で僕を見詰めていた。
  どう考えてもおかしい。
  荒んだ生活をしていては、こんな目は出来ない。
ムルア「アメタ! すぐに戻れ!」
ムルア「そっちは陽動だ!」
アメタ「ちっ!」
  成程。目的は誘拐か。
  ターゲットを護衛から引き離して連れ去る。古典的な手段だ。
アメタ「ウリコッ!!」

〇荒地
アメタ「ウリコッ! ムルア!」
ムルア「済まない・・・・・・」
ムルア「ウリコを連れて行かれた・・・・・・」
ムルア「うっ!」
アメタ「撃たれたのか!?」
  出血が酷い。体温も低下している。
  車の中にファーストエイドキットがあった筈だ。
ムルア「何? 白い・・・・・・ 薬?」
アメタ「人工血液だ」
アメタ「簡単に言えば、赤血球の入ったプラスチックだ」
ムルア「プラスチックゥ?」
アメタ「血液型を問わないし、酸素の運搬量も通常の数十倍もある」
ムルア「大丈夫なのかよ・・・・・・」
アメタ「応急処置だよ」
アメタ「病院へ行ったら、弾を摘出して、透析しなくちゃいけない」
ムルア「・・・・・・わかった」
ムルア「それより・・・・・・」
アメタ「大丈夫だ」
アメタ「追跡は出来る」
  トラッキング。
  ネイティブ・アメリカンが広大な草原で獲物を追う為に発展させた技術。
  足跡の大きさ、接地圧、歩幅などから向かった方向などを見定める。
  更にARコンタクトが、足跡をスキャン。赤外線や電磁波をキャッチしてくれる。
アメタ「ムルアは戻った方が良い」
ムルア「嫌だ。私も行く」
ムルア「私が車で帰ったら、お前はどうやって連中を追うんだよ」
ムルア「それとも、私に徒歩で帰れって言うのか?」
アメタ「仕方ないな・・・・・・」
ムルア「腕は動くんだ。援護くらいはしてやる!」

〇寂れた村
ムルア「ここ?」
アメタ「間違いない。小さな気配がうじゃうじゃしている」
  更に臭いが鼻をついた。
  何かが腐っていく臭い。
  文明レベルの低い、生活の臭いだ。
アメタ「ウリコを返してもらおうかっ!!」
「・・・・・・」
黒孩子「お前はだれだ?」
アメタ「FAO食糧監察官、アメタ・オオゲツだ」
黒孩子「わるいやつか?」
アメタ「悪くない奴だ」
  かといって良い奴でもないが。
アメタ「娘を返してくれ」
アメタ「君達と喧嘩をしに来たんじゃない」
黒孩子「じゃあ、何をしに来たんだ」
アメタ「人を探している」
アメタ「ハイヌヴェレという人だ」
黒孩子「ハイヌ先生を?」
アメタ「知ってるのか?」
黒孩子「先生は言ってた」
黒孩子「ここに来る大人は、みんなわるいやつだって」
  ウリコの命。
  ハイヌヴェレ博士の情報。
  手負いのムルア。
  流石に戦う訳にはいかなかった。

〇村の広場

〇荒廃した教会
「・・・・・・」
ムルア「どうなってるんだ?」
アメタ「僕に聞かれてもな・・・・・・」
  縛られて監禁される事、数時間。
  僕を監視していたのは、ウリコと同じくらいの年端もいかない女の子だけだった。
  とてもじゃないが見張りが務まるとは思えない。
  大人の姿は確認出来ない。
  幼児化してしまったのか。
  それとも初めからいないのか。
ムルア「腹でも減ったのかな?」
アメタ「縄、解けるか?」
ムルア「ああ」
  所詮、子供のやる事などこの程度だ。
アメタ「良し。先ずは武器の確保だ」
アメタ「次にウリコを探して脱出する」
ムルア「博士の居場所は聞かなくて良いのか?」
アメタ「余裕があれば、な」
ムルア「・・・・・・」
ムルア「どうでも良いけど、さっきからこの音何なんだ?」
アメタ「知らないよ」
アメタ「煙突か何かの音だろ?」
アメタ「今はどうでも良い」

〇村の広場
  行動は隠密で。
  歩く時は足音を立てない様に。
  踵からつま先をゆっくり着け、体重を移動させる。
  ストーキング移動だ。
  武器はすぐ見つかった。
  僕の持ってきたライフルが、弾も抜かずに放置されていた。
ムルア「見張りもいないな・・・・・・」
ムルア「警戒もへったくれもない」
ムルア「アメタ、あれ・・・・・・」
  ウリコだ。
  拘束はされていない。怪我もない様だ。
  先ずは一安心。
アメタ「何をやっているんだ?」
ムルア「遺体?」
ムルア「穴を掘ってる・・・・・・」
アメタ「土葬か?」
  丁重に埋めるのかと思いきや、
  少年は無造作に遺体を墓穴へと蹴り入れてしまった。
「ええっ!?」
ムルア「そんな埋葬の仕方があるかぁっ!!」
アメタ「ムルア?」
ムルア「可哀想だろう!」
ムルア「友達じゃなかったのかっ!?」
  子供達は唖然としていた。
  何故怒られているのか、わからない様子だった。
  やれやれ。
  もう隠れる必要もないだろう。
  銃もあるし問題ない。
ウリコ「おじさん!」
アメタ「もう大丈夫だ」
  駆け寄ってくるウリコを抱き寄せて、頭を撫でる。
  何だか物凄く愛おしい。
  父親ってのはこんな気分なんだろうか。
アメタ「怖くなかったか?」
ウリコ「うん。だいじょうぶだよ」
  僕の心配をよそに随分あっけらかんとしている。
  流石ウカの娘。まったく動じていない。
アメタ「怪我はしてないか?」
ウリコ「おじさん、しんぱいしすぎ」
  別に過保護じゃないよな?
  見知らぬ土地で突然襲撃を受けて、
  誘拐までされたら誰だって心配する。
  親の心子知らず。
ウリコ「みんな、さみしかっただけだよ」
ウリコ「友だちがほしかったの」
アメタ「友だち?」
ムルア「アメタ! 手伝ってくれ」
ムルア「花を探したい」
ムルア「こいつらに葬式を教えてやる!」
  何だか妙な事になってきたな。

〇村の広場
  という訳で・・・・・・
  僕はついさっきまで殺し合いを演じていた子供達に混じって、花を探す事になった。
  まったく自然はどこまでも力強い。
  土壌汚染の進んでいない土地ではしっかり生命が育まれている。
ムルア「いいか? これがお葬式」
ムルア「ちゃんとしてあげないと、死んだ人は天国に行けないんだ」
  流石少年兵ばかりのARFを束ねていただけの事はある。
  この短時間の間にも、子供達はすっかりムルアに懐いていた。
  僕だけだったら、どうなっていた事か。
  考えただけでもぞっとする。
アメタ「・・・・・・」
  葬儀か。
  そう言えば、母さんは無事に天国へ行けただろうか。
  日本で葬儀屋の人が言っていた。
  葬式というのは、屍者の為ではなく、遺された者の為に行うものなのだと。
  こうして平静に母さんを思い出すのも、心の整理が出来たからなのだろうか。

次のエピソード:第13話 ナノマシン

コメント

  • よよよかった、少年たち殺されなくて良かった😭✨️
    戦闘シーンすごくカッコいいし、ムルアちゃん素敵だし、ウリコ可愛いし、少年たちとの不思議な絆ができる過程までことごとく最高でした!💕アニメで見てみたい……!

  • 葬儀の仕方を教えるムルアの母性がいいですね。
    謎の音に、大人を排除するよう伝えたハイヌ先生とは一体……?

  • ウリコちゃん😭
    緊張感溢れる戦闘からのほのぼのした結末良かったです
    (前回の残酷な展開も良かったですが)
    ARコンタクトも格好いい。使ってみたい。

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