後は野となれ 花となれ

もと

眠れる内に眠れ(脚本)

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〇霧の立ち込める森
リュート「・・・寝ろ」
ワイズ「ばっぷ」
リュート「・・・」
リュート「お前もそんな体に生まれて災難だな 一世代でも前なら優雅に暮らせただろうに」
ワイズ「まむ」
リュート「・・・這いずり方を教わってしまったのか」
ワイズ「あぶー」
リュート「来るな、近寄るな、黙って寝ろ」
ワイズ「うくー」
リュート「やはり森に巣食っていたか」
リュート「魔物がうろつき始めたな マズいヤツが寄って来るぞ」
リュート「ワイズ、魔力だけ貸せ 少しで良いからな、ぶっ放すなよ? また見つかるぞ?」
ワイズ「むんっ」
リュート「・・・うむ」
リュート「もっと少なくて良い 俺の体が爆発してしまう」
ワイズ「だぶ」
リュート「・・・今の魔物も 元は人間かも知れないのか・・・」
リュート「趣味が悪いな、まったく」
ワイズ「ばぶ?」
リュート「・・・まさか今さら役に立つとは 親も師匠も腰を抜かすだろうな」
リュート「こら、紙に乗るな、触るな」
ワイズ「あぶ?」
リュート「姿を消す魔方陣だ 術をかけ続けても良いが お前の力は不安定だ」
リュート「魔方陣ならば破かれたり燃やされるまで 効果は消えない」
リュート「俺も魔方陣の一つや二つぐらいは描けるが 魔力が足りなくて発動出来なかった」
リュート「・・・よし ワイズ、杖を握れ」
ワイズ「むう」
リュート「よし、貸せ」
リュート「後二枚作るぞ」
ワイズ「むんまー」
リュート「楽しいのか? おかしなヤツだな」
ワイズ「うばー」
リュート「明日から数日は森に紛れて歩くぞ 終わったら寝ろよ」
ワイズ「ぶー」
リュート「唾を飛ばすな、きたな・・・ワイズ? お前、歯が、下の歯が見えるぞ?」
リュート「乳を飲ませるロゼが一番に気付くはずだ 何も言って無かったじゃないか」
リュート「凄いな? 数時間で生えたのか? 歯が? まったく赤子の成長とは恐ろしいな?」
ワイズ「ぶー?」
リュート「良かったな」
ワイズ「あぶ?!」
リュート「・・・まあ俺には関係無い ほら、続きを作るぞ」

〇薄暗い谷底
ロゼ「すごーい! 昼なのに暗いですよ!」
ワイズ「あっぶー!」
リュート「はいはい」
ロゼ「下って行くんですよね!」
リュート「そうだ、地図通りなら この谷と森を抜ければ村があるはずだが」
ロゼ「ワイズちゃん! 村ですって!」
ワイズ「あば!」
リュート「はいはい、今日中に抜けられたら奇跡だ かなり歩くぞ」
ロゼ「あると良いね、村!」
ワイズ「んば!」

〇山中の川
ロゼ「きゃ?!」
リュート「大丈夫か? 掴まれ」
ロゼ「はい! 大丈夫です! ワイズちゃんを抱っこしてないと バランスが取れなくなったみたいです!」
リュート「なんだそれは」
ロゼ「あ、コケたらご飯の支度ですね! 私が言い出したのに私ばっかりです!」
リュート「撤回するか?」
ロゼ「いいえ! 女に二言はありません!」
リュート「・・・」
ロゼ「あ、笑いました? なんか悔しいです!」
リュート「・・・いや、そうやって色々と 仕事をしようとしてくれるのは嬉しいが」
リュート「無理をすると続かないぞ 歩き始めて半月、 今が一番疲れているのではないか?」
ロゼ「はい、疲れてます!」
リュート「無駄に元気じゃないか」
リュート「うむ・・・げ、元気だな・・・」
リュート「・・・フフッ」
リュート「今夜寝床を決めたら明日は一日、休むか」
ロゼ「あはは、はい! うふふ!」
リュート「そんなに嬉しいのか もっと早く言ってやれば良かったな」
ロゼ「いえいえ! うふふ!」
リュート「・・・」

〇大樹の下
ロゼ「今日はお休みですよ もう少し眠ってもらいましょう」
ワイズ「ばぶ」
ロゼ「探検でもしましょうか、二人で」
ワイズ「あぶ」
ロゼ「うふふ」

〇大樹の下
リュート「・・・?! ワイズ? ロゼ?」
リュート「・・・なんだ、外で遊んでいるのか」
リュート「・・・まったく、起こせば良いものを」
リュート「・・・まったく」
リュート「雲が出て来てるな・・・呼びに行くか」

〇菜の花畑
  神や天使に用は無い。
  向こうも俺なぞに構う暇は無いはずだ。
  ・・・。
  曇天の花畑の中で高く掲げられるワイズ、
  その手を離しては抱き止めるロゼ、
  響く二人の笑い声は、まるで・・・。

〇菜の花畑
リュート「雨が降りそうだ 戻るぞ」
リュート「・・・?」
リュート「・・・!」
ロゼ「はーい、どーん!」
ワイズ「きゃー!」
リュート「投げるな、人間を投げるな、投げるな!」
ロゼ「はい、ごめんなさい!」
ワイズ「うきゃきゃきゃきゃ!」
リュート「なんだ、降って来てしまったか・・・」

〇菜の花畑
リュート「行くぞ?」
ロゼ「はい! どんと来いです!」
ワイズ「きゃー!」
ロゼ「あはは! ようこそワイズちゃん! じゃあ行きますね!」
ロゼ「えい!」
ワイズ「きゃー!」
リュート「よし」
リュート「まったく・・・ 投げられて何が楽しいのか・・・ 危ないではないか・・・ふん!」
ワイズ「きゃー!」
ロゼ「はい! どんと来た!」
  ロゼとたった一歩離れて
  ワイズを投げるように渡し合う。
  一瞬離れる手が楽しいのか?
  まだやらせていないが、ワイズならば
  一人で浮いたりも出来るだろう。
  ・・・まったく・・・楽しいやつらだ。

〇大樹の下
ロゼ「もうコテンと寝ちゃいましたね?」
リュート「ああ、だろうな ロゼも寝ておくと良い、明日からまた歩く」
ロゼ「はい、じゃあ横になります」
リュート「・・・」
ロゼ「・・・」
リュート「・・・なんだ?」
ロゼ「何を考えていますか?」
リュート「・・・この魔方陣は雨も防げて便利だと」
ロゼ「他には?」
リュート「明日からの進路 村で入手しておくべき物 遅くとも半月程で王都に着く、と」
ロゼ「後は?」
リュート「ワイズが目覚ましく成長している 服や玩具も要るかと 読み書きも学ばせなくては」
ロゼ「うふふ、読み書きは早過ぎません?」
リュート「・・・そうか?」
ロゼ「他には・・・」
ロゼ「私達をどうするか、みたいな事ですか?」
リュート「・・・」
リュート「・・・無事に旦那の元へ届けてやる 心配するな」
リュート「ああ、そういえば」
ロゼ「はい?」
リュート「この魔方陣に手を乗せて 旦那の顔を思い浮かべてくれ」
ロゼ「はい」
ロゼ「わあ・・・わ、すごい?!」
リュート「これが旦那か?」
ロゼ「・・・はい、夫です、ユーリです・・・」
リュート「・・・覚えた」
ロゼ「あの、これ頂いても?」
リュート「良いが、子供の頃に習った術だからな 何かの拍子に消えるかも知れない」
ロゼ「それでも・・・ありがとうございます」
リュート「ワイズが起きたら見せてやってくれ どこまで理解しているのか分からないが 損は無いだろう」
ロゼ「・・・はい」
リュート「なぜ娼婦のフリを?」
ロゼ「・・・」
リュート「女からの妬み嫉みを反らすには 女が下に見る場所にまで 落ちる必要があったのか?」
ロゼ「宿屋のデニーは私達の兄の様な人です 私とユーリが小さな頃から 可愛がってくれて」
ロゼ「ユーリが居なくなってすぐに 娼館に住まわせてくれました」
ロゼ「残った人間は洗礼を受けていた人達だけ、 だからとても貴重だと言いながら」
ロゼ「魔物に変わった人達も私を貴重だと 言いながら、色々あったから 守ってくれたんです」
リュート「アイツ、ずいぶん良い奴だったのか」
ロゼ「・・・良い人と、悪い人が・・・」
ロゼ「・・・いました・・・」
リュート「・・・」
  ごく自然に聞き出せて良かった。
  ロゼの話は全て書き残すつもりだった。
  どういう状況で夫ユーリに引き渡すか
  想像もつかない。ただ・・・
  いつか町に戻った時に揉めて欲しくない。
  手紙として書いておけばロゼの身の潔白を
  証明しやすくなるかも知れない。
  いつか二人で町に戻れば噂も出るだろう。
  無駄なすれ違い、誤解、そんな物に割く
  時間がもったいないではないか。
  ・・・荷物も分けておくか。
  『こんな事もあろうかと』に過ぎる事は
  無いと思っている。
  国の術師だろうと誰であろうと
  出し抜ける程に策を仕込んでやる・・・。
  ・・・守ってやろうじゃないか。

次のエピソード:会える内に会え

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