そして私たちは大海に漕ぎ出す

光章生

第2話(脚本)

そして私たちは大海に漕ぎ出す

光章生

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〇テーブル席
愛城しずく「ちょっといいですか?」
姫野「な、誰だ君は?」
愛城しずく「経理部の愛城です 他部署なのでご存じないかもしれませんが」
姫野「あぁ、経理部の子か で、何の用だい?」
愛城しずく「姫野さんも野々原さんも好意で相原さんに結婚を勧めていたようですがそれは立派なマリハラです」
野々原「マリ・・・ハラ?」
愛城しずく「マリッジハラスメント 本人にその気がないのに早く結婚しろなどと強要するハラスメントです」
愛城しずく「それに無理矢理男性を紹介しようとするのもパワハラに当たると思います」
姫野「そうだったのか 知ってた、野々原さん?」
野々原「いえ、そんなことにも何々ハラスメントっていうのが最近沢山あるのは知っていましたが・・・」
姫野「ゴメンね愛川さん ハラスメントするつもりはなかったんだ」
愛川菜々美「い、いえ お二人が嫌がらせをしているつもりがないのは分かってはいましたので」
姫野「教えてくれてありがとう愛城さん 危うく嫌われる上司になっちゃうところだったよ」
愛城しずく「い、いえ とんでもないです」
愛川菜々美(愛城さんって・・・ほとんど話したこともなかったよな どうして私を?)

〇テーブル席
志保見優香「ちょ、しずくやるじゃ~ん おじさん達にあんなズバっと言っちゃうなんて」
愛城しずく「えへへ、ありがと」
立花香里「ちょっと優香 あんまり大声で話すと向こうに聞こえちゃうよ」
志保見優香「あぁ、そっか ごめんごめん」
立花香里「でもちょっと驚いた 大人しいしずくがあんなに前に出ていくなんて」
志保見優香「あたしらが思ってたよりおじさん連中に我慢ならなかった感じ?」
愛城しずく「いやー何か気づいたら向こうに行っちゃってて・・・」
志保見優香「わーお」
立花香里「もしかして愛川さんが好きだからじゃないの?」
愛城しずく「え?」
志保見優香「あー、愛川さんクールビューティーって感じだからね 女でも惚れちゃうかも」
立花香里「なんてね、ふふっ しずくはそっちのけはないもんね」
愛城しずく「あ、う、うん」

〇オフィスの廊下
  その日の午後
愛城しずく(いつもの私なら絶対あんなことしなかった 愛川さんが、どこか私に似ているところがあったから?)
愛川菜々美「あっ」
愛城しずく「愛川さん」
愛川菜々美「先ほどはありがとうございました」
愛城しずく「いえ、いきなり割り込んでしまってすみませんでした あの後、何もありませんでしたか?」
愛川菜々美「いえ、二人とも本当に無自覚だったようで 戻るまでずっと謝られてました」
愛城しずく「そうだったんですね それを聞いて一安心しました」
愛川菜々美「でも今まであんまり話したこともないのにどうして・・・?」
愛川菜々美「あ、いや、好意で助けてくださったのにこんな失礼なこと」
愛城しずく「いえ、自分でもちょっと不思議で」
愛城しずく「でも、理由は分かってるんです 私も恋ってずっとしてなくて・・・自分と愛川さんを勝手に重ねて感情移入してたんだと思います」
愛城しずく「あ、やだ 私何言ってんだろ 愛川さんはあの時マリハラされたくなくて嘘吐いたんですよね なのに私勝手に──」
愛川菜々美「嘘じゃありません」
愛城しずく「え?」
愛川菜々美「私、恋ってしたことないんです 告白は何度もされたことがあるんですが人を好きになるって感情が分からなくて・・・」
愛城しずく「そう・・・なんですか?」
愛川菜々美「ええ、愛城さんも、そうなんですか?」
愛城しずく「いえ、私は恋するのが怖くて・・・ もう長いことしてません」
愛川菜々美「怖い・・・怖くなるものなんですか、恋って?」
愛城しずく「はい、人によっては」
志保見優香「お、しずく 愛川さんと話してたの?」
愛城しずく「あ、うん じゃあ愛川さん また・・・」
志保見優香「あ、ごめん 邪魔しちゃった感じ?」
愛川菜々美「いいえ、そんなことないです」
志保見優香「そっか 行こうしずく、会議の時間だよ」
愛城しずく「あ、うん」
愛川菜々美「やっぱりおかしいのかな 私って・・・」
愛川菜々美(またお母さんからか・・・)
愛川菜々美「もしもし どうしたの?」

〇開けた交差点
愛城しずく(ふー なんだか今日は疲れちゃったな)
愛城しずく(私にあんな一面があるだなんて自分でもビックリ 愛川さん、私に似てるかもって思ったけど)

〇オフィスの廊下
愛川菜々美「私、恋ってしたことないんです 告白は何度もされたことがあるんですが人を好きになるって感情が分からなくて・・・」

〇開けた交差点
愛城しずく(恋する気持ちが分からないせいで、きっと、私なんかより恋について色々苦労してきたんだろうな)
愛川菜々美「愛城さん」
愛城しずく「愛川さん 帰り道、一緒だったんですね」
愛川菜々美「そうみたいですね 今まで殆ど接点がなかったから気づかなかっただけかも」
愛川菜々美「廊下での話、すみません 変なことを言ってしまって」
愛城しずく「そんな 変だなんて、思ってないですよ」
愛川菜々美「いえ、わかってるんです いい歳したおばさんが恋愛経験一つないだなんて異常だって・・・」
愛城しずく「そ、そんなことは・・・」
愛川菜々美「あ、すみません また困らせてしまいましたね」
愛川菜々美「ごめんなさい、私、愛城さんなら私を分かってくれるかもって、勝手に心を開いていたみたいで・・・」
愛川菜々美「ほぼ喋ったことすらなかったのに、失礼なことを」
愛城しずく「いえ、私が踏み込んだ話をしてしまったせいもあるかと思いますので・・・」
愛川菜々美「そんな、私の方こそ──」
愛川菜々美「あれ・・・?」
愛城しずく「愛川さん!?」
愛川菜々美「ち、違うんです これは、なんでもなくて・・・」
愛城しずく「いや、そんなわけないじゃないですか! 具合が悪いんですか? すぐ病院に──」
愛川菜々美「いえ、体の不調ではないんです ただ、ええと・・・どうして? 私、何で急に涙なんか・・・」
愛川菜々美「ゴメンなさい愛城さん、困らせてしまって すぐに帰りますから気にしないで」
愛城しずく(まさか・・・私のせい?)
愛川菜々美「では、また会社で」
愛城しずく(私のせいだ・・・ 気づいてなかったけど、愛川さんの心の深いところに入っちゃってた)
愛城しずく(このまま愛川さんを帰らせたら 私、愛川さんの心を傷つけたままにしちゃう)
愛城しずく(なんとか、なんとかしないと・・・)
愛城しずく「わ、私! 女の人が好きなんです!」
愛川菜々美「え?」

次のエピソード:第3話

コメント

  • おじさん2人へのマリハラ指摘シーン、ヒト騒動あるかもとドキドキしたのですが、平穏に収束して一安心です。恋愛に関して悩みや葛藤を抱く2人の出会いから、物語がどう進んでいくのかワクワクです!

  • 百合のカミングアウト、本当に勇気のいる行動だったのでしょうね😌
    2人の今後の関係性、展開に期待しております🙌

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