話せる内に話せ(脚本)
〇けもの道
ロゼ「さっきのお洋服を乾かす術は 簡単なのですか?」
リュート「子供のうち、初歩の初歩ぐらいに習う 魔力に渦を巻かせただけだ」
ロゼ「お水をああいう風にグルグルしたりも 出来ますか?」
リュート「水? 出来ると思うが?」
ロゼ「お洗濯に使えそうですね!」
リュート「洗濯? ・・・ああ、渦に服を入れるのか」
リュート「いつでもやれる 使いたい時に呼んでくれ」
ロゼ「わあ、嬉しい!」
ロゼ「あ、あれは?!」
リュート「まったく本当に忙しない・・・」
ロゼ「リュートさん!」
リュート「はいはい」
ロゼ「ヒヅメの足跡です! この深さなら体重もありますね、 シカやイノシンでは無さそう!」
ロゼ「野生のロバとか馬じゃないでしょうか?!」
リュート「ああ・・・」
ワイズ「うぎゃー!」
ロゼ「え?! どうしたの、ワイズちゃん?!」
リュート「何故だか馬が苦手らしい」
ロゼ「馬が分かるの?!」
リュート「馬そのものが嫌いなのか 言葉の響きが不愉快なのかは分からない」
リュート「まあ言葉が分かる訳も無さそうだから 何か・・・うるさいな?」
ロゼ「ええっと、どうしましょう?!」
ロゼ「えっと・・・あ!」
リュート「何か甘い物でもやるか 果汁を詰めてくれたと言っていただろう」
ロゼ「よいしょ」
ロゼ「はいどうぞ」
リュート「・・・乳をやるなら少し隠れようとか 隠すとか恥じらいは無いのか」
ロゼ「あ、じゃあマントでこう・・・ はい、出来ました!」
リュート「・・・」
リュート「・・・そうか」
リュート「・・・昼休憩にでもするか」
〇森の中
ロゼ「・・・?」
リュート「どうした?」
ロゼ「(馬)が気になります (うまうまうま・・・)」
リュート「・・・そうか」
リュート「静かな内に少し移動するか 次は俺が抱く」
ロゼ「あ、大丈夫ですよ、私が・・・」
リュート「交代にしよう、ワイズは重い いきなり張り切ると腰や肩をやられそうだ」
ロゼ「・・・はい、分かりました! ありがとうございます!」
リュート「・・・うむ」
ロゼ「うふふ」
リュート「・・・なんだ?」
ロゼ「良い『お父さん』ですね」
リュート「やめてくれ」
〇けもの道
ロゼ「(・・・うまままま・・・)」
ロゼ「・・・」
ロゼ「・・・ワイズちゃんを見付けた時、 ご両親らしき方がいたのですよね?」
リュート「ああ、そういえば」
リュート「これを揃いで身に着けていたようだった」
ロゼ「・・・これは」
リュート「骨しか残っていなかった 唯一の手がかりになるかと・・・」
リュート「まさか知っているのか?」
ロゼ「これ、私の夫も持ってました 真ん中の宝石は術師の属性です」
リュート「なに?」
ロゼ「夫は『風』だったので緑色の石でしたが これは黒・・・?」
リュート「色か・・・術師の習わしで黒は『無』、 何の属性も無い、故に何でも出来る という色だが」
リュート「そんな者達が両親だと? しかも軍属の術師か?」
ロゼ「・・・もしかして」
リュート「俺が見付けた時点でワイズは 既に拐われていたのかも知れないな」
リュート「それを知らずにあの子供の術師が 焼き払ってしまったのではないか」
ロゼ「だからあんなに追いかけてみたり 無かった事にしたがったり?」
リュート「ああ、聞き出せないから推測でしかないが 軍は馬を使っているしな」
ロゼ「馬で怖い思いでもしたんですかね? 可哀想に・・・」
リュート「・・・まあ、だとしてもこの呑気さだ 拐かした術師も情が移って ワイズを隠したのかも知れない」
ロゼ「うふふ」
リュート「何がおかしい?」
ロゼ「かどわかした術師『も』情が移って? うふふ」
リュート「・・・いや・・・」
ロゼ「うふふ」
リュート「・・・茶化してくれるな・・・」
〇霧の立ち込める森
ロゼ「日が傾いて来ましたね! 霧も出て来ましたね!」
リュート「楽しそうだな?」
リュート「村や町に入るまでは野宿になるぞ 本当に大丈夫なのか?」
ロゼ「はい! してみたかったんです、野宿!」
リュート「・・・そうか」
ロゼ「リュートさんは慣れているんですか?」
リュート「そうだな、定住したとしても数ヶ月だ それ以外は宿を取ったり野宿だった」
ロゼ「・・・えっと・・・」
リュート「別に聞きたい事があるなら聞けば良い なんだ?」
ロゼ「ご両親は? リュートさんのご家族は? お子さんは? 出身は? お年はいくつ?」
リュート「・・・」
リュート「・・・両親は十歳の時に揃って死んだ 俺は独身だ、家族は居ないし作る気も無い」
リュート「出身は北のサリーノという小さな国だ 年は途中から数えていない 四十はとうに越えたと思う」
ロゼ「・・・ごめんなさい 言い辛い事を聞いてしまった気がします」
リュート「いや別に、何とも無い」
ロゼ「・・・」
リュート「・・・定住しないのは盗賊だからだ」
リュート「最初は洞窟の財宝や遺跡から、たまには 他の盗賊の物を失敬したりしていたが」
リュート「軍が動き出してからは その後を追って滅びた村や町から 食べて行けるだけの稼ぎを盗っていた」
ロゼ「・・・それは五年程前から?」
リュート「それぐらいだったか」
ロゼ「夫は五年前には精度不足と若いからとかで 選ばれなかったんです」
ロゼ「それが町に軍が来て人間を魔物に変えて 逃れるすべを持った術師は 根こそぎ連れて行きました」
ロゼ「夫も私と自分を守って召し上げられました」
リュート「術師が足りなくなるのは当然だ 抵抗する者もいるのだから・・・」
ワイズ「だぶ」
ロゼ「あ、大丈夫よ? 怖い顔してたかな? ワイズちゃんは心配しないで?」
ロゼ「さあ、野宿よ! たき火よ! お肉を焼きましょう!」
リュート「・・・」
・・・俺が見て来た事と聞いた話で
何もかもが繋がって来たような・・・。
・・・そうか。
これは生きて帰れないな。
帰る場所も無くて良かったと言うべきか。
ならばもう考える事は一つだ。
・・・この二人を、どうするか・・・。