行けるなら行け(脚本)
〇屋敷の牢屋
よく飽きないな・・・。
日が暮れてから目覚めた
ワイズの相手をしてくれている。
・・・ずいぶんと懐いているしな。
悪い人間では無いのだろう。
ロゼ「ワイズちゃんは半年ぐらいですか? もう少し、四、五ヶ月ぐらいでしょうか?」
リュート「・・・分からない どれぐらいに見える?」
ロゼ「・・・え?」
リュート「仕事の最中に拾っただけだ 俺の子では無い」
ロゼ「・・・」
リュート「見ての通り器量が良い 王都で貴族に譲れば小遣い稼ぎになる」
ロゼ「・・・」
リュート「・・・と、思っていたが」
リュート「気が変わった所だ」
リュート「俺の利益の為に拾ってしまったんだ 適度に、まあ、そこそこに幸せな人生を 歩ませ・・・」
リュート「・・・なんだ?」
ロゼ「リュートさんは良い人ですね!」
リュート「今の話をどう聞いていたら良い人という 結論に辿り着くのか分からないが」
リュート「町で話した事に、ほぼ真実は無い ワイズという名前すらその場の思い付きだ」
リュート「あの町でも良い買い手が付けば 置いて行くつもりだった」
リュート「乳を飲ませろ、世話をしろ こんな横暴な仕事をよく引き受けたな?」
ロゼ「それは運命かなって思いまして!」
リュート「・・・なんというか、前向きだな」
ロゼ「はい! 足が遅くて能天気で頑丈だと言われて 育ちました!」
リュート「そうか・・・」
リュート「その・・・足が遅くて能天気で頑丈な お嬢さんの目的は何だ?」
ロゼ「私は夫との子供を無事に産めませんでした」
ロゼ「町中の皆が待ってくれてたのは本当です でも、良くないと思った人達も やっぱり居るんです」
ロゼ「気を付けてはいたんですけど、 お水に細工されちゃうのは 逃れられませんでした!」
リュート「・・・自分達が掴めなくなった幸せを 他の者が受けるのが許せないと」
リュート「そんな事を思う人間が居たのか、あの町に」
ロゼ「はい、魔物にされてしまった若い娘達の やった事だろうと」
ロゼ「でも証拠も無くて、仕方なかったんです だから・・・」
ロゼ「夫に謝りに、もう一度子供を授かりに、 王都へ行く旅人さんにご一緒しようかと 思いまして!」
リュート「夫が王都にいるのは確実か?」
ロゼ「はい! 子供が出来たと分かった後に 術師として召し上げられまして」
ロゼ「城下の宿舎にいると手紙が届きました それを頼りに訪ねてみようかと思ってます」
ロゼ「訪ねても居なければ宿舎の近くで待ちます お金もお洋服も準備してきました」
リュート「・・・そうか」
ロゼ「でも、事情が変わったのも分かってます」
ロゼ「術師が悪い事をして歩いてるのも 聞いています それに・・・」
ロゼ「ワイズちゃんは王都に近付けては いけないんですよね?」
リュート「・・・ううむ・・・ 少し考える時間を・・・」
ロゼ「大丈夫です!」
ロゼ「一緒に行きます! だってワイズちゃんはまだこんなに 手がかかります!」
ロゼ「私に子育ての練習をさせて下さい! 人の子で何を言うかと思われるかもですが やらせて下さい!」
ロゼ「普通にご飯を食べて、お着替えや 日常の生活に困らなくなるまで やらせて下さい!」
ロゼ「それが終わったら私は一人で 王都に向かいます!」
リュート「ううむ?」
ロゼ「元々、体調が戻ったら旅立とうと 決めてました! だから・・・」
ロゼ「ご一緒させて下さい、お願いします!」
リュート「・・・ううむ」
ワイズ「あぶ・・・」
ロゼ「・・・うふふ、大人の話が分かるみたい」
リュート「・・・分かっているかも知れない 相づちが偶然合っているだけかも知れない」
ロゼ「あ、やっぱり? 偶然じゃないかもですよ、お二人は 本当に会話をしてるみたいです」
リュート「・・・そうか」
ロゼ「ワイズちゃん、 そのまま手足にギューッて力を入れて?」
ロゼ「私の手に届いたら抱っこをしましょう ほら、もうちょっと」
ロゼ「進むんです、前へ 出来そう、出来ますよ」
ロゼ「頑張って! ここまで・・・おいで!」
ロゼ「・・・もうちょっとです! ・・・顔を、上げて下さい!」
リュート「・・・灯りを足そうか 取って来る」
ロゼ「はい! すみません、お願いします!」
〇森の中の小屋
・・・思い出させてしまったか。
やはり俺は酷い事にロゼを
巻き込んでしまったのだろう。
だがあれは強情だ。
数時間共にしただけで分かる、
あれはとんでもなく強い女だ。
説得、同行、黙って置いて行くか・・・?
それは俺が生き延びる為にか?
俺だけがワイズを利用する為に?
何を意味に、
何の為に、
俺は何をしようとしているんだ?
・・・。
リュート「・・・ほう?」
特に何も指示もしていないが
外から見れば灯りの一筋も漏れていない。
俺の力ではあの中に人が居るかどうかすら
分からない、
見事に気配を消せている。
天才か化け物か、
天使か悪魔か、
ただの・・・まあいいか。
・・・後は野となれ山となれ、
俺は決めたぞ。
〇森の中の小屋
リュート「いいか、ワイズ? お前が使ったクソをどこかに飛ばす術だ あれを今一度やってみて欲しい」
ワイズ「あっぶー」
ロゼ「(・・・くそ? 飛ばす?)」
ロゼ「あの、術を使ったりしたら 危なくはないですか?」
リュート「軽く試すだけだ そんなに大量の魔力を使う術でもない」
リュート「町にいた者達の魔力ぐらいで済む」
ロゼ「なるほど」
リュート「だが、本当は難しい 何かしらの属性を高める過程で 出来る様になる筈の術だ」
リュート「偶然か、偶然では無いのか確かめたい」
ワイズ「んばっ!」
ロゼ「え、そんな急に?!」
〇山中の滝
ロゼ「わ?! ワイズちゃん?!」
ワイズ「だ!」
リュート「・・・」
リュート「・・・まず」
リュート「俺の腕からロゼの腕へ移る意味は?」
ワイズ「あぶっ」
リュート「そしてお前達二人は岸にいる 俺だけ川の中に落ちた意味は?」
ワイズ「あむっ」
ロゼ「うふふ」
リュート「・・・まあいい ここは昨日休んだ川か」
リュート「出来るは出来るが正確では無い、 使えないな」
リュート「真面目に歩くか」
ロゼ「はい!」
リュート「王都へ向かう」
ロゼ「ええ?! それは私のせいですか?! そうですよね?!」
リュート「違う、俺はそんなに善人ではない 理由は・・・」
リュート「暇だからだ」
「・・・」
「・・・」
ロゼ「(もしかして、これは冗談を言って フザケてらっしゃるのでは?)」
ワイズ「(あっぷ)」
ロゼ「あはは、面白いですね」
ワイズ「あばぶ」
リュート「うむ、行くぞ」
冗談でもフザケている訳でもない。
ただ単純に・・・。
ロゼ「私の抱っこでも構いませんか?」
ワイズ「ぶ」
生きてきた意味を
持ってみたくなっただけだ。
ロゼ「まあ元気だこと」
ワイズ「んば」
このまま老いて、その辺で
野垂れ死ぬだけだと思っていた。
それでも・・・。
・・・俺が死んだ後、たまに思い出して
貰うような人生も悪くない気がする。