罪  恋―TSUMIKOI―

望月麻衣

エピソード7 壊れたオモチャⅡ(脚本)

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〇空
  今日の客は、男だった。
「ああ、久弥、綺麗だよ」
  耳元で囁かれるいつもの美辞麗句も、自分にとってはテレビから流れる音声となんら変わりないくらいに右から左へと流れる。
  家に帰れば妻も子供もいて、社会的地位もあるこの男の本性は、十代の少年の身体をむさぼりたくて仕方がない隠れ同性愛者。
  世間が思うよりも、こういう人間はゴマンといる。

〇空
  家でごく普通の良き夫であり、優しい父親の仮面をつけながら、
  本性を隠している人種は世間一般の人が想像するよりも遥かに多い。
  男は女よりも、自分の性癖を抑え込むことができない。
  金のあるものは、こうして金銭を介して隠れて欲求を満たし、そうできない者は犯罪にまで走ってしまうのかもしれない。
  そう思うと、哀れに思える。
  時に女を抱き、時に男に抱かれ、
  
  
  必要とあれば男を抱く。
  どの行為も自分にとっては大差はない。
  
  
  すべて同じ客だ。
  もう何もかもに慣れすぎたのかもしれない。

〇洋館の廊下
  仕事を終えて、そっと部屋を出てホテルの通路を歩いていると、同じ年頃の美女とすれ違った。
「あっ、 お疲れ、久弥」
久弥「彩こそお疲れ」
  同業者だ。
  同じ事務所というと変な感じだが、そう、同じ事務所に所属している高級コールガール。
  事務所が懇意にしているホテルが限られているせいか、たまにこうして顔を合わせることがある。
「ねえ、どっかで一緒に休まない?」
  寝ようと誘っているわけじゃない。
  
  
  ただ、純粋に『一緒に休もう』と誘っている。
  いいよ、
  
  
  と頷いて、同じホテルの一室に入った。

〇ラブホテルの部屋
「疲れた。 しつこいオヤジで参っちゃった」
  臀部を摩りながら苦笑する彼女に、どんな行為を強いられたのか想像がついた。
「久弥も親父が相手だったんでしょう?ここを使われるのは、参るわよね」
久弥「女より男の方が慣れれば楽なんだよ。だから別に」
「へえ、そうなんだ」
  彼女はグラスにブランデーを注ぎ、ゴクリと飲み干し、バッグから薬物を取り出して吸引した。
  こうした光景も珍しいものではない。
「久弥もする?」
  光悦した表情でクスリを差し出す彼女に、いらない、と首を振った。
「意外と真面目だよね」
  真面目というわけじゃなく、自分の身体を大事に思っているわけでもない。
  
  
  ただ、興味がないだけ。
  何よりも快楽に対価を支払うという概念がまったくなかった。

〇ラブホテルの部屋
  彼女は今度は煙草に火をつけて、ハーッと息をついた。
「あたし、これからどうなるんだろう」
「親に殴られて育って、家出して悪い男に引っかかって、」
「金を稼ぐために身体を売って、辛さから薬に逃げて、その薬が欲しくて、また身体を売る。なんだか蟻地獄みたいね」
  そう言って自嘲気味に笑って、顔を向けた。
「そういえば、久弥は どうして、この仕事を?」
久弥「んー、俺は12の時に 母親に捨てられて」

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