第十一話 君の願い(脚本)
〇一人部屋
夕凪「空、眠れないみたいだな」
ベッドに横になる空が何度も寝返りを打つ。
奏羽「空君、眠れないの?」
空「うん、一人だと このベッドは広すぎるな」
奏羽「抱き枕でも買ってみる?」
空「僕は抱くより抱かれる方だよ」
奏羽「はぁ、どっちでもいーし」
夕凪「そーらー」
夕凪が恥ずかしそうに顔を覆う。
奏羽「なんでお前ら抱く方とか抱かれる方とか簡単に言っちゃうわけ?」
夕凪「うーん、サガっていうか・・・ いざそーいう事になった時にさ 『そっちじゃないし』とかなるとさ 色々とさ・・・」
奏羽「何、もごもご言ってんの!?」
「・・・・・・」
空「もう一度 凪に抱きしめられたいよ」
殆ど聞き取れない程の声で呟く空。
夕凪「ゴメン、そーちゃん」
奏羽と手を繋いだまま、立ち上がると
そっとベッドに横になる夕凪。
片手を空にまわし、寄り添う夕凪。
暫くすると、穏やかな顔で空が眠りにつく。
夕凪「そーちゃん。俺、限界かも」
奏羽「・・・」
夕凪「空に何もしてやれない。抱きしめる事も、声をかけることもできない。つらいよ」
奏羽「この世に未練があると成仏できないって言うじゃん もし未練が無くなったら成仏するのかな?」
夕凪「そうかも。だから、未練がましくこんなとこにいるべきじゃないんだ」
奏羽「俺は? ゆー君がいなくなったら俺は一人だ」
夕凪にしがみつく奏羽。
夕凪「空がいるよ 空はお前を見捨てたりしない」
奏羽「俺はお前が・・・ 俺はゆー君が見えるし、話もできる」
奏羽が夕凪の髪を撫でる。
奏羽「不思議だよな。触れないはずなのに・・・ 手が感触を覚えてる」
夕凪「俺、みんなと違う茶色い髪や目、白い肌が嫌いだった」
奏羽「俺は好きだよ。このサラサラの髪も その綺麗な目も」
夕凪「うん、知ってる」
夕凪にキスをする奏羽。
奏羽「キスも──できる」
夕凪「ダメだよ、そーちゃん 俺の煩悩増やさないで」
奏羽「ゆー君は俺にどうして欲しいの?」
夕凪「生霊じゃなくて、人に戻って空に寄り添ってほしい 俺にはもう出来ないから・・・」
奏羽「俺が空君を好きになってもいいの?」
夕凪「いいよ」
奏羽「即答かよ?」
夕凪「空にも、そーちゃんを好きになって欲しい」
奏羽「歪んでんな」
夕凪「そう? 何処の馬の骨かわかんない男よりいいじゃん」
奏羽「死ぬの、怖くないの?」
夕凪「もう死んでる・・・怖くないよ」
奏羽「強がっちゃって」
夕凪「俺、死ぬ前の数ヶ月、凄く辛かった でも、空に嫌われるのが嫌で・・・ 無理してた」
夕凪「本当は、みじめな姿を晒し、突き放して嫌われてあげなきゃいけなかったのに・・・ 俺のエゴで空を縛りつけた」
奏羽「エゴなんかじゃないよ 空君の為に、頑張ったんだろ」
夕凪「そーちゃんに、嫌われるのも嫌で・・・ 会いたかったけど、連絡しなかった」
奏羽「ばーか 俺も空君も、どんな夕凪だって嫌いになることなんて出来ねーよ」
夕凪「うん、知ってる」
夕凪が奏羽の肩に頭をもたせかける。
夕凪「俺、品行方正だったから、きっと天国行けるし・・・怖くないよ」
夕凪を抱きしめる奏羽。
夕凪「お前がいなくなって、俺だけが残されることのが怖い ちゃんと成仏したい」
夕凪の背をぽんぽんと叩く奏羽。
奏羽(ゴメン空君。今、夕凪を独占してる)
夕凪「そーちゃんをずっと縛り付けておくわけにはいかない。早く体に戻してあげなきゃ」
奏羽(違うよ、きっと俺がゆー君をこの世に縛りつけてる)
奏羽「ゆー君が泣いてるの見るの 中学の卒業式以来だな」
夕凪「泣いて無いし」
夕凪の涙を拭おうと頬に触れる奏羽。
奏羽「ホントだ。濡れない」
奏羽(俺には夕凪の涙を拭うこともできないんだ なら、願いだけでも・・・)