わたしのトナカイ

咲良綾

【中編】手の温もりとやさしい声(脚本)

わたしのトナカイ

咲良綾

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〇古書店
  サンタの秘術でとんでもない姿に
  なってしまったカイだったが・・・
カイ「戻って良かった・・・」
ニナ「本当に・・・」
ニナ「1時間で元に戻る秘術で助かった~」
カイ「あの姿じゃ、空も飛べなかったね」
ニナ「わたしは秘術を使うには未熟すぎたみたい。 もっと経験豊富な・・・」
ニナ「そうだ!森の賢者様のところに行ってみない? あの方なら何か知ってるかも」
カイ「なるほど、確かに!」

〇小さい滝
ニナ「賢者様、こんにちは」
賢者「おお、久しぶりだな、ニナ。 ・・・と、そちらは・・・カイ?」
ニナ「わかるんですか!?」
賢者「気配でなんとのうわかる。外部から聖地への出入りも感じられなかったしの」
賢者「ふぅむ。いい男になったの。 カイ、こちらへ来るが良い」
カイ「は、はい」
賢者「服を脱ぎなさい」
カイ「はい」
ニナ「え、あの、賢者様・・・」
  やだ、何、カイったらバカ正直に裸になって!
  しししかも、賢者様ったら
  カイの体をなでまわして・・・!
  バカ!何でちょっと嬉しそうなのよ!
  カイのバカ!
賢者「ふむ、これだな。・・・ニナ、随分とおそろしげな顔になっておるが、どうした?」
ニナ「え?あ、ああ、いえ。何ですか?」
賢者「カイの胸の真ん中あたりにしこりがある。 よく見るが良い、薄く光っておろう」
賢者「これは、願いの粉の結晶だ」
ニナ「え・・・? 願いの粉って、サンタが配る・・・」
賢者「そう。通常、願いの粉は人間の願いに反応して働きを終え、すぐに消える」
賢者「だが人間以外の場合、吸い込んだ願いの粉は作用しきれず、蓄積してしまう」
賢者「そのうち同一の願いがある程度集まると 結合して結晶化する」
賢者「そうすると、ある日突然大きな力を持って作用することがある」
ニナ「じゃあ、カイが元に戻るには・・・」
賢者「この結晶を取り出せば、元に戻るな」
賢者「・・・元に戻したいのか?」
ニナ「それは・・・カイがこのままじゃ、 クリスマスの仕事ができないし」
カイ「どうやって取り出せばいいんですか?」
賢者「カイが望むのなら、我に心得がある」
賢者「明日またここへ来るが良かろう。 準備をしておく」
カイ「わかりました」
カイ「ニナ、良かったね」
ニナ「うん・・・」

〇氷
  地上では、サンタクロースがおもちゃや本などのプレゼントを運ぶと思われている。
  でも違う。そんなこと、物理的に無理だ。
  クリスマスにサンタクロースが世界にばらまくのは、願いの粉。

〇大樹の下
  サンタクロースは聖なる花と聖なる樹を材料に、一年かけて願いの粉を作る。
  その粉には、
  人の願いの流れを潤滑にする力がある。

〇街の全景
  世界中でほんの少しずつ、奇跡を起こすのだ。

〇美しい草原
ニナ「カイ・・・」
カイ「何?」
ニナ「あなた、願いが結晶化するほど、 人間になりたいと思ってたの?」
カイ「・・・」
カイ「でも、僕の願いは叶ったから。 ニナとお話できたから、もういいんだ」
カイ「あ、そうだ。もうひとつあった。 やってみたかったこと」
カイ「手を繋いでみても、いい?」
ニナ「・・・それは、いいけど」
カイ「じゃあ・・・ ええと、こうやって握るんだっけ」
  (きゅ)
カイ「わ」
ニナ「どうしたの?」
カイ「うん・・・思ってたより、ずっと良かった」
カイ「ふふ、幸せ。満足、満足」
ニナ「・・・満足なんかじゃない」
カイ「え?」
ニナ「満足なんかじゃないよ!」
カイ「・・・ニナ? ごめん、嫌だった?」
ニナ「違う。カイとお話したり、手を繋いだりするの、わたしも嬉しいよ」
ニナ「でも、満足なんてできない。 明日も明後日もその次も、カイとお話したいよ」
カイ「ニナ・・・」
ニナ「カイはトナカイになってもわたしの言葉が聞こえるけど、わたしは・・・」
ニナ「カイの言葉が、聞けなくなるんだよ」
ニナ「嫌だ、そんなの嫌だ。家からまたわたし以外の言葉が消えるのは、嫌!」
カイ「ニナ、落ち着いて」
カイ「僕、知ってるよ。 ニナが淋しがってたのも知ってるけど」
カイ「それ以上に、 サンタのお仕事をすごく大事にしてること」
ニナ「・・・・・・」
カイ「僕、バカだから、人間になったらお仕事の手伝いができないこと、全然考えてなかったんだ」
カイ「喋れるトナカイになりたい、 って願えば良かったね」
ニナ「でもそれじゃ、手が繋げないよ」
カイ「あはは、そうだね。 やっぱり、人間になって良かったかな」
ニナ「・・・カイ」
カイ「ん?」
ニナ「これからもずっと、そばにいてね」
カイ「そんなの当たり前だよ」
ニナ「カイ。湖の方を通って帰らない?」
カイ「湖に、何か用事があるの?」
ニナ「ないけど、せっかく手を繋いだんだから、 もう少し歩きたいじゃない」
カイ「そっか。うん、行こう!」

〇睡蓮の花園
ニナ「こっちに来たの、久しぶり」
カイ「そうだね。 森と花畑には仕事でよく行くけど」
ニナ「ニコラウスおじいちゃんが亡くなってから、 遊ぶ暇なんてなかったものね」
カイ「昔はよく来たよね、ふたりで」
ニナ「うん。何して遊んでたかなあ」
カイ「溝を掘って小川を作ったり」
ニナ「そうそう! カイの毛皮に草を巻きつけて羊ごっこしたり」
カイ「もじゃもじゃになっただけで、 全然羊っぽくはなかったけど」
ニナ「ニコラウスおじいちゃん、 あれ見て大笑いしたよね」
カイ「湖の上を白鳥と一緒に飛んだこともあったね」
ニナ「そうだね、あれはトナカイに戻らないと・・・」
ニナ「くしゅん!」
カイ「ニナ、寒い? トナカイだったら、毛皮で包めるのに」
ニナ「・・・人間もあったかいよ。 くっついて、両腕で包んでみて」
カイ「ほんとだ、あったかい」
ニナ「・・・・・・」
ニナ「カイ、少しかがんで」
カイ「え、こう?」
カイ「!」
カイ「・・・今の、何?」
ニナ「何って、キスよ。 今までもよくしてたでしょ」
カイ「うん。でも・・・ トナカイのときと、全然違う」
ニナ「そうね。全然違う」
カイ「もう一度、いい?」
ニナ「いいよ」
カイ「・・・・・・」
ニナ「・・・・・・」
カイ「僕、今の、一生忘れないと思う」
ニナ「わたしも」

〇英国風の部屋
  12月24日
ニナ「・・・・・・」
  朝・・・
  今夜はクリスマス。起きなきゃ
  起きたら身支度をして、
  カイと一緒に賢者様のところに・・・
  やだ。起きたくない。
カイ「ニナ。おはよう」
  どうして起こしにくるの・・・
カイ「ニナ、どうしたの。具合悪いの?ニナ?」
  そんなに何度も名前を呼ばないで。
  もうすぐ何も言わなくなるくせに。
カイ「・・・泣いてるの?」
ニナ「・・・・・・」
カイ「怖い夢でも見た?」
ニナ「ううん。いい夢を見てるの」
カイ「いい夢?じゃあ、どうして泣いてるの?」
ニナ「夢が覚めるのが怖いの」
カイ「そうなんだ。 じゃあ、もうちょっと寝てても・・・」
カイ「・・・ニナ?」
  次回へ続く

次のエピソード:【後編】サンタクロースの小さな奇跡

コメント

  • 願いの粉ってなんて素敵ファンタジー設定なんだ!
    何だろ、この感じ…はなとゆめコミックス感かな。切ない。

  • 心温まる、そして切ない物語。やっぱりエンディングはクリスマスに読みたくなりまsね、この作品(^^*

  • あーっ、これどうなるんでしたっけ!?😂
    切ないよぉ〜!!
    によによしながら次回を待ちます!

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