〇ディベート会場
長谷川まりあ「こんにちは、長谷川まりあです。 あなた面白いですね、どこかで演技してたんですか？」
中園瑚白「犬と猫の話をしましょう。 そちらの茶番に付き合って時間を無駄にしてしまったので」
長谷川まりあ「ずいぶんなこと言いますね」
中園瑚白「その通りでしょう。 映画の撮影みたいにして自分たちの空気にしたかったみたいですけど、安いパーフォーマンスにしかなりませんでしたね」
中園瑚白「中二病かと思いました」
長谷川まりあ「・・・・・・」
　　まりあは黙って仲間たちの方を見る。
　　するとリーダーである監督風の男がまりあを見て頷く。まりあも彼に頷き返す。
長谷川まりあ「わかりました、きちんと話し合いましょう」

〇ディベート会場
　　一方、紅音はスマホでエリートピアの動画サイトを見ている。
真田紅音「まずい、まずい」
　　動画には紅音たちのディベート会場が映っているが、まりあばかりが映り、瑚白の姿はほとんど見切れている。
　　動画にはコメントが次々に流れる。
　　『うわ、急に猫ちゃん怖っ』
　　『まりあちゃん責められてかわいそう』
　　『楽しんでやってたろ、キツすぎないか』
真田紅音「このままじゃ投票がもらえない。 柿之介、ちょっと何かエピソードない？ 何か猫に関する・・・」
若山柿之介「おお、とっておきのがあるだ」
若山柿之介「おらがまだこんぐれえの童だったとき、化け猫の背中に乗ってかあちゃの病院まで連れてってもらった話だ」
真田紅音「とりあえず、視聴者の興味を猫にひきつけないと。それを試してきてくれ」
若山柿之介「わかっただ」
真田紅音「中園さん、あんな挑発的な態度はダメだろ」
藤原一茶「土俵を奪い返すためやろ」
真田紅音「え」
藤原一茶「あのまま向こうのペースに乗っとったら、どうせ勝ち目ない。自分がヒールになってでも、対等な関係に持ち込もう思ったんやろ」
真田紅音「でも視聴者に嫌われたら意味ないじゃないか」
藤原一茶「投票の基準はあくまで印象に残った方や、別に好かれる必要なんてないねん」
藤原一茶「嫌われようが何しようが票を取りに行く。 ええ根性しとるわ、誰かと違うてな」
　　一茶がちらりと紅音を見る。
真田紅音「君だってそう言って何もしてないだろ」
真田紅音「わかった、自分でなんとかする」

〇ディベート会場
若山柿之介「そんで、おらと妹でかあちゃの病院さ行っで、窓辺にトウモロコシさ置いてきただ」
　　語り終わり、満足げな表情をする柿之介。
若山柿之介「あれ、視聴率下がっただ」

〇ディベート会場
　　モニターを見て少し焦った表情に変わる瑚白とまりあ。
長谷川まりあ「素敵な話だけど、その話でやっぱり猫とはならないんじゃないかしら」
中園瑚白「なに？ だったらそっちもなんか話出しなさい」
中園瑚白「可愛い顔してニコニコしてればそれで許されるなんて、番宣でバラエティ出てる演技派女優じゃあるまいし」
長谷川まりあ「なんでそんなひどいこと言うの」
中園瑚白「そうやって泣けばなんでも自分に有利になると思って」
中園瑚白「女優は右目と左目、好きな方から涙を流せるっていうけど、本当にそうなの？」
長谷川まりあ「あたしはただ本当に犬が好きで、それをわかってもらえないのがとても辛いのよ」
「嘘だ！」
「！」
真田紅音「まりあさん、あなたは嘘をついている。 あなた本当は犬好きじゃないでしょう」
長谷川まりあ「え」
真田紅音「先ほどから、犬が好きだ好きだと言っているけれど、そんなのは全部嘘だ」
真田紅音「あなた本当は、猫の方が好きなんじゃないですか」

〇ディベート会場
藤原一茶「・・・ククッ」
東映人「あいつ、ディベートの意味わかってんのか・・・」

〇ディベート会場
長谷川まりあ「えっと——」
真田紅音「戸惑うのはわかります、なぜそんなことがわかるのかってことですよね。当然の疑問です」
真田紅音「でもね、僕には人の嘘を見抜く能力があるんです。だから、あなたの演技派には騙されないんです」
真田紅音「疑うなら、何か僕に嘘をついてみてください、全て見抜いてみせます！」
　　得意げに笑う紅音。
　　しかし会場は静まり返ったままである。
　　一茶の小さな笑い声だけが、シンとした会場に響く。
真田紅音「・・・あ、あれ」
長谷川まりあ「あの、別に嘘がどうとか・・・」

〇ディベート会場
　　柿之介は紅音のスマホを手に取り、動画サイトのコメントを確認する。