3.予期せぬふたつの…(脚本)
〇説明会場(モニター無し)
前嶋琴美「みんなー♪ おやつだよ!」
前嶋琴美「今日はね、私が作ってきたの」
永太「せんせー! これ、食べられるの?」
早紀「すっごくキレイ♡ 宝石みた~い♪」
藍子「固いのかな?」
「せーの! (パクッ)」
「おーいしーい!」
前嶋琴美「あは! それは良かった♪」
前嶋琴美「拓海くん!」
前嶋琴美「ほら! 拓海くんも!」
前嶋琴美「どう? このお菓子」
鷲尾拓海「すごく・・・キレイ」
前嶋琴美「でしょ?」
鷲尾拓海「うん!」
前嶋琴美「これね、琥珀糖っていうお菓子なの」
鷲尾拓海「本で見たことあったけど、食べるのは初めて・・・」
前嶋琴美「そっか! 食べてみて?」
鷲尾拓海「う、うん」
鷲尾拓海「(パクッ)」
鷲尾拓海「美味しい・・・」
鷲尾拓海「外はシャリッとしてるのに、中はゼリーみたい」
鷲尾拓海「食感が面白いね!」
前嶋琴美「気に入ってもらえたみたいで良かった」
前嶋琴美「今度はクッキーを焼こうと思ってるの。 クッキー好き?」
鷲尾拓海「甘いものは何でも好きだよ。 普段食べられないから、嬉しい」
前嶋琴美(あ・・・ 親戚の家じゃ出してもらえないんだね)
前嶋琴美「ほかには? 好きなもの教えて?」
前嶋琴美「あ! ほら、誕生日。 拓海くんの食べたいお菓子、作るよ♪」
鷲尾拓海「えっと、じゃあ・・・ ホットケーキ」
前嶋琴美「ホットケーキね! 了解!」
藍子「これって、紫陽花みたいな色~」
早紀「ホントだ~♪ うちに咲いてる紫陽花ね、去年と色が変わったんだよ~?」
永太「へ~! なんで?」
早紀「わかんない」
永太「せんせー! なんで?」
前嶋琴美「あ! えっとたしか・・・紫陽花が植えられてる土の状態で色が変わるんだよ」
前嶋琴美「・・・なんの物質が関係してるんだっけ」
鷲尾拓海「・・・アルミニウム」
鷲尾拓海「紫陽花はもともとピンク色で、土の中のアルミニウムを吸い上げると青くなるんだ」
前嶋琴美「そう! さすが拓海くん!」
早紀「へ~、そうなんだぁ! 拓海くんって物知りだね!」
永太「なんだ、拓海って本ばかり読んでたけど、普通に話せるんじゃん?」
藍子「拓海くん、なにか分からないことあったら、また聞いてもいい?」
鷲尾拓海「え・・・あ、うん」
早紀「あ! ずるーい! 私も! 私も聞いていい?」
鷲尾拓海「うん」
この日を境に、拓海は、少しずつ
ほかの子と話をするようになっていった
〇和室
7月7日
琴美と拓海の誕生日
前嶋琴美「拓海くん、どうぞ~♪」
鷲尾拓海「あ、はい」
前嶋琴美「さっきケーキの盛り付けが終わったところなの」
前嶋琴美「誕生日おめでと~♪」
鷲尾拓海「うわ~! すごい!」
前嶋琴美「ふふ♪ 良かった、喜んでもらえて」
鷲尾拓海「琴美先生・・・ありがとう。 嬉しい」
前嶋琴美「うん! どういたしまして! 食べよ~!」
鷲尾拓海「・・・ホットケーキ」
鷲尾拓海「お母さんがいたころ、よく作ってくれたんだ」
前嶋琴美「・・・そっか」
鷲尾拓海「あ! こんなにすごいホットケーキじゃないけど」
鷲尾拓海「すごく、久しぶりで・・・」
鷲尾拓海「すごく、美味しい・・・」
前嶋琴美「・・・拓海くん」
前嶋琴美「食べたくなったら言って! また作ってあげる!」
鷲尾拓海「うん、ありがとう! 琴美先生」
前嶋琴美「拓海くん♪ お祝いはこれだけじゃないよ?」
鷲尾拓海「え?」
太陽が沈んだころ、琴美は拓海を外に連れ出した
〇林道
鷲尾拓海「先生・・・どこに行くの?」
前嶋琴美「いいからいいから~♪ 足元、気をつけてね」
前嶋琴美「もうすぐだよ」
〇湖畔の自然公園
鷲尾拓海「え!? なにここ?」
前嶋琴美「自然公園だよ~」
前嶋琴美「ねえ、拓海くん! 上、見て!」
鷲尾拓海「上?」
鷲尾拓海「う、わぁぁぁぁ・・・」
鷲尾拓海「すごい・・・」
鷲尾拓海「僕・・・下を向いて本ばかり読んで、星は詳しいけど」
鷲尾拓海「こっちに来てからは、こうやって星空を見上げてなかったかも・・・」
前嶋琴美「そっかぁ」
前嶋琴美「こういう星空がキレイに見えそうな場所を、塾がない日に探してたんだ」
前嶋琴美「拓海くんが、喜ぶかなぁって」
鷲尾拓海「琴美先生・・・」
前嶋琴美「立ったまま上向いてると疲れちゃうから、シートに横になろ?」
鷲尾拓海「うん」
前嶋琴美「あ、見て! 夏の大三角!」
鷲尾拓海「こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ、だね」
前嶋琴美「ベガが織姫で、アルタイルが彦星だよね」
前嶋琴美「今日は晴れて、二人が会えて良かった♪」
鷲尾拓海「ホントだね」
前嶋琴美「ね~え? 拓海くん」
前嶋琴美「最近、塾生たちともよく話すようになったでしょ?」
前嶋琴美「気になる子とか、いないの?」
鷲尾拓海「ええ!?」
前嶋琴美「藍子ちゃんとか、早紀ちゃんとか・・・」
前嶋琴美「早紀ちゃんって、結構拓海くんのこと気になってるみたいよ?」
鷲尾拓海「そ、そういう話は、興味ないから!」
前嶋琴美「えー? そうなのー?」
前嶋琴美「私が拓海くんの年のころは、周りの女の子は恋バナしてキャッキャ言ってたけどなぁ」
鷲尾拓海「・・・僕はそんな話しないよ」
鷲尾拓海「先生・・・ 先生はいないの? 好きな人」
前嶋琴美「えー? 私?」
前嶋琴美「・・・私は──」
私の脳裏に浮かんだのは──
〇大企業のオフィスビル
勇次さん
〇湖畔の自然公園
勇次さんの前から姿を消して
しばらくして──
真樹さんに
新しい電話番号を知らせた
真樹さんが
『元カレが会社に来たよ』
と教えてくれた
その後
母が私の新居を訪ねてきた
〇和室
琴美母「塾の二階に住まわせてもらえて良かった! また盾石さんにお礼言っとかなきゃ♪」
前嶋琴美「お母さん・・・ いろいろとありがとう」
琴美母「なぁに~? もう気なんて遣わないで、いつでも頼りなさい?」
琴美母「それはそうと・・・ストーカー」
琴美母「お母さんの家の近所まで 来てたかもしれないのよ」
母には、不倫のことは伏せて
ストーカーから逃れるために
会社を辞めて引っ越すことになったと
話していた
琴美母「琴美の実家を探してる男の人がいたんですって」
前嶋琴美「・・・そう」
琴美母「あ! 実はうちにもね、男の人が訪ねてきて」
琴美母「カメラで確認したら、スーツ着てて、なにかの営業ぽかったから、居留守したの」
琴美母「画面にその人の顔が映って、見たらビックリ!」
琴美母「私たちを捨てたあの人に似てるんだもの!」
前嶋琴美(え? 勇次さんとお父さんって──)
前嶋琴美(・・・似てる、かもしれない)
前嶋琴美(私、お父さんのこと憎んでたけど)
前嶋琴美(勇次さんにお父さんの面影を求めてたの、かな)
前嶋琴美(不倫のことさえなければ・・・)
琴美母「でね、ふと思い出したの」
琴美母「あの人、学生のころに同級生との間に男の赤ちゃんがいたみたいなのよ」
琴美母「若すぎて結婚は女の子側の親に反対されて、それっきりって聞いたけど」
琴美母「訪ねてきたのが男の人で、あの人にあまりにも似てたから」
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面白くて続けて読んでしまいました。まさかの衝撃展開に驚きです。勇次の粘着質はそういうことだったのか。モヤモヤ解消です。そして少年の淡い恋心についつい頬が緩んでしまいました。
まだ幸せは続いていましたねありがとうございます😇最高を更新するほど切ない別れ……再会が楽しみですが、勇次が不穏すぎて😂コワイヨー
衝撃的な事実発覚に驚愕しましたが、拓海くんに癒やされました☺️
大人はおませ、と思ってしまいますが、彼なりの精一杯の愛の告白だったのでしょうね……唐突なキュンになんだか胸がいっぱいになりました♥