読切(脚本)
〇東京全景
――2027年9月
〇廃ビルのフロア
〇荒廃したショッピングモール
部隊長「目標確認。全班、配置完了。 いつでもいけます」
無線「よし、突入ッ!」
〇廃ビルのフロア
部隊長「A班、陽動開始!」
部隊長「B班! 閃光弾、撃て!」
部隊長「C班! 圧炸弾、撃て!」
部隊長「制圧完了」
無線「よくやった、生存者はいるか?」
部隊長「3名確認、これより保護に・・・・・・ な、なんだ!」
無線「どうした?」
部隊長「生存者の外見が、変容!」
無線「怪物化か?」
部隊長「いえ、似ていますが 人型のフォルムを保っています。 これは・・・・・・」
「う、うわぁ!!」
〇諜報機関
――公安部・作戦指令室
オペレーター「現場との通信、途絶えました。 突入部隊のバイタル、全てロスト」
草津「・・・・・・・・・・・・」
安曇川「状況が変わりましたね。 あれは怪物じゃない。怪人です。 怪物の膂力に加え、人間の知力も持ってる」
安曇川「通常の部隊では手に余るでしょう。 我々による対処が有効かと」
草津「やれると言うのかね? 君の寄せ集め部隊なら」
安曇川「「怪事課」とお呼びください、参事官」
〇荒廃したショッピングモール
――廃ビル・入口
無線(安曇川)「余呉、枇杷。 突入の許可が出ました」
余呉「若、お疲れ様です!」
枇杷「やっとか、待ちくたびれた」
余呉「おめーは! 現場指揮権取るのに骨を折られたんだぞ。 労いはねーのか!」
枇杷「・・・・・・ねぎらい? ネギは好物だが」
余呉「どういう勘違いだよ、この馬鹿!」
無線(安曇川)「じゃれ合ってる暇はないですよ。 二人とも、突入開始です」
「了解!」
〇廃ビルのフロア
――廃ビル・2階
余呉(怪人体)「ちっ、硬ぇな。 どてっ腹への一撃が決まらねぇ」
枇杷(怪人体)「だったら、俺にいい策がある」
余呉(怪人体)「なんだ?」
枇杷(怪人体)「敵の防御が崩れるまで殴り続ければいい」
余呉(怪人体)「策でも何でもねぇ、 ただのゴリ押しじゃねーか!」
余呉(怪人体)「見た目に似合わずホント脳筋だな。 ま、たまにはそういうのも悪かねぇ」
余呉(怪人体)「枇杷、俺に合わせろ!」
枇杷(怪人体)「いいだろう!」
怪人A「ぐはっ! こいつら・・・・・・予想より強い」
怪人B「・・・・・・プラン変更だ」
枇杷(怪人体)「待て!」
余呉(怪人体)「逃がすかよ!」
きゃーーーーーー!
余呉(怪人体)「悲鳴?」
枇杷(怪人体)「この建物の中に、 誰か取り残されているのか?」
「・・・・・・」
余呉(怪人体)「くっ! 他の奴らにも逃げられる。 若、優先順位は?」
無線(安曇川)「生存者の救助を優先してください。 怪人の追跡は、他所に任せましょう」
「了解」
〇カラフルな宇宙空間
2022年9月1日。
およそ24時間にわたり、
地球は超常的な光に包まれた
後に「クオーレ光」と呼ばれるようになる
この現象は、5年経過した現在も
原因が明らかになっていない
だが、現象がもたらした結果は明白だった
〇病院の廊下
人間の異形化である
ストレスや怒り、憎しみといった感情が
閾値を超えた時、ヒトはヒトの姿を捨て
理性を失った獣になる
それこそ「クオーレ光」が
人体にもたらした結果だった
異形化した人間は
そのおぞましい姿から「怪物」と呼ばれ、
怪物による凶悪事件は現時点で
10万件を超えている
〇屋上のヘリポート
一方で稀にだが、
理性を保ったまま異形化する者も存在する
閾値を超えた激情を身に宿しながらも、
それを飼いならす存在。
人間と怪物の狭間・・・・・・
すなわち「怪人」だ
〇取調室
――公安部・取調室
安曇川「今回あなたを襲ったのは、 その「怪人」です」
膳所「怪人・・・・・・初めて聞きました」
安曇川「まぁ、世間には秘匿された存在ですから」
膳所「え、いいんですか? そんなこと私に話して」
安曇川「状況が分からないまま事情聴取されても 困るでしょう。 それにご心配なく」
安曇川「ウチには記憶消去能力を持つ 怪人もいますので」
膳所「・・・・・・」
安曇川「なんて、冗談ですよ。 本当はあなたを信頼しているからです」
安曇川「では、話を聞かせてください。 あなたは、あの廃ビルで怪人に襲われ 拘束されていた。そうですね?」
膳所「はい」
安曇川「現場には一人で向かったとのことですが、 あそこで何を?」
膳所「人と会う約束をしていました」
安曇川「誰とですか?」
膳所「わかりません」
余呉「おい、アンタ ふざけてんのか?」
枇杷「そうカリカリするな。 オレもよく約束を忘れる」
余呉「おめーはただ馬鹿なだけだろ!」
膳所「本当に知らないんです。 匿名の情報提供者だったので」
安曇川「情報提供者?」
膳所「私、ジャーナリストで・・・・・・ ここ半年は伊吹製薬が隠蔽している 不祥事を追っていました」
安曇川「その不祥事というのは?」
膳所「社員を怪物にする実験です」
余呉「若。鑑識によると、 現場には怪人の所持品と思しき IDカードが残されていたようです」
余呉「刻印されている企業ロゴは、 伊吹製薬のものだと」
枇杷「つまり、どういうことだ?」
余呉「伊吹製薬は情報提供者を装って 彼女を誘き出し、 始末するつもりだったのかもしれねぇ」
安曇川「しかし、ジャーナリスト一人を相手に そこまでするとは考えにくいですね」
膳所「もしかして、アレのせいで狙われたのかも」
安曇川「え?」
膳所「伊吹製薬のラボに忍び込んで手に入れた 極秘ファイルです。 ・・・・・・今、私の仕事場に」
〇トラックのシート
――車内
余呉「にしてもアンタ、見た目の割に 大胆なんだな。意外だったよ」
膳所「よく言われます。私はお二人のような拳も剣もありませんけど。でも、不条理を正したいって思いは、皆さんと同じだと思っています」
枇杷「骨のある奴だ。 課長、彼女をウチに引き抜かないか? 前に人員を補充したいと言っていただろう」
安曇川「面白い提案ですね。 検討してもいいですよ」
安曇川「奴らを倒したら、ですけど」
〇おしゃれな住宅街
〇トラックのシート
余呉「へっ、おもしれぇ。 さっきの消化不良をここで解消してやる」
枇杷「課長は彼女を連れて、先に目的地へ迎え」
安曇川「・・・・・・頼みましたよ」
〇おしゃれな住宅街
〇トラックのシート
膳所「余呉さんと枇杷さん、 残してきて大丈夫でしょうか?」
安曇川「あの二人なら心配ありません。 性格には多少難ありですが、腕は確かです」
膳所「信頼しているんですね、彼らのこと」
安曇川「奴隷のようにこき使っている イメージでしたか?」
膳所「いえ、ただ意外で・・・・・・」
安曇川「まぁ、無理もないでしょう」
安曇川「怪物化したらその時点で人権は消失し、 害獣として駆除対象になる。 それが現在の法ですから」
膳所「怪人は、どうなんですか?」
安曇川「まだ法整備は追いついていません。 怪人はヒトか怪物か。決めるには もうしばらく時間を要するでしょう」
安曇川「でも、願わくば・・・・・・ ヒトとして尊重される社会になってほしい」
安曇川「私がこの仕事をしているのは、 そのためですから」
膳所「・・・・・・・・・・・・」
膳所「そんな社会になれば、いつかは怪物も 駆除から保護されるように なるんでしょうか?」
安曇川「難しいでしょうね。どんな理由があろうと 感情に飲まれて凶行に走った者は 罰せられるべきだ」
安曇川「怪物が生まれる前の社会もそうでしたから」
膳所「・・・・・・・・・・・・」
安曇川「そろそろ目的地ですね」
〇おしゃれな住宅街
余呉(怪人体)「ちっ、相変わらず硬ぇな・・・・・・」
余呉(怪人体)「ん、通信?」
無線「あ、余呉さん。 鑑識課ですが、今よろしいですか?」
余呉(怪人体)「殴り合いの真っ最中だが、構わねえよ。 どうした?」
無線「調査を依頼されていた伊吹製薬のID、 登録情報は抹消されていました。 そこで、詳しく調べてみたんですが」
無線「1年前に怪物化して処理された 元社員の物のようです」
余呉(怪人体)「怪物化? 怪人化じゃなくてか?」
無線「はい。 いま、怪物になる前の写真を送ります」
余呉(怪人体)「これは?」
枇杷(怪人体)「彼女とそっくりだな。名前は、膳所美瓜。 姓が同じということは、もしや姉妹か?」
余呉(怪人体)「そうだとしたら、肉親の怪物化を知らないはずがねぇ。あのジャーナリストの「伊吹製薬の不祥事を追ってる」って発言は嘘だ」
枇杷(怪人体)「だが、嘘をついた目的は何だ?」
余呉(怪人体)「・・・・・・まさか、 この状況を作り出すことか?」
怪人A「今さら気付いても、もう遅い」
枇杷(怪人体)「どういうことだ?」
余呉(怪人体)「今回の立て篭り事件そのものが、 俺ら怪事課を誘き出すための 罠だったんだよ」
怪人B「そう。我々の目的は秘密裏に創設されたと噂される怪人の公安組織を炙り出し、 崩壊させること」
怪人A「フフ・・・・・・ 今ごろ、貴様らのボスは どうなってるだろうな」
〇会議室のドア
安曇川「ずいぶんと質素な仕事場ですね」
膳所「えぇ。余計な物は 置かないようにしているんです」
膳所「いざという時、証拠を残さないために!」
安曇川「うっ・・・・・・!」
膳所「私の妹は、伊吹製薬の同僚から ひどい仕打ちを受けていました」
膳所「長時間労働、誹謗中傷は当たり前。 尊厳を踏みにじられ、怪物になって 最後には機動隊に処理された」
膳所「これでも、怪物は罰せられるべきですか?」
安曇川「あぁ、そうだよ」
安曇川「どんな理由があろうと、 怪物に堕ちる言い訳にはならねぇ」
安曇川「それを社会の責任にすり替えて、 悪事を働くテメェも同類だ!」
膳所「馬鹿な、しっかりと胸を刺したはず」
安曇川「防刃ベストだよ。テメェのこと、ハナっから警戒してたからな」
安曇川「最初は勘だったが、さっきの車内の会話で確信したぜ。墓穴を掘ってくれたおかげだ」
膳所「・・・・・・なんですって?」
安曇川「どうして余呉と枇杷の戦闘スタイルが 拳と剣だとわかった?」
安曇川「お前を救出した時、 2人は怪人化を解いてた。 なのに、お前はそのことを知ってた」
安曇川「怪人体のアイツらと交戦していた証拠だ。 つまり、現場で最初に逃げたっていう ホシは・・・・・・」
膳所(怪人体)「ご明察。それでどうするの? まさか腰の豆鉄砲でやり合うつもり」
安曇川「んなヤボなことするわけねぇだろ」
安曇川「久々のタイマンだってのによぉ!!」
膳所(怪人体)「なっ――!?」
膳所(怪人体)「部隊の指揮者まで怪人・・・・・・?」
安曇川(怪人体)「まぁ、驚くのも無理ねぇわな。 普段はこの姿、隠してっから」
安曇川(怪人体)「ヤクザの実家と縁切って、 ようやくお天道様に顔向けできる仕事に ありつけたと思ったら・・・・・・ こんな体になっちまった」
安曇川(怪人体)「ホント、ついてねぇよなぁ。 アンタも俺も」
膳所(怪人体)「ぐっ・・・・・・ さっき、あなたが車内で語った理想も嘘?」
安曇川(怪人体)「そいつぁ、ちげぇ。本心さ。 俺がこの仕事をしているのは怪人が―― 俺が認められる社会にするため」
安曇川(怪人体)「要は・・・・・・俺のためだ!」
膳所(怪人体)「ぐああああああああああ!!!」
〇おしゃれな住宅街
「・・・・・・」
無線(安曇川)「おう。枇杷、余呉・・・・・・ そっちは片付いたか?」
余呉(怪人体)「はい、たった今・・・・・・ あの、若。口調が・・・・・・」
枇杷(怪人体)「また怪人になったのか? ホシを木っ端微塵にしてないだろうな」
無線(安曇川)「んなヘマするかよ。 のしただけだ」
余呉(怪人体)「それで、若。 こいつらどうします?」
無線(安曇川)「とりあえず、取り調べだな。 今回の一件、こいつらだけで 計画したものとは考えにくい。 裏で糸引いてる奴が必ずいるはずだ」
無線(安曇川)「有用な情報を吐かせ切ったら、 俺の能力でキレイさっぱり忘れさせて、 草津にでも身柄をくれてやりゃいい」
余呉(怪人体)「ウチで情報を独占して交渉の材料にする。 いつもの方法ですね! さすが!」
枇杷(怪人体)「相変わらず、せこいやり口だな」
無線(安曇川)「なんとでも言いやがれ。 それじゃ、こいつらを連れて帰るぞ」
〇会議室のドア
安曇川(怪人体)「――っ!? 爆発!?」
無線(余呉)「馬鹿な・・・・・・拘束したとき、 探知器には何も引っかからなかったぞ」
安曇川(怪人体)「・・・・・・ってことは、 怪人の能力だろうな」
おそらく、こいつらを操ってた黒幕の──
〇屋上の端(看板無し)
???「警視庁公安部怪事課か。 ヒトと怪物の狭間が秩序を守ろうとは 興味深い」
???「これから、おもしろいことになりそうだ」
タイトルの「狭間」の意味がラストでわかるという憎い仕掛けでしたね。怪物と怪人と人間との区別があって、そこに狭間が生じるという解釈が新鮮でした。アイコンを見たら作者さんも人間と怪人の中間?ハーフ?なのかな?
立場が真逆な存在の間を目的達成のために器用に変様する展開がとても興味深かったです。怪人である自分も立場を守るといいながらも、社会を変えて行きたいという意思も伝わりました。
楽しませていただきました。