竜と夜明けの彼方まで

白星ナガレ

ep.9 人の国(脚本)

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白星ナガレ

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〇美しい草原
  かつて人は──
  世界のすべてを慈しみ 生きた
  しかし やがて人知が進むにつれて
  人は歪な感情を抱くようになる

〇黒
  ──世界を我々の手に!

〇荒野
  傲りと欲に溺れる人は 力を携え
  他の生き物を 蹂躙し続けた
  人たちは 自らが統べる世界を
  理想郷と 呼ぶようになる

〇地球
  世界が人に踏み荒らされた頃
  大いなる存在は ようやく怒りを表す
  怒りは災いを呼び 海は荒れ 地は裂け
  風の吹き狂う空からは 氷の礫が降り注ぐ
  大いなる存在 その声が聞こえぬ人は
  裁きのごとき災いに人柱を捧げることとした

〇飛空戦艦
  人は方舟を創り 乗り込んで
  大いなる存在から逃げおおせる

〇骸骨
  人柱は その地に残され
  人の罪をすべて被ることとなった
  ひどく厳しい罰を 災いを
  その身に受け続け 人柱は恨みを募らせる
  方舟を落とせ 方舟を落とせ
  裏切り者たちに真の裁きを──!
  リカステア王国創世話より
  ──およそ1000年前の物語

〇華やかな裏庭
クレム「──と、まあここまでが一般的に 浸透している、王国の成り立ちです」
クレム「そして、当時の人たちが築いた文明を 今は古代文明キクロスと呼んでいます」
ラノ(文明も成り立ちも、知らない話・・・)
ラノ(それなのにどうして・・・キクロスという 言葉に聞き覚えがあるんだろう)
ラノ「・・・世界はみんなのものだったのに、 昔の人はそう思わなかったんだね」
ラノ「理想郷なんてどこにもない・・・ クレムが言ってた意味がわかったよ」
ラノ「人だけが幸せな世界──そんなの 理想郷なんて呼べない」
クレム「・・・理想郷って、なんなんでしょうね」
ラノ(理想郷・・・理想の世界か・・・)
ラノ「・・・僕は、みんながみんなを認め合える そんな世界が理想かな」
クレム「なるほど・・・そのためにはまず 相手を知るところからですね」
ラノ「その通りだよ 創世話って、王国ができるまでの話だよね?」
クレム「はい──要するに昔の人は、一部の人間を 生け贄とすることで生き長らえたと」
クレム「その生け贄となった人たちも 全員が死んでしまったわけではなく・・・」
クレム「生き残った人たちの子孫が このリカステア王国を築いたんですよ」
ラノ「──生け贄・・・」
ラノ「生け贄を捧げておいて、 他の人たちは方舟でどこに逃げたの?」
クレム「・・・創世話なんて遠い昔のことで そもそも真実か嘘かもわからない──」
クレム「みんなそう思ってます 真剣に考えるのはラノさんくらいですよ」
クレム「でも・・・ラノさんは、 知るために地上へ来たんですよね?」
ラノ「そうだよ 僕は世界のことを知りたいんだ」
クレム「・・・この世には、知らなくていいこと、 そして、知らない方がいいこと・・・」
クレム「それらが沢山ありますよ ──それでも?」
ラノ「うん、知りたい」
クレム「・・・」
クレム「じゃあ、ここからは みんなは知らないお話です」
クレム「人々は災いの降りそそぐ地上へ 生け贄たちを残したまま、」
クレム「方舟に乗って──空へ逃げました」
ラノ「空・・・?」
クレム「そして、空で国を築くことにしたそうです ・・・その国こそ、きっと──」
ラノ「──雲の国、アークトピア・・・?」
クレム「おそらく、そうだと思います」
ラノ「空の剣──ルディの半身がどうして 地上にあるのか不思議だったけど・・・」
ラノ「元々は僕らの先祖も地上にいたんだね・・・ 空に来たときルディは半分になったのかな」
クレム「・・・そうかもしれないですね」
ラノ(ルディが地上のことを知ってたのも 地上で暮らしていたからなんだ・・・)
クレム「アークトピアでは今のような話を 聞いたことはなかったですか?」
ラノ「うん・・・生け贄を捧げて築いた国か ・・・そこで僕らは、また生け贄を──」
クレム「今も、生け贄を・・・?」
ラノ「・・・竜に捧げてるんだ 国を救ってもらうために」
クレム「救うとは、何から?」
ラノ「わからないけど・・・ ベスルがそう言ってたんだ」
ラノ「あ、ベスルっていうのは、雲の国で 予言の巫女って呼ばれてる人なんだけど」
ラノ「僕が地上に来た日も、予言が──」

〇西洋の街並み
ベスル「・・・この国は──滅亡します」
ベスル「雲の底からやってくる、 私たちとは”違う”人間──」
ベスル「彼らによって、 この国は滅ぼされるでしょう」
ベスル「彼らは、私たちの知らない 不思議な力を持っています──」

〇華やかな裏庭
ラノ「・・・」
ラノ「クレム、君は・・・」
クレム「はい?」
ラノ「・・・雲の国を滅ぼそうとしてる?」
クレム「・・・」
クレム「えっ?」
クレム「まさかそんな! どうしてそう思ったんですか!」
ラノ「予言では、地上の人が不思議な力を使って 雲の国を滅ぼすって・・・」
ラノ「君は空に国があることを知っているし、 魔法──不思議な力を使える」
ラノ「それに、王国の人たちの先祖は 空に逃げた人を恨んでたんだよね・・・」
ラノ「君が雲の国を滅ぼす理由・・・ たくさん揃っちゃってるよね?」
クレム「・・・」
クレム「た、確かに・・・」
ラノ「じゃあやっぱり、君が・・・?」
クレム「いや、確かに・・・じゃないですよ!」
クレム「国を滅ぼすなんて考えたこともないです!」
クレム「でも、その予言は気になりますね・・・ もしかしたら、ですけど──」
クレム「不思議な力──魔法を使うというなら 帝国が何か企んでるのかもしれないです」
クレム「俺が隠された歴史を 知ったのは帝国にいた頃なんです」
クレム「ただ──その情報源は今は存在しないですし 雲の国のことを知る術はないはず・・・」
クレム「もしかすると、俺より先に隠された歴史を 知っている人がいたのかもしれないです」
クレム「結局、全部仮定の話ですが・・・ 予言が本当なら──」
クレム「雲の国を滅ぼそうとする何者かは 帝国にいると考えるのが自然ですね」
ラノ「・・・僕は真相を知らないといけない」
ラノ「知って、伝えて、 争いになんてならないように──」
ラノ「・・・帝国に行く理由がひとつ増えただけだ 僕の目的は変わらないよ」
ラノ「早くルディを助けに行こう」
クレム「もちろんです!」
クレム「帝国への潜入作戦、考えてありますよ」
ラノ「潜入作戦・・・ちょっと楽しみだな」

次のエピソード:ep.10 二度目の約束

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