不意討ちと挟撃(脚本)
〇古風な和室
優樹「ん・・・こんなよく眠れたのは久しぶりだ」
香木や冷却効果の石のおかげで快眠だ
優樹「お、起きたかな」
桜花 「ふにゃぁ・・・」
不意に横に転げた桜花の胸に顔を挟まれてしまう
桜花 「ふわぁ、もう朝なってる~」
麗愛(不死王リッチー)「朝チュン」
平常心を取り戻し起床する
〇和室
朝から営業している店は少ない、朝食は自宅である物で済ませる
〇リサイクルショップの中
優樹「なんか騒がしいな」
桜花 「もう外に軍が列を成してるよ」
麗愛(不死王リッチー)「早起き」
〇平屋の一戸建て
着替えを済ませて陣頭に並列する剣姫と客将に声を掛ける
優樹「こんな朝からご苦労だな」
守姫「商人の朝は早いと聞く、先駆ける行動が利益を生むと知っているからだ」
桜花 「そうなの優樹くん?」
優樹「例えば夜間に移動した旅の行商人が、朝の市場でこの国より安価で販売していたりするんだ」
麗愛(不死王リッチー)「朝市」
小声で桜花と麗愛に話す
優樹「こんな街で門を出現させるのは不自然だから、また魔の森まで行こう」
桜花 「そうだね、魔の森なら不自然じゃ無いね」
麗愛(不死王リッチー)「それが良い」
守姫「どうした?そんなに恐ろしい場所に魔は繋がっているのか」
優樹「いや・・・真の森の中心にそれはある」
急に将兵がざわつく、冒険者界隈の噂は国の中心まで行き届いている様だ
剣姫が強い口調で激励する
守姫「落ち着け、この時間帯でアンデッドに遅れを取る者は居ない!」
掛け声が一帯に轟く
助成してもらっておいての言い草だが、住宅街で早朝から迷惑な連中だ
優樹「盛り上がってる所悪いが魔の森は自然の流動型ダンジョンだ」
麗愛(不死王リッチー)「すぐに着くとは限らない」
守姫「ボクは剣士だ、徹夜になってもへっちゃらさ!」
麗愛の前で大見得を切って頼もしいお姉ちゃんを演出している
徹夜と聞いてドン引きする兵士達を物ともしない、こいつは大物だ
桜花 「じゃ・・・じゃあ、あたし達が先導するね」
また隣へ歩み寄り小声で囁く
優樹「そういえば、麗愛も転移陣は使えるのか?」
桜花 「んっ・・・♪ちゃんと隷属してるから術式の妨害には引っかからないよ」
麗愛(不死王リッチー)「大丈夫」
優樹「それは良かった、安心した」
〇城下町
さっそく自宅を発ちギルドへ行列を成して歩く
まだ道行く人は少ないが驚きの表情を浮かべている
優樹「最初からギルドに召集を依頼しとけば良かったな」
守姫「民衆にも元凶は魔族だと街宣してある、こうやって凱旋の先祝いをする事は復興の勢いを付ける一助になるはずだ」
桜花 「ちゃんと深く考えてるんだね」
麗愛(不死王リッチー)「行こう」
〇祭祀場
ギルド員に案内され特別転送室へ案内される
守姫「一斉に転移するメリットは待ち受けの罠への対処と素早い陣形展開にある」
優樹「隙も無駄も無い、内政はともかく軍事はまともだったんだな」
桜花 「優樹くん、ちゃんとあたしの隣に来て」
優樹「う、うん」
麗愛(不死王リッチー)「・・・・・・」
低い視線から猛烈な視線を感じる
優樹「元々が王領とは言え、よくこの広さを確保できたものだな」
守姫「王宮の魔導師が言うにはこの場所は魔法で作られた空間であり、その内部にさらに膨大な術式を多重に構築している・・・のだそうだ」
桜花 「手間暇かけてるんだねー」
小話をしている内に後続の将兵が全員魔法陣に収容される
鏡張りの部屋が複雑に反射し空間全体が光に包まれる
〇森の中
・・・もう日が昇っているのにまるで夜のような暗さだ
優樹「昨日よりも暗くないか?」
桜花 「・・・闇が濃過ぎる」
麗愛(不死王リッチー)「呼んでも来ない」
居るだけで防具が腐蝕し動揺が走る
それは全員同じようだ
すぐ後ろから悲鳴が聞こえる
黒い球が無作為に辺りを漂っている
その一つの個体に吸い寄せられている
守姫「くっ・・・重い」
桜花が助太刀して球体を底へ叩き落とす
桜花 「重力球・・・!?」
麗愛(不死王リッチー)「奥に行く程魔力が濃密」
どう考えても異常事態だ、たった一日で何が起きたんだ
守姫「過去の魔族との争いで似たような状況を聞いた事がある、恐らく森の中心に魔界の門が開いている」
桜花 「歴史書によると、死屍累々の山の中から見えた魔族が手の平に重力球を乗せて笑っていたと書いてあるね」
麗愛(不死王リッチー)「・・・こう?」
その場の全員が驚愕する
麗愛(不死王リッチー)「解読した魔法術の術式の数値通りの魔力を流す事で操作できるの」
桜花 「攻撃性を解除する鍵になっていたんだね」
〇謎の扉
優樹「禍々しいな・・・」
視界が歪むような歪を体現している
わかりやすく大きく迎え入れるように漆黒の門が開け放たれている
守姫「いざ行かん、恩賞は思いのままぞ!」
鬨の声が響き続々と将兵達が門を駆けてゆく
守姫「ボクの隊と一緒に来てくれ」
桜花 「どうする、優樹くん」
優樹「剣姫がいるなら心強い」
麗愛(不死王リッチー)「それがいい」
ある程度の先陣部隊が通ってから、そのあとに続いて禍々しい門を通過する
〇荒野
守姫「あれは・・・翼竜か?」
桜花 「すごい群れで飛んでるね・・・」
優樹「しばらく荒野を進むみたいだな」
視界が開けているのは幸いかもしれない
問題はこちらも敵方に見つかり易いと言う点か
麗愛(不死王リッチー)「潜る前と変わらない」
違いは黒の空模様と球が所々浮遊しているぐらいか
守姫「伝令から通達が来た、前方に湿地帯と森が出現した様だ・・・どちらを行く?」
優樹「迂回出来ない程横に広がっているな・・・」
桜花 「泥濘が深そうだね」
麗愛(不死王リッチー)「森が良い」
麗愛の意見が採用される、足を取られて伏兵が出て来たら危険だろう
一方森ならばこちらの身を隠しやすく陣を構えて迎撃する事も可能なはずだ
〇けもの道
守姫「行軍は順調のようだな」
優樹「森に魔物は居るのかな」
桜花 「長く未踏だったはずだから・・・」
麗愛(不死王リッチー)「足跡」
多くの草樹が生い茂るが、それでさえも植物の俺具合から軌跡は追跡できる
桜花 「虫がすごいね」
優樹「足跡も増えてきてる、この近くに水場があって足跡の主の生活圏にもなってそうだ」
麗愛(不死王リッチー)「四足歩行」
桜花 「迂回したほうが良いのかな?」
伝令が剣姫へ駆け寄る
守姫「ワイルドボアが居る、こちらの個体の方が遥かに大きい」
麗愛(不死王リッチー)「この樹見て」
縄張りの意思表示だと思われる引っ掻き傷が付いている
優樹「鋭そうな牙だ」
遠くから大声が響く
どうやら件の獣と戦闘になっているのが樹々の隙間から遠めに映る
守姫「戦力の消耗を避けるんだ、魔法を詠唱しろ、弓矢を射て」
指揮が各部隊に伝わり練度の高い連携を見せる
煙幕の投擲が決め手となり退かせる事に成功する
〇小さい滝
守姫「ここで水分を補給しよう」
桜花 「澄んでいて美味しい♪」
優樹「闇の中にこんなオアシスがあるとは・・・」
麗愛(不死王リッチー)「有難い」
煙を深く吸った個体が五体程弱っている
これを仕留め調理役が肉を捌いて振舞う
〇野営地
優樹「塩の塩梅が絶妙だ」
桜花 「かなりの大きさだったから全員に生き渡ったね♪」
麗愛(不死王リッチー)「美味」
守姫「王宮から連れ出した甲斐があった」
作業工程で皮を炙り毛を良く焼き落としていた、皮も美味しく食べれるのはありがたい
桜花 「コラーゲンたっぷりなクリーミーな味がするぅ♪」
麗愛(不死王リッチー)「美肌効果」
休息を終え再度探知魔法で魔王城の方角を確認する
この森を抜けて川を渡れば着くはずだと言う
〇森の中の沼
優樹「森の中心はもう過ぎたかな」
守姫「そろそろ森を抜けるはずだ」
桜花 「なんかお城見えるよ~?」
樹々の隙間から見える風景が足場の悪い道中の終わりを告げる
〇広い河川敷
麗愛(不死王リッチー)「砂漠と川」
優樹「なんだ、この異常な組み合わせは?」
桜花 「まるでダンジョンみたい・・・」
・・・?先陣の人数が少ない?
守姫が静かに聴き耳を立てている
守姫「・・・! 先遣隊今すぐ砂漠地帯から引き返せ!」
また10人程が一気に姿を消した・・・流砂か!
〇砂漠の基地
不意に砂漠地帯の先から遠距離攻撃が飛んでくる
守姫「隠行術・・・!?」
姿を現したのは恐らく魔王軍、雨の様な弾幕が襲い掛かり死傷者が急増する
〇密林の中
桜花 「後ろから・・・!」
振り返れば森からワイルドボアに乗った騎兵と思われる魔物達に箒に乗った魔女などの連合した敵部隊が迫ってくる
優樹「このままじゃ挟み撃ちにされるぞ!」
守姫「ボクが正面を抑える、後ろをなんとかしてくれ!」
撤退すら許されない死闘が始まる