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イトウアユム

第19話:嘘吐きのパラドックス<final episode>(脚本)

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〇怪しい実験室
岸沢充「だから蠅は・・・追い払うんじゃなくて 潰す事にしたんですよ」
  夢見るような口調で紡がれる、
  岸沢の最悪の告白。
三守累「んんーっ!」
  累は呻き、必死に配管に手錠をぶつける。
三守累(はやく、 早く龍昇さんを助けないと・・・!)
  ガチャガチャとフロアに鳴り響く
  耳障りな金属音に岸沢は舌打ちをした。
  特殊警棒を累の頭上に
  力いっぱい振り下ろす。
三守累「うぐっ!」
岸沢充「ガチャガチャ煩いんだよ! 今すぐぶっ殺すぞ!」
  累の髪を乱暴に掴むと
  自分の方に無理やり向かせる。
岸沢充「・・・なんてな、 おまえは簡単に殺さない・・・ でもすぐに死にたくなるだろうけどな」
  その瞬間が楽しみで仕方がない、
  と言った様子で岸沢は嗤った。
岸沢充「――これからおまえの前で龍昇さんを犯す」
三守累「!」
  耳を疑う言葉に
  驚愕した累の瞳は大きく見開かれ──
岸沢充「ほら、龍昇さんって 目立ちたがりだからさ・・・ 観客がいた方が燃えてくれると思うんだよ」
  岸沢の笑顔の裏に
  底知れぬ闇と狂気を見た。
三守累(龍昇さん、早く起きて逃げ・・・)
城間龍昇「――勝手に人を露出狂にするなっての」
三守累「!」
  岸沢の背後に気絶していたはずの
  龍昇が立っていた。
岸沢充「龍昇さんっ? 気を失っていたんじゃ・・・」
城間龍昇「なんだかんだと聞かれたら 答えてあげるが世の情けってな」
城間龍昇「良かったよ、あんたが初志貫徹して スタンガンを使ってくれて」
城間龍昇「スタンガンは感電させて攻撃する武器だ。 だから導電性の服を着て、導電性の靴下と 靴を履いていれば感電しない」
岸沢充「でも・・・ そんなもの着てないじゃないですか」
城間龍昇「もっと手っ取り早い方法があるんだよ。 着てる服に水を吸わせれば導電性になる」
城間龍昇「ま、完璧な効果は期待出来ないけどな。 でも少なくとも気を失わない程度には、 スタンガンの効果は軽減するってわけだ」
城間龍昇「全部、奏良の受け売りだけど」
岸沢充「・・・だから雨に濡れていたのか」
城間龍昇「俺は気絶したフリをして、 あんたに捕まった」
城間龍昇「そうすりゃ累を監禁してる場所に 連れてってくれる」
城間龍昇「そう踏んでのイチかバチかの賭けだったんだか・・・こううまくいくとはな」
城間龍昇「今頃、アイル達が俺のスマホの位置情報に気付いて、こっちに向かってくれるだろうよ」
  チェックメイトだ、と言わんばかりの
  不敵な笑みを浮かべ、言葉を続ける。
城間龍昇「そもそも、あんたの事は タクシーの時から怪しいと思ってたよ」
城間龍昇「なんであの日に限ってわざわざタクシーを呼んでくれたんだろう、なんで乗り込むまで見送ってくれたんだろうってな」
城間龍昇「それはキョウジが乗り込む時に、運転手とのやり取りを聞くためだったんだろ? キョウジの住所を手に入れるために」
城間龍昇「マネキンの腕もそうだ。累の兄貴の事件で 黄色のリボンでラッピングされていたって話は、実は公にしてないんだってな」
城間龍昇「そのあたりも事件はデータとして 警察内に残っているのだから、 警官のアンタが盗み見るのは可能だ」
城間龍昇「どうだ? 黙ってないでなんか言ってくれよ、岸沢さん」
岸沢充「――龍昇さん」
岸沢充「俺の名前・・・充って言うんですよ。 知ってるでしょ?」
城間龍昇「はあ?」
岸沢充「恋人同士なんだから、そろそろ他人行儀な呼び方は辞めて欲しいな」
岸沢充「そもそも三守の事は累って言うのに、 なんで俺の事は充って 呼んでくれないんですか?」
  噛み合わない会話に妙な嫌悪を感じる。
城間龍昇「・・・誰がおまえと恋人同士だって?」
岸沢充「またまた照れちゃって。いつも愛してるって、思ってくれてるじゃないですか」
  暖簾に腕押しするような、
  まったく相手に響かない龍昇の言葉。
  自分に都合の良い言葉しか
  聞こえなくなった岸沢は
  突き放す龍昇の言葉を笑顔で受け流す。
岸沢充「それと残念ですが・・・ 真渡さんたちは来ませんよ」
岸沢充「この地下は電波が入らないんですよ。 だから龍昇さんの頼みの綱の GPSが使えないんです」
城間龍昇「なんだって・・・!」
  龍昇が動揺したその時。
  岸沢は素早く龍昇の元に駆け寄り、
  拳を腹部に叩き込んだ。
城間龍昇「ぐおっ!」
  予期していなかった急な攻撃。
  一瞬息が出来なくなり、
  その場に膝を付いてしまう。
城間龍昇「ごほっごほっ!」
  腹部を抑えてせき込む龍昇を
  岸沢は地面に押し倒した。
岸沢充「あなたがいけないんですよ、 本当は優しくしたかったのに」
  咎めるような申し訳なさそうなセリフのくせに、岸沢は容赦なく龍昇を組み伏せる。
三守累「んーっ!」
城間龍昇「やめろっ!」
  岸沢を押しのけようと腕を伸ばす。
  だが・・・
城間龍昇(!)
  岸沢に触れた途端、龍昇の中に岸沢のおぞましい妄想が意図せず流れ込んできた。

〇手
城間龍昇(なんだよこれ・・・! こんな・・・)
  それはバラバラに刻まれた累の遺体の上で
  岸沢に抱かれ、歓喜する龍昇の姿。
  狂ったように何度も何度も淫らに
  岸沢を強請り、そのたびに累の遺体は
  潰され、壊され、辺りに血肉が飛び散る。

〇怪しい実験室
  吐き気を催す光景。不快感と嫌悪感が
  龍昇の脳内をわしづかみにし、
  痺れた様に体が動かなくなってしまう。
  そんな様子を
  岸沢は観念したと思ったのだろう。
岸沢充「良い子ですね、龍昇さん・・・そう、 そのままおとなしくしていてください」
  うっとりと囁きながら龍昇の首筋に
  舌を這わせる。
  そのおぞましい感触に龍昇の肌が粟立つ。
  己を組み敷き、訳のわからない事を叫び、
  自らの思いの丈を押し付けようとしている狂った男。
  彼は最早、龍昇の知っている
  町の住人が信頼する警察官では無かった。
城間龍昇(累・・・)
  出来る事なら今すぐ岸沢を
  蹴り飛ばしたい、離れたい。
  けれども悪意よりもたちが悪い、
  己に向けられる暗い欲望が
  体を恐怖で強張らせる。
  こんな情けない姿を、累は一体
  どんな思いで見ているのだろうか。
  出来れば、いや絶対見られたくない。
  彼の前で犯されるなんていやだ・・・
  彼以外に抱かれるのなんて・・・。
城間龍昇(・・・累、かさねーッ!)
  目を固く閉じ、
  心の中で累の名前を叫んだ。
  上に覆いかぶさっていた岸沢が
  そのまま龍昇の上に崩れ落ちる。
城間龍昇「え? ・・・累?」
  岸沢の後頭部越しに、
  自分を見下ろす累がそこにいた。
  手錠のぶら下がっている手首はボロボロに傷つき、血が床に滴り落ちている。
  手には引き千切ぎられた配管を
  握りしめていた。
  おそらく、この配管で岸沢の後頭部を
  殴りつけたのだろう。
城間龍昇(俺を助けようとして・・・ 配管を手錠でぶっ壊したのか?)
城間龍昇(いやいやいや、 錆びてるとはいえ鋼鉄製だぞ?)
  火事場の馬鹿力の限度を超えている、
  と唖然とする。
  累は無表情で、昏倒した岸沢の髪を掴み
  体を地面に叩き付けた。
  そして岸沢に馬乗りになり・・・
  無言で岸沢の顔を殴り始める。
城間龍昇「お、おい、累・・・もう、やめろって! それ以上やると死んじまうって」
三守累「そうですね、 死なせるつもりで殴ってますから」
  いつも通り淡々と返して、また一発、
  昏倒したままの岸沢の頬に
  累はストレートを叩き込む。
城間龍昇「おまえ、それ以上はやばいって! 聞いてんのか? おいっ!」
  無言で岸沢を殴りつける累を
  必死に止める龍昇の慌てた声が
  空虚なフロアに木霊した。

〇ビルの屋上
  龍昇と累は警察病院の屋上にいた。
  この場所からは都内の夜景も、
  青くライトアップされた
  都庁のツインタワーも良く見える。
  しかし2人は夜景を楽しむ事無く、
  無言で立ち並んでいた。
城間龍昇「おまえさぁ」
  最初に口火を切ったのは龍昇だった。
城間龍昇「警察官なのに容疑者死なせようとして ・・・どうすんだよ」
  あの後、なんとか累を思いとどまらせた
  龍昇は、外に出て警察に通報した。
  岸沢を現行犯逮捕して引き渡し、
  保護された龍昇と累も
  警察病院に運ばれたのだった。
  累の頭や両腕に巻き付く白い包帯が
  痛々しいが、本人はいつもの様に
  特に気に留めている様子も無い。
三守累「龍昇さんはあんな変態ストーカーにも 優しいんですね」
城間龍昇「そういう問題じゃないって。それに―― 本当に優しいのはおまえの方だよ」
三守累「僕が優しい?」
  累は意外そうに復唱すると
  おかしそうに笑った。
三守累「僕はね、兄に関する感情を・・・ 今もまったく思い出せないんです」
三守累「兄が死んで悲しくなかっただけでなく、 兄が好きだったとか嫌いだったとか そんな類の感情も一切思い出せない」
三守累「紅葉と言う兄が存在していた、 という事実しか認識出来ないんですよ」
  自虐する累を、しばし黙って見つめていた
  龍昇はぽつりと呟いた。
城間龍昇「おまえって、そうやって自分は 冷たい人間だと思い込みたいのな」
三守累「何を言ってるんです?」
  龍昇がポケットから取り出したのは・・・
  黄色のリボンだった。
三守累「そのリボンは・・・」
城間龍昇「ごめん、勝手に拝借しちまった。 なあ、累・・・おまえはそろそろ、ちゃんと過去と向き合うべきなんじゃないのか?」
城間龍昇「おまえは知らない間に 自分の過去に嘘をついている」
城間龍昇「そして気付いている。 だからいちいち動揺しちまうんだ」
三守累「違います・・・僕は・・・」
城間龍昇「違うなら・・・見れるだろう? 過去のお前の・・・本当の記憶」
  差し出されたリボンの端。
  累の中で何者かが警鐘を鳴らす。
  だめだ、そのリボンに触れてはいけない。
  せっかく閉じたパンドラの箱を
  開いてしまう。
  しかし・・・
  累はリボンに恐る恐る指を伸ばしていた。

〇不気味

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