第20話:MEDIUM(脚本)
〇ホストクラブ
今夜のPARAISOは貸し切りだというのに
いつも以上に人が多く、華やかな賑わいを
みせていた。
〇ソーダ
ただしホストはたったひとり。
フロアを見渡せるソファの上に
飾られたキョウジの宣材写真。
彼こそが今夜のPARAISO唯一のホストであり、今夜限りのNO.1ホストだ。
〇ホストクラブ
三守累「・・・今夜はキョウジさんの お別れ会だと聞きましたが」
騒々しい店内を見渡す累を
龍昇は笑いながら迎え入れる。
城間龍昇「はは、騒がしいってか。 でも、沖縄の葬式じゃあこれが普通だぞ」
城間龍昇「こうやって賑やかに楽しく過ごして 故人を偲ぶ」
城間龍昇「泣いて悲しんで送り出されるよりも、 笑って送り出された方が・・・ キョウジも喜ぶだろうしな」
あの後。
龍昇と累は満身創痍の岸沢を
現行犯逮捕し、廃墟から脱出した。
取り調べでの岸沢は、
未だに殺したキョウジに対する
謝罪の言葉など一切ないらしい。
代わりに累をひたすら罵倒し、自分は
龍昇の恋人だと言い張っているそうだ。
城間龍昇「岸沢さんは・・・ 昔はあんなんじゃなかった」
どこか悲し気な表情で龍昇は呟いた。
城間龍昇「・・・純朴で、気が弱くて・・・ でも仕事に対して一生懸命で。 だから手伝ってやりたいと思ったんだ」
城間龍昇「それに・・・俺をあんなふうに思ってた なんてマジ、気付かなかったし」
三守累「龍昇さんが気に病む事ではないと思います」
三守累「それに人は一度歪むと、 歪む方が楽になる生き物ですから」
城間龍昇「なーにわかったような口を聞いてるんだよ 最近遅めの反抗期が来た奴が」
三守累「反抗期? なんの話ですか?」
城間龍昇「いままでエリート優等生だったおまえが、 初めてオトナに反発して、 あげく容疑者を半殺し」
城間龍昇「これを反抗期と呼ばずにいられるかっての」
三守累「まあ、否定はしませんよ。しかし岸沢を 殴った事だけは訂正させてください。 あれはれっきとした正当防衛です」
城間龍昇「正当防衛ねぇ・・・ま、いいさ。んで ・・・反抗期の代償はどうなったんだ?」
今日は岸沢を逮捕してから一か月。
キョウジのお別れ会の日でもあり。
怪我の療養で休職していた累が事件以来
初めて本庁に登庁した日でもあった。
三守累「それが・・・正直、減給か県警に異動 くらいは覚悟してたんですけどね。 処分は一切無しです」
城間龍昇「ええっ!? そりゃずいぶん破格だな・・・」
三守累「まあ、よくよく考えてみれば、 当たり前と言えば当たり前な待遇ですよ」
三守累「歌舞伎町のホストクラブへの嫌がらせと 殺人事件の犯人は実は警察官」
三守累「しかも同性愛者のストーカーで、 独りよがりの思い込みで 未来のある青年に手を掛けた」
三守累「・・・マスコミが喜びそうなネタが満載の 警察の不祥事ですが、大々的にリーク される前に犯人を逮捕しましたからね」
三守累「僕のおかげで警察は最小限の痛手で済みました。逆に感謝されても良いくらいですよ」
城間龍昇「おまえって時々、 怖いくらい前向きだよな・・・」
三守累「それに・・・ 警視総監には直接謝罪に伺いましたし」
〇豪華な社長室
ソファに背をゆったりと預ける男性。
累は直立不動のまま、深々と頭を下げた。
三守累「今回の件、大変申し訳ございませんでした」
男性・・・警視庁の最高責任者であり
トップである警視総監は
累の謝罪におおらかに笑った。
警視総監「君はとても優秀だが、まだ若い」
警視総監「その若さゆえに自身を過信し、 過去の事件を疑い、 暴走するなんて事は一度くらいある事さ」
警視総監「・・・でも結果としては 全くの見当違いだった、そうだろう?」
三守累「はい。おっしゃる通りです」
警視総監「わかれば良い。良いかい、三守君。 警察とは組織だ」
警視総監「共通目標を達成するためには 共通の意識を持たなければならない」
警視総監「個人の考えより、 全体の考えが大切なんだ。 ゆめゆめ忘れないように」
三守累「肝に銘じます」
警視総監「三守君。君は・・・本当に諦めたのかね?」
穏やかな笑顔の下に、僅かに見え隠れする
絶対的な権力者の無言の問いかけ。
本当におまえは諦めたのか?
過去を掘り起こし、
兄の事件の真相を求める事を。
――警察と言う組織の決定に抗う事を。
三守累「ええ、もちろんです」
累は顔色を変える事無く
はっきりと告げた。
その言葉に警視総監は満足げに
目を細める。
だが。
累は言葉をつづけた。
三守累「それに・・・すっかり失念していました。 殺人事件の時効は 法改正によって無くなった事を」
警視総監「!」
三守累「・・・だから焦る事を止めました。 この先、時間はたくさんありますし」
三守累「なにせ僕は・・・ まだまだまだ若い、若輩者ですから」
老兵はいつか必ず消え去る。
表舞台を降りなければならない時が来る。
その時こそ、自分たちの時代だ。
そう暗に語り、警視総監に対する、
いわば累の『宣戦布告』。
それに気付いた警視総監は
楽しそうに目を細めた。
警視総監「君のそういう負けず嫌いなところは・・・ 個人的には嫌いではないがね」
警視総監「この先がとても楽しみだよ・・・三守警部」
〇ホストクラブ
城間龍昇「――・・・おまえってさぁ、 なんか一言余計に言わないと気が済まない ビョーキにでもかかってんのかよ」
警視総監とのやりとりを聞いて
脱力し、ソファに座り込んだ。
当の累は気にする事も無く、
龍昇の隣に涼しい顔で腰を下ろす。
三守累「どうも言われっぱなしでいるのは 耐えられないんですよね」
城間龍昇「そこは耐えろ。 警察のトップを挑発してどうすんだよ、 ったく」
城間龍昇「でもまあ、 そういうところはおまえらしいわ」
城間龍昇「じゃあ・・・諦めないんだな。 兄貴の事件の真相を追及する事を」
三守累「ええ」
なぜ紅葉は誘拐され、
殺されなければならなかったのか。
なぜ犯人の医大生は紅葉を誘拐し、
殺したのか。
そして・・・そもそも本当に
医大生が紅葉を殺した犯人なのか。
三守累「兄への感情は依然無くなったままですが、 それでも・・・」
三守累「龍昇さんのおかげで 納得して受け入れる事が出来ました」
三守累「出発点がどうであれ、僕はこの事件を 解明するために警察官になったんです。 必ず、事件の真相を突き止めます」
三守累「たとえ何年、何十年と 時間が掛かっても・・・」
いつもと同じく表情を変えずに
淡々と話す累だが、
その言葉には僅かに熱が籠っている。
何処か吹っ切れた様子の累に
龍昇は色褪せた黄色のリボンを思い出す。
城間龍昇(あのリボンに残された記憶を見た事で、 俺は自分の気持ちと向き合う覚悟が出来た)
リボンをサイコメトリーした時に観た、
真面目過ぎるがゆえに思い悩む少年の姿。
自分が壊れ、周りに迷惑を掛けるならと
愛する兄への感情を消し、
思い出をただの事実へと変えた。
その、秘めたる自己犠牲はおそらく
これからも誰にも理解されない・・・
記憶を見た龍昇以外には。
城間龍昇(言葉足らずで誤解されやすいところとか、 成長した今も変わってなくて。 だから思ったんだよな)
城間龍昇(――ずっと寄り添ってやりたいって。 累も・・・自分の過去と向き合う 覚悟が出来たんだな)
城間龍昇「・・・仕方ねえな」
やれやれとため息を付く。
城間龍昇「俺も付き合ってやるとするか。 なんなら死が2人を別つまで、ってな」
三守累「僕は死んだくらいじゃ 龍昇さんから離れませんけどね」
真渡愛瑠「えーっ? なになに? ずいぶん意味深な話してるんじゃな~い?」
2人のテーブルに
ご機嫌な愛瑠が乱入してくる。
小宮奏良「真渡氏、今日はトバして飲んでますなぁ~」
真渡愛瑠「奏良も呑みなよぉ~、今夜は無礼講☆」
小宮奏良「真渡氏は忘れておりませんか? 某は未成年ですぞ」
真渡愛瑠「あっは~☆ オタクは年齢不詳だから忘れてた~」
続けて奏良が登場し
テーブル周りが賑やかになっていく。
真渡愛瑠「でさ、ついにとうとう龍昇は三守クンのラブアタックに陥落しちゃったってこと~?」
小宮奏良「っていうか、未だに付き合ってなかった のが不思議なくらいなんですけどね」
城間龍昇「ばっか、何度も言うが 俺と累は付き合ってないっての」
三守累「でも相思相愛ですよ。あの日、 病院の屋上で確かめ合ったじゃないですか」
面倒くさそうに返す龍昇に
累は即座に訂正する。
三守累「今まできちんとしたお付き合いをした事が無いのでわかりませんが、相思相愛なら 付き合っているという事だと思うのですが」
真渡愛瑠「きちんとしたお付き合いをした事が無いって~、もしかして三守クン・・・童貞?」
三守累「いえ、違います。言葉の通りきちんとしたお付き合いをした事が無いだけです」
真渡愛瑠「つまり、遊びではあるってコト?」
三守累「思春期の性欲は感情と別物ですからね」
小宮奏良「おうふ、言い切りましたぞ・・・ リア充めが」
真渡愛瑠「きゃー、三守クンったらやーらしー!」
三守累「でも安心してください龍昇さん。 男性とはどちらに関しても未経験です」
城間龍昇「なんも安心出来ねえよ! だ、第一・・・ほら、 好きと付き合うって言うのは別モンだろ」
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