第18話:嘘吐きのパラドックス<episode.4>(脚本)
〇繁華な通り
城間龍昇「――じゃあ昨日の夜にそっちに 累が行ったのは間違いないんだな?」
スマホから返ってきた言葉に念を押す。
通話の相手はPARAISOのオーナーで
あり、龍昇の従兄弟である琉太だ。
国吉琉太「ああ、キョウジの事で 2、3聞きたいことがあるって」
国吉琉太「俺はパライソで仕事をしてるって言ったら 今から伺いますって・・・」
国吉琉太「夜の11時過ぎかな、警視庁に戻ると 帰って行ったと思うんだが」
城間龍昇(・・・累はその後に誘拐されたって事か)
〇繁華な通り
城間龍昇「もしもし奏良か、実は・・・」
小宮奏良「三守さんが行方不明なんしょ」
ワンコールで通話に出た奏良は、既に知っているかのように龍昇の言葉を遮った。
城間龍昇「良く知ってるな」
小宮奏良「そりゃあ日々、三守さんの弱みが無いか 本庁のサーバーを警備してますのでね」
小宮奏良「実は先ほど、三守さんの車が有明で 見つかったみたいなんですがね」
城間龍昇「なんだって?」
小宮奏良「車の中になんと今話題の ホスト殺しの凶器があったそうで・・・」
小宮奏良「本庁では結構な大騒ぎに なっておりますよ~」
小宮奏良「もしかしたらパライソで起きた事は全部 三守さんの狂言で、それに気づいた ホストを三守さんが殺したんじゃないか」
小宮奏良「なーんて説が浮上して、 三守さんが重要参考人として 指名手配されたってのも把握しております」
城間龍昇「累が・・・重要参考人?」
小宮奏良「ま、あんな狡猾な人がこんな杜撰な 計画をするわけありませんけどね。 おそらくハメられたんでしょ?」
小宮奏良「口を開けば敵が増える人ですもんね~」
城間龍昇「奏良、頼む。昨日の夜から今日までの歌舞伎町の防犯カメラを確認してくれないか」
小宮奏良「りょです。三守さんに恩を売るって 言うのはヒジョーにそそられますし」
小宮奏良「じゃあ早速、警視庁生活安全部の サーバーにでもアクセスしましょうかね」
城間龍昇「あと、警察が設置してる以外の歌舞伎町の店の防犯カメラを確認して欲しい」
城間龍昇「歌舞伎町の1階にある店は大体、 外と中に防犯カメラを付けてんだ。 実際はダミーのカメラも多いがな」
小宮奏良「ほー、相互監視ってやつですか」
城間龍昇「お互いにそうやって監視し合う事で この街は成り立ってんだ」
城間龍昇「そういう意味では世界一安全な 繁華街なんだよ、歌舞伎町は」
〇繁華な通り
真渡愛瑠「もしもし~、ボクだよ~、メール見た?」
真渡愛瑠「義彦とパライソから近い距離で 三守クンを監禁出来そうな場所を ピックアップしたんだけど・・・」
城間龍昇「サンキュ、さっそく見たが・・・ 廃墟ビルにマンション、商業施設の バックヤード・・・色々あって頭が痛いな」
真渡愛瑠「ボク達はマンションや商業施設の方を当たってみる。何かあったら連絡チョーダイ」
〇繁華な通り
小宮奏良「某ですが~。 龍昇さんの読み通り、三守さんは 歌舞伎町から出てないみたいですなぁ~」
小宮奏良「昨日の深夜、パライソ近くの駐車場に 向かう姿以降確認されておりません」
小宮奏良「車も遠くから確認出来る画像が ありましたが、運転手までは 確認出来ませんでしたね~」
城間龍昇「そっか、ありがとう。・・・そうだ、 奏良。ひとつ聞きたい事があるんだが」
小宮奏良「なんしょ?」
城間龍昇「あのさ、スタンガンって・・・──」
〇繁華な通り
奏良との通話を切ると天を仰いだ。
灰色の雲から降っていた小雨が
すでに本降りとなり、
体を濡らしていくが気にしない。
城間龍昇(・・・逆に好都合だ)
先ほどの奏良との会話を思い出しながら
考えを巡らす。
犯人は監視カメラの目を掻い潜ってまで、
わざわざ累の車を有明まで移動させた。
警察の目を歌舞伎町から逸らしたとしか
思えない。
城間龍昇(やはり累は、 歌舞伎町の何処かで監禁されている)
歌舞伎町内の防犯カメラの死角を熟知し、
怪しまれる事無く、
累を運び出す事の出来る人物。
歌舞伎町内で成人男性を監禁出来る、
人目の付かない場所を知っている人物。
そして・・・一瞬でも累が
気を許してしまいそうな人物。
城間龍昇(・・・心当たりが無いわけではないけどな)
〇歌舞伎町
龍昇は雨に濡れるのも厭わず、
びしょ濡れのまま、人で溢れる歌舞伎町を
縫うように歩き回り、累を探す。
PARAISOの店舗がある裏路地に
差し掛かった時だ。
岸沢充「龍昇さん、ここにいたんですか! って、そんなに濡れて・・・! 傘ぐらい差さないと風邪をひきますよっ!」
城間龍昇「岸沢さん・・・」
レインコートを着た岸沢が慌てて
近寄って来た。
城間龍昇「――岸沢さんも累を探してるんすか?」
重要参考人として。
そう言いたげに聞く龍昇に
岸沢は慌てて首を振った。
岸沢充「あの、確かに探していましたが、 そういうのではなくて・・・」
しどろもどろになる岸沢は周りを見渡し、意を決したように再び口を開く。
岸沢充「――自分は三守警部が犯人だと 思ってません。だから龍昇さん。 落ち着いて聞いてください」
岸沢はこわばった顔で声を潜めると、
龍昇の耳元で囁いた。
岸沢充「・・・実は先程の巡回中に、 三守警部が監禁されてると思わしき場所を 見つけたんです」
〇荒れた倉庫
騒がしい歌舞伎町の一角から、そこだけ
切り取られたような寂しげな廃墟ビル。
その中に龍昇と岸沢は入っていった。
建物は老朽が激しく、雨漏りの音が
煩いくらいにフロアに響いている。
城間龍昇「・・・こんな建物がパライソの近くに あったなんてな・・・」
岸沢充「ここは元々悪質な金融会社の 所有するビルでして・・・」
岸沢充「ほら、この隠し扉の向こうに 階段があるんです」
朽ち果てた壁は引き戸で、
そこを開けると黴臭い匂いと
ぽっかりと黒い闇が広がる階段。
岸沢充「この先は図面には無い 地下室があるみたいで・・・」
岸沢充「大方隠し金庫にでもする つもりだったんでしょう」
岸沢充「で、この階段の前に こんなものが落ちていたんです」
そう言うと岸沢はスマホを差し出した。
城間龍昇「これ・・・累のスマホだ」
岸沢充「やっぱり・・・じゃあ、三守警部は・・・」
龍昇と岸沢は息を呑んで階段を見る。
ボロボロのコンクリートの階段は
地下へと繋がっていた。
城間龍昇「この下に・・・累が・・・」
累が監禁されているかも知れない。
龍昇は唇を噛んで、
階段の向こうを見据えた。
やっと発見出来た安堵と、
本当に累がいるのかと言う疑いと・・・
累が無事かという不安。
城間龍昇「岸沢さん、行こう」
龍昇が歩き出そうとした途端。
城間龍昇「!!」
首筋に鋭く痺れる痛みが走った。
岸沢充「――そんなに焦らないでください。 時間はたっぷりとありますから」
岸沢の嬉しそうな声を聞きながら、
床に崩れ落ちていった。
〇怪しい実験室
〇歌舞伎町
岸沢が歌舞伎町勤務になったのは5年前。
岸沢が30歳、龍昇が24歳の時だ。
城間龍昇「お。おまわりさん初めて見る顔だね」
警官だと言うのに警戒もせず気さくに声を掛けてくるホスト、それが龍昇だった。
城間龍昇「・・・で、あの店のママは最近妙な客に 絡まれて困っているみたいだからさ、 ちょっと巡回の回数を増やしてあげてよ」
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