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イトウアユム

第16話:嘘吐きのパラドックス<episode.2>(脚本)

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〇高級マンションの一室
  累が久々にマンションに帰ってきたのは
  その日の昼過ぎの事だった。
城間龍昇「おかえり、累」
三守累「・・・起きていたんですか」
  久しぶりに見る姿は、酷く憔悴していた。
  いつものような身綺麗さも無く、
  表情もどことなく暗い。
城間龍昇「・・・ああ、今日は同伴があるからな。 って言っても、後輩の同伴の付き合い だけどさ」
三守累「その同伴、断ってください。 そして当分休んでください」
城間龍昇「はっ?」
三守累「出来れば、あなただけでもこのマンションから出ないで過ごしてください」
  咎めるような口調で言い放つ累に、
  いら立ちを隠せなかった。
城間龍昇「そんなに危険だと思ってるなら、俺だけじゃなくパライソ全体を心配したらどうだ?」
城間龍昇「おまえ、あの日以来 一度もパライソに来てねえだろ」
城間龍昇「過去の事件にこだわり過ぎてるんだと したら、犯人の思うツボだぞ」
三守累「過去の事件・・・ あなたは、知っているんですか?」
城間龍昇「ああ・・・昨日、 敷島サンがパライソに客として来て・・・ 色々と話してくれたからな」
  本当なら、疑心暗鬼に陥っている累には、
  まだ何も知らないフリをするのが
  得策なのかもしれない。
  けれどもいつもの冷静な累に
  戻って欲しくて。
  俺も知っている、だから焦るな・・・
  そういう意味合いのつもりだったが。
三守累「・・・なるほど、珠里さんから・・・ 兄の話を聞いたんですね」
  累は自嘲気味に笑う。
三守累「そうです、きっと送り主の犯人は 僕を挑発してるんだと思います」
三守累「そして、マネキンの腕位じゃ上層部が 動かないと知っていて、笑っている」
三守累「くそ・・・なんでマネキンなんだ、 こんなものじゃ再捜査も出来ないのに。 せめて・・・人であれば・・・」
城間龍昇「は? おまえ今なんて言った?」
三守累「人間以外は被害者にならないんですよ、 だから事件だと思われない」
  自嘲しながら吐き捨てる累は、
  龍昇の顔色が変わり、
  声が低くなった事に気付かなかった。
三守累「そうだ。 いっその事、被害者が出れば・・・」
城間龍昇「累っ!」
  怒声がリビングに響く。
  龍昇は累の胸ぐらを掴んでいた。
城間龍昇「――いいか、二度とそんな事を言うな」
  そう吐き捨てると累を突き放し、
  リビングを出て行った。

〇歌舞伎町
城間龍昇「・・・ってなワケで、キャッチのコツは ひとつ・・・相手に迷惑に思われない事。 ま、ナンパと同じだ」
城間龍昇「しつこさは逆効果だし、諦めも肝心。 今日は調子が悪いなーって時は さっさと切り上げる」
キョウジ「なるほど・・・やっぱり龍昇さんは 凄いっすね。今日も勉強になりましたっ!」
  歌舞伎町の路上で何やら教えている
  龍昇に、若い男が頭を下げる。
  彼の名はキョウジ。最近PARAISOに
  入店してきたばかりの新人ホストだ。
城間龍昇「おいおい、頭なんか下げるなっての。 俺は先輩として当たり前の事を 教えてるんだからよ」
キョウジ「いいえ、そんな事ないっすよ。 その当たり前の事を、 俺は今まで教えて貰えなかったんで」
キョウジ「・・・そもそも、 あの時龍昇さんが助けてくれんかったら、 俺、ホストを辞めてたって思いますし」
  キョウジは元々、
  別のホストクラブで働いていた。
  その店は界隈でも評判が良くなく、
  キョウジはホスト達の
  いじめのターゲットとなっていた。
  ろくに仕事も教えられず、違法スレスレの
  キャッチを毎日強要されていたキョウジ。
  「俺がちゃんとしたホストの仕事を
  教えてやる」と龍昇は強引にPARAISOに
  引き抜いたのだ。
キョウジ「・・・マジ、龍昇さんは俺の恩人っす」
城間龍昇「ま、俺みたいな年増は未来のある若人に たくさん恩を売っておかないとな」
キョウジ「あはは、じゃあいくらでも買います。 あ・・・そういや龍昇さんって、 まだ三守さんのところにいるんですか?」
城間龍昇「あ、ああ・・・」
  キョウジの何気ない問い掛けに
  一瞬、言葉を詰まらせた。
キョウジ「あの・・・差し出がましいと思うんですが、もし良かったら俺と暮らしません?」
城間龍昇「え? おまえと?」
キョウジ「俺、ダチと2人で暮らしてたんですけど、 ダチが彼女と同棲する事になって、 昨日出て行ったんすよ」
キョウジ「一人で家賃払い続けるのはきついし、 龍昇さんもいつまでもお客さんちに 居候じゃ気まずいじゃないすか」
城間龍昇(確かに累とは気まずいまま・・ まあ帰ったところで、 累は当分いないんだろうけど)
城間龍昇「そうだな・・・おまえんちで暮らすのも 良いかも知れないな」
城間龍昇(少し、あいつと距離を置いた方が・・・ お互いのために良いかもな)
キョウジ「マジすか? やった! 龍昇さんと同棲だっ!」
城間龍昇「おまえも語弊がある言い方するなっての! こら抱き付くなよ」
キョウジ「へっへ。カップルに間違われますかね?」
  喜びのあまり路上でじゃれてくる
  キョウジに、呆れつつも笑みを返す。
???「・・・・・・」
  そんな2人を、人混みの中じっと
  見つめている人物がいた事を、
  この時の龍昇は知る由も無かった。

〇ビルの裏
城間龍昇「おい、大丈夫か? えーっと、タクシーは・・・」
  店の裏口から泥酔したキョウジを
  抱えて出て来た。
キョウジ「はい・・・へーきっすよ、へーき・・・」
城間龍昇「今日はタクシー呼んでやるから、 まっすぐ帰るんだぞ」
城間龍昇「ったく、あんなに シャンパンコールを張り切るからだ」
キョウジ「えへへ・・・なんか、龍昇さんと一緒に 暮らせると思ったら・・・ 嬉しくて飲み過ぎちゃいました」
  にへら、とキョウジは笑うとふらふらに
  なりながら龍昇に抱き付いた。
城間龍昇「おっと、おまえマジ酔い過ぎだぞ」
???「大変そうですね、龍昇さん。 自分がタクシーを呼んできましょうか?」
  背後から掛けられた声に振り返る。
城間龍昇「あ、岸沢さんこんばんわっす! ・・・って どうしたんですかこんな時間に?」
岸沢充「いやあ、この辺りの巡回の回数を増やしてるんですよ。この間の件もあったので」
  この間の件、と岸沢は声を潜めた。
岸沢充「所轄の刑事達はイタズラだなんて 言ってましたけど、自分はどうも 引っかかってましてね」
岸沢充「パライソみたいな同業者にもお客さんにも評判の良い店に、本当にイタズラであんなものが送られてくるのかって」
  ちゃんと地域を見守ってきた
  警察官だからこその疑問。
  その言葉は龍昇の胸にじいんと染みた。
城間龍昇「・・・気に留めて頂いて、 ありがとうございます」
岸沢充「いやいや、警察官として 当たり前の務めですから!」
岸沢充「それに龍昇さんには、 着任時からお世話になってますし」
岸沢充「龍昇さんは自分にとって特別な存在ですから。彼と同じですよ」
  龍昇にしな垂れるキョウジを見て岸沢は
  笑い、龍昇も「照れますね」とつられて
  笑った。
岸沢充「じゃあタクシーを呼んできますから、 待っててくださいね」
  そう言うと、
  岸沢は表通りへと走って行った。
キョウジ「ちゃんと・・・りゅうしょーさんの ふとん、用意して待ってますんで・・・」
  自分に抱き付いたまま
  幸せそうに笑うキョウジ。
  そして──
  それがキョウジの笑顔を見た
  最後となった。
  キョウジはその数日後に
  死体で発見されたのだ。

〇高級マンションの一室
  キョウジは自宅で胸を刺されて
  死んでいた。
  第一発見者は
  出勤しないキョウジを不審に思い、
  自宅を訪れたオーナーの琉汰だった。
  PARAISOは臨時休業し、
  龍昇達従業員は自宅待機を命じられた。
城間龍昇「・・・もう少し用心してやれば良かった」
  龍昇の呟きに累は小さく反応する。
城間龍昇「――キョウジは最近入って来たばかりで、 店にも馴染み始めて・・・ 先が楽しみなヤツだったんだ」

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