第15話:嘘吐きのパラドックス<episode.1>(脚本)
〇ホストクラブの待機スペース
PARAISOに人形の腕が送られた事件から
数日後
有坂祐樹「しっかし、あの刑事腹立ちましたよね~」
フロアの隅で待機する龍昇に、
ユウキが不満顔で愚痴を零す。
有坂祐樹「『あなた達は人に恨まれる事も仕事のうちでしょう』なんて言ってくれちゃって」
警察に届けたものの、事件性は無く、
おそらく嫌がらせだろうと判断された。
有坂祐樹「俺達の仕事は姫に楽しく、 気持ち良~くお酒を呑んでもらう事で、 恨まれる事なんて無いつーの!」
城間龍昇「・・・・・・」
有坂祐樹「龍昇さん、あの・・・ さっきから聞いてます?」
城間龍昇「あ、ああ・・・全然聞いてなかったわ」
有坂祐樹「ちょっと~! そこは聞いてなくても 聞いてたって言ってくださいよ~」
城間龍昇「悪い、悪い・・・あはは、最近金欠で どうしようかって悩んでてさぁ~」
有坂祐樹「よく言いますよ~、上げ膳据え膳で 三守さんちに居座ってるくせに~」
やれやれとため息をつくユウキ。
龍昇はぎこちなく笑い、軽口を返しながら
累の横顔を思い浮かべた。
城間龍昇(あの日から・・・累の様子がおかしい)
人形の腕を食い入るように見ていた
あの日から数日経つが、一度も家に
帰って来ていない。
心配で連絡をしても、警視庁に泊まり込みだと素っ気なく返すだけ。
その後連絡も無い。
城間龍昇(家に帰ってこなかったり、 生活の時間帯がズレてなかなか会えない なんて事は今までもあった)
城間龍昇(でもそういう時こそ・・・ 少しの間だけでも パライソに顔を出してたよな・・・)
勤務中に来るなよと呆れて龍昇が
言っても、累は涼しい顔をしていた。
城間龍昇(「休憩中なんです、それに僕が来ないと 今日も売り上げが無いでしょ」 なんて・・・軽口を叩いて)
なのに・・・今は
累がPARAISOに現れる気配は全く無い。
そんな状況に、妙な不安が広がる。
ボーイ「龍昇さん、 指名が入りましたのでフロアにどうぞ」
城間龍昇「えっ? 俺に指名?」
驚きつつもテーブルに向かい、
自分を指名した人物にまた驚いた。
〇ホストクラブ
敷島珠里「カンパーイっ!」
グラスがぶつかる音と
楽し気な男の声が重なる。
龍昇を指名したのは、
監察医の敷島だった。
敷島珠里「うーん! やっぱり仕事の後の一杯は美味しい~! 龍昇くんも遠慮せずに呑んで呑んで~」
敷島珠里「しっかし、今どきのホストクラブって 男1人でも入れるんだね。 昔は女性の同伴でもNGだったのに」
城間龍昇「うちは男性だけでもOKなんですよ。 店によってシステムは違いますけどね」
敷島珠里「そうなんだ、じゃあこれからも ちょくちょく来ようかな~」
城間龍昇「ぜひぜひ、ごひいきに!」
敷島珠里「そう言えば、その後・・・体調は大丈夫? 頭痛とか、無い?」
心配そうに顔を覗き込む敷島。
龍昇は笑って頭を横に振る。
城間龍昇「全然平気っス! ご心配をおかけしました」
敷島珠里「なら、良いんだ。 でも記憶って言うのは忘れたからといって 永久に消え去ったわけではないからね」
敷島珠里「君の脳の中に永久に残り続けるから・・・ あまりその力を使う事は お勧めできないかなぁ」
城間龍昇「ご心配ありがとうございます」
敷島珠里「記憶の上だと 君は何回も死んでる事になるんだし」
敷島珠里「死に関するストレスって、 案外深くて重いものなんだよ」
城間龍昇「大丈夫っス! ストレスとは皆無な身ですし なんといってもこの力とは付き合いが 長いですからね・・・もう慣れました」
敷島珠里「君はストレスとうまく付き合える 性格なのかも知れないね―― 累くんともうまく付き合えてるみたいだし」
城間龍昇「まるで累をストレスの塊みたいな 言い方を・・・ ま、否定はしませんけどねっ!」
城間龍昇「・・・でも、 最近は忙しそうで顔も見てないですけど」
冗談めかしつつも、
最後の言葉で少しだけ顔が曇る。
城間龍昇(ほーんと、アイツ自体が 俺のストレスの原因だっつーの)
敷島珠里「うーん・・・あれは忙しいと言うか・・・ 自分を追い詰めてるって感じかな」
敷島は困った様に眉を顰め、
ため息をついた。
城間龍昇「追い詰めてる?」
敷島珠里「このお店、 マネキンの腕が送られてきたんだって?」
城間龍昇「・・・さては累から聞きました? タチの悪いイタズラですよ」
敷島珠里「――でも、累くんはそう思っていないよ」
敷島は真面目な表情で
飲んでいたグラスをテーブルに置いた。
敷島珠里「龍昇くんは・・・ 15年前に引退した警視総監の孫が 誘拐されて殺されたって事件、覚えてる?」
城間龍昇「覚えていますよ。確か犯人はその孫の家庭教師で、逮捕前に自殺したんでしたっけ」
敷島珠里「その殺された孫の名前は、 三守紅葉(ミモリ モミジ)。 私の友人で・・・累くんの兄なんだ」
城間龍昇「――え? 累の・・・兄?」
15年前。
累が10歳の時、累の兄で当時高校3年生の紅葉は何者かに誘拐された。
それから1週間後、
犯人は三守家に、ある贈り物を届けた。
それは紅葉の手首だった。
その手首は生活反応が見られ、紅葉は生きたまま手首を切られていた事が分かった。
翌週には足首が届く。
こちらにも生活反応があった。
犯人の残酷な仕打ちに家族や捜査員は
怒り悲しむがそれでも希望があった。
生きたまま切断されたならば・・・
もしかしたら紅葉はまだ
生きているかも知れない。
その僅かな希望に縋り、
家族は待ち続けた。
敷島珠里「だけどその希望は打ち砕かれた。 その翌週・・・ 今度は紅葉の首が送られてきたから」
敷島珠里「そしてそれを開封したのは累くんだった」
城間龍昇「累が・・・」
敷島珠里「犯人はまるでプレゼントの様に 紅葉の体の一部を送って来たんだ」
敷島珠里「綺麗な箱に入れて、 黄色のリボンで結んで・・・」
城間龍昇「黄色のリボン・・・ 店に贈られてきた人形の腕も・・・ って事は、その犯人が再び?」
敷島珠里「――さっき龍昇くんも言ったでしょ、 犯人は自殺したって」
敷島珠里「警察も彼を犯人と断定し、 捜査本部は解散した」
犯人は紅葉の家庭教師の医大生だった。
紅葉の首が送られてきた後、警察は彼を
犯人と断定し、家に踏み込んだが
既に首を吊って死んでいたらしい。
敷島珠里「でも累くんは納得していない。紅葉の残りの遺体は依然発見されていないし、医大生の犯行動機も明らかになっていない」
敷島珠里「なのに捜査本部は早々に解散した。 だから累くんは昔から警察が何か 隠してると思っていたんだ」
敷島珠里「・・・真実は別にあるんじゃないかってね」
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