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イトウアユム

第14話:ネモフィラの祈り<final episode>(脚本)

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〇綺麗な病室
敷島珠里「――サイコメトリーという能力は」
敷島珠里「脳という記録媒体に他者の記憶の断片の 情報を蓄えて認識するような力ではないかな、と私は思うんだ」
  大原田の事務所での立ち回りから一週間後
  入院している龍昇の病室に
  累がひとりの男を連れて来た。
  男の名前は敷島珠里(シキシマ シュリ)。
  優しい口調は小児科医と言った風情だが、
  累の恋の相談役と言う噂の監察医である。
敷島珠里「今回はその記録媒体にまるまる1人分の 人生の記憶を、しかも短期間で無理やり 詰め込んでしまった」
敷島珠里「だから龍昇くんの脳はオーバーヒートの 状態に陥ってしまったんじゃないかなぁ」
城間龍昇「・・・その通りだと思います。 おばあに絶対に生身の人間を口寄せするなと、口酸っぱく言われてましたし・・・」
敷島珠里「その言いつけを破ってしまうくらい、君が 怒るのは分からないでもないけど・・・ 今後は気を付けようね」
  恋の相談だけではなく、
  龍昇の能力の事も相談していたらしい。
  龍昇が怪しまれる事無く、
  こうして検査入院する事が出来たのは、
  彼が院内で話を通してくれたおかげだ。
城間龍昇「はい・・・」
  反省しつつ、敷島の横に控える
  涼しい顔の累をちらりと見た。
  ――あの後、龍昇は丸二日、
  目を覚まさなかった。
  その間、累はと言うと・・・
  今日まで一度も龍昇を見舞う事が
  無かった。
  後に見舞いに来た愛瑠曰く、倒れた直後は救急車までは付き添ってくれたらしい。
  だが、異常が無いと聞くと
  さっさと帰ってしまったそうだ。
  そして、今日。
  敷島を連れてやっと初めて
  龍昇の病室に訪れたというわけだ。
  龍昇は一昨日、見舞いに来てくれた
  愛瑠とのやりとりを思い出していた。

〇綺麗な病室
城間龍昇「・・・あんにゃろ。 見舞いに来ないだなんて薄情過ぎるだろ」
  愛瑠に目を覚ますまでの
  いきさつを聞き、毒づいた。
真渡愛瑠「三守クンはさぁ・・・ 龍昇の事が本当に好きなんだね」
  龍昇の悪態に応じる事も無く、
  しみじみと呟く愛瑠に
  飲んでいた缶コーヒーを吹きだした。
城間龍昇「っぶはっ! な、なに言うんだよ、いきなり!」
真渡愛瑠「事件ってさ、犯人が逮捕されて 終わりじゃないんだよね」
真渡愛瑠「遺族は大変で、現場を掃除したり、 遺品を整理したり」
真渡愛瑠「遺言や遺産の手続きを取ったりさぁ・・・ でもそれって警察の仕事じゃないワケ」
真渡愛瑠「そもそも三守クンは出世欲の異常に強い、 ビジネスライクの権化みたいな人だし」
真渡愛瑠「今回みたいな・・・被害者や遺族の感情に 寄り添うために行動するなんて、 全然想像も出来なかったんだよね」
城間龍昇「ん? イマイチよく分からないんだが」
真渡愛瑠「三守クンは、今ね、北海道に行ってるんだ」
城間龍昇「北海道?! なんで?」
真渡愛瑠「――ナオと義彦が一番望んでいる事を、 実現させる」
真渡愛瑠「それが、お見舞いに来るよりも龍昇が一番 望んでいる事だと思ったんじゃないの?」

〇綺麗な病室
三守累「・・・では、今回の件での 後遺症等の懸念はありますか?」
敷島珠里「検査は異常無かったから、 後遺症は気にしなくて良いんじゃないかな」
敷島珠里「でも、生きている人間をサイコメトリー するのは絶対に止めるように」
敷島珠里「パソコンに繋げたまま、USBを無理やり引っこ抜くとデータがクラッシュするだろ?」
敷島珠里「――恐らく・・・大原田氏は脳内で それが起きたんだと思う」
城間龍昇「・・・そう、ですね」
  逮捕された大原田は
  もう以前の大原田ではなかった。
  殆どの記憶を失っていたのだ。
  事件の事も、家族の事も、
  自分の事もあまり覚えていないらしい。
  病院に収容され、精神的疲労による、
  重篤な若年性健忘症と診断された。
  ――忘れたいのは弟の存在か、
  自分の犯した罪か、それとも。

〇綺麗な病室
  敷島は「後は若いおふたりで」と
  どこぞの仲人の様なセリフを残し
  さっさと病室を去って行った。
城間龍昇「あーあ。俺、ついにやっちまったなぁ」
  ベッドに横たわり、思わず口から出た
  弱気な言葉に自嘲気味に笑う。
城間龍昇「・・・一人の人間をダメにしちまったよ」
三守累「これで良かったのかも知れません。 遅かれ早かれ、駄目になる人でしたし」
  いつもの調子で淡々と返す累は
  龍昇を見舞う前の出来事を
  思い出していた。

〇病室
刑事A「駄目だ・・・話にならん」
刑事B「殺人の方は物的証拠で 立証するしかないっすね・・・」
  刑事達が出て行った病室に
  累は花束を抱えて入る。
三守累「こんにちは、お加減はどうですか?」
大原田篤史「・・・どちら様ですか?」
  ベッドで上体を起こしたままの大原田は
  累を不思議そうに見つめた。
大原田篤史「もしかして・・・ 私の知り合いの方ですかね?」
大原田篤史「すみません、 実は記憶が定かでは無くて・・・」
  申し訳なさそうに眉尻を下げる大原田に
  数日前の険しい面影はまったく無い。
三守累「お気になさらず。 今はゆっくりなさってください」
大原田篤史「ありがとうございます・・・ 綺麗な花ですね・・・ あ、そうだ・・・思い出した!」
  大原田は思い出した事を
  嬉しそうに報告する。
大原田篤史「私の弟は花屋なんです。フローリスト・ スナオって店なんですけどね」
三守累「え?」
大原田篤史「若いながらに恋人と一緒に店を立ち 上げたんですよ。自慢の弟なんです」
  そう微笑む大原田に
  累は一瞬、言葉に詰まる。
  しかし、気付くとすぐに
  言葉を返していた。
三守累「ええ、存じ上げておりますよ。 素敵な弟さんですよね、それに恋人とも 仲が良くて・・・羨ましい限りです」
  咄嗟に出た自分の言葉に驚く。
三守累(何故、僕は・・・話を合わせたんだ? 少し前の自分ならありのままに話すだろうに・・・まるで、これは)
  唇の端をほんの少しだけ持ち上げ、
  困ったような笑みを浮かべた。
三守累(ああ・・・まいったな。これは・・・ だいぶ影響されているな――龍昇さんに)

〇綺麗な病室
城間龍昇「・・・ありがとな、累」
三守累「なんです、急に」
  予想もしなかった感謝の言葉に
  怪訝な顔をする累。
  龍昇は照れ隠しなのか、
  わざとぶっきらぼうに返す。
城間龍昇「あー、あれだよ・・・ナオの遺骨の件。 アイルから聞いたぞ」
城間龍昇「おまえ・・・俺が入院してる間、 わざわざ北海道まで行って、義彦が親戚に 掛け合うのを手伝ってくれたんだって」
  龍昇の言葉に累はいつもの様に
  涼しい顔をして言葉を紡ぐ。
三守累「・・・あるべきところに返すのが 筋だと思っただけですよ。 それに無条件ではありませんから」
三守累「大谷さんは遺骨を納める墓を建立する という条件をクリアしないと」
城間龍昇「それくらい義彦ならどうって事ないさ。 きっとナオのために頑張って稼いで 立派な墓を建てるって」
  直人が北未からいなくなった一番の原因は
  ゲイだという噂が立ったからだと
  直人の叔父は累に語った。
  小さな閉鎖的な町でマイノリティは
  本人だけでなく、親族に致命的な
  ダメージを与える。
  母親がシングルマザーだった事で
  叔父をはじめとする親族に迷惑を
  掛けてきた事を直人は身に染みていた。
  だから母親の四十九日の後、
  高校を自主退学し町から消えた。
  全てを見て見ぬふりをしていた叔父は、
  罪滅ぼしに遺骨だけでも引き取ろうと
  したのだという。
  そして勝手に、直人が殺されるような
  最後を迎えたのは
  ゲイだったからと思い込んでいた。
  だから義彦から遺骨を引き取りたいと
  連絡があった時も、話を聞く事さえも
  頑なに拒否した。
  しかし、
  累が根気良く叔父を説得した結果。
  完全にとは言えないが、
  直人と義彦が愛し合う「パートナー」
  だったという事を理解してくれた。
  直人が幸せな人生を送っていた事も。
  近いうち、義彦は遺骨を引き取りに
  行くだろう。・・・きっと必ず。
城間龍昇「・・・直接言わないと分かんない事って たくさんあるよな」
  もし直人の叔父が、大原田が、
  直人が・・・話し合う機会があったら。
  運命は変わっていたのかも知れない。
三守累「・・・そうですね だから、これからも僕は 言い続けようと思います」
三守累「あなたを好きだと」
城間龍昇「いや、そういう意味じゃなくて・・・ ったく。はいはい」

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