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イトウアユム

第12話:ネモフィラの祈り<episode.5>(脚本)

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〇整頓された部屋
  愛瑠からの連絡。
  「義彦がいなくなった」と。
  龍昇は嫌な予感を胸に抱えつつ、
  累と共に義彦のアパートにやって来た。
真渡愛瑠「ごめん・・・ボクが少し寝ちゃった隙に 義彦がいなくなったんだ」
真渡愛瑠「ずっと考えてたみたいだった・・・そしたらパソコンで帳簿とか見始めて・・・」
真渡愛瑠「『そろそろ店を再開しなきゃな』なんて 笑ってたから、前向きになったのかと 思ったんだけど・・・」
三守累「――パソコンで見ていたのは 店の顧客リストのようですね」
城間龍昇「昨日のサイコメトリーで、 もしかしたら・・・ 義彦は犯人の目星が付いたのかもな」
  直人は過去を話したがらなかった。
  友人である龍昇や愛瑠も
  出身地や家族構成さえも知らない。
  そんな直人が隠したい大切な秘密の相手。
  でも、パートナーだったら。
  これからの人生を共に過ごそうと
  決めていた深い仲の義彦になら・・・
  秘密の相手を
  打ち明けていたかも知れない。
城間龍昇「累! 頼む! 俺にフローリスト・スナオを 調べさせてくれっ!」
三守累「あの物件は現場検証も終わり、 もう警察の管轄外です」
三守累「鍵も大谷さんが 持っているでしょうし・・・」
城間龍昇「そこをなんとか頼む! 現場にはまだナオを殺した犯人に 繋がるようなものがあるかもしれない!」
城間龍昇「・・・義彦のヤツ、犯人を殺すつもりだ。 だからそれよりも先に犯人を捜さないと!」
真渡愛瑠「ボクからも・・・お願いするよ」
三守累「真渡さんまで・・・」
真渡愛瑠「ねえ、三守クン。 ボクもナオを殺したクズを一生許さないし 出来るならブッ殺してやりたい」
真渡愛瑠「でも、龍昇の見たナオの記憶を聞いて 思ったんだ」
真渡愛瑠「ナオは自分のせいで義彦の人生が 狂うような事を絶対に望んでないって」
真渡愛瑠「だから、どうか・・・ 力を貸して欲しいんだ」
三守累「・・・わかりました」
三守累「では、誰よりも早く犯人を探し出し確保 しましょう。大谷さんよりも、警察よりも」
城間龍昇「すまねえが頼む。おまえの立場を 悪くしちまうかもしれないが」
三守累「心配は無用です。 立場は自分で作るものですし、周りも 僕のスタンドプレーは慣れてますから」
  悪びれも無くさらりと言ってのける
  その態度に、
(こういう態度が敵を作るんだろうな・・・)
  と思いつつも、
  2人は累に心から感謝した。

〇お花屋さん
  管理会社に手帳を見せ鍵を確保した3人は
  フローリスト・スナオの店内に
  足を踏み入れた。
  外の喧騒が嘘に思えるくらい、
  店の中は静かでひやりとしている。
  花材を保管する大型の冷蔵庫や什器が
  置かれた壁際に、
  綺麗に積まれた無数のダンボール。
真渡愛瑠「こういう冷蔵庫の後ろって結構、 鑑識が見落としやすいんだよね」
  辺りを一回りした愛瑠は、壁に顔を押し付けて什器の裏側の隙間を確認しはじめる。
真渡愛瑠「よく落ちてるのが被害者のアクセサリー とか、争った時に剥がれた爪とか・・・」
真渡愛瑠「処分が難しいものばっかりで いつもなら手を焼くんだけど・・・ うーん、ちょっと見えづらいなぁ」
城間龍昇「爪だけに手か」
三守累「面白くありませんよ、 この冷蔵庫をずらしましょうか」
真渡愛瑠「あ、ありがと! 三守クンってば力持ちだねー・・・むむ?」
  少しだけ広がった壁との隙間に
  愛瑠は何かを見つけたらしい。
  手を入れごそごそ探りはじめる。
真渡愛瑠「あった、あったー!」
  引き出した手には、黒い小さな
  棒のようなものが握られていた。
城間龍昇「ん? それって印鑑ケースじゃね?」
  古いケースを開くと、
  中には印鑑が入っていた。
真渡愛瑠「石井、って彫ってあるね。 ナオの持ち物かな? サイズからして銀行印じゃない?」
三守累「しかし、石井さんのキャッシュカードや 通帳、印鑑は全て確認済です」
真渡愛瑠「じゃあこの印鑑は何に使ったんだろう? 朱肉もついてるから使用した事が あるっぽいんだけど」
三守累「そうですね・・・ではその印鑑の届けが ある銀行を探してみましょうか」
城間龍昇「簡単に言うけど・・・どう探すんだよ」
三守累「ご心配なく。手伝って頂けるお手伝いさんに心当たりがありますので」

〇電器街
  秋葉原。イベント会場前の歩道。
  長く連なる待機列にその人物はいた。
小宮奏良「・・・ああ、ゆりりんタンが すぐそばにいると思うだけで この空気すらも愛しく感じますなぁ~」
  大きなリュックサックを背負い
  順番を待つその人は累の「専属お手伝い」と言っても過言ではない奏良だった。
  前髪で顔が隠れているがその表情は
  これからの期待に、にんまりと笑みを
  浮かべていたが・・・
城間龍昇「いやあ、どこに出しても恥ずかしくない 立派なオタクの雄姿だねえ」
三守累「こんにちは、小宮君。 今日はとてもイキイキしてますね」
真渡愛瑠「え~? この子、本当に高校生なの? オタクの子って年齢不詳って よく聞くけど、ホントなんだね~」
  突如現れた無礼な3人に
  奏良は驚いて大声を上げた。
小宮奏良「ヒッ! あ、あんたたち、なななんでここにっ!」
小宮奏良「そしてまた無礼な陽キャが 1人増えてるしっ!」
城間龍昇「その節はドーモ、またお兄ちゃんたちの お手伝いをして欲しくてさぁ~」
小宮奏良「なんでここにいるって知ってたしっ!」
三守累「簡単ですよ、貴方の持ち物に GPSを仕込んでいるので」
小宮奏良「ひ、ひっ! ストーカー! け、警察、おまわりさん―!」
真渡愛瑠「あはは、なにそれ面白―い! ワザワザ呼ばなくても おまわりさんはここにいるのに☆」
城間龍昇「いや、GPSって・・・さすがの俺も引くわ」
三守累「迷える未成年が誤った道に進まないか 心配してるんですよ」
三守累「それにご両親からの許可は 頂いておりますし」
三守累「さあ帰りましょう、 小宮君に折り入ってお願いがあるんです」
小宮奏良「い、嫌だっ! 例え三守さんのお願いでも 今回ばかりは断固断るっ!」
小宮奏良「本日は、ゆるふわ系アニメ 『食うと暮らす』ヒロイン、黛ましろ役で 大ブレイク中の声優アイドル・・・」
小宮奏良「星ユリアちゃん、通称ゆりりんタンの 柔らか~いお手手に 接触の大チャンスなんですっ!」
真渡愛瑠「・・・うわっ、オタク特有のどうでも良い 長ったらしい説明と早口。 しかも言い方もキモっ」
城間龍昇「星ユリア? ・・・ああ、ユリア姫か」
三守累「龍昇さん、ご存じですか?」
小宮奏良「姫? 確かにゆりりんタンは プリンセスのごとき気品と清純さを 兼ね備えておりますが・・・」
城間龍昇「あー、そういうんじゃなくて。 姫ってお客さんの事な。 うちの常連だわ、ユリアちゃん」
小宮奏良「え? ゆりりんタンがホストクラブの・・・ 常連?」
城間龍昇「そうそう、しかもお得意様よ。 呑みっぷりもお金の支払いも豪快でさぁ。 ちょうど昨日も来店してくれてんだよね」
城間龍昇「ドンペリバンバン空けてくれて、 そのたびにシャンパンコールだからさぁ、 もー、俺の喉はガラガラよ」
小宮奏良「ちょちょ! ストップ! それ以上はやめて!」
小宮奏良「ゆりりんタンがホスト狂いだなんて・・・ 今までの清純なイメージが・・・」
城間龍昇「握手会って事はこの列の先に本人がいるん だな、ちょっと挨拶してこーよっと」
小宮奏良「だめだめだめ! そんないかにもチャラけた ホストでございますってアンタが ゆりりんタンに声を掛けないでくだされ!」
城間龍昇「え? 本人は別にホストクラブ通いは 隠してないって言ってたけどなぁ・・・」
小宮奏良「ゆりりんタンが良くても某達はダメなの ですっ! ・・・いや、某は良い!」
小宮奏良「ですが同志の夢だけは 壊さないでくだされ!」
小宮奏良「繊細な同志諸君が傷付くのだけは・・・ ご勘弁をっ!」
城間龍昇「お、おう・・・なんだかよくわかんねえけど、そこまで言うなら会うのは止めるわ」
  血反吐を吐くような奏良の懇願に
  押される龍昇。
  その様子を愛瑠は呆れた様に眺めていた。
真渡愛瑠「あーあ、龍昇ったら。 彼らは見返りの無い課金をしてるんだから 夢くらいは見せてあげよーよ」
三守累「・・・オタクの方って、思ったよりも 現実に対してナイーブなんですね」

〇おしゃれなリビング
小宮奏良「――と、言うわけで」
小宮奏良「気分を入れ替えてサクサク行きましょう。 今日はどんな犯罪行為に手を染めさせて 頂けるか楽しみですなぁ~」

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