第11話:ネモフィラの祈り<episode.4>(脚本)
〇整頓された部屋
大谷義彦「この指輪を・・・ サイコメトリーしてくれないか? そして俺にも見せてくれ」
大谷義彦「――ナオの最後の瞬間を」
義彦の言葉に龍昇は息を飲んだ。
城間龍昇「ナオの最期の瞬間を・・・ サイコメトリーして・・・ おまえも見るのか?」
大谷義彦「ああ。最期の瞬間、 ナオが何を思っていたか・・・ そして何を見たか知りたいんだ」
大谷義彦「それに・・・ナオを殺した犯人の 手掛かりが見つかるかも知れない」
〇黒背景
健の母「あのね、龍昇くんにお願いがあるの・・・」
〇整頓された部屋
脳裏に子供の頃の苦い思い出が甦る。
城間龍昇(・・・大丈夫、同じ失敗はしない・・・ あの頃よりも、 この力はコントロール出来る)
城間龍昇(もし、直人の最期の記憶が悲惨なもの だったら、すぐに止めよう。それに・・・)
室内を物色された形跡は無く、直人を殺した犯人は顔見知りの線が濃厚だという。
城間龍昇(ナオを殺した犯人がわかるかも知れない)
城間龍昇「分かった・・・口寄せをする。 ナオの最期の記憶をおまえにも見せるよ」
〇整頓された部屋
城間龍昇「いくぞ」
大谷義彦「ああ、心の準備は出来てる」
龍昇は緊張した面持ちの義彦の手を取り、
もう一方の手で指輪を強く握りしめた。
城間龍昇(・・・あったかいな、 これが・・・直人の想い)
指輪からゆっくりと、
記憶や感情が龍昇の中に流れてくる。
そして目の前が急にぼやけた。
〇ベビーピンク
大谷義彦「・・・阿呆、そんなもので泣くなよ」
直人の記憶の中の義彦は
柔らかな表情でこちらを見つめている。
頭を撫でる義彦の大きな手のひらの感触。
この手に触れられるだけで、痺れるような幸福感が手足の先まで満たされていく。
石井直人「泣くに決まってるよ! だって・・・こんなに嬉しくて・・・」
視界がぼやけているのは
直人が泣いているからだろう。
嬉しさ、喜び・・・
そんな温かい感情が胸の中に溢れてくる。
目の前には照れたような笑みを見せる
義彦と、自分の左手薬指のプラチナの
リング。
城間龍昇(指輪、嬉しかったんだな・・・ナオ)
〇お花屋さん
視界は変わり、
深夜のフローリスト・スナオ。
直人が段ボールから備品を取り出していると、人影らしきものが入ってくる。
この時、強く感じる感情は・・・
戸惑いだった。
〇黒背景
城間龍昇(どうしたんだ? ・・・こいつが犯人か? ん、なんだ急に・・・?)
三守累「犯人が見えましたか?」
城間龍昇「いや・・・いるんだが、 犯人のイメージが・・・伝わってこない」
三守累「伝わってこない?」
城間龍昇「それだけじゃない、この記憶自体、 音も聞こえないし、色も無い・・・」
さっきまで鮮明だった記憶は途端、
白黒のノイズ交じりの映像になった。
直人が話しているであろう人影も大きく
ぼやけ、男女の違いすらもわからない。
城間龍昇(これは・・・ナオの意識が意図的に この人物を隠そうとしてる、のか?)
様々な感情だけが強く伝わってくる。
緊張、後ろめたさ・・・そして、
僅かな期待が生まれた瞬間。
〇整頓された部屋
城間龍昇「くっ! はっ・・・!」
大谷義彦「ぐはっ・・・!」
龍昇と義彦が同時に首を抑えて
呻きだした。
真渡愛瑠「2人ともどうしたのっ!?」
三守累「・・・多分、石井さんの死の瞬間の記憶を 追体験しているのでしょう」
三守累「犯人は石井さんの真正面から、 至近距離で絞殺したと推測されます」
三守累「龍昇さん、大谷さん、 犯人の顔は見えますか?」
城間龍昇「だめ・・・だっ! 見え、ね・・・」
城間龍昇(もっと強く、読み取らないと・・・!)
犯人は直人を絞め殺した。
顔は間近に迫っていたはずだ。
もっと深く読めば、
輪郭ぐらいはわかるかもしれない。
龍昇は再び、しっかりと
指輪と義彦の手を握りなおす。
だが。
〇白
城間龍昇(息苦しさが、消えた?)
今までの苦痛が嘘のようにスッと消え、代わりに幸せな高揚感が体中に満ち溢れる。
そして、直人の首を絞めていた人物の顔が
ゆっくりと、はっきりと浮かび上がり、
色も取り戻し・・・。
大谷義彦「嘘だろ・・・」
義彦は呆然と呟いた。
〇ベビーピンク
大谷義彦「なんで・・・なんで俺が・・・ ナオを殺してるんだ?」
直人の目の前には義彦の笑顔があった。
大谷義彦「俺、じゃない・・・ 俺はナオを殺していない」
三守累「しっかりしてください、大谷さん。 あなたにアリバイがあるのは ご自身が一番ご存じのはずだ」
大谷義彦「・・・でも、なんで・・・、 ナオが最後に見た光景が俺なんだよ?」
〇整頓された部屋
龍昇は喘ぐように呟く。
城間龍昇「直人は幻影を見たんだ・・・ 死の瞬間を迎えて、反射的に・・・ 苦しまないで死ねるようにって」
三守累「死の直前の幻影・・・なるほど」
真渡愛瑠「どういう事なの?」
三守累「人間は死ぬ時、その苦しみが長いと 脳内麻薬を分泌して、 苦しまないように死のうとします」
三守累「そして、幻覚症状を起こすのですが、 その幻覚は時として過去の幸せな記憶や 大切な人の記憶を引き出す事が多いのです」
真渡愛瑠「・・・つまり、ナオは走馬灯を見てる、 ってこと?」
〇花模様
再び龍昇達の見ている記憶が変わる。
初めて花屋で出会った時の
義彦の仏頂面。
好きだと告白された時の
義彦の男らしい顔。
初めて2人で迎えた朝、
腕の中から見上げる義彦の優しい表情。
そして・・・指輪を自分に差し出して
照れ臭そうに、でも真っすぐに自分を
見つめてくれる義彦。
明かりに照らされた影絵がくるくると
回転するように、直人の記憶が、義彦との思い出が鮮やかに映し出されていく。
死を迎え入れようと覚悟した直人は、
義彦の事を想って死の苦しみから
逃れようとしていたのだ。
やがてその思い出は
ゆっくりと儚く消え・・・
石井直人(ありがとう・・・龍昇)
自分の記憶が龍昇に読まれると
予感していたのだろう。
感謝の想いを記憶の中の直人が囁く。
石井直人(義彦、どうか幸せに・・・愛してるよ)
そして。
その想いを最後に、
直人は死んだのだった。
〇整頓された部屋
龍昇の手の中から指輪が落ち、
転がって義彦の膝にぶつかった。
城間龍昇「義彦・・・」
その指輪を義彦は拾い上げ、
大切そうに手のひらで包み込む。
義彦の顔は涙で濡れていた。
大谷義彦「幸せになんて・・・ そんなの、お前がいなけりゃ、 ダメなんだよ・・・っ!」
大谷義彦「ナオ・・・ナオ―ッ!!!」
義彦は泣き崩れ、
直人の名前を呼び続けた。
〇高級マンションの一室
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