第10話:ネモフィラの祈り<episode.3>(脚本)
〇高層ビルのエントランス
城間龍昇「まあ・・・想像はしてたけど、これは はるかに想像の上を行ったなぁ・・・」
よく磨かれた大理石の床に映る自分の顔に
驚きながら、ため息をついた。
累の勤務時間に合わせ、いつもは明け方
までの勤務を早めに切り上げ、
連れられて来たのが、都内の一等地にある
この高級タワーマンションだった。
城間龍昇「コンシェルジュサービスがあるマンションとか本当にあったんだな・・・ なあ・・・ここ、かなりお高いんだろう?」
三守累「さあ。どうなんでしょう。 このマンションは実家の資産なので分かり かねますが、管理費はまあ高い方ですね」
城間龍昇「実家の資産って! おまっ! その年で親のスネかじってるのかよっ!」
三守累「僕だってもっと相応なマンションが 良いですよ。でも、過保護な親なもので。 それに心配させたくありませんしね」
累の一瞬だけ見せた表情に
既視感を覚えた。
〇黒背景
三守累「――しかし、それだと時間が掛かり過ぎる それに、僕の手柄になりません」
〇高層ビルのエントランス
城間龍昇(ん? まただ・・・ あの時と同じ空気と言うか・・・ 目付きと言うか)
PARAISOで見せた、
どこか遠くを見るような・・・
でも何かを決意した様な眼差し。
城間龍昇「まあ、親が過保護なら仕方ねえよなぁ。 親孝行したい時に親は無しって言うし、 甘えるのも一つの親孝行だ」
城間龍昇「・・・なんて家出して上京した俺が 言っても説得力は無いけどな」
〇部屋の前
三守累「龍昇さんの部屋は こっちのゲストルームです」
城間龍昇「ええっ! ゲストルームなんてあるのか? うわっ! めちゃくちゃ広いしっ!」
三守累「広くて寂しいなら 僕の寝室でも良いんですが」
城間龍昇「それは遠慮させて頂きます・・・ えいやっ!」
ゲストルームのベッドに子供の様に
身を投げる龍昇に累は説明を続ける。
三守累「こっちの書斎には勝手に入らないでくださいね。 仕事関係の資料や書類がたくさんあるので」
城間龍昇「了解っ! うぁ~こんな寝心地の良い布団で 寝るのは久しぶりだぁ~」
三守累「そのまま寝て良いですよ、 と言いたいところですが お風呂に入ってから寝てくださいね」
三守累「お腹が空いたら冷蔵庫にあるものを 勝手に食べて頂いても構いませんから」
城間龍昇「ん? おまえどっか出掛けるのか?」
三守累「担当の管轄で殺人事件がおきまして。朝 には帰ってこれるかと思うのですが・・・」
城間龍昇「そっかそっか! 頑張って行ってこーい! 俺はお前んちを思いっきり堪能させて もらうからよっ!」
〇高級マンションの一室
城間龍昇「・・・あ~、ここは天国過ぎるなぁ」
イタリア製の高級ソファに背を預け、
夢見心地に呟いた。
ガラス製のリビングテーブルには
高価なワインボトル。
チーズやナッツ類の袋も散らばっている。
広過ぎる浴室で身を清め、濡れた体を
拭くのもほどほどにキッチンをあさり
「仕事の後の一杯」を満喫していた。
城間龍昇「絶対、あると思ってたんだよな~ ワインセラー」
城間龍昇「あんなにぎっしり入ってたんだから 1本くらい呑んでも平気だろ」
ひとり言をしつつ、
高層階からの夜景を楽しむ。
クリスタルのワイングラスに口を付け、
赤褐色の液体を飲み干すと、
満面の笑みを浮かべた。
城間龍昇「かーっ! 仕事終わりで 風呂上がりのワインは最高だなっ!」
城間龍昇「またこのバスローブが ふわふわで着心地が良いこと・・・」
仕事のアルコールの残りも手伝い、
ワインを1本飲み干す頃には、
寝息を立ててソファに沈み込んでいた。
〇水玉2
城間龍昇(・・・ん、体が熱い・・・ 飲み過ぎたか・・・)
ふと、肌の上に感じる熱で
龍昇の意識は浮上していった。
城間龍昇(違う・・・ 誰かが俺の体に触れてるんだ・・・ その手の熱が熱いのか)
熱く長い手指がしなりながら、
肌の上をゆっくりとまさぐっていく。
それは龍昇の体を優しく、
時には欲望を煽るように。
城間龍昇(誰か、って言っても・・・ 最近、そういう事はご無沙汰だし)
城間龍昇(この屋根裏部屋には 狭くて誰も連れ込めねえしなぁ)
その指をどかそうとするものの、
妙な浮遊感を感じて、
手に力は入らず、目も開かない。
城間龍昇「んっ・・・はぁ・・・」
代わりに口から甘ったるい呼気が落ちる。
城間龍昇(あー・・・欲求不満だから、 夢を見てんのか)
城間龍昇(夢なら、このままで良いか・・・ 気持ち良いし・・・)
アルコールの余韻が
思考能力を低下させた結果。
これを夢と断定し、
その快楽に身を任せていく事にした。
敏感な個所に絡みついてくる指先はそんな思惑を汲む様に次第に大胆になっていく。
城間龍昇「あっ・・・はっ・・・」
頭の先からじわじわと
体中に広がっていく快楽。
城間龍昇(妙にイイ場所ついてくるよなぁ・・・ 男のイイ場所を知り尽くしてるって 感じで、まあテクニシャンですこと)
しかし、
ふとある記憶が脳裏をかすめる。
城間龍昇(ん? 部屋って・・・俺、確か火事で・・・ そしたら、累の家で・・・って? これ、もしかして・・・・夢じゃない?)
ハッと見開いた目の前。
城間龍昇「かさ・・・ね?」
そこには累がいた。
妙に艶めかしい眼差しで、
龍昇を見つめている。
そして、目を閉じゆっくり近づいて来る
顔と口唇。
城間龍昇(俺・・・このまま・・・)
柔らかな感触が唇に伝わるのも
時間の問題。
城間龍昇(累と・・・しちまうのか・・・?)
初めて同性に唇を許してしまうのか?
羞恥と背徳と、興奮。
胸裏が熱く焼かれて行く様な感覚の中、
思わず呼吸を止めてしまう。
やがて瞼もゆっくりと
閉じ伏せられていき──
〇高級マンションの一室
城間龍昇「・・・って! 絶っ対にっ! させねーからっ!!!」
三守累「――おはようございます、龍昇さん。 何寝ぼけているんです?」
奇声を上げて起き上がった目の前には
夢と違い、呆れ顔の累が見下ろしていた。
城間龍昇「累ッ! 寝ぼけ? おまっ、俺に変な事しなかったよな?」
着衣の乱れが無いか確認し、バスローブの前を思いっきり合わせる龍昇に累は鼻で笑う。
三守累「変な事? フフ、おかしなこと言いますね。 僕の秘蔵のワインを飲み散らかして 酔いつぶれている人にですね」
三守累「徹夜で捜査会議に参加して疲れて帰って きた僕が、欲情する元気があるとでも?」
城間龍昇「そ、そうだよな・・・はは・・・」
城間龍昇(夢で良かったーッ!!!)
城間龍昇「しかし、この秘蔵のワイン めっちゃ美味かったなぁ。 さすが累っ! ワイン選ぶセンスあるっ!」
三守累「そういう龍昇さんだってセンスがありますよ。さすが夜のお仕事が長いだけある」
三守累「・・・ワインセラーの中から 時価50万以上するシャトー・ペトリュスの 20年物を選ぶだなんて」
城間龍昇「ごごごごじゅうまんっ!」
三守累「楽しみにしていたんですけどね・・・ 僕の昇進祝いに呑もうと決めていたんです それを・・・」
表情は代わっていないが、
淡々と龍昇を刺す言葉の数々に
累の立腹度合いが伝わってくる。
城間龍昇「す、すまねえ! まさかそこまで 高いとは・・・か、必ず弁償するからっ!」
三守累「龍昇さんに支払い能力があるなんて 思いませんが・・・そこまで言うなら」
城間龍昇「体で返せってのはナシだぞ!」
三守累「じゃあ体を担保にしてもらいましょうか」
城間龍昇「おんなじ意味だろっ!」
充電を済ませた龍昇のスマホが
着信を知らせる。
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