第7話:ネメシスの伝言<final episode>(脚本)
〇ホストクラブの待機スペース
今夜も『PARAISO』は満員御礼。
新人ホスト「龍昇さん~! 俺、やっと お客様から本指名貰えましたっ!」
初めて指名が貰えた新人ホストが
龍昇に泣きついてきた。
新人ホスト「これも龍昇さんがヘルプに入ってくれたり 指導してくれたおかげですっ!」
城間龍昇「なーに言ってんだよ、お前が頑張ってた から結果が実を結んだんだろ」
泣きじゃくる新人ホストの頭を撫でる
龍昇の表情は優しく、
自分の事の様に嬉しそうだ。
城間龍昇「それにおまえは絶対、 広畑様と気が合うと思ってたんだよ・・・」
そんな光景を眺め、
ユウキはため息をついた。
有坂祐樹「広畑様は最初、龍昇さん目当てで 通ってくれてたのに・・・」
有坂祐樹「また龍昇さんったら 指名のチャンスを逃して・・・」
勝院寺レイヤ「ふふ。 あの人はね、わざと逃したんだと思うよ」
勝院寺レイヤ「だから指名の話も じっくり広畑さんに説明してたじゃない」
ホストクラブでは一度本指名を決めると
よほどの事が無い限り、指名は変えることが出来ない。
だから本当に自分に合う人を選んで欲しい
と、自分を指名しようとする客に龍昇は
毎回真剣に説明していた。
勝院寺レイヤ「あれって本人は気付いていないけど 遠回しに断ってるよね。 だから、お客様はわかっちゃうんだ」
勝院寺レイヤ「ああ、この人は指名よりも自分たちと 他のホストを繋ぐ事に仕事の楽しさを 見出してるんだって」
勝院寺レイヤ「そして殆どのお客様は、龍昇さんの気持ちを汲んで指名するのを止めるんだ。 指名しなくてもヘルプでついてくれるしね」
勝院寺レイヤ「フロアで楽しく動き回る、 そういう自由な方が龍昇さんらしいって」
有坂祐樹「でもそれって・・・ 売り上げにならないじゃないですか」
勝院寺レイヤ「確かにユウキの言う通り 中堅のホストとしては致命的かもしれない」
勝院寺レイヤ「でもそれって・・・ ある意味凄いと思わない?」
勝院寺レイヤ「自分の損得勘定だけではなく、 お客様やキャストの為に動ける。 あの人は俺の憧れるホストだよ」
それに、と意味ありげにレイヤは笑った。
勝院寺レイヤ「売り上げの件は 心配いらないんじゃないかな」
勝院寺レイヤ「龍昇さんには 太いお得意様が付いたみたいだし」
〇ホストクラブのVIPルーム
PARAISO、VIPルーム
累はグラスを傾けながら、
思い出したように話を切り出した。
三守累「ネメシスとは・・・ よく復讐の女神の代名詞に使われますが、 元々は義憤の意味です」
城間龍昇「義憤、だぁ?」
テーブルに並んだ豪華なフルーツの盛り合わせを口に運びながら龍昇は問い返す。
三守累「ええ、ネメシスはその義憤を体現した 化身だと言われているそうです」
あの事件から一週間。
累はPARAISOに客として現れ、
「捜査協力のお礼」と龍昇を指名した。
好きなものをどうぞとの言葉に
龍昇は遠慮なく高価なドリンクや
フードを注文したのだった。
VIPルームはオーナー琉太の計らいだ。
三守累「義憤とは人として生きる上で、守るべきである正義や道徳から外れたことや不公正なことへの怒りの事を指します」
三守累「暮林のした事は明らかに正義や道徳から 外れていた」
三守累「暮林は天使の像の姿を借りた本物の ネメシスに粛清されたんですよ」
城間龍昇「・・・いきなり何言いだすんだ? おまえらしくないし」
三守累「ですよね。自分でもそう思います。でも、こういう時はあなたが落ち込んでいるので励ましてあげるべきだと言われましたので」
城間龍昇「落ち込んでないっての。むしろ暮林が 怪我で終わってがっかりしてるところだ」
暮林は天使の像の下敷きになったが、
救出され無事に逮捕された。
怪我自体は大した事は無かったが、
靖枝の霊に未だに怯えて、
自ら積極的に自白をしているらしい。
メールの最初のきっかけは、
ちょっとした好奇心だったと言う。
だが、自分のメールで犯人を殺す遺族を
見て、暮林は自分が人の命を左右する
絶対的な力を持った気になってしまった。
メール1通で、悲しみの遺族は
殺人者へと変貌する。
それがたまらなく快感だった、と。
城間龍昇「ま、気遣いありがとうよ。でもさ・・・ ひとつだけ納得いかない事があるんだよな」
城間龍昇「あの事件ってさ・・・もしかして、 俺がいなくても解決したんじゃね?」
三守累「でしょうね。地道な警察の捜査だけでも いつか解決したと思います」
城間龍昇「おい! そこは否定しないのかよっ! お前なあ、口寄せってお前が思って いるより大変なん・・・」
三守累「――しかし、それだと時間が掛かり過ぎる それに、僕の手柄になりません」
出世に拘る累の発言に、呆れたが──
城間龍昇(ん?)
きっぱりと言い切る累の眼鏡越しの
まなざし。
それに何か心に誓っているかのような、
重く真摯なものを感じた。
城間龍昇(――こいつには、 こいつの事情があるんだろうな・・・)
城間龍昇「ま、良いか。 時間を掛けてたら次の被害者も出ていた かも知れないしな・・・そう言えば」
話題を変えるように努めて明るく
問いかける。
城間龍昇「そう言えば、 麻沙美ちゃんはどうなったんだ?」
城間龍昇「ユウキの誤解は解けたようだけど、 少し落ち着いた?」
三守累「彼女には、あなたに言われた通り、 お姉さんのパソコンを確認して もらいました」
三守累「パソコンには同僚の男と不倫している やりとりのメールが こっそり転送されていたそうです」
城間龍昇「お・・・佳代子さんも心の何処かで 男の事を信用してなかったんだろうなぁ」
三守累「しかも不倫の記録の日記も チャットアプリのスクリーンショットも 証拠となるものがばっちり残っていました」
三守累「なのでアドバイスしましたよ、 そういう輩はこの物的証拠を持って 抹殺した方が良いでしょう、と」
涼しい顔で言い切る累に龍昇は慌てる。
城間龍昇「抹殺って! そりゃだめだろ! ・・・確かに最低な男だけど、 警察のお前が殺せとか・・・」
三守累「社会的にと言う意味ですよ」
三守累「不倫のカモフラージュを強要するくらい 世間体を気にする男なら、そっちの方が 命を奪われるよりダメージが強いでしょう」
三守累「殺したいくらい憎いなら、 殺して終わりにさせてはいけない。 生きる事が苦しいくらい苦しませるべきだ」
三守累「それに、大切な妹のあなたがそんな 最低男の血で手を汚せばお姉さんも 浮かばれないでしょう、そう伝えましたよ」
城間龍昇「そしたら?」
三守累「そうですね社会的にブッ殺してやります、 と意気込んでましたよ」
三守累「全てが終わったら供養代わりに またここに来店するそうです」
変わらず涼しい顔のままの累に
龍昇は拍子抜けしたように笑った。
城間龍昇「そっか・・・ はは、たくましいな麻沙美ちゃんは」
城間龍昇「でもその通りだよな、頑張って 不倫野郎を社会的に殺して欲しいよ」
城間龍昇「――だけどよ、警察として そのアドバイスはどうなんだよ、累」
三守累「え?」
驚いたように累は目を丸くして、
龍昇をしげしげと眺める。
その視線が無遠慮過ぎて、
龍昇は思わずたじろいだ。
城間龍昇「ど、どうした? 急に驚いたような顔しやがって」
三守累「・・・あなたに名前を呼ばれるとは 思わなかったので」
城間龍昇「イヤか?」
三守累「いえ・・・」
城間龍昇「なんか、今更 三守さんって呼ぶのもなんだしさ」
俺の方が年上なんだし、
と偉そうに笑う龍昇を累はじっと見続け、
ゆっくりと口を開いた。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)