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イトウアユム

第8話:ネモフィラの祈り<episode.1>(脚本)

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〇銀座
  高級ブランドショップが立ち並び
  気品や高級感が漂う街『銀座』
  夜は歌舞伎町とは違う賑わいを見せる。
  そんな華やかな街の交差点で
  龍昇は悔しそうな表情を浮かべていた。
城間龍昇「あーあ! 今回のレースは絶対にヨルノテイオーが 来ると思ってたんだけどなぁ」
城間龍昇「・・・まさか直線で あんなにスピード落とすとは・・・」
  一緒に信号待ちをしている累は
  呆れた表情を見せる。
三守累「またその話ですか。実績も人気も 無い馬なのによく買いましたね」
城間龍昇「名前にビビビって来たんだよ。 だってヨルノテイオーだぞ?」
城間龍昇「ホストたるもの絶対買わないと って馬名だろ!」
三守累「で。馬券に有り金全部つぎ込んで 今は一文無しだと」
城間龍昇「うっ」
  あの衝撃の告白の後。
  累は時々PARAISOに来店し
  龍昇を指名していた。
  デートを迫る事はあるが
  決して強引ではない。
  それどころか普通に飲んで普通に帰る
  「綺麗な飲み方」の太い良客。
  当初は身構えていた龍昇だったが次第に
  累に対しての危機感が薄れていった。
城間龍昇(累はバリバリのゲイって感じでもないし もしかして・・・)
城間龍昇(俺に対しての友情を 愛情と勘違いしてるのか?)
城間龍昇(あり得る。 こいつ、人とのコミュニケーション取るの 下手過ぎだから、友達いないだろうし)
城間龍昇(その辺りの経験値も少なそうだしな・・・ それにだ。万が一、いや億が一・・・ それが本当に恋だとしても・・・)
城間龍昇(俺みたいな冴えない年上ホストを 追っかけるのなんてすぐに飽きて お似合いのパートナーを見つけるだろうよ)
城間龍昇(よし! じゃあそれまで俺が友達に なってやって、面倒をみてやるか)
  と、楽天家の龍昇らしい結論を出し
  こうして休みのたびに食事や買い物などの
  遊びに付き合わせるようになった。
城間龍昇(それに、累といるとイラつく事も 多いけど、妙に居心地が良いんだよなぁ。 何よりも・・・)
城間龍昇「いやあ・・・そんな哀れな文無しに 今日もあんなにうまい寿司を奢って くれるなんて。累さんには感謝ですぅ」
  満足げに腹を擦りながら累をおだてる。
三守累「安心してください。 見返りを期待している投資ですから」
城間龍昇「・・・一番安心できねえ投資だな。 体以外でお返しさせて頂きますのでっ!」
三守累「それは困ります。給与を全てクズ馬券に つぎ込むようなあなたですよ。 体以外は期待が出来ません」
城間龍昇「生々しい言い方はやめろって! しかし、絶対来ると思ってたのによぉ ヨルノテイオーのばかやろー!」
石井直人「ふふっ」
  二人のやりとりに耐えきれないように笑う
  隣で信号待ちをしている青年。
城間龍昇「ん? ・・・ナオ! こんなところで会うなんて奇遇だな」
石井直人「ごめんなさい、二人のやりとりが 面白くて・・・つい聞き入っちゃった」
  ふわりと微笑む青年は
  石井直人(イシイ ナオト)。
  儚げで控えめなその笑顔は
  愛瑠とはまた違った可愛さだ。
石井直人「久しぶり、龍昇。こんばんは 龍昇の友達の石井直人って言います」
  ナオと呼ばれた青年は隣にいる累に
  丁寧にお辞儀する。
三守累「初めまして、三守と申します」
石井直人「あなたが三守さんですか! お噂はかねがねお聞きしています」
城間龍昇「おいおい、どんな噂なんだよ・・・ さてはアイルのやつだな あいつ今度会ったらとっちめてやる」
  憤慨しながら龍昇は直人に
  切々と語り始めた。
城間龍昇「いいか、ナオ。俺と累は確かに仲が良い。 だがそれはあくまでも友達としてだ お前たちの期待しているような仲じゃない」
三守累「・・・と、本人は思い込みたいようなので そう言う事にしています。 そっちの方が何かとつけ込みやすいので」
城間龍昇「絶対つけ込まれねえからなーっ!」
石井直人「三守さん、これからも龍昇と仲良くして くださいね、俺も応援しますんで。 あ、そうだこれ」
  直人は思い出したかのようにカバンから
  カードを取り出すと、龍昇と累に配る。
三守累「フローリスト・スナオ?」
城間龍昇「おっ! 新しいショップカードか!」
  フローリスト・スナオと箔押しされた
  ショップカード。
  龍昇は嬉しそうに受け取った。
石井直人「うん。やっと実店舗を持てる事になったから、住所を記載したカードを新調したんだ」
城間龍昇「ついにお前たちの店がオープンか! ・・・店は事故物件じゃないか? もし心配なら俺が見に行こうか?」
石井直人「ふ、ありがとう。 でも大丈夫だよ、新築物件だから」
三守累(――この人は知っているのか)
  龍昇はサイコメトリーの力を
  自分の信頼している人物にしか話さない。
  故にこの人物は龍昇が信頼している友人
  である、という事実に累は興味を持って
  2人の会話を聞き始める。
城間龍昇「遠慮すんなって~、ま、オープンには でっかい花束を買いに行くよ!」
石井直人「楽しみにしてる。ちゃんと来てよ、あっ そのカードを投げたらげんこだからね」
  楽し気な会話を繰り広げる2人を
  累は横目で眺めていた。

〇シックなバー
城間龍昇「ナオと知り合ったのは 義彦に紹介されたのがきっかけなんだ」
三守累「義彦?」
  照明がムーディーに落ちた
  オーセンティック・バーのカウンターで
  2人は並んで酒を傾けていた。
  直人と別れた後
  呑みたいと龍昇が累を誘ったのだ。
城間龍昇「上京当時から付き合いのある 古いダチだよ」
城間龍昇「元はアイル経由で知り合ったんだけど アイルは元ヤンじゃん?」
三守累「真渡さんは元ヤンキーなんですか?」
城間龍昇「ああ、今は猫被ってるけどな。 まあその頃の義彦は手の付けられない ワルでさぁ。アイルも手を焼いてたっけ」
城間龍昇「でも、そんなあいつがある日 真面目になるなんて言い出して 花屋で働きだしたんだよ」

〇黒背景
大谷義彦「なんかよ 虚しくなっちまったんだよ・・・」
大谷義彦「人を殴ったりとか 騙したりとか、憎んだりとか・・・」
大谷義彦「もう、そういうのが全部どうでも 良くなって、死にたくなった時・・・」
大谷義彦「そんな時に、まっすぐに綺麗に 咲いている花を見ていたら・・・」
大谷義彦「俺、何やってんだろうって 気持ちになったんだ」

〇シックなバー
城間龍昇「・・・悪い世界から抜けるきっかけなんて 些細なモンだ。 それが義彦にとっての花だったんだろう」
城間龍昇「そして義彦の働いている花屋の常連客が ナオだった」
  直人は二丁目のバーで働く
  ボーイだったという。
  出勤開けの早朝、24時間営業の義彦の店で必ず花を買っていた。
  誰にも見向きもされない
  萎れかけたサービス品の花ばかりを。
  ある日
  義彦はその理由を聞いたのだという。

〇花模様2
石井直人「・・・この子達が、誰にも見向きもされないまま捨てられるのは、可哀そうだから」
  過去を捨て一人で上京した直人と
  親や周囲に見捨てられた義彦。
  2人には何か通じるものが
  あったのかもしれない。
  最初は店員と客。
  やがて友達同士になり
  そして・・・

〇シックなバー
城間龍昇「――2人は付き合いはじめた。 そしてナオは夜の世界から足を洗って 義彦と一緒に小さな花屋を始めたんだ」
  2人の始めた花屋「フローリスト・
  スナオ」は店舗を持たない、WEBや
  電話で注文を受ける形態の店だった。

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