Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

GoToフェス!(5)(脚本)

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山本律磨

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〇川沿いの原っぱ
蓬莱合唱団「さん、はい!」
オイサン「す、すっちゃからんら~ん。めっちゃかばんば~ん」
蓬莱合唱団「オイサン!照れてんじゃねーよ!」
蓬莱合唱団「歌詞に意味なんてねーんだからさ!もっと自分曝け出せよな!」
蓬莱合唱団「はい、バイオリン」
蓬莱合唱団「なんでまた音出なくなってんの!」
義孝「す、すまん」
蓬莱合唱団「え?緊張してる?人に聴かせる気あるの?自己満なら辞めれば?」
蓬莱合唱団「はいもう一回」
リバーサイドクイーン「コラ。あまり中高年を追い込むんじゃない」
リバーサイドクイーン「泣いてるじゃないか」
オイサン「ちょっと時間下さい。自主練してきます」
蓬莱合唱団「は?時間くれ?いつまで待つの?いつ出来るようになるの?」
義孝「芸事の稽古がこんなに厳しいとは思わなかった・・・」
リバーサイドクイーン「別に芸じゃないけどね」
ヒナ「おうおう朝からせいが出るな。感心感心」
義孝「もう昼だぞ」
リバーサイドクイーン「うちらにとっちゃ朝なのさ。なあヒナ」
義孝「お前の仕事とこいつの仕事を一緒にするな」
リバーサイドクイーン「今のバロンならお安くしとくわよん」
義孝「どういう意味だ?」
リバーサイドクイーン「あんた、記憶なくなった代わりに男ぶりが上がったんじゃない。正直、このままでよくない?」
義孝「そ、そうかね?」
ヒナ「いいわけねえだろバカ」
リバーサイドクイーン「はいはい」
リバーサイドクイーン「あ・・・降ってきたわね」
リバーサイドクイーン「じゃあね~」

〇川沿いの原っぱ
ヒナ「教会舞台で練習すれば?」
義孝「今、使えぬのだ。改修作業とやらでな」
ヒナ「改修?誰が?」
義孝「さあな」
義孝「ここで怒られていたポンコツ二人以外じゃないですかねえ・・・」
義孝「どうせ我々なんて何の役にも立ちませんからねえ・・・」
ヒナ(すっかり卑屈になってんな・・・)

〇荒廃した教会
ゴロツキ「随分暗くなってきたな」
ゴロツキ「なあ、今日はこのくらいでやめとくか?」
トラ「馬鹿言うなよ」
トラ「もうすぐ根室先生が来られるんだ。やる気のねえとこ見せられるか」
ゴロツキ「あ、ああ。そうだな」
ヒナ「はいはい。お邪魔しやすよ~」
ヒナ「ちょっと隅っこ貸して頂戴ね~」
ヒナ「はい、じゃあ練習の続き」
トラ「おい、邪魔だ!」
義孝「す、すまん・・・」
ヒナ「すまんじゃねえだろ」
ヒナ「ここはキリストさんからもらったみんなの舞台じゃねえのか」
トラ「ああ?」
デンキ「ゴメンゴメン!ちょっとの間辛抱してよ」
トラ「世間様に恥ずかしくねえ舞台に直してやろうってんだ。ちょっとは協力しろ」
デンキ「そうだよ。絆、友情、団結だ」
ヒナ「最近、そればっかだなお前ら・・・」
根室「やあ、捗ってるようだね」
トラ「お、お疲れ様です!」
ヒナ「やっぱりお前が糸引いてやがったか。余計なことしやがって」
トラ「おい!先生はこの街の未来を考えてだな」
根室「お祭りをしようと思ってるんだよ」
ヒナ「祭り?」
根室「ここは帝都貧民窟の中で最も元気がいい。君達の歌と踊りを世間様にご覧頂くのさ」
根室「大衆をお迎えして、あの浅草芸能博覧会を越えるお祭りをしようじゃないか」
ヒナ「まあ、そういう話なら協力すっけど」
根室「ん?あちらの御仁はもしや」
ヒナ「おう、あいつがバロンだ」
ヒナ「おーい」
ヒナ「こちら、カクメーカの根室先生」
根室「堂々と呼ばないでくれたまえ。こう見えて官憲に追われる自由の闘士だ」
義孝「ああ、どうも」
義孝(全く、次から次に訳の分からんヤツを呼び寄せる街だ)
根室「根室と申します。ご高名はかねがね・・・」
根室「・・・」
ヒナ「ホラ、バロン、挨拶。子供か」
義孝「バロン吉宗と申す。お見知り置きを」
根室「・・・馬鹿な」
「・・・?」
根室「・・・ひいっ!」
トラ「どうしました?お具合でも?」
根室「し、し、失敬する!」
ヒナ「な、何だ?」
義孝「俺が知るか」

〇西洋の市街地
根室「・・・馬鹿な・・・馬鹿な・・・馬鹿な」
根室「バカなバカなバカなバカなバカなバカな!」
根室「何が起こっているのだ?僕は謀られているのか?」
根室「どうする?考えろ。どうする?」
根室「とこかく『あの男』に連絡するか?」
根室「いや駄目だ。僕をつけていたじゃないか。やはり『奴ら』は信用できん。どうする。考えろ、どうする」
根室「何故生きている?これは奴らの罠なのか?」
根室「捕らえられる。脅される。殴られる。殺される。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ」
根室「元はと言えば『あの男』が持ちかけてきちた話じゃないか。爆弾だって僕が作った訳じゃない。僕は仲介しただけだ」
根室「僕のせいじゃない。僕のせいじゃない」
根室「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
根室「はあ、はあ、落ち着け。考えろ」
根室「僕ひとりを陥れるためだけに奴らが動いただと?・・・ありえない」
根室「大衆を欺いて得たものが僕の一人の逮捕。ありえないよ」
根室「そもそも手を下したのは、逆木だ」
根室「その逆木も、もう・・・」
根室「ひひひ・・・ひひひひひっ」
根室「堂々としてればいい。全て大儀の為・・・」
根室「問題ない。計画は続行する」
根室「まずは真偽を確かめよう。来栖川は本当に死んだのか」
根室「いや、きっと僕の見間違いだ。心の動揺が幻覚を見せたんだ」
根室「計画は成功している。必ず誅滅している」
根室「そうだ。正義は必ず、勝つ!」
根室「ははは・・・ははははは!」

〇華やかな裏庭
桜子「つまり少尉はこう仰りたいのですか?」
桜子「あの時、公衆の面前で恥をかかされた校倉さん・・・いえ根室さんが復讐の為に危険な活動家を焚き付けた」
桜子「そして反来栖川派の大泉氏と共謀してお父様を芸能博覧会におびき寄せ爆殺した」
最上「根室清濁の正体が、あの誕生会にいた校倉倫太郎であると知り予想は益々強くなりました」
桜子「それは予想ではありません。妄想です」
桜子「そもそも父上を暗殺したいなら、どうしてそんな回りくどい真似をするのです?」
猪苗代「妄想すれば、逆木という男が元々大々的なテロリズムを考えていた過激な活動家だったということ」
猪苗代「根室はなんらかの形で大泉と逆木を繋ぎ、資金と活動の場を与えた」
猪苗代「大泉にとっても自分の手を汚さずに済む。犯罪者との関係など幾らでもなかった事に出来る」
最上「現に逆木理は事件直後その命ごと揉み消されています」
桜子「たまたま偶然が重なっただけでしょう」
猪苗代「まあ根室は良くも悪くも人を繋ぐに長けたことは確かです」
猪苗代「その辺りはそちらの方がお詳しいでしょう」
猪苗代「絆とか。団結とか。友情とか。そんな口当たりと耳障りのいい言葉を用いていませんでしたか?」
桜子「随分と嫌味な言い方をされる方ですね」
最上「す、すいません。たぶん悪気はないと思います」
桜子「妄想。偏見。こじつけ。全くもって聞くに値しません。時間の無駄でした」
桜子「雨も止みました。お引き取りを」
猪苗代「最後にこの写真をご覧ください」
桜子「お引き取りを!」

〇王宮の入口

〇華やかな裏庭
桜子「父の写真がなにか・・・」
最上「違うんです」
最上「その男が、バロン吉宗です」
桜子「・・・」
桜子「仰ってる意味がよく分かりません」
猪苗代「なんと来栖川男爵は双子だったのです」
猪苗代「・・・冗談の通じない人ですね」
最上「何故このタイミングでボケる?」
最上「話がややこしくなるからよしてくれ」
桜子「双子・・・」
最上「違います!他人の空似です!」
猪苗代「同じ顔をしていたのです。来栖川男爵と、バロン吉宗は」
桜子「だったらなんだと言うのですか!」
猪苗代「妄想ついでにあとひとつ」
猪苗代「来栖川男爵は生きている可能性があります」
最上「・・・え?」
最上「い、いや、そんな。馬鹿な!」
桜子「入れ替わっていると?」
桜子「お父様とバロン吉宗が?」
桜子「ありえません!私はこの目で、はっきりと亡骸を・・・」
猪苗代「遺体の損壊は激しかったと聞きます」
猪苗代「お父様とあなたの関係性が破綻していたという話も」
桜子「・・・」
最上「申し訳ありません。捜査のため・・・」
猪苗代「失礼ながら、お父様がお亡くなりになったと思いたかっただけでは・・・」
最上「おい!言い過ぎた!」
猪苗代「・・・失言でした」
桜子「・・・フフッ」
桜子「確かにそうかも知れませんね」
桜子「じゃあどうしてお父様は貧民窟に留まっているんです?」
桜子「私と来栖川家を放り出し、何故道化の真似事をしているのです?」
猪苗代「それはまだ分かりませんが・・・」
桜子「調べずともよいです」
桜子「帝都のゴミが流れ着く蓬莱街。お父様にはお似合いの場所かも知れませんわ」
最上「桜子さん・・・」
桜子「楽しいお話をありがとう。お引き取りを」
猪苗代「失礼します」
最上「根室はあなたが思っている以上に危うい男です。充分ご注意下さい」
桜子「・・・」
最上「本日は色々と済みませんでした」
桜子「最上さん」
桜子「言ったはずです。新しい時代を生きて下さいと」
桜子「過去など・・・」

〇華やかな裏庭
  『過去など、ただの幻覚です』

〇華やかな裏庭
桜子「・・・」
「やっといなくなったか」
根室「憲兵に新聞記者とはね、活動家の天敵中の天敵じゃないか」
桜子「聞いてらっしゃいましたか?」
根室「随分好き勝手に言ってくれるものだ」
根室「まさか、あんな寝言を信じてはいないだろうね」
根室「いつも言っているだろう?僕はあの出来事を恥辱とは思ってない。むしろ檄を飛ばされたと感謝すらしている」
根室「今の果敢な僕があるのは君の父上のおかげだよ」
桜子「そう言ってもらえると嬉しいです」
根室「バロン吉宗に会った」
桜子「え?」
根室「確かに瓜二つだったが、実に覇気のない男だった」
根室「あのお転婆娘に尻を叩かれていたよ。入れ替わるどころか君のお父上とは似ても似つかない。別人だよ」
桜子「そうですか・・・」
根室「残念だ」
桜子「死者は甦りません」
根室「そうだ、全部こうなる運命だったんだ」
根室「過去なんて捨てて、僕達の今だけを」
桜子「根室さん・・・」
根室「君の前では清くも濁ってもない・・・ただの男さ」
桜子「倫太郎・・・さん」

〇ファンタジーの学園
最上「いやいや、なかなかどうして。狡猾な手段を使うものですな」
猪苗代「さらっと失礼なご意見ですね」
最上「感心してるんだよ。桜子さんを動揺させるためだろう?」
最上「閣下とバロン吉宗が入れ替わっているなどと突拍子もない嘘を」
猪苗代「いえ、恐らくは入れ替わっています」
最上「ははは。もう冗談はよろしい」
猪苗代「蓬莱街で取材をした時、みんな口々にこう言ってました」
猪苗代「バロン吉宗は記憶を失っていると」
最上「え?」
猪苗代「楽器も弾けなくなり愛想も悪くなり口調も顔つきも険しくなったと」
最上「・・・まさか」
最上「だとしたら何で貧民窟に・・・」
猪苗代「それが分からないから、蓬莱街でもう一度取材したいんです」
猪苗代「それでも容貌で警護対象を譲り合っている場合ですか?最上少尉」
最上「・・・悪かったよ」
猪苗代「結構。あのお姫様に、新しい時代とやらを突きつけてやりましょう」
猪苗代「新時代の何もかもが、自分にとって都合のいいものばかりではないと」
最上「来なけりゃよかった未来もある・・・か」
最上「つらいな」

次のエピソード:GoToフェス!(6)

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