Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

GoToフェス!(6)(脚本)

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山本律磨

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〇廃倉庫
蓬莱合唱団「バリトン。オッケー?」
オイサン「オッケー」
蓬莱合唱団「バイオリン。オッケー?」
義孝「承知」
蓬莱合唱団「新生蓬莱合唱団、いくぜ!」
「おう!」
「さ~い~た~。さ~い~た。チューリップのは~な~が。な~らんだ~。な~らんだ~。あ~か~し~ろ~きいろ~」
オイサン「ど~の~は~な~み~て~も~」
蓬莱合唱団「き~れ~い~だ~な~」
オイサン「・・・」
蓬莱合唱団「・・・」
義孝「良し!」
蓬莱合唱団「ヨシじゃねーよ!」
蓬莱合唱団「音程グチャグチャ!旋律ボロボロ!」
蓬莱合唱団「やる気あんのかジジイども!」
ヒナ「ま、まあまあ。はじめての客前にしちゃあ上出来な方だよ。なあ」
リバーサイドクイーン「うん、そうねえ。みんな素敵だったわよん」
リバーサイドクイーン「あ、仕事いかなくちゃ。それじゃ」
ヒナ「オイラもお店行かないと。じゃ」
お蝶親分「・・・」
お蝶親分「お疲れ」
蓬莱合唱団「新生蓬莱合唱団・・・」
蓬莱合唱団「解散!」
「ありがとうございました」

〇川沿いの原っぱ
お蝶親分「全く。そんな調子で今度の祭りに間に合うのかい?」
義孝「例の活動家と若い連中が催すあれか?」
義孝「素人連中に好き勝手やらせるとは、お前の組も随分度量が大きいではないか」
お蝶親分「手出しできねえんだよ」
義孝「なに?」
お蝶親分「どこぞの富豪が教会ごと買い取っちまったんだ」
お蝶親分「あの根室って活動家、何者なんだい?憲兵なら調べはついてるだろ」
義孝「三下の情報など、この俺がいちいち把握できるか」
義孝「些末なことを覚えているほど暇な職務ではないのだ」
お蝶親分「とにかくあの祭りに御堂組は関わらねえ。まあせいぜい頑張んな」
義孝「ああ。頃合いだ」
義孝「突如楽器の才に目覚め、バロン吉宗としてこの街で自由に楽しく暮らしました。などという未来はご都合が過ぎるからな」
お蝶親分「そんな冗談も言うんだねえ」
義孝「トラとデンキの話によるとそれなりに大道芸人も呼ぶらしい」
義孝「そこで俺が大っぴらに赤っ恥のひとつでもかけば、本当の話も切り出しやすい」
お蝶親分「・・・そうかい」
義孝「お前は子がいないそうだな」
お蝶親分「あ?いきなり喧嘩売ってんのかい?」
義孝「違う。ならば少しは俺の方が、年頃の娘が何を考えてるか詳しいかもと思ってな」
お蝶親分「ああ?」
義孝「ヒナは・・・気づいているやも知れん」
お蝶親分「え?」
義孝「そして必死で信じないようにしている」
義孝「今、目のまえで一緒に暮らしている男が、父などではないと」
お蝶親分「・・・」
義孝「俺は、残酷な真似をしている」
義孝「外道、人非人の所業だ」
お蝶親分「だったら私も外道さね」
お蝶親分「私ら大人が逃げちまったせいで、あの娘を逃げ場のない苦しみに追いやってるって訳かい」
義孝「でも万が一、立派な見世物が出来たら」
義孝「この『バロン義孝』が少しでも観客の拍手を受けることが出来たら」
お蝶親分「笑ってヒナの前からいなくなれる。なんて虫のいいこと考えてるんじゃないだろうね」
義孝「埒もない」
義孝「ただ俺は、頑張りたいのだ」
義孝「頑張らねば、潰れてしまいそうだ」
義孝「だが勝手に潰れるわけにはいかん。あの娘に嫌われ、恨まれ、憎まれるその時まで」
お蝶親分「ふん、憲兵さんにも良心の呵責ってもんがあるのかい?」
義孝「お前は軍人というものを誤解している」
義孝「侠客というものが誤解されているようにな」
お蝶親分「さて、どうだろうね」
お蝶親分「・・・まあ好きにしな。骨は拾ってやるよ」
お蝶親分「同じ人非人のよしみさ」
義孝「よしみときたか・・・」
義孝「頑張らねば・・・」
義孝「もう頑張ることしか出来ぬ」

〇上官の部屋
「失礼します」
大泉「入れ」
大泉「その後、最上の動きはどうだ?」
大泉「前司令の死について、嗅ぎ回ってなどいないだろうな?」
天粕「今の所は目立った動きは」
天粕「もっとも曲がりなりにも、憲兵。そうそう尻尾は掴ませてもらえませんが」
天粕「ただ・・・」
大泉「ただ?」
天粕「妙な連中とつるんでおります」
天粕「帝都警視庁の石塚伝八警部。やまのて新聞の猪苗代麻呂美記者」
大泉「おいおい。何やら調べて暴く気が満々ではないか」
大泉「大丈夫なのだろうな」
天粕「問題ありません。あの者、のごとく如何様にでもできます」
天粕「全ては大儀、のため」
大泉「うむ。もとはといえば来栖川閣下の撒いた種だ」
大泉「あの御仁がもう少し時代というものに歩み寄っていれば、こんな面倒なことには」
天粕「まあそう仰らずに。大泉閣下には大泉閣下の為すべき勤め、がございます」
天粕「国家より受けた天命、と思われますよう」
憲兵「失礼します。首相との会食のお時間です」
大泉「おお、もうそんな時間かね」
大泉「では為すべき職務を楽しんで来るとしよう」
大泉「ははっ。新時代、万々歳だ」
天粕「・・・」
天粕「俗物めが」

〇空
「う~わ~!」

〇教会の中
蓬莱合唱団「すっげ~!」
蓬莱合唱団「こらこら汚れた靴で入るんじゃない」
蓬莱合唱団「脱いで隅に置いておけ」
蓬莱合唱団「めんどくせーなあ」
蓬莱合唱団「でもどうだ。すごいだろう?」
蓬莱合唱団「外観はともかく中身は立派な劇場だ」
蓬莱合唱団「うん。やったね!これでオレ達の歌にも益々磨きがかかるな!」
蓬莱合唱団「蓬莱合唱団、復活だい!」
蓬莱合唱団「何言ってんだ。これからはもっとちゃんとした歌をうたってくんだよ」
蓬莱合唱団「ちゃんとした・・・歌?」
蓬莱合唱団「人々を鼓舞し自由で新しい時代を築くための歌だ」
蓬莱合唱団「というより、帝都から見栄えのする歌い手を招くための劇場だ」
蓬莱合唱団「俺らは裏方に回んねえとな」
蓬莱合唱団「そうそう。忙しくなるぞ」
蓬莱合唱団「なんか、つまんねえよ。それって」
蓬莱合唱団「つまんねえ!」
蓬莱合唱団「やれやれ。やっと御堂組が手出しできない場所を根室先生が作ってくれたのに。未来を担う子供があれじゃあね」
蓬莱合唱団「まあ、ガキにゃまだ分からねえさ」
蓬莱合唱団「やっと手に入るかも知れねえ、自由と平等の尊さがね」
蓬莱合唱団「ああ、ここがその象徴になるんだ」
「根室先生の受け売りだけどね~」

〇役所のオフィス
「ごめんくださいまし~」
「ごめんくださいまし~」
猪苗代「ごめんくだ・・・」
最上「わわわわっ!」
最上「こちらから連絡するまでここには来るなと言っただろう!」
猪苗代「だって~ん」
木場「・・・!」
最上「違う!」
猪苗代「いやーんばかーん」
最上「そっちも妙な反応するんじゃない!」
最上(憲兵司令の息のかかった者がどこで目を光らせてるか分からんのだぞ)
木場「ヒューヒュー!ヒューヒュー!」
木場「もう少尉ったら見かけによらずマニアックなんだから~」
最上(まあアイツは絶対違うだろうが・・・)
猪苗代「蓬莱街で取材できる機会がきました」
最上「え?」
猪苗代「近々、貧民達がお祭りをするそうです。街の中も一般開放され帝都民も自由に入れる日となります」
猪苗代「ですので少尉も監視の名のもとに、堂々とバロン吉宗に接近できます」
最上「街ぐるみとは随分と大規模だな。よほどの大物政治家が動いてるのか」
猪苗代「あるいはよほどの大金持ちか・・・」
最上「まさか・・・」
猪苗代「とにかく千載一遇の好機です」
最上「ああ、確かに」
最上「閣下・・・」

〇教会の中
  『静粛に!』『静粛に!』
デンキ「只今、根室清濁先生がご到着されました!」
トラ「拍手でお迎え下さい!」
根室「諸君」
根室「いつもいつも僕の演説を聞かされて、耳に巨大なタコが出来ていると思う」
「はははは~。はははは~」
ヒナ(それでいいのかお前らの人生・・・)
根室「なので今夜は手短に済ませようと思う」
根室「そもそも、あらゆる階級格差根絶を目指す最先端の革命運動たるアナキズムの根幹は古代ギリシャの哲人ソクラテスにまで遡り」
  『・・・つまりは対藩閥政治を目的とした民権運動の欺瞞を模倣せぬ為にも、デモクラシーはあくまでも民衆主導で行わねばならず』
ヒナ(なげーよ)
根室「以上、今回の祭りの根底には自由への啓蒙があるという意識だけは明確に持って頂きたい」
根室「ご清聴ありがとう」
根室「・・・」
根室「ありがとう!」
「ね、根室先生に大きな拍手を!」
根室「・・・さて」
ヒナ(まだ喋るんかい・・・)
根室「実は、今回の催しの先頭に立つのは僕ではない」
根室「この教会舞台の改築を費用を出資した頂いた方こそ、本来君達の喝采を受けるべきだ」
根室「主宰?そんな仰々しい呼び方はよしたまえ」
根室「中の人?そんな寒々しい呼び方はよしたまえ」
根室「第一回蓬莱フェスティバル『Producer』」
根室「ミス・サクラコ・来栖川!」
義孝「・・・なんだと?」

〇幻想空間
桜子「元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。今、女性は月である」
桜子「他に依って生き、他の光によって輝く病人のような蒼白い顔の月である」
桜子「女性のなすことは今はただ嘲りの笑を招くばかりである。私はよく知っている、嘲りの笑の下に隠れたる或ものを」
桜子「これはかの有名な、青鞜創刊に際しての辞です」
桜子「私もそうでした。おそらくは我が母も」
桜子「一家の長とうそぶく者の機嫌を伺い、その一挙一動に怯え、その肚三寸に平伏していました」
桜子「されば、一国の長とうそぶく者の顔色を伺い、その一挙一動に怯え、その肚三寸に従う大衆もまた私の同胞」
桜子「そして皆様こそ、大衆の中にあって最も深い底で最も鋭く光る刃」
桜子「これは革命です」
桜子「祭りという名の戦さです」
桜子「この蓬莱街で催される祭りが帝都臣民の心を動かした時、その時こそ新たなる時代の鐘が鳴るのです」
桜子「私たちを支配しようとした者、蔑ろにした者、忘れ去った者、彼らの前に自らの存在を証明しようではありませんか!」
桜子「私達は今、ここにいる!自らの意思で立ち自らの言葉で喋り自らの声で歌い自らの体で踊る!」
桜子「これが、これこそが私達だと!」

〇教会の中
根室「自由!平等!団結!解放!」
「自由!平等!団結!解放!」
「自由!平等!団結!解放!」
「自由!平等!団結!解放!」
リバーサイドクイーン「カッコいいじゃん。あのお姫さん」
ヒナ「っていうか。怖いよ、なんだか」
義孝「・・・」
桜子「・・・!」
義孝「・・・」
桜子(あれがバロン吉宗・・・)
義孝「・・・」
桜子「・・・」
義孝「・・・」
  第四話 GoToフェス!(終)

次のエピソード:剣か?弦か?(1)

コメント

  • いよいよ親子の対面。
    盛り上がってきましたね!

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