#3 いっしょにたすかる(脚本)
〇魔法陣のある教室
倫太郎の母「倫太郎。お父さんもお母さんも、待ってるからね・・・」
星野倫太郎「うん」
倫太郎の父「大丈夫、少しの辛抱だ。すぐに出られる。絶対だ」
星野倫太郎「ありがとう。また、電話するから。ほら、もう行って。別れが辛くなる」
倫太郎の父と母は促されて、名残り惜しそうに教室を出て行った。
星野倫太郎「・・・・・・」
蕪木研二「あれー、えらくあっさりしてるじゃないの」
蕪木研二「もっとお涙頂戴の家族ドラマを期待してたのに」
星野倫太郎「電話はできますから」
蕪木研二「・・・ふーん」
蕪木研二「しかし、君と直接面会できるのは今日が最後だっていうのに、友達は来なかったねー」
蕪木研二「てか、この一か月、親御さん以外は誰も来なかったよね!」
星野倫太郎「おかげ様で、ずいぶんのんびり過ごせました」
蕪木研二「・・・君、なんか雰囲気変わったな」
蕪木研二「やっぱり一か月もやることないと、人ってのはこんなふうに達観するもんかね」
星野倫太郎「・・・・・・」
蕪木研二「普通の人が寝たり、食事したり、風呂はいったりしてる時、君はずーーっと考えることしか、やることなかったもんね」
蕪木研二「ねえ、それってかなり絶望的な気が──」
星野倫太郎「イズさんに会わせてください」
蕪木研二「ああん?」
星野倫太郎「イズさんとテレビ通話をつないでください。彼女と話がしたいんです」
蕪木研二「ダメだって何度も言ったよね。 この間のはイレギュラー」
蕪木研二「被験者同士を接触させるのは、本来もっと慎重になるべきだ」
星野倫太郎「被験者・・・。 僕は、もう親に会うこともできない。 人と触れ合うこともできない」
星野倫太郎「独りぼっちです」
蕪木研二「連れないなー、私がいるじゃない」
星野倫太郎「実験のためでしょう」
蕪木研二「・・・・・・」
星野倫太郎「こんな異常な環境、わかりあえるのはイズさんだけです」
星野倫太郎「彼女と繋がれないなら、僕は実験にも協力しません」
蕪木研二「・・・君、ホントに変わったね」
ドンッ!
蕪木は陣を殴りつけ、倫太郎に顔を近づけた。
蕪木研二「ガキが一丁前に交渉しやがって。 調子に乗るなよ」
星野倫太郎「脅されても、僕の要求は変わりません。 イズさんと、話をさせてください」
蕪木研二「・・・ちっ」
蕪木は不服そうに電話を掛け始めた。
〇魔法陣のある研究室
イズ「タシュ・・・イショ。タシュカ・・・」
研究主任「【英語】 イズ、準備はいいか?」
イズ「【英語】 はい、お願いします」
〇魔法陣のある教室
蕪木が憮然とした表情で、タブレットの画面を倫太郎に向けている。
蕪木研二「三分だけだ。 時間としてはこの間より短い」
蕪木研二「またあわあわしてたら、すぐ終わっちゃうよー」
星野倫太郎「はい、お願いします」
星野倫太郎「【英語】 こんにちは」
イズ「【英語】 こんにちは。・・・あの、私──」
星野倫太郎「【英語】 待ってください」
イズ「【英語】 え?」
星野倫太郎「【英語】 私はあなたに話したいことがあります」
イズ「【英語】 は、はい・・・」
星野倫太郎「ふー」
星野倫太郎「【英語】 私はあなたともっと会話したいです。 私は孤独です。あなたも孤独です」
星野倫太郎「【英語】 私はあなたをもっと知りたいです」
イズ「・・・・・・」
星野倫太郎「【英語】 私は英語をもっと勉強します。 たくさんの単語を学びます」
星野倫太郎「【英語】 そして、ここから脱出しましょう」
イズ「【英語】 脱出・・・」
星野倫太郎「【英語】 一緒に、戦いましょう」
イズ「【英語】 ・・・うん」
星野倫太郎「【英語】 ありがとう」
星野倫太郎「ふうー・・・」
イズ「いっしょに、たすかります」
星野倫太郎「えっ」
イズ「りんたろう、イズ、いっしょに、たすかります。であいます」
星野倫太郎「す、すごい。日本語なんて、知ってたんですか」
イズ「・・・わたしはにほんご、べんきょうします。・・・いっしょに、たすかります」
星野倫太郎「うん・・・」
蕪木「あと10秒―」
星野倫太郎「えっと・・・」
星野倫太郎「出会いましょう。私は、あなたに会いたい」
イズ「うん。私も、あなたに会いたい」
星野倫太郎「イズさん、いっしょに、たすかります」
イズ「はい。いっしょに、たすかります」
蕪木研二「はい、おしまいー。 いやー、感動的だったよ。 また、愛の告白でもすればよかったのに」
星野倫太郎「蕪木さん・・・」
蕪木研二「ん?」
次の瞬間、倫太郎は自分の指の肉を噛みちぎった。
蕪木研二「!」
星野倫太郎「う・・・」
蕪木研二「君、なにやって・・・え?」
流れる血はすぐに止まり、倫太郎の指は一瞬で元通りに治癒した。
蕪木研二「なんだ、これは・・・」
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