累ヶ淵オーバーレイ

芝上阿南

Layer1:Report(脚本)

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〇電脳空間
  現実なんて、ちっともリアルじゃない。
  あの頃の僕は、そう感じていた。
  現実感のない現実が嫌で、
  ネットワークに入り浸っていた、あの時
  僕は、本当のリアルを見つけ出す

〇汚い一人部屋
累「zzz・・・」
累「ハッ!!」
累「あちゃ〜、いつのまに寝てたんだろう」
累「えーっと、何してたんだっけ・・・」
累「確か昨日は、徹夜で・・・」
累「なんだろう、このメール」
  From.リエゾンお届け便
  羽生 傘音様宛のお荷物を
  本日お届けに上がりましたが
  不在でしたので、不在票の連絡先に・・・
累「そういえば姉ちゃんに、荷物受け取れって言われてたな・・・」
累「寝てて配達に気づかなかったなんてことがバレたら・・・」
傘音「ただいまー!!」
累「うわでた!!」
傘音「何よ、実の姉を幽霊みたいに・・・」
傘音「そんなことより、ちゃんとあたしの荷物受け取ってくれた?」
累「そ、それが・・・ 家を離れなきゃいけない用事が急に──」
傘音「ふーん。 万年ひきこもりの累が・・・?」
傘音「・・・ねえ累? その用事について お姉ちゃんと詳しくお話するか、」
傘音「あるいはあたしの課題を代わりにやるか」
傘音「どっちがいい?」
累「えーと・・・どちらか選ばなきゃ駄目?」
傘音「はあ?」
累「かっ・・・課題!! 課題やりたいなあ!お姉ちゃんの!!」
累「高校の課題なんて難しいんだろうなあ。 中学生の僕にできるかなあ」
傘音「大丈夫よ、あたしの弟なんだから。 きっとできるわ」
傘音「テーマは自由。 先生を驚かせるようなことを調べて、 レポートにまとめること!」
傘音「いいこと?提出は明日だからね」
累「明日!?」
傘音「あたしはバイトに行ってくる!! じゃあ頼んだぞ!累!!」
累「・・・」
累「横暴だ!! 課題くらい自分でしろ!!」
累「・・・言ってても仕方ない。 なんでもいいからネットで調べて、 明日までにデッチ上げないと」
累「しかし、驚くようなことか・・・ 今の時代、ネットのおかげで 大体のことは誰でも知ってるからなあ」
累「「驚くようなこと」で検索っと・・・」
累「「驚愕!エビの尻尾はゴキブリと同じ成分!」 「新事実!!食パンの袋についてるアレの名前、実はバッグ・クロージャー!!」」
累「はあ・・・ しょうもない上に、手垢がべったりついた情報ばかり」
累「検索すれば誰でも、 手軽に情報が得られる時代だもんなあ」
累「普通に検索しても、驚くような情報は 出てこないか」
累「待てよ、逆説的に考えて──」
累「誰にもアクセスされてない情報に、驚きが隠れているはず」
累「アクセスされてない情報、つまりは 大手検索エンジンのインデックスに 含まれてない情報」
累「機械から見たら無意味だが、人間には意味のある情報」
累「でも一個ずつ情報を見て判断する訳にもいかない」
累「価値判断をするAIが必要だな」
累「「機械にとって無意味で、人間にとって 有意な情報」を抽出するプログラム」
累「それを搭載したクローラーを、ネットの海に放てば、目的は達成できる・・・」
累「よし! 人間の価値観を再現するAIを作るぞ!!」
累「まずは価値判断のアルゴリズムから書き出してってっ・・・と」

〇汚い一人部屋
傘音「ふぃ〜ただいま〜。 捗ってるかね〜?」
傘音「残業代でぇ、夜食買ってきたぞ〜っと」
累「あーもう、ユーザの個人用Web日記なんて 拾って来るなよ!!」
累「こんなの人間が見ても価値がない情報に 決まってるだろ!!」
累「データ量でフィルタを・・・いや 価値判断の係数の比重を調整して・・・」
傘音「ありゃ、意外と本気出してる」
傘音「手伝おうと思ったけど、 このモードの累は 邪魔したら怒るからなあ」
傘音「累、夜食はここに置いておくからね」
傘音「レポートを書く段になったら手伝うから、 起こしてくれぇい」
傘音「zzz・・・」
累「ああもう! なんで僕の言うとおりに動かない!? ブツブツ・・・・・・・」

〇汚い一人部屋
  ジリリリリン!!
傘音「うわっ!! ってもう朝!?」
累「やっ・・・やった・・・」
傘音「累!?起こしてって言ったのに!! あんた一人だけでやったの!?」
累「完成したよ・・・お姉ちゃん・・・」
傘音「累、あんたって奴は・・・ 最高の弟だよ・・・」
傘音「それで、完成品は・・・」
累「これだよ」
傘音「ん?なにこのアイコン」
累「ネットワーク上を走査し、特定の情報を抽出するアプリケーションだよ」
累「名付けて『玉石くんver.1.0(仮)』!!」
累「誰もアクセスしていない情報 つまりは、誰もが驚くような情報を 抽出することができるんだ」
累「作るのに苦労したよ・・・」
累「無造作に収集される情報から、 有意な情報を選り分けるアルゴリズムが 特に難関で・・・」
傘音「そ、そうだったのね、ありがとう」
傘音「そ、そうそう。 今日までに提出のレポートの方は・・・」
累「あ・・・」
傘音「・・・」
傘音「あと15分でその、驚くべき情報とやらを 抽出して、レポートにまとめることはできる?」
累「・・・」
累「僕を誰だと思ってる!! 僕のプログラムに不可能はない!!」

〇教室
傘音「えー、それで。驚くべきことに、 エビの尻尾の成分は、9割方ゴキブリと 一致してるんですね〜」
傘音「・・・」
傘音「すごいですね〜 驚きを禁じえませんね〜」
先生「・・・」
先生「・・・えーと、それだけかい?」
傘音「え・・・あ!あと!! 食パンの袋についてるアレの名称が・・・」
先生「あー、もういい。 席に付きなさい」
先生「あと昼休み、職員室に来るように」
傘音「とほほ・・・」

次のエピソード:Layer2:Scanning

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