エピソード5 メッセージ(脚本)
〇カウンター席
サリナ「──その届いたっていうメールは、これで間違いないのよね?」
私はトウキくんから転送された、例のメールを見せた。
コトネ「そうです!それそれ! わたしのほうは、これなんですけど」
イナバ・コトネと名乗ったその人物が見せてきたメールは、私が持っているものと、全く同じ内容だった。
受信の日も同じ。
時刻が一分だけズレているのは、
転送されたタイムラグによるものだろう。
コトネ「良かったぁ。 わたしの他に、 T市のことを覚えてる人がいるなんて」
サリナ「私も探したかいがあったわ」
コトネ「それにしても、同じ講義を受けてたなんて、それも奇遇ですね。 コースは違うけど・・・」
彼女のことは大学で見たことがあった。
同じ授業で見かけるだけで、
話したことはなかったけど・・・
サリナ「全く荒唐無稽な話だけど、実際にT市が消えてしまった以上、信じるしかないのよね。 このメールの送信者に心当たりある?」
コトネ「一応、わかるにはわかるんですが──」
サリナ「そうなの?!」
コトネ「私、人とメールアドレスを交換するときに、どこで知り合った人かでグループわけてるの」
コトネ「いろんな会に顔だしてるもんだから。 年代順に並べて整理して・・・」
サリナ「しっかりしてるわねえ」
サリナ(というより、細かっ・・・ 知り合った場所と名前、出来事や印象まで書いて整理してある・・・)
コトネ「この「月光」さんという人のアドレスだと思います」
サリナ「・・・たしかに良く似てるわね。 同じ文字列が使われてる。 違うのは数字だけ、それも2つ・・・」
コトネ「面倒だけどメアド変更しなきゃいけない時にやりがちですよね」
サリナ「うん。でもコンピュータはそれを同じ人のアドレスだとは認識しないから、トウキくんの受信メールには名前が出なかったのね」
サリナ「でも何?このグループ。 「月光」さん、「まにまに」さん、「DINGO」さん、「オーロラ姫」さん・・・」
コトネ「それは2年前の4月に大学内であった、「UsticFantasia」(アスティックファンタジア)のオフ会の人たちです」
サリナ「あ〜!なんかそんなゲーム流行ったわよね!」
コトネ「はい。中世ファンタジー風のRPGで、世界観にそんなに特徴はないんですけど、有名なゲーム会社が作ってたし話も面白くて──」
サリナ「あったあった・・・! そっか、オフ会だからみんなハンドルネームなのね。 何だ、本名はわからないのか・・・」
name∶月光
✉∶☓☓☓☓☓☓
✆∶☓☓☓☓☓☓
備考∶特記事項無し
アイテム「シェアの苗」を交換
猫を避けて退席
サリナ「猫を避けて退席? 猫が嫌いだったのかな?」
コトネ「ごめんなさい。私も覚えてはいませんが、そうなんでしょうかね」
サリナ「で、多分、この会にトウキくんも参加していた、と。そういえば、やってるって話してたな」
サリナ「でも、もしこの人が異世界化のときにとっさに送ったにしては、親しくもないのに・・・って感じよね・・・」
コトネ「名前が「アスティック」ですからね。 わたしのグループ表示でも一番上に出てます」
サリナ「でも普通、メアドはグループ名じゃなくて名前で登録するわよね・・・ しかもオフ会ならゲーム内アカで申請とかが普通じゃない?」
コトネ「そういえばなんで交換したんでしょうね。 変ですね」
サリナ「まぁ問題はそこじゃないか・・・ それにしてもこの人、 2年も前のアドレスにメールするなんて、友達いないのかな?」
コトネ「考えられますね。 リア充なら「異世界に転生して悠々自適で暮らしたい」なんて願いごとはしませんもの」
コトネ「転生というのはすなわち「死」ですから。 この世界で死ぬことを表すんですから」
サリナ「自殺願望を婉曲に言った言葉・・・ とも取れるってこと?」
コトネ「お酒の上での会話だからそこまで深い意味はないでしょうけど、大切な人がいれば、二度と会えない所に行こうとは思わないでしょう」
コトネ「だからきっとそのトウキくんという人も、もし私達と同じように向こうでも記憶があれば、戻ってこようとするんじゃないですか?」
コトネ「サリナさんのために」
サリナ「えっ!?」
コトネ「だってぇ、こんなに一生懸命、わたしみたいな仲間を探してたってことは、絶対この人、大事な人でしょ?」
コトネ「小学生にアルバイトさせてまで探すんですもの。ね、恋人なんですか?」
サリナ「こここ、恋人ってわけじゃあ・・・べつに・・・」
コトネ「なんでそんな顔するんですか? 最高に素敵なことじゃないですか」
コトネ「わたしにも向こうにいってしまった人の中に、気になる人がいるんで」
サリナ「堂々としてるのね・・・、うらやましいわ」
サリナ「でも問題は、わかったところで、こちらがわからはこの人を探せないってことよね。 あっち側に行ってしまってるんだから」
サリナ「なんとか向こうにメッセージでも届けられたらいいんだけど・・・」
コトネ「このアドレスやトウキくんに返信はしてみたんですか?」
サリナ「そりゃあね。 でも「送信先が見つかりません」って・・・」
コトネ「まぁ、世界を一つ形成してるのだから、外部情報は遮断されてるわよね」
サリナ「んーん! どっかの都市伝説みたく、 何かをしたら通路が開くとかないのかなぁ?!」
コトネ「んー・・・」
ガチャッ!
「あーっ!やっと見つけた!」
小学生「探したんだぞ、ねーちゃん! 電話かけても出ねえし」
サリナ「ごめん、気づかなかった! どうしたの?」
小学生「オレのだいじなキーホルダーがなくなっちゃったんだ。 たぶん、ねーちゃんのバイト中に落としたと思うんだけど」
サリナ「あのへんで落としたってことかしら?」
小学生「うん。あの道を土手の方にちょっと下ったあたり」
サリナ「どんなキーホルダーなの?」
小学生「龍の形をしたキーホルダーだよ 龍が伝説の剣を抱いてるカッケーやつ!」
小学生「ちょっと前に「アスティックなんとか」って ゲームあっただろ? アレのコラボ商品でさ・・・ 気に入ってたのに・・・」
小学生「そのキーホルダーだけじゃなくて、他にポケットに入れてたやつもぜ~んぶ、ぶちまけて落としちゃったんだけど──」
小学生「探しても探しても、 そのキーホルダーだけがないんだ。 一緒に探してくれない?」
コトネ「う、うん、いいけど・・・」
小学生「他に誰もいなかったから、拾われたんじゃないと思うけどな」
コトネ「そういうことってあるわよね。 ザラって物を落としちゃったときに、 一個だけどっか行って見つからなくなるやつ」
小学生「ホントだよ。 おばあちゃん言ってた。 そういうものは神様のお気に入りなんだって。 だから持ってっちゃうんだって」
サリナ「!!」
サリナ「もしかして・・・」
コトネ「なんですか?」
サリナ「それだわ・・・。 やってみる価値はある」
小学生「な、なんだよう急に・・・」
サリナ「コトネさん、手伝ってくれませんか? メッセージを届ける方法が・・・ あるかもしれない」
コトネ「え、ええ、はぁ・・・」
〇土手
2日後──
・・・
コトネ「ここでいいんですか? サリナさん」
サリナ「ええ。 あの男の子がキーホルダーを落としたのは、この辺・・・」
サリナ「本来なら、この土手の下が、T市の住宅街のはずだわ。もちろん、今は何もないように見えるけど・・・」
コトネ「地図的にも一致しますね」
サリナ「ねえ、私達同い年なんだし、コトネさん、敬語やめない?」
コトネ「ん〜・・・わたしにはどっちでもいいんですけど、そう言うなら。 じゃあ「さん」もなしで」
コトネ「サリナの言うことが正しいなら、これを打ち込めばいいんだよね?」
コトネ「わたしのとっておきのこれで・・・」
サリナ「よくこんなの持ってたわね。 なんかヤバい商売でもしてるの?」
コトネ「お兄ちゃんのよ。 こんなんばっか持ってるの。 でも、わたしのほうが多分うまいよ。 アーチェリーやってたから」
サリナ「頼もしい限りね」
コトネ「サリナの考えによると、T市をもとに作られている異世界は、T市の地理をそのまま踏襲している可能性が高い、と」
サリナ「うん。つまりトウキくんの家があったところには、そのままトウキくんの家があるかもしれない」
コトネ「わたしが弓で狙うのは、そのポイントね。 家のそばに落ちれば気づく確率が高くなる」
コトネ「でも、例えばこうやって石を投げても・・・」
コトネが土手の下に石を投げる。
コロコロ・・・
石はそのまま土手の草の上に落ち、転がって、下の土道で止まった。
コトネ「こうして止まっちゃうだけだよ」
サリナ「うん。だけど、「神様に拾ってもらえる」ような物ならと思って」
コトネ「昨日男の子は、ポケットの中身を全部この下に落としたけど、キーホルダーだけがなくなったと言ってた・・・」
サリナ「そのキーホルダー、「アスティックなんとか」のコラボ商品だったって言ってたわよね?」
コトネ「「ustic Fantasia(アスティック・ファンタジア)」・・・」
サリナ「メール送った人っぽい「月光」は、アスティックのオフ会での知り合いなんでしょ」
サリナ「異世界と言ってもいろんな異世界がある・・・。 でも、神様が「月光」の願いを叶えたんなら、その人の望む世界よね。普通は」
コトネ「築かれた「異世界」のモデルは、アスティックの世界ってこと?」
サリナ「まぁ全部、ただの推論だけど。 でももし正しければ、「神様に拾ってもらえる」条件は──」
コトネ「「アスティック」の世界の物であること・・・」
サリナ「話が見えたでしょ? これはアスティック全盛期のコラボグッズで、「アイスの魔導書風ブックノート」よ」
コトネ「それにしても、こんなのどうしたの?」
サリナ「あなたが持ってた、元オフ会メンバーのアドレスあるでしょ? あそこにこんな文章を送ったの」
こんにちは、お久しぶりです。
2年前に「アスティック・ファンタジア」のオフ会で知り合ったサリナです。
唐突なお話とは思いますが、大切な用があり、昔売り出された「アスティック」のコラボ商品を探しています。
もしも譲っても良いものをお持ちの方がいらっしゃいましたら、このアドレスまでご連絡ください。
なお、下記のメールアドレスから不審なメールを受け取った心当たりのある方も、もし可能でしたらご連絡お待ちしています。
コトネ「下記のアドレスって、例の「月光」さんのね・・・ って、え?サリナ、元オフ会メンバーじゃないじゃん?」
サリナ「うん。でも、あなたの名前を騙るのも悪いし・・・。2年も前の、それも二十人近くも集まったオフ会のメンバーが誰かなんて、」
サリナ「いちいち覚えていないと思って」
コトネ「ま、それもそうだけど。 なるほど、グッズ探しついでに、 他にあのメールを受け取った人がないか調べたのね」
サリナ「うん。普通にグッズ探すだけなら、ネットオークション探せば良かったけど──」
コトネ「それで、結果は?」
サリナ「メールを受け取ったって人は誰もいなかった。でも代わりにこうしてグッズは譲ってもらえたわ」
コトネ「ちょっと中を見ていい? なにこれ・・・・・・変な形がいっぱい書いてある。 あなたが書いたの?」
サリナ「うん。ここにトウキくんへのメッセージを書き込もうとしたんだけど・・・ふと思ったの」
サリナ「もしもこのニセモノの魔導書が「神様に拾ってもらえる」としても、コチラの文字や数字が排除の対象になるかも・・・」
サリナ「だから文字や数字を使わないで伝えるしかなかったの。トウキくんが、こういうの得意かはわかんないけど、、」
サリナ「これをギュッと抱きしめて、と。 魔導書さん、お願いね。 トウキくんに届いてね」
コトネ「・・・」
コトネ「わかったわ。じゃあ、打ち込むわよ。 袋に入れて、矢の先につけて?」
サリナ「うん。よし・・・ 軽いもので良かったわ」
コトネ「じゃあ行くわよ! トウキくんの家が多分あったあたり、 あそこでいいのね!?」
コトネ「──えーいっ!」
コトネが発射した矢に結び付けられた、袋入りの魔導書風ノートは、狙い外さず、まっすぐ指定地点に飛んでいき・・・
ある地点に差し掛かると、ヒラヒラと、袋が風に舞いながら土手の下へと落ちていく。
コトネ「あれ?袋が落ちていく?」
サリナ「追いかけるわよ!」
・・・
・・・
サリナ「はぁ、はぁ・・・!!」
コトネ「ちょっとサリナ、速い──!」
サリナ「あった!見つけた!」
コトネ「はぁ・・・ はぁ・・・。 恋の力ってすごいのねぇ・・・ それで、ど、どうなったの・・・?」
サリナ「──!!」
サリナ「・・・消えてる」
サリナ「ほら見て!袋だけだよ! 矢はあそこにささってるけど・・・ 中身の魔導書がない!」
コトネ「・・・本当に? そのあたりに落ちてない?」
サリナ「・・・ほら・・・ どこにも・・・ないよ・・・」
サリナ「あなたも見たでしょ? 空中で急にヒラヒラ袋だけ落ちだしたの!」
コトネ「神様が・・・拾ったの?」
サリナ「うん・・・そう・・・、きっとそうよ・・・」
サリナ「正しくは多分、この世界からT市を切り離している、 バリアのようなものを、魔導書だけが通過したんじゃないかな・・・」
コトネ「まさか、そんな手があるなんて、思いもしなかったわ・・・」
サリナ「アハ・・・ハ・・・ 良かった、成功よ! トウキくんが気づいてくれたらいいけど・・・」
コトネ「フフ・・・」
サリナ「何??笑わないでよ、もう」
コトネ「ううん。サリナって、 すごくいい子だなぁって。 好きな人のためにほんとに一生懸命になれるんだもん」
コトネ「それに比べてわたしは・・・ ・・・」
サリナ「?──」
コトネ「ううん、なんでもない。 喫茶店に戻って、また情報を集めましょ。 わたし、あなたをもっと手伝いたい」
サリナ「ありがとう!」
〇鍛冶屋
さて──
・・・
ゼンリ「オイ、トウキ、いるか? どうせ暇なんだろ?」
トウキ「うーーん・・・イタタタ・・・」
ゼンリ「何だ?お前、頭どうしたんだ? ジャイアントにでも殴られたのか?」
トウキ「違うんだよ。なんか、玄関で看板を出し替えてたら、勢いよく空から本が降ってきてさ・・・」
トウキ「頭にパッコーーンって・・・ 軽い本だったから良かったけど、 辞書とかだったら死んでたよ」
トウキ「この本なんだけど」
ゼンリ「ふーん。紙で出来てるから、金属不可触のダメージもなくてよかったな。 で、なんの魔法の書なんだ?」
トウキ「それが違うみたいなんだ。 中身を見ると・・・」
ゼンリ「ま、どうせオレにもお前にも、 魔法スキルは使えねえけどな。 アミアの奴ならわからんが」
ゼンリ「──と、噂をすれば影か?」
アミア「ウ~ンん・・・いったぁ・・・」
ゼンリ「何だ?! お前もどうした? お前も空から本が降ってきたのか? それともジャイアントに殴られたのか?」
アミア「違うわよぉ・・・。 あたし最近、ガンガン技が使えるようになって、レベル上がったから、お姉ちゃんに挑んだんだけど・・・」
アミア「まぁだめだったわ。 んー・・・ 5発くらいは入れたんだけどね」
ゼンリ「なんだ、きょうだい喧嘩か。 お前のネーチャンは強いんだな」
アミア「ま、宮廷魔導士だからね」
トウキ「──!?」
ゼンリ「おまっ・・・それ・・・ マジなのか?」
アミア「うん。 宮廷魔導師、ユイア・クロエ。 あたしの姉よ」
ゼンリ「それってお前・・・ 国で一番すげえ魔法使いじゃねえか! 道理でお前も強えわ」
アミア「慰めは結構よ。 でも別にいーの・・・ いつか絶対認めさせてやるんだから」
アミア「ってゆーかトウキの親父も、グランドマイスターでしょ。それ言うなら」
トウキ「え、まぁ・・・」
ゼンリ「まあとりあえずお前ら、薬草水でも飲め。オレがおごってやる」
トウキ「ふー・・・。痛かった・・・ ありがとう。 ところで今日はなんの用事?ゼンリ」
ゼンリ「そりゃもちろん、クエストだ!」
トウキ「・・・あ、もしかして、 俺の言ってたカラム湖畔、行ってくれるのか?」
ゼンリ「もともとオレも、このクエストに用があったからな。別におめーのためだけじゃねえよ」
ゼンリ「アミアはどうする?」
アミア「カラムねえ・・・。 まァ、あそこで採れる「白銀の水」が必要だし、行ってあげてもいいけど?」
トウキ「ほんとかい?助かるよ!」
・・・
この前、苦労してようやく集めた金を使って、情報屋から情報を買うことが出来た。
〇暖炉のある小屋
例の酒場に行って・・・
トウキ「すみません。マスター、 情報を売ってくれる人というのは・・・」
トモアキ「ありゃ、トウキじゃないか。 まぁた、なんか用?」
トウキ「君を探してないよ。 どうせまたバカにするんだろ」
ミユウ「え?別に前だって、馬鹿にしてはないわよ?」
トモアキ「そうだよ。 こん棒しか作れないって、マイスターとして不便だろうなと思っただけだよ」
ミユウ「二本とか三本とか同時に作れるようになったからって、こん棒はこん棒だしねって・・・」
トウキ「うるさい! やっぱり馬鹿にしてんじゃん! マスター、ちょっと、話聞いてます?」
「どうした。おれを探しているのか」
トウキ「え?どこ?誰?」
「お前さんから見て、右に3つ目のテーブル。 その椅子の上だよ」
トウキ「・・・?」
鳥?「ほれ、ここだ」
トウキ「し、しゃべる鳥?!」
鳥?「何だというのだ、世間知らずめ。 情報が欲しくないのか」
トウキ「え?じ、情報?」
トウキ「・・・ ということは、あなたが・・・」
情報屋(プロ)「あぁ、そうだ。 空を飛び回り、どこの窓辺にも止まる 我ら鳥より他に、情報の早いやつがおるかね?」
トウキ「・・・ そ、そうですね。 失礼しました」
情報屋(プロ)「それで、いくら出せるんだ?」
トウキ「と、とりあえず・・・ 前金でこれだけです。 これくらいが相場と聞いて。 残りは話を聞いたらお支払いします」
情報屋(プロ)「いいだろう。用件を言ってくれ」
トウキ「俺が知りたいのは・・・」
・・・
・・・
情報屋(プロ)「ふーん。 強スキルの持ち主? 悠々自適に暮らしているやつ?」
情報屋(プロ)「そうだな・・・。 王宮の連中以外となると、 コーダイ・ムーニーか、 フラワーライトニーかな」
トウキ「それは誰ですか?」
情報屋(プロ)「コーダイは賢者だ。 しかし、「クロノス」という オリジナルスキルを持つ」
情報屋(プロ)「よくわからんが、時間を自由に圧縮したり、伸長したりできるスキルらしい。 短い間なら周囲の時を止められる」
トウキ「それは・・・かなり強そうですね。 しかも、時間の長さを自分で調節できるなら、急ぐも休むも自由自在・・・ 悠々自適だな」
情報屋(プロ)「フラワーライトニーは、湖の歌姫だ。 「絶対歌唱」といって、 歌の内容を実現するスキルを持つ」
情報屋(プロ)「歌が終われば効果は消えるし、 歌声の届く範囲に限られるが、 本当に何でも実現しちまうぜ」
情報屋(プロ)「死んだ人にあいたいとか、別れた彼女とイチャラブしたいとか、至福になりたいとか・・・そんなのまで叶っちまう。相手は幻だがな」
情報屋(プロ)「それでも中毒者が続出して、教団みたいになってるぜ。常に捧げ物がされてて、羽振り良さそうに暮してるなぁ」
トウキ「それは・・・ほとんど全能者だな」
情報屋(プロ)「コーダイにあいたけれはカラム湖の近くへ行けばいい わかりやすくでかい、素朴で物静かな家に住んでいる」
情報屋(プロ)「歌姫の方は、シンランの森の外れのきれいな館に住んでるぞ」
情報屋(プロ)「捧げ物を持ってけば、会ってくれるかもしれんな」
トウキ「なるほど。ありがとうございます!」
情報屋(プロ)「ただし、気をつけろよ。 あのへんはセイシンに近い。 カクダラの手下と揉めたら、面倒だぞ」
トウキ「わ、わかりました」
〇湖畔
トウキ「ということで、 とりあえず来てみたものの・・・」
ゼンリ「ミョーだな。 ほとんどモンスターがいねえ」
アミア「どっかの強いパーティーが通りかかって、ほとんど全滅させちゃったんじゃないの?」
アミア「・・・でも、それにしては剣気も、魔力痕も残ってないわね」
トウキ「もしかしたら、コーダイとかいう人のしわざかな?」
ゼンリ「さぁな。だが、おかげで退屈だぜ。 今日はキャンプでもして、 明日また狩りしたほうがいいかもな」
トウキ「うーん・・・」
ゼンリ「そうだ。トウキ、またステータス見せてくれよ。何か変化はあったか?」
トウキ「いいよ。まぁそれなりの進歩だけどね」
アミア「ふーん? スキルレベルが60まで上がってるじゃない。すごいわね。 なになに・・・「こん棒を5本一度に造ることができる」?」
トウキ「ま、相変わらずだよ」
ゼンリ「何シケた面してやがる。 オレたちがまともに戦えるのは、 お前のおかげなんだからよ」
トウキ「ゼンリはいいやつだな。基本的には」
ゼンリ「一言余計じゃね? ま、ともかくここまで来たんだ。 休もうぜ」
ゼンリ「オレぁ野営の準備をしてくる」
アミア「じゃ、あたしは散歩でもしてこよっかな」
トウキ「・・・」
──この本。
中には変わった模様がたくさん書いてあるけど、この世界の文字や記号とも違う。
何かの暗号か?
丸みを帯びた斜めの線。
二本ならんだ短い線。
三本縦にならんだ線。
才能の「才」という字みたいな図形・・・
・・・ん?
真ん中のページ、2枚くっついてる。
誰かがわざとひっつけたのか?
トウキ「剥がしてみるか。 気をつけて、ペリッと・・・」
トウキ「うまく外れた。 なんか俺、めっちゃ手、器用になったな。 スキルレベルが上がったからか」
──現世にいた頃、こんなに一生懸命、鍛冶の技を練習したことなんて、なかったもんな・・・
トウキ「・・・? まずい、何を言ってるんだ俺は」
現世だって?
俺は死んだわけじゃない。
メールの主をとっ捕まえて、
サリナさんの元に帰るんだ──
かえる?
トウキ「?!」
〇黒
な、何だ?
どうして、もどしたいの?
ここでのきみを、
うけいれるひともいるじゃないか。
もどしてどうするの。
だいがくをそつぎょうしたら、
しゃかいのはぐるまになって、
しぬまではたらくの?
トウキ「な、何だよ。 一体だれだ?何を言ってる?」
あんなつまらないせかい、
どこがいいの?
もどしておもしろいの?
トウキ「そ、そういう問題じゃない。 俺はサリナさんに・・・」
サリナ?
あのこなら、
あたらしいともだちをつくって、
たのしくやってるよ。
ほら。
べつに、きみがもどってくるひつよう、
ないんじゃない?
トウキ「そ、そんなことない! そんなこと・・・」
トウキ「そんなこと・・・」
まぁいいや。
どうせ、きみにはなにもできない。
〇湖畔
トウキ「・・・?何だ今の──」
スライム「・・・」
トウキ「・・・って! も、モンスターだぁ!」
アミア「はァァァ!! ウッドスラッシュ!」
スライム「ドプッ」
スライム「ゴポポポポッ!」
トウキ「ぶわっ!!」
アミア「危ないっ! クッ!」
アミア「こいつは強いわよ! 逃げてゼンリと合流!」
スライム「キヘェーッ」
スライム「キヘキヘェーッ」
トウキ「ハァハァ・・・! どんどん増えてるよ!」
アミア「さては、ここにモンスターがほとんどいなかったのは、こいつのせいね!」
トウキ「なんだって?」
アミア「コイツは怖いのよ。 水たまりとかに擬態して、 何でも取り込んで食べてしまう。 食べるとどんどん大きくなり、増える!」
アミア「前に聞いた話じゃ・・・ 大きめの池で水浴びしようと飛び込んだ若者が、 10人近く行方不明になったの」
アミア「夜になって、池の水が全部、 立ち上がってズルズル動き出したのを見て、 やっと謎がとけたの──」
トウキ「ま、まさか・・・」
アミア「そう。正体は、池に擬態した、 巨大なスライム──」
スライム「ドベェーッ」
トウキ「ギャーッ!」
アミア「えええーい!」
スライム「クヒェッ」
アミア「一応当てれば止まるけど、 また追いかけてくるわよ・・・!」
アミア「このしつこさと、水に擬態してどこへでも入り込める性質のせいで、結構な数の戦士がやられてきたのよ」
アミア「ある山小屋では、腹を割かれた戦士の死体が4つと、脱水症状で死んだ死体が1つ見つかった・・・」
アミア「スライムが飲み水に擬態して、水道や水筒、小川に入り込み、水だと思いこんで飲んだ戦士が次々と死んだのよ・・・」
アミア「そしてあとの一人は、疑心暗鬼となり、 水が飲めなくなり、脱水で死んだ・・・」
トウキ「ヒイィィィ! もうスライムの怖い話やめて〜!」
ゼンリ「うわっ!何だよお前ら! 大量のスライム引き連れてきやがって! しゃれになんねえ!」
ゼンリ「おりゃーーっ!!」
スライム「・・・」
ゼンリ「いでででっ! 効いてる気配がねえ!」
ゼンリ「トウキ、またなんとか──」
ゼンリ「・・・?!」
スライム「──!!」
何だ?!
スライムたちが・・・
トウキ「逃げていく・・・?」
アミア「あ、ちょっ・・・ あれ見て・・・!」
水龍「・・・」
トウキ「あ・・・ ええ・・・?」
ゼンリ「水龍だと? なんで── 普段は深い水の底にいて、 出てこねえはず・・・」
???「・・・」
トウキ「・・・」
トウキ「・・・へ? 龍が女の子になった?」
???「・・・」
???「戻せ」
トウキ「・・・?」
???「私の・・・ 私達の湖を戻しなさい」
???「戻せッッッ!!」
アクアマン「戻せーーッッッ!!」
トウキ「ええええ?!」