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イトウアユム

第6話:ネメシスの伝言<episode.5>(脚本)

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〇研究施設の玄関前
  大手葬儀会社『やすらぎフォレスト』
  本社ビル、エントランスホール。
  大きな天使像が中央に飾られている。
  打ち合わせを終えた
  暮林徹(クレバヤシ トオル)を
  2人の男が待ち構えていた。
三守累「――失礼ですが、暮林徹さんですね」
暮林徹「そうですけど・・・貴方たちは?」
三守累「僕は警視庁捜査一課の三守と申します。 こちらは協力者の城間さん」
三守累「暮林さんはフリーランスの エンバーマーだとお伺いしております」
三守累「ご遺体の修復や防腐処理、 ヘアメイクまで施し、 生前と同じ美しい状態を再現する・・・」
三守累「これらのエンバーミング技術は、 センスだけではなく医学的・科学的な 知識や技術が必要です」
三守累「しかし、火葬が主流の日本では 国家資格も無く認知度も低い」
三守累「暮林さんは独学で習得されたとか・・・ 素晴らしい」
暮林徹「皆さんに安らかな気持ちで 最期の別れをして頂きたい──」
暮林徹「その一心で仕事に励んできた。 ただそれだけですよ」
三守累「御謙遜を。でも――悪趣味ですよ。 ネメシスを語って、 御遺族に殺人を示唆するなんて」
暮林徹「ネメシス? 示唆? なんの話です?」
  柔和だった表情が固まり、
  暮林は首を傾げる。
暮林徹「ああ・・・そういえば、今巷で そんな殺人事件が流行っていますね。 でも、私とどういう関係が?」
城間龍昇「またまたすっとぼけて。ネメシスってのは あんたのもう一つの名前だろ?」
三守累「暮林さんの様な優秀なエンバーマーは 幾つもの葬儀会社とご契約をなさって いるんですね」
三守累「亀井文世さんに田中佳代子さん、 久保英寿さんに磯田俊実さん、 そして――北条靖枝さん」
三守累「それぞれ葬儀会社が異なりますが、あなたがエンバーミングを担当した方達です」
三守累「そして―― あなたが仕組んだ勝手な復讐劇の被害者だ」
暮林徹「あなた達が何を言ってるのか さっぱりわからないのですが」
城間龍昇「ネメシスのメールは故人しか分からない 情報が書かれている」
城間龍昇「でも、正確には 『故人になった時にしか分からない情報』だ」
三守累「北条靖枝さんは結婚式を控えていた。 だから死に装束はウェディングドレス だった・・・」
三守累「ここまではきっと あなたも知っているでしょう」
三守累「でも、火葬にする直前、靖枝さんの棺には たくさんの白薔薇が納められていたんです」
暮林徹「薔薇が? まさかそんな・・・」
三守累「薔薇の花はトゲがあります。手向ける 参列者の方や遺体が傷つくのを防ぐため 葬儀ではあえて使わない業者が多い」
三守累「しかし、靖枝さんは生前、 白薔薇がお好きだった」
三守累「それこそ婚約者の松本さんに 薔薇がモチーフのカフスボタンを プレゼントするくらいに」
三守累「だから最後のお別れにとお母さまが 火葬場に白薔薇を持ち込んだそうです」
三守累「この事実を聞いて、 僕はネメシスのメールを思い出しました」

〇黒背景
  『綺麗なお化粧を施して、
  憧れていたドレスを着てるのに・・・』
  『狭くて暗くて冷たくて・・・
  虚無の棺桶が私のチャペル!』

〇研究施設の玄関前
三守累「大好きな白薔薇が 自分を埋め尽くしているのに、 虚無の棺桶だなんて表現するでしょうか?」
城間龍昇「そこでピンと来たんだよ。 ネメシスは靖枝さんの遺体は見ていても、 火葬場での状態を見ていない」
城間龍昇「つまり遺体を直接確認することが出来て、 葬儀に関係している」
城間龍昇「しかし火葬場にはいなかった 人物じゃないか、ってな」
三守累「あなたでしたら遺族の情報の収集は 容易ですよね、暮林さん」
三守累「葬儀会社に出入りしているし、 遺体の復元作業を施すのに 被害者の生前の情報も手に入れやすい」
三守累「こうして何年も前から・・・悲惨な事件の 被害者を担当した際には、その被害者の 情報を手元に集めていたのでは?」
三守累「そして被害者の犯人の出所日を調べ、 被害者遺族にネメシスと名乗って メールして、犯人の情報を与えた」
三守累「遺族に犯人を殺すように 差し向けるために──」
暮林徹「・・・ここらへんで潮時かと思ってたんだ けどさぁ、思ったよりも早かったね」
  累の追及に暮林は
  今までの丁寧な態度から一転させ、
  ぞんざいな口調であっさりと認めた。
暮林徹「でも、火葬場でそんなイレギュラーな事を されてるとは思わなかったなぁ。 だったらもっと相談して欲しかったよ」
暮林徹「そしたら白薔薇が生えるようなメイクを あの子に施したのに」
  反省の欠片も無い呟きに
  龍昇は静かに問い掛けた。
城間龍昇「・・・おまえ、 何が目的でこんな事をしたんだよ?」
暮林徹「――犯人は懲役で罪を許されるべきか否か」
暮林徹「俺はカワイソウな遺族に 復讐するチャンスをあげたかったんだよ」
城間龍昇「違うね。お前は楽しんでいるだけだ」
城間龍昇「佳代子さんが良い例だ。お前は彼女を 自殺に追い込んだ犯人を調べようとした」
城間龍昇「しかし ネメシス事件が有名になり始めた事や」
城間龍昇「マスコミも葬儀会社も個人情報の管理が 厳しくなった事で調査が難しくなった」
城間龍昇「だからSNSで名前を検索し、 その情報だけで勝手に ホストが自殺の原因だと推測したんだろう」
城間龍昇「お前は無実のホストに罪を被せ 殺そうとしたんだぞ」
暮林徹「殺そうとしたのは妹の方でしょ。 それにホストなんて底辺の人間は 社会からいなくなっても問題ないし」
城間龍昇「てめぇ・・・!」
  暮林に殴りかかろうとする龍昇の肩に
  手を置いて累は止めた。
三守累「思い返せばネメシスのメールの 死者の言葉は、死に至った際の死因や 遺体の損傷具合の話ばかりでした」
三守累「自分の仕事ぶりを自画自賛して、 他人にも認めて褒めてもらいたかった、 とも取れますよね」
三守累「あなたはネメシスの代行者ではない。 承認欲求と自己顕示欲の塊の、 あなたこそ薄汚い底辺の人間ですよ」
  いつもの淡々とした口調ではあるが、
  累の暮林を見る目付きはまるで
  汚いものを見るような冷たいものだった。
暮林徹「あは、酷い言われようだなぁ。ま、 君たちに理解されなくてもかまわないし。 それにいつか捕まると思ってたしね」
暮林徹「でも、捕まっても罪は軽い。だって、 俺は――直接手を下していないんだから」
  にやにやと笑う暮林に累は嫌そうに
  眉を潜め、龍昇は再び問い質した。
城間龍昇「・・・おまえさあ」
城間龍昇「人を殺して、死んでも後悔するような 悲しみや憎しみや恨みを植え付けて・・・ なんでそんな風にへらへら笑えるんだ?」
暮林徹「そりゃあ、俺は殺してないし」
城間龍昇「そうやって自分に言い聞かせてんのは わかるけどよ、 でもそこまで言い張るなら・・・」
  龍昇はポケットの中に手を入れると、
  何かを取り出す。
  清水のアパートで拾い、サイコメトリー
  した松本のカフスボタンだった。
  それを握って、
  龍昇は暮林の手を強引に取る。
城間龍昇「『本人』に聞いたらどうだ?」
暮林徹「え・・・なにを・・・」
  するんだ、という言葉が続かなかった。

〇モヤモヤ
暮林徹「・・・痛い、痛い、痛いっ!」
  体中に走る、鋭い痛み。
  まるでナイフで何度も何度も刺される
  ような・・・激しい痛みが暮林を襲う。
暮林徹「・・・苦し、おまえ、何を・・・」
  頭の中を目まぐるしく巡るのは、
  人を跳ねた瞬間の絶望。
  赤く染まったアスファルト。
  人を殺した後の激しい後悔。
暮林徹「なんだよ、なんなんだよこれ・・・」
  一度に押し寄せる記憶に
  頭が割れるように痛く、
  暮林の視界がだんだんと狭まっていく。

〇血しぶき
  ――清水は松本に殺される時、
  一度だけ松本の攻撃を反射的に防いだ。
  その際、防いだ手が松本の手首に当たり、カフスボタンがはじけ飛んだ。

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