あなたの特別

羽遊ゆん

2.心を閉ざした子(脚本)

あなたの特別

羽遊ゆん

今すぐ読む

あなたの特別
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇説明会場(モニター無し)
鷲尾拓海「・・・」
盾石塾長「拓海くん、今日からこちらの琴美先生がついてくれることになったから」
前嶋琴美「はじめまして! 前嶋琴美です。 拓海くん、よろしくね!」
鷲尾拓海「・・・」
  拓海は琴美をちらりと見ると、興味なさそうに手元の本に視線を戻した
盾石塾長「じ、じゃあ琴美さん、よろしくお願いしますね」
前嶋琴美「はい・・・」
前嶋琴美「えっと・・・拓海くん。 なんの本、読んでるの?」
  拓海は無言で本を立てて
  表紙を琴美に見せた
前嶋琴美「へぇ・・・『鳥類事典』」
前嶋琴美「鳥が好きなの?」
鷲尾拓海「・・・」
前嶋琴美(・・・ううむ)
前嶋琴美「拓海くん、学校の宿題はもう済ませたの?」
鷲尾拓海「・・・」
前嶋琴美(孤立してるのは、これが原因か)
前嶋琴美(どうして人を寄せ付けない態度をとるようになっちゃったんだろう?)
  ― 3週間後 ―
前嶋琴美(よし、拓海くん発見)
  週2回の塾で
  
  心を開いてくれない拓海くんを
  
  観察していて分かったことがある
  拓海くんが読んでいる本は
  
  キレイな写真やイラストが載っている事典。
  
  色彩事典や花事典、星座事典──
  そして、出されたおやつは必ず食べる。
  
  甘いものが好きみたい
  目で楽しめるお菓子を作って
  
  一緒に食べたら、仲良くなれるかな?
  
  と思っていた矢先
  私は、大失敗をしてしまった

〇説明会場(モニター無し)
  ― 数日前 ―
前嶋琴美(拓海くんは相変わらず読書に夢中・・・ 今日は星座事典ね)
前嶋琴美(いつも分厚い事典を読んでるけど、ホントに読んでるのかなぁ?)
前嶋琴美(え! もう次のページ? 早すぎない?)
前嶋琴美(ホントに読んでるか確かめてみよ!)
前嶋琴美(えっと・・・今見てるページは、四季の星座について、か。よ~し!)
前嶋琴美「ねえ、拓海くん。 星座の問題出してもいい?」
鷲尾拓海「・・・」
  拓海が、琴美を見て
  コクリとうなずいた
前嶋琴美「じゃあ・・・ 今、4月でしょ?」
前嶋琴美「春の星座をすべて答えてください」
鷲尾拓海「・・・」
鷲尾拓海「うしかい座、うみへび座、おおかみ座、おおぐま座、おとめ座、かに座、からす座、かんむり座、ケンタウルス座──」
  拓海は一度も本を見ず、琴美を見たまま、星座名をすらすらと答える
前嶋琴美「え、ちょ・・・ストップ!」
前嶋琴美「拓海くん、さっき一瞬そのページ見ただけだったよね?」
前嶋琴美(あ・・・もしかしてこの前テレビで見た『カメラアイ』)
前嶋琴美「ねえ拓海くんの本の読み方って 写真みたいに頭に記憶される、とか?」
鷲尾拓海「・・・」
  拓海が戸惑った様子で
  コクリとうなずいた
前嶋琴美「やっぱり~! すごいすごい!」
前嶋琴美「拓海くん、それ『カメラアイ』っていって、特別な能力なんだよ!」
前嶋琴美「『カメラアイ』だなんて羨ましい! 拓海くんってすごいんだね!」
鷲尾拓海「・・・」
鷲尾拓海「・・・くない」
前嶋琴美「え?」
鷲尾拓海「すごくない! 僕は・・・僕は普通だ!」
前嶋琴美「あ! 拓海くん!?」

〇説明会場(モニター無し)
  拓海くんを怒らせてしまった私は
  
  『カメラアイ』について調べた
  『カメラアイ』は
  
  メリットだけではない
  幼いころから『天才』『神童』と
  
  言われ続けてプレッシャーを
  
  感じる子がいる、とあった
  私は、拓海くんが人を遠ざけるのは
  
  これが原因じゃないかと考えた
前嶋琴美「・・・」
前嶋琴美「拓海くん」
前嶋琴美「ちょっと、いいかな?」
  琴美は、拓海と別室に移動した

〇小さい会議室
前嶋琴美「あ、あの、拓海くん」
前嶋琴美「・・・」
前嶋琴美「・・・えっと」
前嶋琴美「ごめんなさい!」
前嶋琴美「この前、『カメラアイ』のこと・・・」
前嶋琴美「何も知らないくせに、すごいすごいって褒めたたえたから」
前嶋琴美「嫌な気分になったんだよね?」
鷲尾拓海「・・・」
前嶋琴美「・・・拓海くん?」
鷲尾拓海「あ! えと・・・」
鷲尾拓海「謝られたの・・・初めてで ビックリ、して」
前嶋琴美「え! 謝るの変、かな?」
前嶋琴美「あ、そもそも大人ってそんなに謝らないもの?」
前嶋琴美「あー・・・大人になると謝れなくなるって聞いたことあるなぁ」
前嶋琴美「んん? てことは・・・ 私が大人になりきれてないってこと?」
前嶋琴美「それって、私の精神年齢が低いってこと!?」
前嶋琴美「でも・・・ 悪いと思ったら、謝るのが普通でしょ」
前嶋琴美「ええー? よくわかんなくなっちゃった も~」
  ぶつぶつと独り言をつぶやく琴美を、拓海がじっとみつめている
鷲尾拓海「ぷ!」
鷲尾拓海「琴美先生って 今まで会ってきた大人と違う」
前嶋琴美「それって、やっぱり 子どもっぽいってこと?」
鷲尾拓海「そうじゃないけど」
鷲尾拓海(なんか・・・この人なら 僕のこと分かってくれそうな気がする)
  ― 6月上旬 ―
  拓海くんは、少しずつ
  
  自分のことを話してくれるようになった
  10歳のときに
  
  お母さんを亡くした拓海くんは
  今はお父さんの親戚の家の離れに
  
  ひとりで暮らしている
  お父さんには、本妻がいて
  
  拓海くんは、所謂『愛人の子』らしい
  親戚は拓海くんに無関心で
  
  最低限の衣食住だけ与えている
  「自分は空気みたいな存在だ」と
  
  拓海くんは言う
  人の顔色をうかがうのに疲れた拓海くんは
  
  ひとりでいることを選んだそうだ
  
  それから──
鷲尾拓海「琴美先生の言う『カメラアイ』?」
鷲尾拓海「この能力は、たしかに一瞬で記憶ができて便利だけど、忘れることができないんだ」
鷲尾拓海「体調が悪いときとか・・・ 嫌な記憶が頭を埋めつくして辛くなる」
前嶋琴美「そっか」
前嶋琴美(人を遠ざける態度をとるのは そういう理由もあったんだ・・・)
前嶋琴美(人と接さなければ、嫌なことは起こらないもんね)
前嶋琴美「あ! じゃあ」
前嶋琴美「拓海くん、さっき言ってた嫌な記憶」
前嶋琴美「楽しい記憶で、頭の隅に追いやっちゃおうよ!」
鷲尾拓海「え? それってどういう・・・」
前嶋琴美「例えば・・・」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:3.予期せぬふたつの…

コメント

  • 幸せなので、もうここまででいいです……(よくない)
    絶対この後なんかありますよね!つらいことが!😂
    その先を見るために乗り越えないといけないのはわかってますけど!少年とのほのぼの関係が幸せすぎました……😇ありがとうございました

  • 子ども扱いするのではなく1人の人間として付き合う琴美さんの優しさが良かった。その時だけではなく半年間ずっと見守ってきたからこそ心を開いたのでしょうね!このまま優しい雰囲気の話にしてほしいー!と1人願います🥺

  • これは好きになってしまう先生……! ちゃんと謝れる大人に戸惑う子どもって結構いますよね。

コメントをもっと見る(8件)

成分キーワード

ページTOPへ