第5話:ネメシスの伝言<episode.4>(脚本)
〇飲み屋街
木造の平屋がみっしりと連なり
アングラな香りが未だ健在の
『新宿ゴールデン街』
〇スナック
バー『椰子のこかげ』
この2階が龍昇の「自宅」だった。
2階と言っても梁がむき出しの
埃臭い屋根裏部屋。
家具は布団とボロボロになった
スーツケース。
それが龍昇の家財一式だ。
城間龍昇「──」
PARAISOは既に開店し、
フロアはにぎわっているだろう。
龍昇は布団に寝転がったまま、
天井をぼんやりと眺めていた。
こずえママ「シロちゃん、降りてらっしゃいな。 シロちゃんにお客さまヨ」
階下のバーのこずえママから
声が掛けられ、龍昇ははしごを下りる。
〇スナック
城間龍昇「・・・よくここがわかったな」
そこにいたのは、
なんとなく予想していた相手。
三守累「パライソに伺いましたら、 本日はお休みだとお聞きしましたので」
仕立ての良いスーツを着た仏頂面で
眼鏡のエリート警官、累だった。
三守累「申し訳ありませんでした。 色々と体に負担を掛けさせてしまって」
こづえママ「カラダに負担?! あらあらあら」
にやにやして2人を見比べるこずえママに
龍昇は釘を刺す。
城間龍昇「ママ、変な誤解すんなよ。 俺は仕事を手伝ってやっただけ、 お前もそういう言い方やめろよな」
こづえママ「はぁい、でも嬉しくって。 シロちゃんの恋人を生きてるうちに 拝む事が出来るなんて思ってなかったから」
城間龍昇「誤解したまんまだな・・・ママ、 ちょっと外に出て来るわ。お前も顔貸せ」
〇神社の本殿
龍昇が累を連れ出したのは
店の裏手にある花園神社だった。
城間龍昇「・・・お前さぁ、あそこは否定してくれよ」
三守累「誤解させておけば色々と楽かと思いまして」
三守累「それに否定したところで 本当の関係をお伝えするのも面倒ですしね」
城間龍昇「まあ、確かに・・・でも俺の体面って いうかプライバシーって言うかさぁ」
三守累「あなたには誤解されて困るような特定の 関係の人はいないでしょう、調査済みです」
城間龍昇「う、うるせー! お前の方こそ・・・っていないか。 必要ないとか言ってたもんな」
三守累「お体、本当に大丈夫ですか? あの後、だいぶ辛そうだったので」
城間龍昇「ん? ああ、まあ・・・口寄せやった後は どうしても体調に支障が出ちまうからさ。 でもだいぶ元気になったから安心しろよ」
城間龍昇「もしかして、心配してるのか? ハハ、おまえらしくねえな」
三守累「はい。反省しています。 無理をさせてしまったなと」
三守累「仕事にも差し障りが出てしまい、 申し訳ないです」
素直に謝る累に驚き、慌てて否定する。
城間龍昇「ばっか、気にすんなよ。 仕事を休んだのは・・・ ちょっと考えたかったからさ」
三守累「考えごと、ですか?」
城間龍昇「ああ。ずっと考えてたんだ。 昨日の事・・・」
城間龍昇「あの2人は無理やり出会わせては いけなかった、って」
三守累「なぜ・・・そう思ったんですか?」
龍昇の言葉に累は問い掛ける。
城間龍昇「口寄せ・・・お前の言い方だと サイコメトリーってやつか。 それをして、感じた事は」
城間龍昇「2人とも後悔していたし、 反省していた―― それこそ、死ぬほどな」
城間龍昇「あのまま過ごせば 2人はなんの接点も無かったはずだ」
城間龍昇「ずっと憎しみや悲しみ、 後悔を抱いたまま生きていたとしても」
城間龍昇「2人は・・・ あんな悲惨な死に方をする事は無かった」
城間龍昇「なのにネメシスはわざと 2人を引き合わせるように仕向け、 2人の運命を変えてしまった」
城間龍昇「死を弄んだ事を・・・ 俺は許せない、だから決めたんだ。 今回の事件は協力する事にした」
城間龍昇「喜べよ、この俺がお前の手助けをしてやる」
三守累「――ひとつ、聞いていいですか?」
累から出た言葉は意外なものだった。
三守累「僕に協力して、あなたに何か メリットがあるんでしょうか?」
三守累「それこそ、体調に支障が出るほど 大変な思いまでして」
城間龍昇「はあ? 巻き込んでおいて いまさら何言ってるんだよ」
三守累「いえ。こんな素直に協力して頂けると 思っていなかったので。 それに不思議なんです」
三守累「知りもしない人の為に、 なぜこんなに必死になれるんだろうと。 それとも何か意図があるんでしょうか?」
城間龍昇「あるわけねーだろ。苦しんでいる人たちを 助けたい、俺の力がその助けになるなら 協力したい。それだけだ」
城間龍昇「つうか、おまえもそう思っているから 警察官になったんだろ?」
三守累「いえ、違います」
驚くほどきっぱりと
龍昇の言葉を否定した。
三守累「僕は早く出世したいんです。 そして権力を手に入れたい・・・誰にも 何も言わせないくらいの圧倒的な権力を」
城間龍昇「はあ、お前ってさぁ・・・」
呆れた様に息を吐きながら
龍昇は累の顔を見た。
被害者を思いやらなければいけない
警察官の言葉としてはあまりにも
心無いものに思えたからだ。
しかし。
言い放った累の目はまっすぐ地面を
見据え、何かを耐えている様で、
さりげなく話題を変えた。
城間龍昇「まあ・・・それに俺も記憶を見て、 知りもしない人じゃなくなったからな」
城間龍昇「俺は松本の記憶の中で靖枝って人を知った」
城間龍昇「微笑む表情も、 棺の中で薔薇に埋もれて眠る姿も」
三守累「薔薇・・・ですか?」
累は意外そうな表情を浮かべる。
城間龍昇「ああ、真っ白な薔薇。ウェディングドレスっぽい死に装束を着てさ・・・」
三守累「――城間さん、行きましょう。 犯人に目星がつきました」
城間龍昇「行きましょうって・・・どこに行くんだ? つか、犯人の目星って・・・」
三守累「やはりあなたの力は本物ですよ」
〇マンションの入り口
城間龍昇「・・・なんだ、このマンション」
三守累「ここに住んでいる人物に、少しお手伝いをしてもらおうかと思いまして」
城間龍昇「犯人の目星がついたんなら、 まずは警視庁じゃねえのか?」
三守累「合法的な捜査と言うものは 時間が掛かるものです」
三守累「その間に犠牲者が増える可能性の方が 高い。僕はスピード重視なんです」
城間龍昇「確かに・・・ってお前、今警察官として あるまじき言動をしなかったか」
龍昇の言葉が聞こえていなかったのか、
はたまた聞こえないフリをしたのか・・・
累は管理人室に向かった。
〇おしゃれな廊下
ピンポーン
小宮奏良「はいはーい、 しかしこんな夜中に点検なんて・・・」
インターフォン越しからでも分かる
不機嫌そうな声。
玄関のドアが開いて出て来たのは、
スウェット姿の長身の青年だった。
城間龍昇(おお! 背が高いな、結構ガタイも良いし・・・ 大学生くらいかな?)
小宮奏良「ん? 管理人さん、変わったんです? あれ、作業着じゃないん・・・」
三守累「こんばんは、小宮奏良(コミヤ ソラ)君」
小宮奏良「〇▲?×!」
龍昇の背後から
すました様子の累が出て来た。
奏良は目を丸くし、言葉にならない声を
あげ、ドアを閉めようとする。
しかし──
ガン!
閉まる寸前のドアに足を入れ、
まるで借金取りの様に中に入り込む累。
小宮奏良「ヒィッ!」
三守累「酷いなあ、奏良君。 閉めるには早いと思いますよ・・・ ほら、僕の足が挟まった」
城間龍昇(――やくざよりもタチが悪いぞ)
小宮奏良「なんでこのマンションに 入れたんですかっ?」
小宮奏良「セキュリティのクオリティは 半端なく高いのにっ!」
三守累「僕には魔法の手帳がありますから」
小宮奏良「お、横暴だ! 人権侵害だっ!」
三守累「ここで立ち話もなんですから、お部屋に 招待して頂けると非常に嬉しいのですが。 奏良君にお願いしたい事があるんですよ」
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