第4話:ネメシスの伝言<episode.3>(脚本)
〇二階建てアパート
累が龍昇を連れて来たのは学生街にある
小さなアパートだった。
真渡愛瑠「三守クーン、こんばんわっ! ・・・って、あれ? 龍昇?」
城間龍昇「アイル! お前なんでこんなところにいるんだよ?」
彼の名前は真渡愛瑠(マワタリ アイル)。
龍昇の上京時代からの古い友達だ。
くりっとした大きな瞳に浮かべる
愛らしい笑顔。
小さな身長や華奢な体格も相まって
10代後半にしか見えないが、
龍昇と同じ28歳のアラサーである。
真渡愛瑠「それはこっちのセリフだよ、 ここはねボクの仕事現場なの。 龍昇こそ、なんでここにいるのさ?」
わざとらしく小首を傾げるあざとい仕草。
彼自身が自分を可愛いと認識し、それを
日頃から武器にしている事が伺える。
城間龍昇「俺はこいつに連れられてきたのっ! ・・・おまえアイルと知り合いだっ たんだな」
意外そうに累を振り返る龍昇。
三守累「ええ、真渡さんとは仕事の上で 懇意にさせて頂いております」
真渡愛瑠「そそ! 実況見分の終わった現場を ウチに紹介してもらってるんだよね☆」
こう見えて愛瑠はスプラッタ好きの
ホラー映画マニアだ。
元々はPARAISOでホストをしていたが、
趣味が高じて清掃会社に就職した。
今では取締役に名前を連ねる特殊清掃の
エキスパートで、こういった現場は彼の
仕事の場でもあるのだ。
三守累「仕事も迅速丁寧ですし、経験と実績に 基づく真渡さんの意見は大いに参考に なりますしね」
真渡愛瑠「もぉ~、三守クンたら、 そんな誉めないでよ~」
城間龍昇「・・・つうか、こんな夜中になんで こそこそ現場に来てるんだよ」
城間龍昇「警察ならもっと前に 来てるもんじゃねえのか?」
三守累「悲しい事に僕の様な肩書だけの若造が 現場に入るのを良しとしない文化が 警察にはあるようでして」
累はまったく悲しそうな顔をせず、
淡々と説明する。
三守累「僕が現場に入ると皆さん、 嫌な顔をされるんですよね」
三守累「だから現場にはこうして清掃会社に引き渡された時点でお伺いする事にしてるんです」
真渡愛瑠「三守クンやっさしー! 気遣いの紳士!」
三守累「現場の状況はデータ化されていますし 僕は物的証拠でしか捜査を出来ない 無能ではありませんからね」
三守累「誰にも邪魔されず落ち着いてゆっくり 実況見分をしたいと言うのが本音です」
城間龍昇「・・・そういうところだと思うぞ、 嫌われてんのは」
龍昇は累の同僚や部下、そして上司たちに
心の中で大きく同情した。
〇アパートの玄関前
三守累「ここはネメシス事件の被害者の家です」
城間龍昇「って事は元殺人者の家。 ・・・なんかややこしいなぁ」
真渡愛瑠「とりあえず中に入ろっか」
〇安アパートの台所
ガチャリ
城間龍昇「・・・なるほど、アイルが呼ばれるわけだ」
乾いた血だらけの玄関を見て
居心地悪そうにつぶやく。
三守累「中へは、土足で入って頂いて構いません」
おっかなびっくり部屋に入る龍昇と、
どかどかと血痕を踏みつけて入る愛瑠に
いつもの仏頂面の累。
真渡愛瑠「こりゃ清掃しがいのある現場だね~! でも・・・ 思ったよりも部屋の中が汚れてないや」
室内をきょろきょろ見渡しながら
愛瑠は不思議そうにつぶやいた。
城間龍昇「これでか?」
真渡愛瑠「うん、話に聞いたところだと、 被害者はいきなり刺されたんだよね?」
真渡愛瑠「そしたら抵抗したり、部屋中 逃げ回ったりすると思うんだけど・・・ 血が玄関周辺にしか散らばってない」
三守累「被害者は玄関から動かず、 そこでうずくまって死んでいたようです」
玄関を上がってすぐの床面を累は指差す。
周辺にはおびただしい血痕が残っている。
三守累「被害者の名前は清水昌行。 彼は未成年の時に自身の運転する車で 女性を跳ね、死亡させた前科を持ってます」
三守累「その時、亡くなった女性の恋人が 今回の被疑者の松本という男です」
城間龍昇「えっ? もう犯人がわかってんのか?」
三守累「はい、松本自ら警察に電話をかけてきましたから。『清水を殺した』と。 その後は自首せず現在逃走中です」
累は続けて説明した。
一週間前、亡くなった女性の両親に
ネメシスからメールが届いた。
両親は松本に相談したため、
松本は清水の情報を得て、
3日前に犯行に及んだのだ。
三守累「城間さんにはこの現場を サイコメトリーして欲しいんです」
城間龍昇「でも、犯人はもうわかってるんだろ?」
三守累「この事件に関しては、ですね。肝心の 真犯人、ネメシスの正体はつかめてません」
三守累「ネメシスは何処かで直接、清水や 被害者遺族と接触しているはずだと 僕は確信しています」
三守累「あなたには、サイコメトリーで その糸口のヒントを探して欲しいのです」
真渡愛瑠「いがーい! 龍昇ってあの力の事、 三守クンに教えてるんだぁ」
城間龍昇「勝手に調べられたんだっての」
嫌そうに答えたが、
愛瑠はおかしそうに笑った。
真渡愛瑠「あはは、でもホントに嫌だったら 龍昇は絶対協力しないじゃん」
城間龍昇「うるせえな!」
からかう愛瑠をよそに部屋を見回すと、
下駄箱の上にある写真立てが目に入った。
家族らしき4人が写っている写真には
血飛沫が飛び散っている。
それを何気なく手に取り、目を閉じた。
〇黒背景
『・・・なさい、ごめんなさい・・・!』
真っ先に飛び込んできたのは
後悔の念だった。
『俺はなんであの日・・・
もっと注意深く、
運転しなかったんだろう・・・』
『見通しが悪いって
わかっていたのに・・・』
〇通学路
土砂降りの雨に打たれ、
道路に横たわる女性の姿。
おびただしい量の血が
地面と清水の視界を染めていく。
後悔、不安、恐怖・・・それらの感情が
胸を押しつぶし目の前が暗くなり。
〇明るいリビング
次に現れたのは
清水の実家のリビングらしき場所で
清水の出所を祝っている家族と友人たち。
清水は心から感謝するものの、
その一方で罪悪感に苛まされていた。
清水昌行(こんな俺でも愛してくれる人がいる・・・)
清水昌行(あの人にも・・・ 愛している人たちがいたのに・・・ 俺が殺してしまった)
〇安アパートの台所
清水が玄関のドアを開けると
そこには男が立っていて・・・
〇黒背景
・・・そしてまた真っ暗になった。
血が流れ、体が少しずつ
冷たくなっていく感触。
『あの人を愛していた人に殺される・・・
これで良いんだ。
これは因果応報』
『ごめんなさい、
父さん、母さん、姉さん・・・
そして俺が殺してしまった北条靖枝さん』
『――今、死んでお詫びします』
何度も何度も全身に走る激しい痛みに
清水は縋るように謝罪し、そして意識が
途絶えた。
〇安アパートの台所
城間龍昇(こんなのって・・・)
現実に引き戻された龍昇の頬には
涙がとめどなく流れていた。
三守累「龍昇さん、大丈夫ですか?」
城間龍昇「俺に近付くなっ!」
自分に近づいた累に
真剣なトーンで声を荒げる。
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