第3話:ネメシスの伝言<episode.2>(脚本)
〇ビルの裏
城間龍昇「お、俺が欲しいって・・・ どういう意味だよ!」
守るように自分の体を抱きしめる龍昇を
累は珍しそうに眺めた。
三守累「どういう意味って・・・ 言葉のままの意味ですが?」
城間龍昇「お、お、俺はノンケだぞ!!!」
三守累「ノンケ? もしかして勘違いしていませんか?」
城間龍昇「は?」
三守累「僕が欲しいのはあなたではなく、 あなたの力です」
城間龍昇「俺の力・・・?」
三守累「ええ、正直この目で見るまでは まったくもって信用してなかったのですが」
三守累「被害者の自殺の原因に名前、 そして被害者の妹の名前まで当てた・・・」
三守累「この事実は僕の予想を はるかに超えるものでした」
三守累「あなたのサイコメトリー能力は」
城間龍昇「口寄せ、な」
三守累「どちらの呼び方でも構いません。 とにかくその力が必要なのです」
三守累「・・・と、ここまで言わないと 理解出来ませんかね?」
首をひねる累に
自分の勘違いに気付いた。
城間龍昇(俺の貞操の危機ってわけじゃ なかったのね・・・)
城間龍昇(安心したけど、これ、 かなり恥ずかしいぞ・・・)
城間龍昇「な、なんだそっか・・・はは、は・・・」
三守累「そうでなければ このような場所に来ませんよ」
三守累「しかし・・・あなたは自分が一目惚れ される魅力があると思ってるんですね」
城間龍昇「悪いかよっ! そ、そもそも勘違いする ような言い方をしたのはお前の方だろ!」
三守累「申し訳ありません。外見的要素から人に 好意を持たれる事には慣れているもので。 女性にも男性にも」
城間龍昇「――自信もそこまでくると 嫌味にしか聞こえねえな」
城間龍昇「って、男性にもって・・・ あんたはもしかして・・・ ゲイだったりする?」
三守累「ゲイなのかと問われますと、 悩みますが・・・」
三守累「そうですね、男性が男性を 恋愛対象にする事は否定しません」
三守累「そもそも僕は恋愛には興味ありませんから」
三守累「恋愛なんてしょせん、脳内麻薬の様な物です。僕には必要ない」
城間龍昇(なんなんだこの男は・・・ 話がまるで噛み合わねえ)
城間龍昇(こういう男とは・・・ 関わらない方が良い、うん絶対に)
城間龍昇「わざわざこんなところまで 来て貰って悪いが・・・」
城間龍昇「俺は恋愛ってのは生きてく上で 必要なものだと思ってるクチだからさ」
城間龍昇「ま、基本スタンスが合わないって事で、 カマドおばあには悪いけど俺は辞退するわ」
三守累「そうですか、でもそれは困ったな。 なにせカマドさんはあなたにとても 期待されておりましたから」
三守累「あなたが私に手を貸せば、少なくとも その手の届く範囲の人の死を回避出来る、と」
城間龍昇「おばあがそんな事を・・・」
困ったと言いつつも、
まったく困っていない表情の累に
祖母の事を思い出した。
城間龍昇(俺の祖母、カマドおばあは沖縄でも 指折りのユタ一族城間家の当主だ)
〇レトロ
城間龍昇(ユタは死霊や精霊から託宣を受け、 判断を授ける)
城間龍昇(優秀なほど、未来を見る力は強く、 先行を判断し指示する)
城間龍昇(だからこそ人々はユタに信頼を寄せ、 判断を仰ぐ。時には警察や政府すらも)
城間龍昇(だが俺は死者の記憶を見る 『口寄せ』の力しか持たなかった)
城間龍昇(もう既に起こってしまった、取り返しの つかない『過去』しか見る事が出来ない)
城間龍昇(それが、俺が一族の落ちこぼれと 言われる所以だ)
城間龍昇(しかも、追体験してしまう、この 特殊能力は体にも精神にも負担が掛かり、 幼い頃は口寄せを禁じられていた)
城間龍昇(カマドおばあは優しかった。 落ちこぼれと揶揄する親戚から俺を守って くれた。1人で勝手に上京した時も)
城間カマド「龍昇の好きにさせてやり」
城間龍昇(鶴の一声で周囲の非難を黙らせてくれた。 そんな俺にとって唯一気の許せる存在の カマドおばあ)
〇ビルの裏
そんな大切なカマドおばあが
龍昇なら出来ると、この男に太鼓判を
押してくれた事に感慨深かった。
城間龍昇「カマドおばあが俺に期待してるなら・・・ とりあえず話だけでも聞くわ」
三守累「そう言っていただけると思いました」
態度の軟化した龍昇に累は言葉を続けた。
三守累「先ほどの女性は未遂に終わりましたが、 最近全国で殺人事件の被害者遺族が 殺人を犯す、という事件が多発してます」
城間龍昇「殺人事件の被害者遺族が殺人を犯す?」
三守累「ええ。簡単に言うと、被害者は 事件の刑期を終え出所した元殺人犯です」
三守累「そして元殺人犯を殺した被害者遺族を 聴取して、ある事実が分かりました」
三守累「皆に共通するのは 『Nemesis(ネメシス)』という正体不明の差出人からメールや手紙が届いた」
三守累「そしてそのメールの内容は 死者の訴えだった、という事です」
三守累「『最初は左腹、次は首筋・・・ あとは顔を何度も何度も刺されたの』」
三守累「『お母さんも知ってるでしょ? 私の顔がどんなに手をつくしても、 キレイにならなかったって』」
三守累「これは15年前、ストーカー殺人で殺された 女性の訴えを綴ったネメシスからのメールの一文です」
三守累「実際、被害者の女性は顔の損傷が激しく、 顔のエンバーミングだけで3日を費やした そうです」
城間龍昇「エンバーミングに3日・・・ それは・・・酷いな」
三守累「しかし、この情報はマスコミにも 伏せられていた内容なのです」
三守累「メールにはこの様に殺された被害者や遺族にしか分からない情報が書いてあります」
三守累「犯人の出所後の情報も。 そして・・・ 最後はネメシスの言葉で締めくくられます」
『犯人は今、法によって罪を償い、
普通の人間の様に生きている』
『あなたの大切な人の
生きるはずだった時間を
人生を』
『あなた自身が彼らを裁く事を
私が許そう』
『復讐の女神
ネメシスの名のもとに
穢れた魂に死の制裁を』
『被害者の無念を晴らせるのは
あなたしかいない』
城間龍昇「そして・・・被害者遺族は犯人を殺すのか」
殺人によって人の命を奪われた遺族が、
今度は奪う側になって殺人を犯す。
その矛盾に表情を曇らせた。
三守累「匿名性が高いこの事件は、なかなか 事件解決の糸口が見つからないのです」
三守累「そこで事件を解決する参考になるならばと 警視総監が直々に、僕に城間カマドさんを 紹介したわけです」
城間龍昇「そしてカマドおばあは俺を紹介したと」
城間龍昇「ま、おばあがそう言うなら仕方ないが、 あまり期待しない方が良いぞ、 記憶は嘘をつくからな」
三守累「記憶は嘘をつく?」
城間龍昇「ああ。それに・・・俺も嘘をつく」
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