第2話:ネメシスの伝言<episode.1>(脚本)
〇ホストクラブ
ホストクラブ『PARAISO』
女性客「あんたのせいでお姉ちゃんは 自殺したんだ!」
有坂祐樹「は、はあ? じ、自殺って?」
女性客「とぼけないでよ! SNSを見たんだから、全部知ってるのよ」
女性客「こんなにカードを作らせて お姉ちゃんにあんなに貢がせてたくせに!」
女は包丁をユウキに突き付けたまま、
クレジットカードの束を投げつける。
カードの束はユウキにぶつかり、
散り散りに床に落下した。
城間龍昇「・・・このカードは・・・」
城間龍昇(シロマ リュウショウ)は
床のカードを1枚手に取り
なにやら考え込む様に目を閉じた。
城間龍昇「――・・・」
その様子を黙って監察する三守累
(ミモリ カサネ)。
龍昇はゆっくりと目を開けた。
城間龍昇「あなたのお姉さんって・・・ 田中佳代子さんだよね?」
女性客「! そ、そうよ!」
龍昇の言葉に女は動揺しながらも
反応する。
女性客「っていうか、 なんであんたが名前を知ってるのよ!」
城間龍昇「このカードに名前が書いてある。 それに俺も何度かヘルプについたことが ある。でも・・・」
城間龍昇「マメに来店してくれてたけど 一時間だけで帰る事が多かった・・・ 同伴もアフターもしてなかったし」
城間龍昇「少なくとも君の言うような、 派手な飲み方はしてなかったよ」
女性客「うそ。 SNSじゃ週末はオールしてるって・・・」
女性客「ホストクラブに通ってるって 公言してたのを会社の人も聞いてるし」
城間龍昇「ねえ、麻沙美ちゃん。 こう考えられないかな?」
城間龍昇「佳代子さんはそう周囲にアピール しなきゃならないような状況だった」
城間龍昇「佳代子さんには、別の・・・ それこそ会社の人に知られちゃいけない、 秘密の相手がいたとか、ね」
女性客「・・・そんな。でも・・・」
城間龍昇「彼女は慎重な人だったからね。SNSや スマホの履歴よりも、パスワードの掛かっているパソコンの方を見てみると良いよ」
城間龍昇「そうそう、パスワードは妹の誕生日に してる、なんて酔った時に言ってたかなぁ」
女性客「でも、ネメシスは・・・ お姉ちゃんがホストに殺されたって・・・」
城間龍昇「ネメシス?」
聞き慣れない単語に聞き返した。
城間龍昇「・・・ネメシスって復讐の女神の事?」
思わず問いかけた龍昇に
返答したのは女ではなく──
三守累「いいえ」
累だった。
その顔は無表情ではあるが・・・
先ほどとは違う、冷たいものだった。
三守累「恐らく彼女の言うネメシスとは胸糞悪い、 自称『死者の代弁者』の方ですよ。 ――あなたの良く知るユタと違って 、ね」
城間龍昇「・・・・・・!」
城間龍昇(こいつ、なんだ・・・ 俺の力を『知って』いるのか?)
城間龍昇(・・・って、マジ、 一体何者なんだよ、こいつ・・・?)
女性客「ねえ・・・お姉ちゃんは本当に、 ホストに殺されたんじゃないの?」
城間龍昇「ああ、もちろん・・・」
城間龍昇(こいつの詮索は後にしよう。今は彼女が 望む、最後を観て伝えてやらないと・・・)
気を取り直し、
もう一度カードを握りしめた。
〇モヤモヤ
田中佳代子「苦しい・・・空気が・・・ 誰か、助けて・・・ 私・・・このまま死ぬの・・・?」
〇ホストクラブ
城間龍昇「・・・っ!」
脳内をかき回されるような
痛みと不快感が襲う。
城間龍昇(彼女の・・・ 『記憶』が強烈過ぎる・・・!)
それと同時に感じる、
喉に巻き付く縄の感覚と息苦しさ。
痛みも苦しみも・・・そして悲しみも。
城間龍昇(やべ・・・このままだと、 引きずられちまう・・・!)
耐えられず、足元がふらついた龍昇の背中を1人の男が支えた。
国吉琉汰「大丈夫か、龍昇」
城間龍昇「――リュウタにい・・・ じゃなくてオーナー」
そこにはPARAISOのオーナー、国吉琉汰
(クニヨシ リュウタ)とPARAISOの
ナンバー1ホスト、レイヤがいた。
勝院寺レイヤ「お客様もそんな物騒な物は おさめて・・・ね」
女性客「あ・・・」
レイヤにさりげなく包丁を取られた女は
そのまま床にへたり込む。
城間龍昇「・・・ねえ、麻沙美ちゃん」
城間龍昇「麻沙美ちゃんは佳代子さんの仇を取ろうと ここに来たんだよね。 それは凄い事だと思う、でも・・・」
城間龍昇「真実はたくさんあるものだから。ひとつ だけの真実を鵜呑みにするのは間違いだ」
女性客「真実はたくさん・・・ある?」
城間龍昇「そう、けれども事実は1つしかない。 事実は結果だからね」
城間龍昇「本当に麻沙美ちゃんがお姉さんの仇を 取ろうと思っているのならば、 その事実を探すべきだと俺は思うよ」
城間龍昇「そしてその事実を探すのが警察。 ちょうど良いタイミングで、ここに 警察さんがいるから是非相談すると良い」
三守累「え? ちょ、ちょっと待って下さ・・・」
国吉琉汰「皆さん、お騒がせしました! 今日は私のおごりで、テーブル毎に1本 シャンパンを振舞わせて頂きます」
慌てる累の言葉に重ねる琉太の宣言。
フロア内は色めき立つ。
そして湧くフロアから龍昇は
いつのまにかいなくなっていた。
残されたのは泣きじゃくる女と、
なにやら話し込む累。
呆然と眺めるユウキは
レイヤに問いかけた。
有坂祐樹「龍昇さんの・・・なんですか、あれ」
有坂祐樹「本指名の俺でも知らない、 佳代子さんの事・・・ プライベートとかめっちゃ知ってて」
勝院寺レイヤ「まあ、あれは あの人の特技みたいなものだよ」
有坂祐樹「特技って・・・メンタリストみたいな?」
勝院寺レイヤ「ふふ、そういう事にしておこっか」
女性客「――そういえば、私の事麻沙美って・・・ あの人・・・なんで私の名前を・・・ 知ってたんだろう?」
〇ビルの裏
城間龍昇「っは! ・・・はあはあ・・・ マジ、首吊りはキツいって・・・」
店の裏の路地で壁に背を預け、
苦し気に肩で息をし、無意識に首を擦る。
なにも無いと分かっていても、
どうしても首元を緩めたくなってしまう。
三守累「――だいぶ苦しそうですね」
城間龍昇「! ・・・おまえかよ。 麻沙美ちゃんはどうした・・・」
三守累「ご心配なく、外で待機していた部下に 対応させておりますので」
城間龍昇「部下に対応って・・・ あの、色々穏便に・・・」
三守累「もちろん包丁を振り回していた事は 余興の一種と言う事で、 僕の中では処理しています」
城間龍昇「なんだ、あんた結構話が分かるんじゃん」
三守累「僕は貸しを作るのが好きなんです」
城間龍昇「・・・前言撤回」
三守累「だいぶ体にこたえているようですね」
龍昇の不調の原因を分かっているかの様に
問いかける。
三守累「あなたのサイコメトリーは、時には死者の 体験を追体験をしてしまう事があると、 あなたのおばあさまに聞きましたので」
三守累「記憶も、感情も・・・痛みも」
城間龍昇「サイコメトリーねえ・・・俺や カマドおばあは口寄せって言ってるけどな」
客の姉の遺品であるクレジットカードから流れてきた残留思念。
SNSにホスト通いを装い、
同僚との不倫をカモフラージュしていた
独身女性の日常だった。
貢いでも報われない日々。
挙句別れようと切り出され、失意のどん底の中、自殺した痛みと苦しみの悲痛な声。
城間龍昇「カマドおばあの知り合い、 だから警察ね、納得した」
城間龍昇「って事は、俺の素性を知ってるんだよな。 城間の人間だってこととかさ」
城間龍昇「だったら、俺よりももっと強いユタの力を持ってる奴が城間にはいるだろうが。 なんでわざわざ俺のところにきたんだよ?」
三守累「僕もそう思いますが、 カマドさんたってのご推薦でしたので」
城間龍昇「おばあが・・・俺を?」
三守累「はい。白状しますと、正直お断りしようと思ったのですが・・・気が変わりました」
三守累「城間龍昇さん、僕はあなたが欲しい」
城間龍昇「へえ、俺が欲しいんだ。 まあ、俺も結構・・・って? ん?」
求められる事は悪くない。
そのまま受け流そうとしたが
言葉の違和感に気付く。
城間龍昇「・・・待て。あんたが、俺を? 欲しい??」
三守累「はい、どうしてもあなたが欲しいです」
城間龍昇「はあああああ???」