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イトウアユム

第1話:BEGINNING(脚本)

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〇美しい草原
  辺り一面にサトウキビ畑が広がり
  遠くに海が見える。
???「龍昇くん」
城間龍昇(女の人の呼ぶ声で俺は振り返る)
城間龍昇(その人は友達の母親だった。 ・・・もうこの世にはいない、健の。 健は一か月前、海で溺れて死んだ)
健の母「あのね、龍昇くんにお願いがあるの・・・ 健をね「呼んで」欲しいのよ」
城間龍昇「それは・・・ワンには無理だから。 おばあに頼んでキレ」
城間龍昇(俺は断る。まだ子供で未熟な俺はあの力を勝手につかってはいけないと教えられて きたから。それに俺の力は・・・)
健の母「カマドゥオバーデー、ナランナー? (カマドおばあじゃ駄目なの)」
城間龍昇(おばさんが俺の肩を掴む。 間近に迫ったおばさんの目は血走っていた)
健の母「――アンマーヤ、ワカンドー (おばさんは知ってるのよ)」
健の母「イヤーネー、ユタヌチカラがアティシニマブイ、トウ(あんたにはユタの力があって死者と話せるだけじゃないって)」
城間龍昇「!」
城間龍昇(ゆっくりと言い含めるような、でもどこか おかしいおばさんの鬼気迫る姿。 俺は恐怖で身動きが取れなくなった)
健の母「ウニゲーヤクトゥ(お願いよ)。 ワン二ンカイン、ミシテケレー (私にも見せて)」
健の母「健ガシニメーニ――ヌーウムトウイ (健が死ぬ前に何を思ったのか)」
城間龍昇(おばさんは俺に健の帽子を差し出す。色褪せて、擦り切れた健のお気に入りの帽子)
城間龍昇(俺はあの時 おばさんから帽子を受け取った事を・・・ そして事実を『知らせた』事を・・・)
城間龍昇(今でも後悔している)

〇モヤモヤ
  ────

〇美しい草原
健の母「・・・うっ、うう・・・健、健ッ!!!」
城間龍昇(健の記憶を覗いてしまったおばさんは 泣き崩れる)
城間龍昇(無理もない。 おばさんが知ってしまったのは・・・ 『記憶』だけではなかったのだから)
健の母「アニン、クチサタンナー・・・ (こんなに苦しかったなんてごめんね)」
健の母「アンマーガ、メェハナサンデー (私が目を離さなければ) ・・・健、健―ッ・・・!」
城間龍昇(ただひたすら健に謝罪の言葉を呟く おばさんの姿に俺は悟る)
城間龍昇(――本当の事を伝えても 人は決して幸せにはならないという事を)

〇ホストクラブの待機スペース
  ホストクラブ『PARAISO』
  数人のホストが待機している。
城間龍昇「!」
城間龍昇(夢、か・・・アレを見るなんて久々だな)
  目を覚ました目の前の光景。
  青空と風に揺れるサトウキビ畑ではなく
  ムーディな室内とシャンデリアの揺らぐ光
  その事実に城間龍昇
  (シロマ リュウショウ)は安堵した。
城間龍昇(ったく なんだってまだ思い出すんだ・・・ もう20年以上経つってのに・・・)
城間龍昇(ま、今はそれよりも)
  うたた寝をしていたなど
  周りに気付かれていなかったか。
  それが気になり、そっとフロアの方に
  視線を向けてみる。
  特に気付かれた様子も無く再び安堵した。
  しかし──
有坂祐樹「龍昇さん・・・今、寝てましたね?」
  向かいのソファに座る新人ホストの
  有坂祐樹(アリサカ ユウキ)は
  一部始終を目撃していたようだ。
  じっとりと問い詰めるような
  ユウキの視線に慌てて弁解する。
城間龍昇「い、いやっ! 寝てなんてねえって! ・・・ちょっと、な・・・」
店内放送「ただいま 中村様よりドンペリが入りました」
  龍昇は目を輝かせ勢いよく立ち上がった。
城間龍昇「おっ! ドンペリ入ったのか! よっしゃ、コール掛けに行くぞ!」
有坂祐樹「ちょ、ちょっと龍昇さん!」
  ユウキが止める間もなく
  龍昇はドンペリが入ったテーブルに
  軽やかに走っていった。

〇ホストクラブ
城間龍昇「♪素敵な姫がっ! 素敵な素敵な」
「シャッシャッ、シャシャシャッ」
城間龍昇「♪シャンパン入れた!」
「スゴイね、ヤルね、太っ腹っ!」
  煌びやかなフロアが龍昇のリードする
  シャンパンコールで一気に活気付いた。
有坂祐樹「はぁ・・・」
勝院寺レイヤ「どうした? ため息をついて」
  PARAISOナンバー1ホスト
  勝院寺レイヤ(ショウインジ レイヤ)。
有坂祐樹「いや・・・龍昇さんって・・・ 年齢的にもキャリア的にも 中堅のホストじゃないっすか」
有坂祐樹「不思議なんスよね。あんなに盛り上げ上手で、龍昇さんを嫌いな人なんていないのに固定の客もいないし」
有坂祐樹「そして本人も 焦ってるそぶりすら見せないし」
有坂祐樹「でも、いつまでもヘルプで・・・ 辛くないのかなって」
勝院寺レイヤ「――ふぅん。ユウキには龍昇さんが そういうふうに見えるんだ」
有坂祐樹「えっ? それってどういう意味で・・・」
常連客「龍昇、今日も良い飲みっぷり見せてよ!」
城間龍昇「よしきた! 姫のお気に召すままにっ!」
  シャンパンコールを掛けた常連客が
  差し出すボトルに、
  龍昇は嬉々として口を付けた。

〇ホストクラブの待機スペース
城間龍昇(飲み過ぎた・・・)
  シャンパンコールの後、ボトルを続けて
  2本飲み干し、待機スペースのソファに
  ぐったりともたれかかる。
城間龍昇(でも中村さんは俺がやらないと他の ホストに一気を強要するからなぁ・・・)
ボーイ「・・・龍昇さん、大丈夫ですか?」
城間龍昇「バッチリに決まってるだろ? うみんちゅの肝臓舐めんなよ?」
  止せばいいものの
  強がってみせるのが龍昇の悲しいサガ。
ボーイ「なら良いのですが・・・ 今、龍昇さんにご指名が入っておりまして」
城間龍昇「えっ? 俺に指名?」
  指名との言葉に驚いて思わず聞き返す。
ボーイ「はい・・・新規のお客様です」
  新規の客がわざわざホストを指名する。
  喜ばしい事なのに
  なぜかボーイの表情は強張っていた。

〇ホストクラブ
城間龍昇(――なんなんだ、この男は???)
  自分を指名した新規の客に困惑する。
城間龍昇(ずっと無表情だし・・・ 第一、俺は知らねえぞ、こんな男)
  その人物はホストクラブとは無縁であろう
  真面目そうな男だったからだ。
城間龍昇(仕立ての良いスーツに金回りの良さそうな身だしなみ、全身から溢れる堅物オーラ。 俺とは無縁の世界の住人だわ)
  それらの疑問を笑顔の下に押し隠し、
  努めて明るく振舞う。
城間龍昇(男だろうが、仏頂面だろうが俺を指名してくれた大切なお客さまには変わりねえしな)
城間龍昇「初めまして、ご指名ありがとうございます ~永遠の中堅ホスト、龍昇でーす!」
???「存じてます」
城間龍昇「ははっ! 俺ってそんなに有名人なんすかねえ?」
城間龍昇「びっくりしちゃいましたよ いきなりご指名頂けるなんて!」
城間龍昇「俺達、もしかして どっかで会ってたりしてます?」
???「いいえ」
  刀の切れ味を連想させる
  短い否定の言葉。
  言葉は続かず、それなのに男は
  気にも留めない様子で
  黙ってテーブルの上のグラスを飲む。
  酒が飲めないのか
  中身はミネラルウォーターだ。
城間龍昇(こいつ・・・会話を続ける努力をしろよ!!!)
  そのくせ、龍昇の事を見る目付きは
  言葉と同じく、鋭い。
  じっくりと、全身から心の奥まで見定めているかのような・・・観察する眼差し。
城間龍昇(なんつー目付きで人を見てるんだ こいつは)
城間龍昇(もしかして・・・ ソッチの方のヤツなのか?)
城間龍昇「じ、じゃあ・・・どうして俺なんか わざわざ指名してくれたのかなーなんて 知りたいなぁ~」
???「そうですね、まずは確かめにきた と言ったところでしょうか」
城間龍昇「は?」
???「そもそも、僕は好き好んでここに 来たわけではありませんから」
  あっけにとられる龍昇を気にせず
  男は表情を変えずに淡々と話す。
城間龍昇(なんだこいつ。・・・ま、いっか。 たまにいるんだよな こういうお客さん・・・)
城間龍昇「確かめに来たって言ってましたけど。 お客さんは何を確かめに来たんすか?」
???「あなたをです、城間龍昇さん」
城間龍昇「へっ? 俺? ・・・って俺の苗字 なんで知ってるんすか?」
  公表していない自分の本名を知る
  目の前の見知らぬ男。
  ぞくり、と体中の皮膚が粟立つ。
???「知ってるのは苗字だけではありませんよ。 城間龍昇、28歳血液型はO型。 沖縄県出身で高校卒業後上京」
???「数々の職を転々とし、現在はここ ホストクラブパライソでホストとして勤務」
???「顧客や同業者の評判は決して悪くないのに 売り上げ成績は芳しくなく、常に下位を キープしてる・・・違いますか?」
城間龍昇「違いま・・・せんね・・・」
城間龍昇(な、なんでこいつ、俺のプライベートを ここまで知ってるんだよ!)
城間龍昇(もしかして俺のストーカーか・・・? やべえ!)
  表情を変えず、まるで台本を読み上げるかのようにスラスラと自分の経歴を語る男。
  酔いも一瞬で引っ込み
  嫌な汗が背中を流れた。
城間龍昇(と、とにかく逃げよう! 逃げてリュウにいに相談だ!)
城間龍昇「ず、随分俺の事詳しいんすね~! お、俺、ちょっとトイレに行ってきて いいっすか? ・・・あわわっ!」
  勢い良く立ち上がるものの
  足元がもつれてしまい。
  結果、ソファに座った男の上に
  倒れ掛かってしまった。
城間龍昇(あわわっ! よりにもよって、サイコパス男の上にっ!)
城間龍昇「す、すみません、足元がもつれて・・・ ほら、長い脚なんで・・・はは・・・」
  意図せず男の肩口に抱き付くような体制になってしまい慌てて立ち上がろうとする。
  しかし・・・間近に迫る男の顔に
  思わず見入ってしまった。
城間龍昇(おや、こいつ。間近で見ると・・・ 嫌味なくらいイケてるな? ・・・笑えばさぞかしモテるだろうに)
  じっと見つめる龍昇は
  眼鏡越しの男の視線と目が合う。
  その目はさっきまでの観察眼モードでは
  なく、奥に驚きの光が見え隠れした。
城間龍昇(おっ、こいつも驚くって感情があるんだ)
  先ほどまでの機械めいた男の印象が
  少しだけ変わったのだが。
???「・・・知りませんでした。 あなたはこういう営業もされるんですね」
城間龍昇「へっ?」
???「急に抱き着いて、見つめてくる・・・ これはいわゆる枕営業の誘いですよね?」
城間龍昇「はあああああああ??? いやいやいや! これはただよろめいただけで!」
  慌てて男から飛びのく。しかし男は
  表情を変えることなく言葉を紡ぐ。
???「こういう行為は、あなたにとっては 日常茶飯事かも知れませんが、 僕は誘われても困るんです」
城間龍昇「誰が誘ってんだよ! つか俺をビッチ扱いするなっ!」
城間龍昇「どっちかっていうと そっちは立派な処女だっての!」
城間龍昇(なに言ってんだ俺はー!)
???「奇遇ですね、僕もです」
城間龍昇(お前も真面目に返してくるなー!)
  からかっているのか、本気なのか。
  底の見えない無表情男に、
  いつのまにか恐怖に慄いていた感情が
  怒りにシフトチェンジしていた。
城間龍昇(マジ、なんなんだこいつ! 笑えねえ通り越してんぞ!)
城間龍昇「おまえ、俺のストーカーかよ!」
???「ストーカーとは心外ですね」
城間龍昇「はぁ?」
???「申し遅れました、僕はこういう者です」
  そう言うと男は名刺を差し出した。
城間龍昇「三守累(ミモリ カサネ) ・・・警視庁捜査一課!?」
三守累「少しの間あなたを観察させて頂きました けど・・・感情的で単純、おまけに淫奔。 本当に『あの力』を持っていても・・・」
三守累「僕はあなたに協力を お願いする気にはなれませんね」
城間龍昇「ちょっと待て、あの力って・・・」
城間龍昇(こいつ・・・知ってるのか? 俺の・・・『口寄せ』の力を)
城間龍昇「なんだ?!」
三守累「――・・・」
有坂祐樹「ちょ、ちょっと待ってください!」
  騒ぎはユウキのテーブルだった。
  ユウキはソファから落ち、恐怖に引き
  攣った顔で目の前の客を見上げている。
  ──ユウキを憎しみを込めて睨む
  客の手には包丁が握られていた。

次のエピソード:第2話:ネメシスの伝言<episode.1>

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